著者
田村 幸介
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.545, 2021 (Released:2021-06-01)
参考文献数
3

医薬品中に含まれる不純物および分解生成物は予期せぬ副作用をおよぼす恐れがあるため,各国規制当局のガイドラインに定められた限度値に基づいて,厳格に管理されている.近年,サルタン系医薬品において,限度値を超える発がん性物質N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)およびN-ニトロソジエチルアミン(NDEA)の混入が認められ,各国で回収が行われている.限度値は各医薬品の1日最大摂取量に応じて異なるものの,原薬含有量に対するニトロソアミン類の限度値を0.03ppm以下と規定している事例もあり,高感度分析を必要とする厳しい管理が求められている.本稿では,医薬品の原薬製造工程におけるニトロソアミン類混入の可能性評価として,アルキルアミンのニトロソ化機構を計算化学により検証した研究について紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Snodin D. J. et al., Regul. Toxicol. Pharmacol., 103, 325-329(2019).2) Ashworth I. W. et al., Org. Process. Res. Dev., 24, 1629-1646(2020).3) Abe Y. et al., Chem. Pharm. Bull., 68, 1008-1012(2020).

2 0 0 0 OA 同位体効果

著者
澤間 善成 阿久津 和宏 佐治木 弘尚
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.431_1, 2020 (Released:2020-05-13)

化合物の構成原子を同位体に置換した際に生じる化学的・物理的性質の変化を,同位体効果という.重水素は原子番号が最も小さい水素の同位体で,水素の約2倍の質量を持つため,その効果は大きく発現する.例えば,1気圧におけるH2Oの沸点は99.97℃,融点は0.00℃であるが,D2Oは101.40℃と3.82℃である.また,同位体原子の置換によって反応が遅延される効果を速度論的同位体効果という.同位体質量が増加すると結合エネルギーが大きくなり,結合の切断・形成反応は遅くなる.これを一次同位体効果という.なお,結合の切断や形成に関与しない位置に置換した同位体による軽微な反応速度変化は,二次同位体効果として区別される.
著者
阿部 博行 菊池 慎一 吉田 孝行 山口 尚之 酒井 敏行
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.553-557, 2019 (Released:2019-06-01)
参考文献数
12

トラメチニブは抗がん剤として世界で初めて承認されたMEK阻害薬である。しかし,我々は始めからMEK阻害薬の開発を目指したわけではない。細胞周期抑制因子p15INK4bの発現を上昇させる化合物探索のために開発したフェノタイプスクリーニングによってリード化合物を見出し,がん細胞増阻害活性を指標に医薬品として構造最適化することによってトラメチニブ創製に至った。後に,その標的分子はMEKであることを明らかにした。本稿では,first-in-classの分子標的薬トラメチニブの創薬研究とがん治療における臨床的意義について紹介する。
著者
川原 正博 田中 健一郎 根岸 みどり
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.663-666, 2018 (Released:2018-07-01)
参考文献数
13

必須金属である亜鉛(Zn)は、脳内では多くはシナプス小胞内に含まれ、神経細胞の興奮と共にシナプス間隙に放出される。このZnは脳神経系の機能発現、記憶学習にとっても重要な働きを持つ。近年、アルツハイマー病、プリオン病、脳血管性認知症などの神経疾患の発症にZnが重要な働きを持つことが明らかになってきた。ここでは、シナプスにおけるZnと疾患関連タンパク質の相互作用、そして神経疾患の発症に及ぼす影響について概説したい。
著者
安元(森) 加奈未
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.344-344, 2016 (Released:2016-04-01)
参考文献数
5

ハチミツは,私たちの食卓でも身近な食品であるが,植物毒が混入したハチミツによる中毒事故は世界中で多数報告されている.特に,野生のハチミツを食べる風習のあるトルコの黒海沿岸では,ツツジ科植物に含まれる有毒成分グラヤノトキシンの混入による中毒が頻出している.また,ニュージーランドでも19世紀後半から有毒成分の混入による中毒事例が多数報告されており,その原因は現地で“tutu”と呼ばれるドクウツギ科の低木Coriaria arboreaに含まれる成分で,精神撹乱・記憶喪失などの症状を引き起こす急性神経毒のツチン(1)であると考えられてきた.ハチミツへのツチンの混入は,tutu の樹液を吸う昆虫が分泌する甘露をミツバチが集めることによるとされるが,一方でツチンのみを対象として安全性を評価する方法の妥当性や未解明成分の有無などの疑問も長年残されていた.本稿ではニュージーランドのツチン汚染ハチミツに含まれる更なる成分が,Larsenらによって明らかにされたので紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Sutherland M. D. et al., J. Sci. Technol., Sect. A, 29A, 129-133 (1947).2) McNaughton D. E. et al., HortResearch Client Report, No. 24884 (2008). http://maxa.maf.govt.nz/sff/about-projects/search/L07-041/technical-report.pdf3) Larsen L. et al., J. Nat. Prod., 78, 1363-1369 (2015).4) Fields B. A. et al., Food Chem. Toxicol., 72, 234-241 (2014).5) Wouters F. C. et al., Angew. Chem. Int. Ed.Engl., 53, 11320-11324 (2014).
著者
佐藤 陽治
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.1213-1215, 2014 (Released:2017-02-10)
参考文献数
7

「再生医療」という言葉はここ数年,世間にずいぶん浸透した.iPS細胞(人工多能性幹細胞)がノーベル賞関連で脚光を浴びる一方で,STAP細胞(刺激惹起性多能性獲得細胞)の一連のニュースがあるなど,良かれ悪しかれ,マスコミの科学欄で頻繁に取り上げられている.社会的な期待も高い.私はこのような状況を見るにつけ,「再生医療」が言葉だけのブームに終わらぬようにと祈るような気持ちを抱く.なぜなら我が国には,革新的な医療・医薬品等の実用化に関し,非常に苦い経験があるからである.
著者
生長 幸之助
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.409_1, 2021

私はこの800字という字数制限で十分な自分語りを行うための真に驚くべき解法を発見したが、ここに記すには余白が狭すぎる(要旨ですから!)。
著者
森 光輝
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.7, pp.699-701, 2022 (Released:2022-07-01)
参考文献数
13

認知症ケアチームおける薬剤師の活動は用法調整などの適正使用、副作用マネジメントだけでなく、新規追加の処方提案が行われていた。それにより抗認知症薬の使用割合を増加させる効果があった。抗認知症薬はアルツハイマー型認知症の治療において重要な薬剤である。そのため、薬剤師が認知症ケアチームに参加することにより、薬物療法を介して認知症治療に貢献できると考える。
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.1168-1169, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
1

早くも師走である.昨年の連載では,仲良しの某旧帝大教授の忘年会での散財の話を書いたが,今年もその季節がやってきた.基本的にビールが苦手な筆者であるが,気候のせいか,雰囲気のせいか,海外に行くと比較的ビールを飲むようになる.特に英国では,最初の一杯はまずギネスというのが定番である.ギネスと言えばビールだけでなく世界記録を思い浮かべる人も多いだろう.筆者も中学生のときにバンクーバーに住む伯母からGuinness World Recordsを送ってもらい,分からない単語だらけなので辞書を引き引き,それでもワクワクしながら読んだことを思い出す.1955年に初めて出版されたWorld Recordsであるが,現在では出版事業はギネス社の手を離れ,HIT Entertainment社に引き継がれている.さて,そのギネス醸造所であるが,Wikipediaによると歴史は古く,1756年にアイルランドのダブリンで創業され,1759年にその頃使われなくなっていたセント・ジェームズ・ゲート醸造所を年45ポンドの対価で9,000年間借り受けるという超長期の賃貸契約を結び,それ以来この醸造所で変わらずに黒スタウトビールを造り続けているということらしい.スタウトビールとは,いわゆる上面発酵の黒ビールであるが,日本の黒ビールの多くはラガーと同じ下面発酵である.この黒ビールは見かけによらず,低カロリーで,1パイント(日本の大ジョッキと中ジョッキの間くらいの量)で僅か200kcal程度なのである.実は,このギネス社,統計家にとっては格別な会社なのである.
著者
吉野 悠希
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.346, 2020 (Released:2020-04-01)
参考文献数
4

現在日本では,インフルエンザウイルス感染症に対する治療薬として,ノイラミニダーゼ(NA)阻害薬とキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬が使用されている.しかし,これらの薬剤には既に耐性ウイルスの存在が報告されており,将来薬剤耐性を獲得した強毒性ウイルス,あるいは新型のインフルエンザウイルスによるパンデミックが生じることが危惧されるため,現在新しい抗インフルエンザ薬の開発研究が活発に行われている.本稿では,民間薬として知られるゲンノショウコの抗インフルエンザ活性に着目し,その評価と活性成分の探索を行ったChoiらの研究成果について報告する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) 齋藤玲子,日耳鼻,115, 663-670(2012).2) Uehara T. et al., J. Infect. Dis., 221 346-355(2020).3) Choi J. G. et al., Sci. Rep., 9, 12132(2019).4) Bastian F. et al., Molecules, 23, 1346(2018).
著者
松井 豊 菅原 明彦 石井 健介
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.252-253, 2022 (Released:2022-03-01)
参考文献数
7

2021年3月、ケトチフェンフマル酸塩を含有したソフトコンタクトレンズが世界で初めて承認された。海外におけるプラセボレンズを対照とした無作為化二重盲検試験において、対照群に対する眼そう痒感スコアの差は-1.05(p<0.001)であり、一定の有効性が認められたこと等から承認は可と判断した。本品は、医師の指示に基づき、アレルギー性結膜炎を有するソフトコンタクトレンズ装用者のみが適応対象であり、適正使用のための留意事項等がある。
著者
酒井 弘憲
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.790-791, 2015

昨年は年末に任期の半分というタイミングで衆院選挙が行われ,つい先日も統一地方選挙が行われたが,開票があまり進んでいないにもかかわらず,選挙速報で「当選確実」のクレジットが出るのを不思議に思われている方もいるのではないだろうか? 選挙では,よく出口調査をやっているのにお気付きだろう.結論を先に言えば,選挙速報での当確情報は,実際の開票状況と出口調査の結果に基づいている.<br>そもそも,調べたい対象の全てのデータを得ることは,多くの場合,不可能である.そのため一部のデータ,つまり抽出サンプルから,全体の母集団を推定することが必要になる.一部から全体を予測する統計的方法として,「推定」という考えがある.推定の良さは,一致性や不偏性などによって決まってくる.一致性とは,データの数が多くなればなるほど,1つの値に収れんしていく性質のことである.つまり,少ないサンプルよりは多数のサンプルを集めた方が,良い推定が可能になるということである.不偏性とは,偏りのないことであり,推定値の期待値が真の値に限りなく一致してくるということである.<br>説明を簡単にするために,出口調査で,ある候補者Aの得票率を推定することを考えてみよう.<br>例えば,投票を済ませた任意の100人の有権者に投票した候補者を聞いたところ,そのうち45人がAに投票したと答えたとしよう.この場合,注目するAの得票率は45/100=0.45である.この値は一点決め打ちの推定値なので点推定値と呼ぶ.この値に基づいて,Aの真の得票率(これは全部の票を開票してみないと分からない)に対する区間推定,つまり,上で調査した0.45という得票率がどのくらいの信頼性を持っているのかということを調べてみる.ここでは,Aが立候補した選挙区で投票した有権者全体が母集団ということになり,出口調査の対象となった100人が標本ということになる.標本が100人で,調査結果としてAに投票した人数が45であるとすると,得票率45%の信頼度95%の信頼区間は,0.3525~0.5475となる(簡単な式なので提示しておくと,p±1.96√<span style="text-decoration: overline;">(p(1-p)/n)</span>で計算できる).いま,Aに対立するB候補がいるとしよう.Bに投票したと答えた人数が100人中35人であったとする.そうすると,Aに投票したとする人よりも10%少ない.したがって,かなりの確率でAの方がBよりも得票率が高いと言えそうであるが,本当にそうだろうか? 実際にBの得票率について同じく95%信頼区間を計算してみると,0.2565~0.4435となる.これは,Aの信頼区間とかなり重なっている.つまり,Aの得票率は低ければ40%を切る可能性もあり,Bの得票率は高ければ40%を超えることも考えられる.したがって,この出口調査からだけでは,AがBを抑えて当選するとは言い切れない.これは出口調査の対象人数が少ないためである.もし,全投票者を出口調査対象とすれば答えは簡単であるが,そのような調査は不可能である.そうすると,どのくらいの人数が標本として適当なのかということになるが,出口調査の対象者を増やしてn人にしたとしよう.その場合でもAとBの得票率はそれぞれ45%,35%としておく.このとき,95%の確率で両候補の真の得票率に差があると言うためには,2つの信頼区間が重なり合わなければよいことになる.つまり,「Aの信頼区間の下端」>「Bの信頼区間の上端」であればよい訳である.信頼区間の公式に当てはめて計算すると,この場合,n>364.8となる.したがって,出口調査でAとBの得票率の差45-35=10%が信頼度95%で有意な差であると言うためには,365人以上の人に回答してもらう必要があるということになる.このように標本抽出して得られた結果を用いて,選挙速報で当選確実が出ている訳である(当然,本連載の去年の第1回に紹介したギャロップ調査のように,地域差,性別,年齢構成なども考慮して出口調査する投票所も選ばれているはずである).もし,接戦でB候補者の得票率が43%であったとすると,僅か2%の得票率の差を見いだすためには調査対象として9,462人が必要になってくる.<br>読者の皆さんは論文などで,この「95%信頼区間」という記述を目にされたことがあるだろう.95%信頼区間であれば,その区間内にその推定値が存在する確率が95%であることを示していることになる.さらに,その区間幅はサンプルサイズ,臨床研究や治験で言えば症例数が増えれば,狭くなる.つまり推定精度が高まる訳である.医薬の世界では,5%有意であるか否かという二者択一の「検定」偏重のきらいがあるが,検定の弱点は,具体的にどのくらいの差があるのかとか,その試験がどのくらいの精度で実施されたのかというようなことが分からないことである.「推定」は,「検定」の弱点を補強する情報を提示してくれる方法なのである.
著者
渡部 ゆき子 豊田 浩子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.202-206, 2018 (Released:2018-03-01)

臨床開発期間中を通じて治験薬の安全性情報を継続的にモニタリングする最大の目的は、治験に参加する被験者の安全性確保である。本稿では、治験依頼者が講じる治験薬の安全性監視活動(ファーマコビジランス)について紹介する。また、治験中に確認された医薬品の安全性リスクとこれを最小化するための手法について、市販後の医薬品安全性監視計画(リスクマネジメントプラン)につなげていくための枠組みを解説する。
著者
藤田 浩二 竹田 秀
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.216-219, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
18

ビタミンは生体に必要な栄養素のうち,炭水化物・タンパク質・脂質以外の有機化合物で,脂溶性ビタミン(A,D,E,K)と水溶性ビタミン(B群,C)から構成される.ビタミンは生体内では合成できず,主に食料やサプリメントや薬剤から摂取されるため,ビタミンの過剰症は主に過剰摂取によるものである.近年,健康志向の高まりや美容,アンチエイジング目的などからビタミンサプリメントは広く普及し摂取されている.しかし一方で,ビタミンの過剰摂取は心疾患のリスクを増やすなどマイナス効果の報告もある.特に,脂溶性ビタミンは肝臓や脂肪組織に蓄積され,体外に排出され難いため,問題となることが多い.本稿では,各種ビタミンの過剰症について述べるとともに,ビタミンEの過剰摂取がげっ歯類で骨粗しょう症を引き起こすという知見に基づいて,ヒトにおける摂取量検討の必要性を提起するとともに,ビタミンEと骨代謝の関係について最新の知見を紹介する.
著者
工藤 敏之
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.173, 2019 (Released:2019-02-01)
参考文献数
4

ボノプラザンは新しい作用機序を持つプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor: PPI)であり,我が国においてのみ販売されている.PPIであるエソメプラゾールは,CYP2C19の活性を阻害することが知られており,CYP2C19基質であるジアゼパムなどが併用注意とされているが,ボノプラザンの添付文書にはCYP基質との相互作用の記載はない.チエノピリジン系抗血小板薬であるクロピドグレルおよびプラスグレルは,消化管出血のリスクを増大させることが知られているため,その予防のためにPPIを併用することが推奨されている.一方で,クロピドグレルはCYP2C19およびCYP3A4に,またプラスグレルは主にCYP3A4によって活性体に変換されるプロドラッグであることから,併用薬による代謝阻害に基づく抗血小板作用の減弱が懸念される.本稿では,クロピドグレルおよびプラスグレルの薬効に及ぼすエソメプラゾールおよびボノプラザンの影響について臨床薬物相互作用試験により検討した例を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Abraham N. S. et al., Am. J. Gastroenterol., 105, 2533-2549(2010).2) Kagami T. et al., Clin. Pharmacol. Ther., 103, 906-913(2018).3) Nishihara M. et al., Clin. Pharmacol. Ther., 104, 31-32(2018).4) Kagami T. et al., Clin. Pharmacol. Ther., 104, 33-34(2018).