著者
田中 宏子 乾 康代
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.93-102, 2015 (Released:2018-01-10)
参考文献数
12
被引用文献数
1

本研究は、東日本大震災発生時に茨城県内に居住し、震災によって避難を強いられた住民を対象として、災害発生1年半後に追跡調査を行い、取得したデータのうちから、"子どものいる避難世帯の生活状況"というテーマを設定して研究を行った。子どものいる世帯の避難生活は、原子力災害からの避難が背景にあるがゆえに、周辺被災地である茨城県でも、特異な心理、生活上の困難を、他の世帯型より多く抱えていることが明らかとなった。震災により茨城県外に避難した若い子育て世帯の意向は、帰還が約1割、他所で定住が約5割であり、将来どこに住むかわからない避難継続は約4割であった。原子力災害がもたらす放射能に対する恐怖感に基づく避難は、いずれ元の場所に戻るという明快なものではなく、複雑で深刻な局面を包含していた。また、避難継続世帯は、帰郷世帯や避難定住世帯に比べて、子どもの健康問題を抱える世帯が多かった。
著者
深澤 伸一 下村 義弘
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.1-10, 2017

優れた通知機能の設計要件を明らかにするために、周辺視野への視覚的な動きと報知音の提示が、気づきやすさと中心視野における知的作業の集中性および両者の関係性と意味伝達の容易性に及ぼす影響について、複数の計測指標により総合的に検討を行った。正面のメインディスプレイ上で暗算作業中の実験参加者に対し、「瞬時」「透出」「拡大」の3種類の動き様態がそれぞれ付与された文字刺激を周辺視野領域に設置されたサブディスプレイ上に表示し、さらに半数の条件では報知音を併せて提示して、心理指標と行動指標により評価した。その結果、報知音提示がない条件では気づきやすさと中心視野での作業集中性に有意な正の相関関係が認められ、気づきやすさ、作業集中性、意味伝達の容易性のすべてで拡大表現が有意に最も優れた値を示した。一方、報知音提示を伴う条件では、気づきやすさが全体的に高くなるものの拡大表現において注意喚起効果の加算的作用による過剰化が要因と考えられる作業集中性の有意な低減が発生し、動きをもった通知への報知音の併用は適用状況を考慮する必要があることが示唆された。
著者
島村 実花 中尾 芙美子 金子 佳代子
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.75-81, 1995 (Released:2018-03-21)
参考文献数
13

大学運動部員を対象に,運動中及び運動後の水分摂取量の実態を調査し,飲食の記録から食事中水分量も算出した。飲み物の摂取量への噌好の影響を考え,(a)麦茶(糖分,ナトリウムなし) (b)糖分含有電解液1 (c)糖分含有電解液2 (d) 清涼飲料水(糖分) (e) 炭酸飲料水(糖分) (f) コーヒー飲料(糖分) (9)牛乳の運動後1時間の摂取量を,また,食塩5gの普通食と2.5g低塩食を食べた後〜就寝までの水分摂取量を比較した。結果は以下のようである。1) 運動後1時間に自由に水分摂取した後も水負債を解消しきれなかったが,就寝までに Ikg 以上摂取しており,本研究における発汗程度では運動後の飲食によって水負債を解消出来ると考えられた。 2 )被験者は麦茶を好んでいたにも関わらず,スポーツドリンク( b , C )及び清涼飲料( d , e , f ) よりも多くは飲めなかった 03 )食事中塩分が少ないと水分摂取量が少なくなる傾向がみられた
著者
米川 善晴
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.3-8, 2001
参考文献数
27

人体に関わる振動の分野では通常,手腕振動と全身振動に分類している。手腕振動は手持動力工具等から人の手腕に伝えられる振動であり,全身振動は乗り物等から人の全身に伝えられる振動である。ここでは主に全身振動について心理的,機械的,生理的反応について述べる。心理的には振動知覚,知覚の為の振動受容器,受容器の周波数応答,振動知覚の閾値について,機械的には人体を機械的モデルとして扱い,バネ・質量・抵抗器の成分から構成されるとして,その振動応答特に振動伝達について,また生理的には振動の循環器系機能・筋活動・自律神経系のほか視覚・平衡感覚などへの影響を述べる。
著者
小林 定教
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.11-19, 2005 (Released:2018-03-22)
参考文献数
5

本研究は、山陰地方の中山間地域における若手居住者を対象に、今後の自立した生活づくり、生き方についてアンケート調査を行い、より生き甲斐のある中山間地域の村・住まいづくりに関する資料を得ることを目的とする。若手居住者の約半数は、村に住み続けることを希望しており、その理由として「地域の風土」「人との交流」「現在の生活にほぼ満足」などがあげられている。しかし村の現状は、若者の就職、若者の離村による過疎化、住環境、医療、教育、交通、降雪時の生活など多くの問題を抱え、その整備が望まれる。若手居住者の住みたい村づくりには、上記の項目に加え、「仕事」「I、Uターン」「若者向け住居」「女性に魅力ある村」などへの対策が求められている。なお、高齢者を対象とした既報の結果を併記する。
著者
鄭 椙元 堀越 哲美 福岡 真由美 水谷 章夫
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.20-28, 1996-06
被引用文献数
3

本研究は,都市の暑熱時における緑がもたらす人体の熱的快適性への暑熱緩和効果を知ろうとするものである。予備調査として名古屋市の都市気温の水平分布の実測調査を行った結果,緑が多く見られる鶴舞公園と東山公園で周囲より低温域が観測された。周囲より低い気温が観測された都心部にある鶴舞公園と,周囲の市街地の樹木の繁茂状況や都市空間の性質が違う6カ所を選び,1994年8月22日から29日の間,温熱環境要素測定とともに,被験者を用いた心理反応を測定した。熱的快適性は屋外では日射の影響を受ける。人体の放射熱授受は気温・表面温・日射に基づいて算出された。作用温度は日射熱授受量で修正された。この修正した作用温度で新有効温度を計算した。緑陰・市街地日向の間に,等しい新有効温度でも温冷感に有意差があった。本研究によって,暑熱時における都市緑地空間の有効性が検証された。
著者
長田 泰公
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.19-24, 1998-12

女子短大生6名を対象に,日常生活24時間での騒音暴露を10分ごとに測定させた。平均の騒音レべル(等価騒音レべル,L_<Aeq>)は68dBであった。また行動別の騒音レべルを330名の学生での生活時間調査データに応用したところ,1日平均レべルは67dBであった。このレべルはUSEPAによる騒音性難聴防止基準の70dBに近い。毎日の暴露レべルのうち最も高かったのは通学,それも電車による通学時間に得られ,75dBを越えていた。地下鉄や乗換え駅での騒音レべルは地上線のそれより高く,また反響やアナウンスによって前者のほうが喧しいことがわかった。電車の中でへッドホンで音楽を聴いているときのレべルは90-100dBであった。労働基準からみると,このレべルの許容時間は1日2時間以下である。
著者
中村 泰人
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.25-30, 1999-12
参考文献数
5

COP3の議定書に定められた二酸化炭素排出削減を達成するためには抜本的なライフスタイルの変更が不可欠である。しかし,それを待たずして,地球環境問題に遠因のある産業構造の変革に伴って,強制的なライフスタイルの変更が始まったとみられる。ライフスタイルの変更は強制されるのでなく,自律的で創造的であるべきだ。そのためには 』 ひの改革が必要である。自然との接触を取り戻し,生活の中に風土性を復活させることによって,みずからのライフスタイルの創出が可能となる。その具体化として,新しいサマータイムを提案した。これは従来のそれとは異なって,昼休み時間が2時間に倍増されている。昼休みの間に身体が日中の暑い外気に触れることを1〜2週間も続けると季節順化が形成され,室内の空調設定温度をこれまでより高く設定できる。労働時間が1時間延長するが,総合すると空調の消費エネルギーが減少し,二酸化炭素排出の削減につながる。
著者
近藤 恵美 藏澄 美仁 堀越 哲美
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.75-84, 2014-11

本研究は、暑熱環境における温度変化による体温調節負荷を与える顕著な温度差のある温熱環境を移動させる実験を通して、更年期女性と青年女性を比較検討し、更年期女性の生理的心理的反応の特性を明らかとすることを目的とした。実験は屋外と空調された室内を出入りすることを想定し、屋外想定気温35.0℃の前室から18.0、22.0、26.0、30.0℃の実験室へ移動させ、生理的心理的反応を測定した。結果として、更年期女性は青年女性に比べ、末梢部皮膚温の低下が小さいことが観察された。全身温冷感についても、更年期女性の感覚の鈍さが観察された。末梢部の温冷感は、末梢部皮膚温の変化量の大小に対応しており、更年期女性は末梢部皮膚温が青年女性に比べて変化量が小さいことから、末梢部温冷感の鈍さに影響していると考えられる。
著者
棚澤 一郎
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.2-8, 1996-06

本稿は,『伝熱学つまみ喰い』と題して本誌Vol.2, NO.1に掲載された基礎講座の第2回目である。第1回目の目次は,1. 温度・熱・伝熱,2. 伝熱の三つのモード,3. 熱伝導,4. 対流伝熱,5. 結び,であった。第2回目の本稿では,物質移動を伴う伝熱について解説している。物質移動は,高温環境下でのヒトの体温調節のメカニズムである発汗と関連して重要である。主な内容は,序論,濃度の定義,分圧と湿度,フイックの法則,対流物質伝達,物質伝達と熱伝達のアナロジーなどである。
著者
大中 忠勝 野中 麻由
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.93-98, 2011-11
被引用文献数
1

20名の青年女子(21.3±0.6歳)を被験者とし、自己申告に基づき暑がり(HS群:12名)と非暑がり(NS群:8名)の2群に分けた。被験者は26℃(60%RH)の前室で20分間安静を保った後、28℃、30℃、32℃(50%RH)のいずれかの温度に設定された曝露室で60分間過ごした。実験中、身体7か所の皮膚温、舌下温、衣内湿度が測定され、同時に温冷感、快適感の申告が記録された。28℃への曝露60分目の平均皮膚温は、HS群33.6℃、NS群33.2℃であり、群間に有意差(P<0.01)が認められた。HS群は発汗量が多く、発汗開始時期も早い頃向にあったが、群間に有意差は見られなかった。両群とも、平均皮膚温と快適感の間に有意な相関関係が認められ、HS群の回帰直線の傾きはNS群より大きかった。HS群は平均皮膚温の上昇に伴い、温熱的不快感を生じさせやすい頃向にあることが示された。
著者
井幕 知伸 堀越 哲美
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.13-27, 2013-05

本研究は,人体の熱平衡式に基づく予測至適着衣量を用い,日本各地の「涼しい夏」の体感気候の経年変動の分布図を作成し,その特徴を検討したものである。各年代を通じ,北で着衣量が多く,小笠原と先島諸島で少なしい傾向が示され,京都では周囲より少ない値を示した。1960年代では,東北北部まで0.9cloで,関西から九州は,0.4clo台である。1970年代では,関東より北は1970年代と同様の傾向で,西日本が暑熱化傾向を呈した。1980年代は,北海道南部と東北の着衣量が低く,1990年代では,関東まで着衣量が多く,四国・関西では着衣量が少なく,西で多くなる傾向であった。2000年代は,最も寒冷傾向である。日最高予測至適着衣量の上昇・下降の主な影響要因は気温であるが,風速も影響要因としての寄与率が高い傾向にある。
著者
大中 忠勝
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.1-6, 2013-05

本研究の目的は暑がりと自己申告した者の家庭での夏期における温熱環境の実態を調査し、その環境での生理・心理反応を明らかにすることである。被験者の家庭での温熱環境調査が夏期に行われた。被験者は21歳から23歳の若年女性20名であり、自己申告により暑がり10名と非暑がり10名に分けた。被験者の家庭の温度、湿度を2分間隔で1週間にわたり記録した。在宅中は約1時間ごとに身体7部位の皮膚温(前額、胸、前腕、手背、大腿、下腿、足背)を放射温度計により測定した。同時に温冷感、快適感、着衣状況を記録した。室温と温冷感との間に有意な相関関係が認められ、暑がり群の回帰直線の回帰係数(傾き)は、非暑がり群より有意に小さかった(P<0.01)。暑がり群では室温30.2℃で「やや汗をかいている」と申告し、非暑がり群が同じ申告を行った室温より0.5℃、有意に低かった(P<0.05)。室温の希望度において、このままでよい」と申告した時の室温は、暑がり群27.9℃、非暑がり群28.5℃であり、両群間に有意差が認められた(P<0.01)。部屋で着用していた衣服は暑がり群0.27クロ、非暑がり群0.25クロであり、群間に有意差は認められなかった。暑がり群は、暑さに敏感であり、より涼しい温熱環境で快適さを得ており、夏季に薄着である状況下でさえエアコンを使用し、快適な温熱環境を得る傾向があった。
著者
山岸 明浩 堀越 哲美 石井 仁
出版者
人間-生活環境系学会
雑誌
人間と生活環境 (ISSN:13407694)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.23-34, 1997-07
被引用文献数
1

本研究は連続した上下気温分布が,人体の皮膚温および温冷感に与える影響について明らかにすることを目的とし,裸体・椅座・安静状態で実験を行い検討した。実験は,床上0.7mの気温25℃,28℃と床上0.1mと1.1mの上下気温差0℃, 4℃, 8℃との組合せ条件下で,青年男子5名を用いて行った。人体各部位の皮膚温は,前額から足背へと部位の位置が低くなるにつれ低い値となり,上下の気温差とともに気温条件との組合せにより人体各部位の皮膚温への影響が変化する。各部位の温冷感申告は,他の部位に比べ頭部は暑い側,足部は寒い側の申告を示した。上下気温差は,人体の上半身よりも下半身に与える影響が大きい。人体の上下方向の皮膚温と温冷感申告の差は,上下気温差が大きくなるに従い増加する傾向であった。実験条件暴露60分間の皮膚温の変化は,気温28℃の実験条件では下腿,気温25℃条件では平均皮膚温,下腿,足背の皮膚温が低下する傾向にあった。