著者
阿久津 達矢
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.74-84, 2021-07-31 (Released:2022-07-31)
参考文献数
19

本稿の目的は、高度救命救急センターにおける医療資源管理の一環である転院依頼演習を対象として、ワークの研究の立場から演習での実践の特徴を明らかにすることである。明らかとなったのは、まず、講師が、研修医との非対称な知識配分の下で、転院依頼の仕方を教示するために用いていた、ふたつの教示の方法である。ひとつ目は、講師が「ケース報告」の実演と「転院依頼」の実演という課題によって演習全体を組み立て、課題ごとに演習を進行していたことであった。ふたつ目は、講師が転院依頼の適切な仕方を教示する際、研修医に転院依頼に必要な知識を伝え、それに応じた必要最低限の情報のみを伝えるよう、依頼の簡潔さを強調していたことであった。また、講師が転院依頼の仕方をどのように教示しているのか分析する中で、講師によって教示されていた転院依頼の方法を記述することができ、転院依頼という活動の特徴を解明することができた。
著者
畑中 祐子 杉田 聡
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.49-58, 2003-08-25 (Released:2016-11-16)

患者は入院をすると、普段とは違う入院環境の中で生活する。入院環境には様々な制約が伴うが、実際に患者が生活に対してどのように感じているかについてはあまり注目されてこなかった。そこで本研究では、患者がどのような意識をもちながら入院生活を送り、入院環境がどのような影響を患者にもたらすのかを明らかにすることを目的とした。入院患者24名に、入院前、入院初期、後期に渡り追跡調査を実施し、回答には、「嫌だ」、「仕方がない」、「全く気にならない」の3つの選択肢を用い、患者の諦めや我慢というような理由を聞き出した。患者は入院すると日常生活とは違う入院環境、共同生活に適応するため、「(病院だから)当たり前、仕方がない」という意識を持つことで、準拠枠を変化させていた。患者の入院生活に対する諦めという意識の変化を知ることは、入院生活を快適にかつ、療養に専念できるように環境を整えられる援助につながると考えられる。
著者
前田 泰樹
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.12-20, 2019-07-31 (Released:2020-07-31)
参考文献数
35

本論の目的は、保健医療社会学におけるエスノメソドロジー・会話分析(EMCA)の特徴を明らかにすることにある。社会学的研究においては、日常的な概念連関について考察する必要がある。その中で、EMCAは、事例がそもそもどのようにそれとして理解可能なのかに着目し、概念使用の実践そのものを明らかにしようとする考え方である。こうした試みは、実践の参加者たちの問いを引き受けながら行われてきた。本論では、「急性期病院における協働実践についてのワークの研究」と「遺伝学的知識と病いの語りに関する概念分析的研究」の2つのプロジェクトを事例として、対象領域とのハイブリッド・スタディーズとしての性格を持つEMCAの方針を明らかにする。
著者
菅野 摂子
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.45-54, 2021-07-31 (Released:2022-07-31)
参考文献数
33

20世紀後半に概念化されたスクリーニング検査は、今や検診/健診に欠かせない存在であり、侵襲性の高い確定的な検査を避ける方法として、広く運用がなされるようになった。WHOの示した便益・害の比較衡量による「適切な運用」が期待されながらも、望ましいコントロールがなされていない検診/健診プログラムもあり、市民への勧奨や理解を促す対応が取られている。本稿では、がん検診においてエビデンスが高いと言われている大腸がん検診とマススクリーニングが懸念される新型出生前検査(NIPT)を取り上げ、両者にかかわった人々の意識を解釈し、スクリーニング検査をめぐる問題を検討した。その結果、「安心したい」という健康への希求が、スクリーニング検査から確定的な検査へと進む「正しい」プログラムに沿う行動を促さない場合があり、病気かどうかという不確実性に伴う脆弱性を考慮したプログラムのあり方を模索する必要があると提言した。
著者
石川 ひろの
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.16-21, 2012-01-31 (Released:2016-11-16)

患者や市民が、自分の健康を主体的に管理し、保健医療におけるさまざまな意思決定に積極的に関わることが求められるようになる中、健康や医療に関する情報を収集し、理解し、活用する力として、「ヘルスリテラシー」という概念が注目を集めてきた。ヘルスリテラシーの定義はさまざまであるが、WHOは「健康の維持・増進のために情報にアクセスし、理解、活用する動機や能力を決定する認知的、社会的スキル」としている。これに基づき、Nutbeamは、ヘルスリテラシーを(1)機能的リテラシー、(2)伝達的リテラシー、(3)批判的リテラシーの3つから成るとするモデルを提唱した。本報告では、この観点から開発したヘルスリテラシー尺度を用いた日本における実証研究の結果を紹介する。また、患者や市民のヘルスリテラシーを把握し、それに応じた患者教育・健康教育や情報提供を行うとともに、ヘルスリテラシーの向上を目指した働きかけを行う必要性について考察する。
著者
佐藤 哲彦
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.32-39, 2020-07-31 (Released:2021-08-06)
参考文献数
32
被引用文献数
1

本稿の目的はこれまで保健医療社会学論集が果たしてきた役割について明らかにすることである。そこで本稿は、主として保健医療社会学会名義の諸研究と保健医療社会学論集に掲載された論文を題材として、日本における保健医療社会学というジャンルの成立経緯について考察し、これまで指摘されたことのない日本の保健医療社会学のローカルな発展経過を明らかにした。そしてその発展過程を明らかにする中で、これまで日本でしばしば用いられてきたSociology in MedicineとSociology of Medicineの対立とは別の形で展開したローカルな分割を、あえて保健医療社会学Aおよび保健医療社会学Bと名づけることで浮き彫りにし、その分割の存在それ自体が、多様性と継続性という点から、保健医療社会学論集および保健医療社会学会自体の活性化に果たしてきた役割を論じた。
著者
須永 将史
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.57-66, 2021-01-31 (Released:2022-01-31)
参考文献数
10

本稿では家庭医療専門医の診察場面において「ちょっと先生さきに相談あるんだけど」と切り出された相談がどのように扱われるのかを分析する。家庭医の診察場面のなかで、患者は、自身の診察に先立って家族とのトラブルを相談し始めることがある。この相談の切り出し方は診察場面全体のなかでどのような意味を持つのか。そこでなされる「相談」はどのように医師によって聞き取られ、どのように助言を与えていくのか。本論文ではこれを、直接患者の症状とは関わらなくとも医師に相談するのに適した内容を語るため、患者が誤配置であることを際立たせながら切り出すプラクティスとしてとらえる。また、そうすることで、医師がその相談を聞く時間を確保し、診察内での助言に結び付けられるプロセスを記述する。
著者
桑畑 洋一郎
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.66-78, 2006
被引用文献数
1

これまで、日本のハンセン病問題について編まれた研究では、病者の被害の歴史が多く取り上げられてきた。しかし、被害の歴史だけで日本のハンセン病問題を説明し尽くすことは不可能である。ハンセン病者は、被害の只中で、どうにかして自己の生を切り拓くために、周囲の病者/非病者と共同/交渉しつつ生活を編んできたのである。ゆえに、今後日本のハンセン病問題をさらに多角的に考察するためには、病者が被害の只中でおこなってきた<生活実践>をも視野に含むことが重要だと思われる。本稿では、筆者が沖縄愛楽園にておこなったインタビュー調査で明らかになった、<戦果あげ>と<交易>という相互に関連する二つの<生活実践>を取り上げる。その後、それが病者にとって、生活を切り拓くための「生活戦略」(桜井厚)でもあった可能性を考察し、ハンセン病者の<生活実践>への視座を拓くこととしたい。
著者
河村 裕樹
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.74-84, 2020-01-31 (Released:2021-11-10)
参考文献数
15

本稿の目的は、インタビューを相互行為として捉える立場から、摂食障害者がインタビューのなかで専門知と経験知をどのように使い分けながら自己を呈示しているのかを記述することである。医療において、時に医師や医療の「権力」作用が、患者の経験知を劣ったものと軽視してきたという批判がなされてきた。これに対してナラティヴや語りに着目するアプローチは、経験知を専門知と同じ身分にあるものと捉えようとする。しかし、既存の病いの語り研究や、当事者研究といった実践においては、専門知と経験知双方を使い分けながら、自らの経験を語ったり、病者としての自己を位置づけていることが示されてきた。つまり研究者が専門知と経験知の範囲を確定するのに先だって、語り手はそうした使い分けを行っているのである。本稿ではこの使い分けを記述することで、専門知による経験知の抑圧という先行研究が示してきた理解とは異なる理解可能性を示した。
著者
植村 要
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.48-57, 2015-07-31 (Released:2017-02-23)
参考文献数
29
被引用文献数
1

本稿は、当事者性を認識している調査者が実施するインタビュー調査に注目し、生成される語りについて、方法論上の特徴と意義を明確にすることを目的とする。考察は、当事者に関わる先行研究について、当事者性と研究テーマとの関わり、当事者性を表明するか否か、および、構築される位置性を枠組として行う。結論として、実施したインタビュー調査に当事者性が関わっているとするのであれば、調査者と被調査者の両者が、研究テーマに当事者性を認識しているかの確認手続きが不可欠であることを指摘する。そして、この確認から構築される関係において生成される語りは、質的差異をもつこと、および、この質的差異を意義とするときに、採用する方法が当事者インタビューであることを示す。
著者
福本 良之
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.38-47, 2014-01-31 (Released:2016-03-25)
参考文献数
14
被引用文献数
1

医療訴訟は、患者側が提訴しなければ開始されない。そこで、原告が提訴した理由を明らかにするために、治療開始から提訴までの過程で、原告がどのように「患者の病状変化と医師の行為」を解釈したのかを、3組4名の原告の逐語録から検討した。その結果、原告が「提訴する」理由として「想定外の悪い結果」を前提とした《二重の怒り》の存在があることが明らかとなった。《二重の怒り》とは、(1)医師にミスがあり、(2)さらにそのミスを医師が隠ぺいしている、という原告の主観的解釈に基づく怒りである。その医師に対して向けられた「怒り」は、原告が〈応報感情〉を抱き「真相究明」「再発防止」という提訴目的を形成していく契機となっていた。提訴は、原告の単独行為であるが、「提訴する」という行為選択は、医師と患者側との「連携的な行為 joint action」(Blumer 1969=1991)の中で形成された《二重の怒り》に基づいていた。
著者
米本 昌平
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.25-31, 2001

先端医療は本質的に、新しい医療技術と社会的諸価値との調整問題を含んでいる。この問題は一般に生命倫理とよばれるが、日本の大学アカデミーによる生命倫理研究の多くは実質的にアメリカにおけるバイオエシックス研究の輸入であった。この課題の多くは、本来医療職能集団が策定する倫理的ガイドラインとその遵守問題として扱われるはずのものである。医療職能集団としてのこの種の統治は、医療者全員が強制的に加入する、懲罰規定をもつ公的身分組織があることによって保証される。だがなぜか日本には医療者を包括する強制参加の身分組織がないため、たとえば脳死移植や生殖補助医療の規制がうまく機能しないままにある。俗に言う医療不信と、強制参加の身分組織がないこととはほぼ見合いの関係にある。日本医師会は任意加入の社団法人でしかなく、個別専門学会が決める倫理的ガイドラインは、学会員の見識に訴える見解に留まるものである。
著者
池田 光穂
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.62-72, 2016-07-31 (Released:2018-01-31)
参考文献数
29

本稿において筆者は、公衆衛生におけるヘルスコミュニケーションを通した介入における倫理問題について論じる。まずヘルスコミュニケーションという用語の出現を1980年以降のプライマリヘルスケアやヘルスプロモーションのオタワ憲章の時期に求め、それ以降増加傾向があることを指摘した。コミュニケーションを介した公衆衛生活動のレパートリーについて紹介した後に、この活動領域における規範的倫理の項目11項目に指摘した。また、それに関連する5項目の倫理的関与の領域を指摘した。このことから構成されるマトリクスを提示して、規範的倫理の項目の分布について理解することの意義を提示した。終章においてヘルスケアにたずさわる人たちが抱く価値自由で中立的な希望とは裏腹に、現実の公衆衛生政策の現場にはさまざまな価値負荷=価値が介入することを、いくつかの実例をもって示した。そして、価値負荷するヘルスコミュニケーションの現場に、医療社会学者が関与してゆく可能性を示唆した。
著者
髙梨 知揚
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.32-42, 2019-07-31 (Released:2020-07-31)
参考文献数
26

数が少ないながらに鍼灸師ががん緩和ケアに関与しているという報告が散見されるようになった。しかし通常医療とは医学モデルを異にする鍼灸師という職種が、医師や看護師らが中心となって構築する緩和ケアの場においてどのように他職種と関係を構築しながらケアを実践しているかは明らかになっていない。そこで本研究では、6名の鍼灸師と5名の他職種を対象として、チームでの緩和ケアの実践経験を有する鍼灸師と他職種の職種間連携の実態を明らかにすることを目的にインタビュー調査を行った。本研究結果から、病院における緩和ケアの「場」において両者が「繋がる」ための「障壁」が存在することが明らかになった。こうした「障壁」の存在に対して鍼灸師は様々な「戦術」を駆使し、一方で他職種も多様性のある医療を実践するために「小さな戦略」を展開しながら、ケアの「場」における相互の「繋がり」を構築する様が明らかとなった。
著者
儘田 徹
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.44-51, 1998-05-30 (Released:2019-12-10)
参考文献数
8

In this paper, I review B. G. Glazer and A. L. Strauss’ Awareness of Dying which is well–known as a sociological monograph applying the “Grounded Theory Approach,” and examine the process of this approach.Based on such examination, I insist that the “Grounded Theory Approach” is a useful systematic method for defining generalizations in qualitative research.

1 0 0 0 健康と病理

著者
村岡 潔
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.1-10, 2018

<p>本稿は、近代医学における「健康と病理」/「正常と異常」をめぐる下記の諸観点・諸要素についての概説である。I)では19世紀の細菌学と特定病因論並びに自然治癒力について;II)では健康の定義の3つのあり方:健康=病気の不在、日々の生活で不自由のないことや身体内外全体でバランスがとれていること;III)心身相関の立場では、患者には人生に楽観的と悲観的の2タイプがあるが、前者の方に回復傾向が強いこと;IV)集団の連続性では平均から遠ざかるほど病気度が高いこと(切断点で健康か病気か分別);V)「未病」と「先制医療」バーチャルな医療戦略は予防医学の最高段階にあり、未来を先取りした病気(未病)に先手攻撃を仕掛けること;VI)余剰では、相関があっても因果関係はないこと;サイボーグ化とエンハンスメントの関係、並びに「言語の私秘性と公共性」をとりあげ、認知症の人が私秘的で内的な言葉の世界で生きている可能性について論じた。</p>