著者
天野 百々江 大野 睦子 須田 隆一 飯田 聡子 角野 康郎 小菅 桂子
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 : bunrui : 日本植物分類学会誌 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.129-139, 2008-08-20
被引用文献数
1

インバモはササバモとガシャモク間の自然雑種である.福岡県北九州市のお糸池では国内で唯一,絶滅危惧種ガシャモクとインバモが野生状態で継続的に生育しているが,近年,これらの個体数が減少しつつある.お糸池の現存個体と博物館所蔵の過去の標本を用いて,インバモの交配の方向と形態的特徴を調べた.核遺伝子adhと葉緑体遺伝子rbcLを解析した結果,インバモにはガシャモクを母親とするD型とササバモを母親とするM型があり,両者は葉の形態である程度区別できた.お糸池では,過去にD型のインバモが採集されているにもかかわらず,現存するパッチはすべてM型であった.栽培実験では,ガシャモクはササバモに比べて渇水時の生存能が低く,M型のインバモはササバモと同様に渇水時の生存能が高かった.お糸池では,近年,透明度の低下や渇水が起こっており,このような生育環境の悪化により,D型のインバモは選択的に生育できなくなった可能性がある.
著者
小菅 桂子 秋山 弘之 田口 信洋
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 : bunrui : 日本植物分類学会誌 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.17-28, 2004-02-29
被引用文献数
2

ヨウ化メチル剤ならびに臭化メチル・酸化エチレン混合剤にて燻蒸を行った植物・菌類・動物の乾燥標本を用いて,サンプルに含まれるDNAに対して薬剤燻蒸がどのような影響を及ぼすかを調べた.抽出されたDNAの電気泳動像は生物種や組織,抽出方法によって異なるが,燻蒸によって高分子DNA量が減少し,多少なりともDNAの分解と低分子化が認められた.しかし,分子系統解析等で問題となるPCR増幅の効率や増幅断片の塩基配列には燻蒸による影響は認められなかった.臭化メチル・酸化エチレン混合剤に比べ,ヨウ化メチル剤はDNAへの影響がより少なかった.薬剤はDNAだけでなくタンパク質を変性させてその可溶性能を変化させること,同じ材料でも抽出方法の違いによりDNAの分解状態が異なることから判断すると,燻蒸による高分子DNA量の減少は,変性したタンパク質によってDNAの抽出効率が低下した結果と考えられる.
著者
西田 佐知子
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 : bunrui : 日本植物分類学会誌 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.137-151, 2004-08-31
著者
藤井 紀行
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 : bunrui : 日本植物分類学会誌 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.5-14, 2008-02-20
被引用文献数
3

日本列島における高山帯は,本州中部以北の山岳に点々と隔離分布している.一般にこの高山帯に生育の中心を持つ植物のことを「高山植物」と呼んでいる.高山帯がハイマツ帯と呼ばれることもあるように,この植生帯ではハイマツ(マツ科)がマット状に広がったり,色とりどりのお花畑が広がったり,美しく雄大な景観を見ることができる.日本に分布する各高山植物の種レベルの分布を見ると,その多くが日本より北の高緯度地域にその分布の中心を持っており,日本の本州中部地域がその南限になっていることが多い.こうした分布パターンから,一般的に高山植物の起源は北方地域にあり,過去の寒冷な時期に北から日本列島へ侵入し,現在はそれらが遺存的に分布しているものと考えられている.しかしそうした仮説の検証を含め,いつ頃どのようにして侵入してきたのか,その分布変遷過程について具体的なことはまったく分かっていないのが現状である.そこで筆者はこれまで,こうした植物地理学的な課題を解明するために,主に葉緑体DNAをマーカーとした系統地理学的解析を進めてきた(Fujii et al. 1995, 1996, 1997, 1999, 2001, Fujii 2003, Senni et al. 2005,Fujii and Senni 2006).本稿ではそれらの解析を通して見えできた本州中部山岳の系統地理学的な重要性について言及する.過去に書いた総説的な和文諭文も参照していただきたい(藤井1997, 2000, 2001, 2002,植田・藤井2000).
著者
福田 一郎 堀井 雄治郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 : bunrui : 日本植物分類学会誌 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.117-123, 2004-08-31

About 1,000 plants of Trillium camschatcense (2n=2x=10) are growing well in the Sashimaki marshland (5 hectare area) near Lake Tazawa in Tohoku district. These plants are located in the most southern limit of their distributions (Trillium camschatcense). 13 plants of Trillium apetalon (2n=4x=20) also grow there. Only 3 plants of Trillium yezoense (2n=3x=15) have been found growing in this area. By means of chromosome analysis of cold-induced banding karyotype, it has been confirmed that their plants are hybrid between T. camschatcense and T. apetalon.
著者
織田 二郎 永益 英敏
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 : bunrui : 日本植物分類学会誌 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.121-130, 2007-08-20
被引用文献数
2

ミヤマカンスゲの有花茎の着く位置を調べたところ,極内分類群ごとにまとまった相違があることが分かった.有花茎には側生のものと中央生のものがあり,その特徴により,大きくAタイプ(株単位は中央生の有花茎で終わらない,すなわち有花茎は側生のみ)とBタイプ(株単位は中央生の有花茎で終わる)の2つが認められた.さらにAタイプには,側生の有花茎が葉腋に常に単生するA-1タイプ(ミヤマカンスゲ,コミヤマカンスゲ,マルミノミヤマカンスゲ)と,しばしば複数の有花茎を持つA-2タイプ(アオミヤマカンスゲ),Bタイプには,有花茎は常に中央生かつ側生のB-1タイプ(キンキミヤマカンスゲ),通常は中央生のみだが時に側生の有花茎も持つB-2タイプ(ニシノミヤマカンスゲ),常に中央生で側生の有花茎を特たないB-3タイプ(ツルミヤマカンスゲ)という違いがあることが分かった.これらの事実は分類学的に有意であると考えられる.
著者
古賀 啓一 角野 康郎 瀬戸口 浩彰
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 : bunrui : 日本植物分類学会誌 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.121-130, 2006-08-20
被引用文献数
3

キンポウゲ科バイカモRanunculus nipponicusは,分布の南限にあたる近畿地方で絶滅が危惧されている水生植物である.近畿地方における本種の生育地の特定と,生育地の現状について2004年に調査を行った.その結果,標本に記載された生育地15ヵ所のうち, 6ヵ所でバイカモの生育が確認されず,過去に存在していた生育地の40%が失われたことが明らかになった.その一方で,滋賀県では新たな生育地3ヵ所を発見した.バイカモは近畿地方において現在12ヵ所で残存しており, 5ヵ所が滋賀県に, 7ヵ所が兵庫県に分布していることが明らかになった.今回の調査で確認できた生育地の半数以上は,河川改修工事によって川岸や川底をコンクリートで護岸された水路や河川であり,この場合には河床に土砂が堆積していた.土砂には埋土種子が含有される可能性があり,生育地の復元に利用できることも考えられる.近畿地方に現存するバイカモの生育地12ヵ所のうちで保護されている場所は2ヵ所のみであり,他の生育地においても保護施策が必要である.
著者
迫田 昌宏
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 : bunrui : 日本植物分類学会誌 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.75-76, 2002-08-31