著者
若月 利之
出版者
土壌物理学会
雑誌
土壌の物理性 (ISSN:03876012)
巻号頁・発行日
vol.112, pp.13-25, 2009 (Released:2021-09-06)
参考文献数
37

ガーナ,ナイジェリア等における筆者らの水田稲作研究に基づき,アフリカの水田農業において緑の革命が成功していない自然科学 · 社会科学的要因を述べ,緑の革命の実現を可能にするための二つの仮説(水田(Sawah,サワ)仮説)について解説した.第一の仮説は,「アフリカに緑の革命をもたらす技術は,バイオテクノロジーのような品種改良だけでは不十分であり,農民の穀物栽培生態環境の改良を行うエコテクノロジー(生態工学技術)が必要」であり,第二の仮説は,「水および物質の循環量の少ないアフリカにおいては水田の開発適地の選別が重要であることを前提に,適地に開発された水田は適切に管理されれば,畑作の 10 倍以上の持続可能な生産性をもたらすこと」である. 後者において,水田の開発適地の選別のためには,集水域における物質循環の把握が重要であり,土壌物理学分野の研究協力が不可欠であることを述べた.
著者
岩島 範子 金子 信博 佐藤 邦明 若月 利之 増永 二之
出版者
日本土壌動物研究会
巻号頁・発行日
no.88, pp.43-53, 2011 (Released:2012-12-06)

キシャヤスデとミドリババヤスデは周期的にかなり大きなバイオマスで出現する大型土壌動物であり,それらが摂食活動を通じて生態系の物質循環に及ぼす影響を調べた。これら2種の成虫のヤスデについて,餌の違い,種の違い,生育密度の違いが,糞の化学性に及ぼす影響について室内の飼育実験により比較した。八ヶ岳土+針葉樹リター+キシャヤスデ(キシャY),三瓶山黒ボク土+落葉広葉樹リター+キシャヤスデ(キシャS),三瓶山黒ボク土+落葉広葉樹リター+ミドリババヤスデ(ミドリS),三瓶山黒ボク土+落葉広葉樹リター+ミドリババヤスデ(高密度)(ミドリS密)の4系で1週間飼育後,糞を採取した。糞,土壌及びリターの全炭素・全窒素,強熱減量を測定し,糞と土壌については培養による二酸化炭素発生量,無機態窒素も測定した。その結果,以下に示すようなことがわかった。1)いずれの成虫も土壌とリターを摂食した。2)キシャヤスデにおいては生息地以外の土壌とリターに変えても土壌とリターの混食を行った。3) キシャヤスデは針葉樹リターも広葉樹リターも摂食し,リターの摂食割合もほぼ同程度であった。4) ミドリババヤスデの方がキシャヤスデよりもリターの摂食割合が多かった。5) ミドリババヤスデは高密度にすると土壌を食べる割合が大きくなった。餌や種,また,密度の変化に伴う糞の化学性及び有機物分解の促進と無機態窒素の放出特性の変化は,1)リターの摂食割合の増加は,糞中の全炭素・全窒素及びCN比を増加させた,2) 糞中のリター由来の有機物の増加は,8週間培養における糞の二酸化炭素発生量を促進させた,3) CN比の増加は糞中の無機態窒素の有機化を生じさせ,無機態窒素の放出を遅らせた。
著者
岩島 範子 金子 信博 佐藤 邦明 若月 利之 増永 二之
出版者
日本土壌動物研究会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.43-53, 2011
参考文献数
32

キシャヤスデとミドリババヤスデは周期的にかなり大きなバイオマスで出現する大型土壌動物であり,それらが摂食活動を通じて生態系の物質循環に及ぼす影響を調べた.これら2種の成虫のヤスデについて,餌の違い,種の違い,生育密度の違いが,糞の化学性に及ぼす影響について室内の飼育実験により比較した.八ヶ岳土+針葉樹リター+キシャヤスデ(キシャY),三瓶山黒ボク土+落葉広葉樹リター+キシャヤスデ(キシャS),三瓶山黒ボク土+落葉広葉樹リター+ミドリババヤスデ(ミドリS),三瓶山黒ボク土+落葉広葉樹リター+ミドリババヤスデ(高密度)(ミドリS密)の4系で1週間飼育後,糞を採取した.糞,土壌及びリターの全炭素・全窒素,強熱減量を測定し,糞と土壌については培養による二酸化炭素発生量,無機態窒素も測定した.その結果,以下に示すようなことがわかった.1)いずれの成虫も土壌とリターを摂食した.2)キシャヤスデにおいては生息地以外の土壌とリターに変えても土壌とリターの混食を行った.3)キシャヤスデは針葉樹リターも広葉樹リターも摂食し,リターの摂食割合もほぼ同程度であった.4)ミドリババヤスデの方がキシャヤスデよりもリターの摂食割合が多かった.5)ミドリババヤスデは高密度にすると土壌を食べる割合が大きくなった.餌や種,また,密度の変化に伴う糞の化学性及び有機物分解の促進と無機態窒素の放出特性の変化は,1)リターの摂食割合の増加は,糞中の全炭素・全窒素及びCN比を増加させた,2)糞中のリター由来の有機物の増加は,8週間培養における糞の二酸化炭素発生量を促進させた,3)CN比の増加は糞中の無機態窒素の有機化を生じさせ,無機態窒素の放出を遅らせた.
著者
佐藤 邦明 増永 二之 稲田 郷 田中 利幸 新井 剛典 海野 修司 若月 利之
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.449-458, 2005
参考文献数
25
被引用文献数
1

多段土壌層法を用いて,汚濁負荷の大きい河川浄化システムの開発を目的とし,福岡県を流れる一級河川遠賀川の支流,熊添川のBOD除去を対象に基礎試験を行い,資材および構造の検討を行った。H144×W80×D56cmの装置を10基作成し,通水層および混合土壌層資材を検討し,構造については資材が同じで土壌層の幅を変えたものを作成した。流入原水は対象河川と同程度のBOD値(約40mg L^<-1>)である農業集落排水処理施設の処理水を用いて4,000Lm^<-2> day^<-1>の負荷で実験を行った。混合土壌層において対象河川の河川敷における現地土割合が高い装置で初期に目詰まりが起こった。この現地土は旧炭坑由来の微粉炭を含み,易分散性のシルト・粘土含量が高く,孔隙の閉塞を起こし易いためだと考えられた。今回のような特殊な現地土を使用する場合には,他資材の添加によってその透水性を上げること,そして分散性を抑制することが重要であると示唆された。また現地土に黒ボク土を混合した装置よりマサ土を混合した装置で目詰まりが起こりにくかったことから現地土へは大きな粒径の割合が多いマサ土の添加が好ましいと推察された。BOD値においても,現地土のみより(平均8.0〜12.4mg L^<-1>),特にマサ土を混合した装置(平均3.3,5.4mg L^<-1>)で高い処理能力を示した。本実験条件では,土壌資材の粒径はシルト以下の粒径が20%程度まで,0.450mm以下が50%程度までであることが,混合土壌層の混合割合は,現地土:マサ土:木炭:腐葉土=4:4:1:1の容積比が最適であると示唆された。また,通水層資材の違いについてはBOD処理には大きな差は出なかった。構造については,土壌層幅が15cmの装置で最も優れた性能を示した。土壌層幅の大きな装置で先に目詰まりを起こしたため,土壌層幅が狭いほうが有利であると示唆された。T-P除去能も土壌層幅の狭い装置で良い結果を示し,土壌との接触効率が高かったためと考えられた。
著者
奥村 博司 畠山 元 山地 弘起 石賀 伸太郎 若月 利之
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学農学部紀要 (ISSN:04538889)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.71-80, 2007-03-31

The Nara Campus of Kinki University is located in the satoyama of Yata Hills. There are many terraced paddy fields and farm ponds on the campus that were abandoned in the previous six decades. In this study, the existing circumstances of the paddy fields, farm ponds and the surrounding Satoyama forest were investigated in order to complete basic information. These data will be useful for planning the restoration of the Satoyama.As a benchmark watershed, we selected 15-20 ha watershed for detailed survey on abandoned terraced paddy fields, farm ponds and the Satoyama forest. We established one ha Satoyama plot for detailed survey on vegetation, soil, and water condition. Some results of those were described by means of figures. After this, ecosystem model of the Satoyama should be developed for the planning the restoration of the Satoyama.記事区分:原著
著者
若月 利之 石田 英子 増田 美砂 林 幸博 広瀬 昌平 TRAORE S.K.B ALLURI K. OTOO E. OLANIYAN G.O IGBOANUGO A. FAGBAMI A. 小池 浩一郎 宮川 修一 鹿野 一厚 中条 広義 福井 捷朗
出版者
島根大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

ナイジェリア中部ニジェール洲、ビダ市付近のエミクパタ川集水域のヌペ人の村落から農民の参加意欲と土と水条件より5ケ村のベンチマーク村落を選んだ。アジア的な水田稲作とヌペの伝統的低地稲作システムを融合させながら展開するための実証試験をニジェール洲農業開発公社の普及研究員と国立作物研究所の研究員の協力を得ながら、農民参加により実施した。又、多目的樹種を中心にした育苗畑の整備と管理法及び成熟苗を利用したアップランドにおけるアグロフォレストリーの実証試験も実施した。東北タイより収集した品種特性の異なるタマリンドの種より育苗した。次年度には移植する予定。ガーナのクマシ付近のドインヤマ川小低地集水域でも、同様の水田農業とアグロフォレストリーを農民参加により実施することにより、劣化集水域を再生するための実証試験を実施するに当たって必要な土と水と気象条件、在来の農林業システム、村落の社会経済的条件等、各種の基礎的調査を実施した。一部では水田造成と稲作、村落育苗畑等の小規模実証試験を行った。ニジェールのドッソ付近のマタンカリ村付近のサヘル帯の小低地集水域でも同様の基礎調査を実施した。タイとインドネシアでは西アフリカに応用可能な農林業システムの文献資科や、上述のように樹木のタネ等を収集した。アジアと西アフリカの研究者と意見交換し、農林業システム融合の条件を検討した。又、タイで採取した樹木種子はナイジェリアの苗畑で発芽生育させ、生育は順調なので移植を準備中である。フィリピンでは世界の稲作システムに関する既存の資料を収集した。
著者
若月 利之 小村 修一 安部 裕冶 泉 一成
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.335-344, 1989-08-05
被引用文献数
8

黒ボク土,赤色土,マサ土,ゼオライト,炭素減資材(ジュート,木箱等)を層状,階段状に充填して多段土壌層構造をもつ生活排水浄化装置(多段土壌層法と呼ぶ)を作り,その浄化能力を約2年間にわたって試験した.その結果,本研究で提案した多段土壌層法を用いた浄化装置のうち,黒ボク土,マサ土およびゼオライトを積層した装置は,平均濃度,BOD 220 mg/l,COD 88 mg/l,T-N 56 mg/l,T-P 22 mg/l の生活排水を,2年間の実験期間中目詰まり現象は起きなかった.また,炭素源としてジュート袋を挿入した装置は窒素除去能が89%に向上した.多段土壌層法による以上の家庭排水装置は,高い浄化能を長期間安定して維持した.すなわち,2年間の平均で4装置ともBODは4 mg/l 以下,CODは3~7 mg/l,T-Pは装置4を除き0.5 mg/l以下,T-Nは装置2を除き7~16 mg/lであった.したがって,浄化処理水の水質として現在立てられている最高水準の目標値,BOD 10 ppm以下,COD 15 ppm 以下,T-N 10 ppm 以下,T-P 1 ppm 以下を満足するものであることを認めた.
著者
上堂薗 明 石田 英子 ダルマワン 増永 二之 若月 利之
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.755-763, 2002-12-05
被引用文献数
3

土壌を生態系の構成要素の一つであるということに重点をおき,集水域生態系における地形・地質・植生などの自然環境因子と,地域住民の野外経験や認識をベースとした知恵にも基づく種々の土地利用という人為的因子の相互作用が,いかに土壌特性に影響を与え,全体としての集水域景観を形成しているかを明らかにすることを試みた.現地調査は,インドネシア共和国,母系制で知られるミナンカバウ族が人口の大半を占める西スマトラ州,アナイ川中流部に位置するシピサン村において実施した.シピサン村住民は,土壌の肥沃度と土壌生成について地形に着目して総合的に理解していた.平坦部においては,水の流れによって山地部と傾斜部から養分に富む土壌が流れてくることにより,土壌が肥沃になると認識していた.集水域内の各地形や土地利用間の関連,生態的特性をダイナミックに認識していた.適度な焼畑は適度の土壌侵食を引き起こし,低地土壌や水田土壌を生成するのに役立つという土壌生成に関する認識は,侵食を有効的に利用する在地の知恵や技術である.在地の地形に着目した土壌肥沃度評価,焼畑地における土壌侵食と土壌堆積に関する認識は,実験室における土壌の理化学分析結果から判断してその正当性が示された.土地利用に着目すると,低地部では水田が拓かれており,村落の周りには自給的あるいは商業的な目的のためのプカランガンやクブンがあり,多年生の樹種と一年生の野菜類などの混作が行われていた.樹種が多様なクブンの景観は,一次林のような多層構造を見せていた.山地部のクブンは,粗放的な管理となっており,標高が高くなるに従い,森林伐採が点在している二次林,多層の林層構造の発達する一次林域となっていた.樹冠が密閉して多層構造の発達する山地部の一次林では土壌侵食は少なく,雨水などによる強い溶脱を受けているために,土壌中の塩基量が少なく,貧栄養で強酸性を帯びていた.一方,水田域や村中心部の畑地は,アナイ川とシピサン川経由で,上流域の肥沃な火山灰土壌が供給されることと人為的な影響,つまり人間による土づくりによって肥沃度が維持されていると考えられた.在地の土壌に関する知恵や知識と技術は集水域単位をベースとし,その景観を創出・保全していることが明らかとなった.