著者
伊井 一夫 二瓶 直登 廣瀬 農 小林 奈通子 菅野 宗夫 溝口 勝
出版者
Japan Radioisotope Association
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.63-72, 2021-02-15 (Released:2021-02-15)
参考文献数
18
被引用文献数
4

我々は,東京電力福島第一原子力発電所事故による放射性物質汚染により避難を余儀なくされた福島県飯舘村で2012年以降連年稲の試験栽培を行ってきた。2012–2013年は圃場の土壌の除染度,塩化カリウム施肥によって玄米の放射性セシウムが減少することを示した。2015–2019年の塩化カリウム施肥圃場での結果では,土壌のセシウム137濃度はほとんど変わらなかったが,玄米,ワラのセシウム137濃度は1/5以下に減少した。土壌から玄米,ワラへのセシウム137の移行係数は玄米では0.0022(2015年)から0.0003(2019年)に,ワラでは0.0262(2015年)から0.0028(2019年)となった。これはこの間の土壌の交換性カリウムの増加による寄与もあるが主にはセシウム137のエイジングによる土壌への固定化が進み,徐々に稲に吸収されにくくなることを示唆した。この示唆は,2017, 2018, 2019年の乾燥土壌の交換性セシウム137の比較分析によっても支持された。
著者
伊井 一夫 田野井 慶太朗 宇野 義雄 登 達也 廣瀬 農 小林 奈通子 二瓶 直登 小川 唯史 田尾 陽一 菅野 宗夫 西脇 淳子 溝口 勝
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.299-310, 2015-05-15 (Released:2015-05-28)
参考文献数
14
被引用文献数
2 8

2011年の原発事故以来,イネの作付制限地域に指定された飯舘村で,2012年に佐須・前田地区で,2013年には佐須・前田・小宮地区で水稲の試験栽培を行った。2012年において,除染の度合いにより土壌の放射性セシウム(134Cs+137Cs)濃度(0~15cm平均)が2000から6000Bq/kgの佐須・前田圃場では,玄米の放射性セシウム濃度は最大でも40Bq/kgであり,除染度合いに応じたセシウム濃度の低減効果が見られた。さらにカリウム(K)施肥による玄米のセシウム濃度の低減効果が確認された。土壌の交換性Kの濃度が高いほど,玄米の放射性セシウム濃度は低くなる傾向があるが,交換性K(K2O換算)が,20mg/100g乾燥土壌以上の区画では10Bq/kgとほぼ一定であった。一方,2013年において土壌の放射性セシウム濃度が除染後も8000Bq/kgを超えた小宮圃場では,玄米の放射性セシウム濃度が100Bq/kgを超えたサンプルが一部で見られた。これらの結果は,飯舘村において,適切な除染,K施肥により,水稲玄米への放射性セシウムを低減させ,基準値(100Bq/kg)を十分にクリアできることを示している。
著者
小渕 敦子 西村 拓 溝口 勝 井本 博美 宮崎 毅
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会論文集 (ISSN:18822789)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.137-143, 2009-04-25 (Released:2010-11-01)
参考文献数
15

黒ボク土を用いて地表面燃焼下における土壌中の温度,体積含水率,炭素・窒素含有率の変化を測定した.土壌試料を内径15cmの素焼土管に充填し,地表面で炭を6時間燃焼した.燃焼中の地表面温度は600~700℃になった.湿った土では土壌温度は95~100℃まで上昇し,しばらく停滞し,その後再度上昇した.乾燥した豊浦砂では土壌温度の停滞はなく,連続的に,より急激に上昇した.このことから,温度の停滞は土壌水分蒸発に伴う潜熱消費によるものと考えられる.土壌温度が100℃を超える深さは燃焼時間の平方根に比例して深くなった.これは,燃焼開始時の初期体積含水率が大きいほど,地表面における燃焼の影響が及ぶ土層が浅くなることを示唆している. 電気炉を用いた燃焼試験では,500℃以上で土壌の炭素・窒素含有率はそれぞれ0.4, 0.1 g kg-1より小さくなった.一方,地表面を燃焼した土壌カラムにおいては,土壌温度上昇に伴って炭素・窒素含有率は低下したものの,土壌温度700℃においてもそれぞれ20, 1.0 g kg-1を超える,炭素,窒素含有率を示した.
著者
溝口 勝
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

2011年の東日本震災以来、さまざまな大学が学生を現場に連れて行き、そこから現場ニーズを拾うことの重要性を気づかせる教育プログラムを実施している。本セッションコンビーナもまた、原発事故の3か月後から福島県飯舘村に赴き、NPO法人や農家と協働で独自の農地除染法を開発し作物の試験栽培をしてきた。また、2012年から学生の現場見学会を実施して現地訪問前後における学生の意識の変化を目の当たりにしてきた。こうした経験を通して、福島の農業復興には放射能汚染地というハンデにめげずに新しい日本型農業の創設にチャレンジする若者を育成することが必要であるとの考えに至り、2018年度から【大学等の「復興知」を活用した福島イノベーション・コースト構想促進事業】(文部科学省)で「飯舘村における農業再生と風評被害払拭のための教育研究プログラム」を実施している。本セッションではこのプログラムに参加している土壌物理学会関係者に呼びかけ、現場教育やフィールド研究を通して観察された学生の意識の変化について報告してもらい、大学の社会的価値のあり方について議論する。
著者
溝口 勝大 田畑 明通 仲野 彰 土田 英俊 篠原 功
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌
巻号頁・発行日
vol.1974, no.10, pp.1974-1980, 1974
被引用文献数
1

ピベラジニウムおよびp-キシレンev,evs-ジイル(P-キシリレン)基からなるカチオン(1~V)のZ7,8,8-テトラシアノキノジメタシ(CQ)塩を合成し,比抵抗pおよび電導の活性化エネルギーEを測定した。<BR>CQsimplesaltのpは,いずれも~107Ω,cmと大きいが,中性のCQ(CQe)を添加したcomplexsaltでは,1-CQ(3.2×10sΩ,cm)ll-CQ(1.1×10s)V-CQ(7.4×1O<sup>2-</sup>)1y-CQ(81)III-CQ(44)の順にpほいちPるしく減少する。simple,saltのN,N-ジメチルホルムアミ,ド(MF)やアセトニリルに対する溶解性は,complexsalt合成の必要条件であり,III-CQ駕1V-CQIII-CQ工-CQ≧V-CQの順となる。したがって,CQeの添加によるpの低下は,ビペラジニウム環とP-キシリレン基が組み合わさってはじめて発現し,p-キシリレン基によるイオン席間隔の保持と溶解性の増大はCQeとCQrの錯形成に,ピペラジゴゥム環はCQO,CQのカチォンへめ配列を規制して電導性に寄与する推定した。
著者
小島 悠揮 登尾 浩助 溝口 勝
出版者
明治大学農学部
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.47-65, 2008 (Released:2011-12-19)

水資源の有効利用のために、様々な蒸散量・蒸発散量推定法の中から、代表的な(1)土壌水分減少法、 (2)茎熱収支法、(3)熱収支バルク法の3手法の精度、適応条件を調査した。また、土壌をかく乱することなく土壌水分量が測定可能な、鉛直挿入式のTDRプローブ(マルチプローブ)を開発した。(1)土壌水分減少法では深さ0.55mのポット内にダイズを栽培し、その土壌水分変動を従来のTDR法とマルチプローブを用いて観測し、その減少量と重量法による結果を比較した。マルチプローブはその構造の影響を受け、ロッド長が短い場合に大きな誤差を示した。波形解析ソフト等により、構造の影響を解決できればフィールドヘの適用も可能になる。土壌水分減少法は、ダイズ1個体の蒸散量が微小であったため、本研究では精度は検討できなかった。しかし、根圏の水吸収を観測することができ、長期間の測定を対象とすれば非常に有効な手法であると考えられる。(2)茎熱収支法ではダイズの蒸散量を測定し、重量法と比較した。茎熱収支法はダイズの微小な蒸散量を7〜14%の精度で測定可能であった。しかし、蒸散量が少ない日や、反対に非常に大きな蒸散量を示した日に大きな誤差を示した。センサが非常に脆弱であり、慎重な扱いが必要な点と加熱により植物細胞を破壊してしまう点から、長期の測定には不向きであると考えられる。(3)熱収支バルク法ではキャベツ畑での気象データを用いて蒸発散量を計算し、ライシメータ法と比較した。本報では、計算に必要なアルベドを0.1、地中熱流量を純放射量の10%と仮定した。熱収支バルク法は、ライシメータ法に対して、20〜24%の誤差で蒸発散量の安定した推定が可能であった。感度解析の結果、アルベドと地中熱流量は蒸発散量の推定に大きな影響を及ぼし、実測が望ましいことが明らかになった。土壌水分減少法と熱収支バルク法を組み合わせると圃場における水分消費がより明らかになるので、高水準な水資源の有効利用が可能になると思われる。
著者
登尾 浩助 溝口 勝 佐藤 直人 丸尾 裕一 ホートン ロバート
出版者
明治大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

微小重力下での多孔質中の水分挙動は未だに明らかになっていない。放物線飛行による疑似μG場において毛管上昇実験と土壌中への水分浸潤実験を行い、微小重力下での水分移動を解明することを目的とした。航空機による放物線飛行と落下塔による自由落下によってμG環境を作り出し、毛管上昇と多孔質体中への水分浸潤が受ける微小重力の影響に関する実験を実施した。一連の実験から、毛管上昇理論の微小重力への適用性を確認した。しかし、細い内径の毛管の上に太い内径の毛管をつないだ場合には水分移動が阻害されることが明らかになった。多孔質体中への水分浸潤は、微小重力下では著しく阻害されることがわかった。
著者
溝口 勝 荒木 徹也 山路 永司 木村 園子ドロテア 登尾 浩助
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

(1)間断灌漑周期とイネ収量の関係の定量的解明日本で初めてSRI農法を導入した愛知県新城市の農家の水田にモニタリング機器を設置し、平成21年6月から10月までのイネの生長と気象、土壌水分量の変化をリモートで観測した。その結果、間断灌漑の周期に応じて5cm深さの土壌水分量が応答すること、梅雨時には排水条件にするのが難しいことが確認された。(2)現地農民の水管理方法に関する聞き取り調査上記の農家に、SRI導入に至った経緯や慣行法との違いについて聞き取り調査を行った。また、インドネシアで学会に参加し、その現地見学の際にSRI普及指導員からSRIのノウハウを教えてもらった。日本の農家から、排水時に有機物(藻や水生生物)が田面水と共に水田の外に除去されてしまうことが指摘されたが、インドネシアでは灌漑時の湛水深をほぼゼロにすることで有機物を有効に土に還元していることがわかった。(3)局所的な排水の違いによるイネ収量調査千葉県柏市の水田でSRI実験を実施し、局所的な排水がイネ収量に及ぼす影響を明らかにした。(4)メタンおよび亜酸化窒素ガスフラックスの測定昨年度実施したSRI方式の水田および慣行水田からのメタンおよび亜酸化窒素ガスフラックスの測定結果を解析し、栽培方式の違いが温室効果ガス放出量に与える影響について考察した。(5)SRI実施水田と慣行栽培水田における水収支・エネルギー収支観測結果に基づき、水田における水収支・エネルギー収支を気象データから計算する方法を提案した。その他、J-SRI研究会を年6回開催し、SRIに関心を持つ研究者との意見交換を行った。こうした議論はホームページに公開されている。特に、最終年度の今年度は「SRI用語集」のWikiページを開設した。
著者
田中 慶 木浦 卓治 杉村 昌彦 二宮 正士 溝口 勝
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.1-12, 2011
被引用文献数
4

水稲生育予測モデルSIMRIWを利用した水稲栽培可能性予測ツールを開発した.このツールは,SIMRIWを全球に適用して,栽培可能地域,最適移植日,最大収量を地図上に表示するWebアプリケーションである.研究者向けのモデルであったSIMRIWを,政策決定者や農家向けの意思決定支援ツールとして利用できるようにした.すでにSIMRIWは作物モデル開発フレームワークを利用して,Webアプリケーションとして実装されていた.全球を対象としたシミュレーションにおいて,条件を変えて大量にモデルの繰り返し実行を行うための,モデル実行エンジンの改良が行われた.また,モデルの気象データ取得元であるMetBrokerが全球の1度グリッドの気象データを新たに扱えるようにした.栽培可能性は水稲生育モデルの移植日を365日間すべてで計算し,収量を得られるかで判定される.同時に8品種(ジャポニカ米5品種,インディカ米3品種),気候変動に対応したCO<sub>2</sub>濃度2パターンと気温加算値3パターンで計算を行った.モデルの計算結果はXML形式のファイルで記録され,Flash版やGoogle Earth版のデータビューワで閲覧できる.<br>
著者
溝口 勝
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

火星の地下における水分移動のメカニズムを探る目的で、減圧蒸発過程での砂カラム中の水分・温度・塩分分布を測定する実験を行った。その結果、低塩分濃度では試料が凍結するが高濃度では試料が凍結しないこと、液状水移動に伴い塩分が表層に移動すること、塩分濃度が高いほど蒸発量が多いことがわかった。これらは、減圧蒸発に伴う乾燥、潜熱損失による凍結、塩濃縮によるクラスト形成や凝固点降下などの現象が関係している。
著者
杉岡 誠 溝口 勝
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

東京電力福島第一原子力発電所の事故で全村民が避難していた飯舘村では平成2017年3月に一部地域を除き避難指示が解除されたが、生活環境の未整備、環境中の放射能への不安から、実際に飯舘村に定住している人は1割以下である。しかしながら、飯舘村役場は農家の希望に応じた4つの農業プラン(農地を守る農業、生きがい農業、なりわい農業、新たな農業)を提案し、「農」の再生に向けて努力している。本発表では、そうした取組を紹介する。
著者
溝口 勝
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

2011年3月に福島第一原子力発電所から放出された放射性セシウムは表層に5cm以内の水田に集積していた。この放射性セシウムを除去するために、国は一斉に表層土を剥ぎ取る除染工事を実施した。そのため、福島県飯舘村の水田には汚染土が詰め込まれた黒いレコンバックが山積みになっている。一方、国の方法とは別に、私は放射性セシウムが粘土粒子に固定される性質に着目し、農家自身が手軽にできる農地除染法をNPOや農家と協力して開発してきた。2012年12月、福島県飯舘村の佐須地区の水田で汚染土壌の現場埋設実験を行った。我々は水田の汚染された表土(10m×30m)5cmを剥ぎ取り、水田の中心にトレンチ(幅2m、長さ30m、深さ1m)を掘って、深さ50~80cmに汚染土を入れ、厚さ50cmの非汚染土を被せた。この水田で、2013年から毎年米を育て、この除染法で安全な米を生産できることを確認した。さらにこの水田から放射性セシウムが漏出しないことを証明するために、2014年5月に水田に底付のPVCパイプ(内径10cm、長さ200cm)の井戸を設置し、2015年3月から半年間ごとに土壌放射線量を測定している。その結果、土壌放射線量は深さ70cm辺りでピークを持つガウス分布となることが観測されている。そのピークを持つ深さはこの3年間ほとんど変化していない。この結果は、田面水が地中に浸透していても放射性セシウムが移動しないことを示している。
著者
大澤 和敏 西村 拓 溝口 勝
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

2011年3月の東日本大震災の影響で発生した福島第一原子力発電所の事故により,大量の放射性物質が飛散し土壌などに吸着した.中でも放射性セシウム137(137Cs)は半減期が約30年と長く,土壌中の粘土鉱物や有機物に吸着しやすい性質を持っている.土壌に吸着したCsは河川に流出,湖沼や海洋に輸送されると考えられる.事故周辺地域では健康被害や農林水産物に長期にわたる影響が出ることが懸念されるため,流域におけるCsの動態をモニタリングすることは必須である.既往の研究では,河川水の懸濁物質(SS)濃度とCs濃度の関係性が確認されているが,懸濁態,溶存態等の輸送形態や経年的な流出量の変化に着目した研究は少ない.そこで本研究では,Csの土壌沈着量が異なる福島県飯舘村の2河川を対象とした現地観測を実施し,流域からのCsの輸送形態や流出量の経年変化について考察することを目的とした.福島県飯舘村の北部に位置する真野川,南部に位置する比曽川を対象流域とした(Figure 1).帰還困難区域を含んでいる比曽川流域では,土壌へのCs沈着量が真野川流域より大きい.両地点に各種計測機器を設置し,雨量,水位,流速,濁度の連続測定と採水を行った(Figure 2).観測期間は2013年6月~2016年12月である.降雨時に採水した約1Lの試料は目開き0.42mmのふるいを通過する試料としない試料に分け,それぞれ孔径1μmのガラス繊維濾紙で吸引濾過し,SS濃度およびCs濃度(降雨時懸濁態)を測定した.なお,一部の試料は2mm,0.42mm,0.072mmのふるいを用い,粒度別に分けて測定した.また,無降雨時に約20Lの採水を行い,ガラス繊維濾紙で吸引濾過し,SS濃度およびCs濃度(無降雨時懸濁態)を測定した.さらに,降雨時と無降雨時の採水試料の濾液を蒸発乾固させ,Cs濃度(降雨時溶存態,無降雨時溶存態)を測定した.降雨時の懸濁態試料における137Cs線量の粒径別割合をFigure 3に示した.粘土やシルトなど粒径の小さいものほど137Cs線量が高く,粘土,シルト,細砂成分で約70%以上を占めた.比曽川および真野川における粒径0.42mm以下のSS濃度の関係をFigure 4に示した.土壌へのCs沈着量が大きい比曽川の方が近似直線の傾きが大きかった.また,近似直線の傾きを比較すると,2013年~2016年の間で明確に減少している.このことから,SSに吸着している137Csは年々減少しており,減少率は3年間で79%以上と物理的半減期に基づいた3年間の減少率6.7%と比較し,非常に大きかった.これは雨水に流されやすい細粒成分や有機物に吸着した137Csから選択的に流出したことによると考えられる.137Cs流出量を算出した結果をTable 1に示した.降雨時懸濁態での流出割合は,どの年も両河川で95%以上と最大であった.一方,無降雨時の137Cs流出量は微少となった.また,降雨時,無降雨時それぞれで懸濁態の割合より溶存態の割合が小さかった.各流域における4年間の総137Cs流出量は比曽川で6.9 kBq/m2,真野川で2.1 kBq/m2であり,土壌沈着量の平均値(比曽川:1017 kBq/m2,真野川:421 kBq/m2)と比較すると非常に微少であった.以上のことから,放射性セシウムの流出は,降雨時懸濁態の流出成分が大部分を占めており,細粒成分や有機物に吸着して流出する割合が高いことが分かった.土壌の沈着量に対してCs流出量は微少であり流域内にほとんどが残存している状況下で,Cs流出量は自然崩壊による減少よりも著しく減少した.これは雨水に流されやすい細粒成分や有機物に吸着したCsから選択的に流出したことによると推察される.
著者
溝口 勝 藤井 克己 宮崎 毅 中野 政詩
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.903-909,a2, 1988-09-01 (Released:2011-08-11)
参考文献数
19

降雨あるいは潅漑などによる水の貯留後に, 重力に逆らって生じる土中水の上方移動の現象について蒸発を中心に解説した。圃場を含めた不飽和土中でみられる水の上方移動には, 土壌表面からの蒸発, 植物を通しての蒸散および土の凍結がある。これらの現象は一見全く関係がなさそうに見えるが, 前回の講座で解説された水分移動式の右辺に吸込み項を付け加えることで整理できる。本講座ではこれらの土中水の上方移動現象をこの観点から見直し, 不飽和土中で生じる水の移動を統一的に理解できるよう, やさしく解説した。
著者
溝口 勝 山路 永司 小林 和彦 登尾 浩助 荒木 徹也 吉田 貢士 土居 良一 鳥山 和伸 横山 繁樹 富田 晋介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

SRI 農法が東南アジアの国々で爆発的に普及しつつあるが、その方法は国や農家ごとに異なり、適切な栽培管理技術は未だ確立できていないのが現状である。そこで本研究では、日本で気象や土壌・地下水位等の科学的なパラメータを測定するための最新のモニタリング技術を開発しつつ、主としてインドネシア、カンボジア、タイ、ラオスの東南アジア4 カ国にこのモニタリング技術を導入して、農業土木学的視点からSRI 農法の特徴を整理し、SRI栽培の標準的な方法について検討した。加えて、現在懸念されている気候変動に対する適応策として、各国の農家が取り得る最善策を水資源・農地管理に焦点を当てながら考察した。