著者
中村 隆宏
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.82-88, 2007-04-15 (Released:2016-11-30)
参考文献数
9

労働安全教育の現場では,「体験型教育」「体感教育」等の疑似的な体験を取り入れた教育手法が展開されている.しかし,その理論的背景について十分な検討がなされないまま「体験すること」のみが重視された結果,労働者の実質的な安全態度の向上につながらず,むしろ労働者の不安全行動を助長する事態が生じることも懸念される. 本稿では,労働安全教育における疑似的な体験の意義と諸課題について検討した.教育効果向上のためには,単なる体験にとどまることなく,実際場面で遭遇する危険とその対処方法について具体的なイメージを形成し,過去経験と結び付けて展開を図ることが重要である.また,危険補償行動に対して適切な対応を図らなければむしろ災害発生率を高める可能性があり,新たな教育手法の普及・展開においてはこうした副作用を十分に考慮する必要がある.
著者
三井 達郎・岡村 和子
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.369-377, 2008-12-15 (Released:2016-10-31)
参考文献数
15

平成21 年の6 月から75 歳以上の高齢者には運転免許更新前に認知機能検査を受けることが義務づけら れる.この制度の開始により個々の高齢者の認知特性に応じた運転者教育が実施されることになる.このような教育を効果的に推進するためには,認知機能が低下した高齢者が自動車を運転する際に具体的にどのような問題点があるかを明らかにしておく必要がある.本稿では,最初に,わが国の高齢者に対する運転者教育の概要を運転免許更新時の高齢者講習を中心に紹介する.認知機能検査はこの高齢者講習の一環として行われる予定である.つぎに,科学警察研究所が実施した高齢者の認知機能が自動車の運転に及ぼす影響に関する研究について概説する.この研究は,新しく作成した安全運転診断法を用いて高齢者の認知機能と運転特性の関連性を検討することをねらいとしている.
著者
三宅敏之・B.Bowonder Bowonder B.
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.346-354, 1987
被引用文献数
4

<p><tt><b>1984年12月2日,インド中部の都市ボパールで,ユニオンカーバイドインド社から,イソシアン酸メチルが多量に漏えいし,死者2000人以上を出す今世紀最大のプラント事故が発生した、 ボパール事故の背景には数多くの安全管理上の問題点が見られる, 本稿では事故の詳細を明らかにするとともに,事故の問題点を四つの観点(すなわち,テクノウェア(technoware),ヒューマンウェア(赴umanware),インフォウェア(in{orw玖re)およびオーガウェア </b></tt><tt><b>(orgaware))に立って解析した. </b></tt></p>
著者
小松原 明哲
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.148-154, 2003-06-15 (Released:2017-01-31)

多くの産業においては,技術的に未知の事象による事故は急激に減少してきているが,人間のさまざまな不適切行為による事故はなかなか減少しない。より一層の安全を確保するために,ヒューマンファクターへの関心が高まっている.しかしヒューマンファクターと一口に言ってもつかみどころがなく,なににどこから手をつけてよいのかわからない場合も多い.本稿ではヒューマンファクターとヒューマンエラーの関係について整理する.っぎに近年問題となっている違反にっいて,その発生メカニズムと 対策について考察する.
著者
古川 浩
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.68-77, 2003

<p><tt><b>[本件は「都市型の競合脱線」である.脱線は日比谷線が中目黒直前の地下鉄抗口を出てすぐの緩和曲線に入った直後の地点で発生した.下り列車最後尾8号車の1位車輪が外軌から浮き上り,内軌側に離脱した事が発端である。この時1位は落輪せず,そのまま前進して踏面がレールと再接触後フランジがレールの上面に飛び移るようにしてのり上り,斜め右に走って外軌の外側に落輪した.原因は乗客の座席位置が対角でこれに輪重比が重畳して大きくなった事と,多様な軌道狂いがたくさんあってこれらが</b></tt><tt><b>競合した事によるものであるが,ガードレールも欠落していた. </b></tt></p>
著者
中山 良男
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.427-434, 2016

<p>火薬,爆薬そして手製爆薬による爆発物テロを想定し,最も脅威となる爆風と爆発飛散物の威力について概説する.最初に,爆発物テロの現状を紹介し,続いて爆発反応の形態に爆燃と爆轟の2 種類があり,爆発の威力が大きく変化することを解説する.次に,TNT 爆発による爆風のピーク静水過圧と正圧相インパルスの距離減衰特性を説明する.TNT 以外の爆発物の爆風威力はTNT 換算薬量で示されるので,その算出方法を解説し,あわせて代表的な爆発物のTNT 換算薬量率を紹介する.爆発飛散物については,金属容器に詰められた爆薬から発生する爆発破片の初速度の評価式を解説する.爆発による人体損傷は一次から四次の爆傷に分類されること,およびそれらの損傷レベルについて紹介する.最後に,テロ時の避難距離と火薬類取締法による各種保安物件までの安全距離などを比較する.</p>
著者
西村 育人・今村 友美・茂木 俊夫・土橋 律
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.34-40, 2013-02-15 (Released:2016-07-30)
参考文献数
15
被引用文献数
1

閉空間におけるガス爆発では空間内の急激な圧力上昇により,大きな被害をもたらす.適切な安全防護や安全管理を行うためには,ガス爆発時の圧力挙動を的確に予測する必要がある.しかしながら,既往の圧力上昇計算モデルや小規模実験による危険性評価は,実際の大規模空間での爆発時に現れる火炎の自発的な乱れの影響を無視しており,実規模のガス爆発に対して過小評価となってしまう危険性がある.そこで本研究では,火炎の自発的な乱れの影響を考慮した圧力上昇計算の新規モデルを提案し,さらにガス爆発の危険性評価指標であるKG 値に対しても,自発的な乱れによるスケール効果を考慮した修正モデルを提案した.これらの結果は現実のプラントなどの大規模施設において,より適切な安全管理の実現のために活用されることが期待される.
著者
松倉 邦夫
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.318-323, 2013-10-15 (Released:2016-07-30)
参考文献数
13

化学産業やプラントの静電気事故の原因を事故報告書や事故データベースなどから分析すると,同類,同パターンの静電気事故が繰り返し発生していることがわかる.これは,諸々の事故報告書や事故データベースが,事故の再発防止に必ずしも活用されていない現実を示すものである.本稿では,これらの静電気事故情報を参考にする際の視点を変えることによって,過去の様々な静電気事故から再発防止策に繋がる情報を得るためのポイントを紹介する.今回紹介する“2 ポイントの視点”で事故資料を見て行くと,特殊な場合を除き,静電気事故の大半を防止することができる.
著者
山隈 瑞樹
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.229-237, 2004-08-15 (Released:2016-12-30)
参考文献数
11
被引用文献数
3

配管等の亀裂の非破壊検査法の一つである浸透探傷試験用スプレー缶を噴霧中に発生した爆発・火災事故の原因調査の一環として,国内で一般的に使用されている浸透探傷試験用スプレー缶ならびに関連のスプレー缶の噴霧帯電量を測定した.その結果,噴射剤の極性,固形分の有無,ノズルの材質および使用時の温度によって帯電量が大きく異なることが判明し,使用条件によっては短時間で爆発を引き起こすに十分な静電エネルギーが人体に蓄積され得ることが明らかとなった.さらに,ノズル孔径をわずかに増加させることにより帯電減少効果が期待できることを示した.
著者
高木 伸夫
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.244-251, 2014-08-15 (Released:2016-07-30)
参考文献数
6

近年,化学産業のみならず化学産業以外においても非定常な運転や操作において重大事故が発生している.プロセスプラントにおける危険源を特定する手法としてHAZOP が広く知られており,連続プロセスの定常運転を対象として広く活用されている.しかし,プラントのスタートアップ/シャットダウン操作やバッチ反応プロセスは時間とともに運転状態が変化すること,また,連続プロセスと異なりオペレータによる現場での手動弁の開閉操作やポンプ起動,停止操作などがなされることが多い非定常な運転形態といえる.安全で安定な操作にあたっては運転操作にオペレータが大きく関与するという特性を考慮に入れて危険源を洗い出すことが必要であるが,これに対する危険性評価の方法に関する資料があまり見受けられない.そこで本稿では,スタートアップや加熱炉の点火操作,バッチ反応など非定常な運転や操作における危険源の洗い出しにあたっての非定常HAZOP の基本手順と進め方を紹介する.
著者
田中 則章
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.128-130, 1998-04-15 (Released:2017-04-30)
著者
竹内 博樹
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.401-407, 1998-12-15 (Released:2017-04-30)

石油化学プラントのような巨大連続プロセスと異なり,医薬品製造はセミバッチ,バッチプロセスで行われることから,事故の規模はそれほど大きくないと考えられがちである.しかし,一歩間違えれば大きな事故につながることは,いろいろな事故の例をとるまでもなく明らかである.事故を防止するため,当社の医薬品開発から生産に至る過程において実施している危険性評価,安全対策等について述べる.
著者
倉持 秀敏
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.282-290, 2013-10-15 (Released:2016-07-30)
参考文献数
54

放射性物質汚染廃棄物の焼却処理(溶融等の熱処理を含む)に関して3 つの課題(放射性セシウムの挙動解明,排ガス処理,焼却炉内耐火物への蓄積)を提示し,原子力発電の爆発事故以降の学会発表を中心に,各課題に関する調査・研究を収集し,これまでの知見を紹介する.特に,挙動解明については,施設調査,実験研究,計算モデルの3 つの手法に分けて研究動向を整理しつつ,処理対象物による挙動の違いや挙動の制御性の観点から知見を考察する.一方,各課題に対して過去の文献から示唆に富む研究成果を紹介するとともに,これまでの知見と比較しながら,今後解明すべき課題や将来展開についても言及する.
著者
小堀 寿亮
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.29-35, 2009-02-15
参考文献数
1

<p>ライト兄弟による人類初飛行から約一世紀の間に,航空機のハードウェアに関する技術は飛躍的に進化し,航空機を安全な乗り物にすることに大きな貢献をしている.一方,航空機の整備作業は,ライト兄弟の時代から変わらず大半を人間が手作業で行っていることから,整備作業におけるヒューマンエラーをいかに減らすかが,航空機の安全向上の重要な課題の一つになっている. 全日空では,過去の経験から編み出してきた各種のヒューマンエラー防止手法と,ICAO(国際民間航空機関),IATA(国際航空運送協会),外国航空当局,航空機メーカー等による研究成果(ヒューマンファクターズ理論/方法論)を活用し,1995 年頃から現業部門のみならずスタッフ部門も含めた組織全体で,整備作業におけるヒューマンエラー防止のための実践的な取組みを展開してきた.</p>
著者
八島 正明・水谷 高彰
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.115-119, 2010-04-15 (Released:2016-09-30)
参考文献数
8

その2 では,原因究明のために行った発熱開始温度測定,最低着火温度(くすぶり温度)測定,模擬着火実験,部材の軟化する温度測定等を述べた.現場から採取した試料との吸発熱挙動の比較のため,食品の代表的な油脂成分であるパルミチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,リノール酸を使用した.DSC 測定による発熱開始温度は,現場採取試料170℃,パルミチン酸223℃,オレイン酸186℃,そしてリノール酸125℃であった.リノール酸の値が際立って低いことがわかった.おがくずを5 から50 mm まで堆積させ,くすぶり温度を測定した結果,着火温度が330 から240℃に低くなることがわかった.
著者
小松原 明哲
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.148-154, 2003-06-15
参考文献数
23
被引用文献数
1

<p><tt><b>多くの産業においては,技術的に未知の事象による事故は急激に減少してきているが,人間のさまざまな不適切行為による事故はなかなか減少しない。より一層の安全を確保するために,ヒューマンファクターへの関心が高まっている.しかしヒューマンファクターと一口に言ってもつかみどころがなく,なににどこから手をつけてよいのかわからない場合も多い.本稿ではヒューマンファクターとヒューマンエラーの関係について整理する.っぎに近年問題となっている違反にっいて,その発生メカニズムと </b></tt><tt><b>対策について考察する. </b></tt></p>
著者
高橋 英明
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.86-93, 1995-04-15 (Released:2017-06-30)

幸福な生活を送る権利が,日本国憲法第25条「生存権,国の社会的使命」によって定められている.これを本質から脅かす脅威,すなわち「幸福への脅威」ないしは「無事であることの破綻」には,「安全」が大きく関係している,この安全を脅かす要素には内的なものと外的なものがあり,内的要素としてがんなどの疾病,外的要素として自然災害や交通事故などの不慮の事故がある. 本稿は地域を対象としたリスクマネジメントの概念を紹介し,さらにすべての外的危険要因である「不慮の事故および犯罪」による被害を考慮することで,地域の危険度の指標化を試み,総合的な観点から地域の安全に関する問題を提起したものである.リスクマネジメントや危険度マップの概念・および文化的視点からの安全の把握は,地域を対象とするばかりではなく,企業や設備,さらに個人の安全問題を明確にする手段となりうるものと思われる.
著者
柴田 高広
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.71-76, 2008-04-15 (Released:2016-10-31)
参考文献数
9

安全を最優先する組織の行動様式の土壌となるものを安全文化と呼ぶ.近年発生した事故や不祥事については,安全文化のレベルまで掘り下げて原因分析が行われるようになってきたが,これは,社会の高度技術化や相互依存化によるリスク構造の複雑化と,リスク低減に対する社会的要求の高度化によって,機器設備やマネジメントシステムの信頼性向上だけではなく組織文化や組織風土等の人間・組織のより本質的な部分にまで管理対象の範囲が拡大してきた結果と理解できる.安全文化とは組織自体のさまざまな経験と組織成員の価値観や行動パターンの変化に伴って形成されてゆくものである.これらは組織成員の心理面に大きく依存しているものであるため,安全文化の醸成は組織および組織成員が主体的に取り組んでゆくことによって初めて効果が現れる.こうした取組みは組織的安全マネジメントの一部としてとらえることができるが,仮にこれを規制による監査や検査で行おうとしても逆に問題を潜行化させる可能性がある.本稿では,組織の安全文化という概念を関連項目との関係性の中で整理し,安全文化醸成のための手法,およびその要点について紹介する.
著者
大島 榮次
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.302-306, 1998-10-15 (Released:2017-04-30)

生産設備のメンテナンス活動を通じて徹底的にロスとムダを排除することによって生産性の向上を図ることを狙ったTPM活動すなわち全員参加の生産性保全活動が提唱されているが,最近の厳しい経済 環境下で多くの化学工場がそれに関心をもち,導入している. TPMの基本的な理念と具体的な推進方法について解説する.TPM’活動によって生産性向上の面で大きな成果を上げることができるばかりではなく,設備面および運転面での安全管理にも有効であるこ とが期手寺できる.