著者
東 賢太朗 Kentaro AZUMA
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.1-11, 2009-03-06

フィリピン・ボラカイ島は、美しいホワイトビーチが世界的に知られる観光リゾート地である。本稿では、今後のボラカイ島の観光文化に関する研究への予備的考察として、観光と環境、および観光と生活のそれぞれの関係性に注目する。フィールドワークによって得た資料や情報から、観光化や観光開発による環境の喪失という齟齬が生まれていること、また観光圏と生活圏が地理的かつ機能的に分化しながらアクターの往来によってコンタクトゾーンが生起していることを明らかにする。その上で、生活環境主義における「居住者の生活の便宜」について考察を行う。
著者
四方 由美 中野 玲子 Yumi SHIKATA Reiko NAKANO
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.129-148, 2007-03-20

本論文は、映像メディアで伝えられる従軍慰安婦問題をめぐる言説が視聴者にどのように伝わるかについて、視聴調査のデータに基づき分析を行なったものである。戦後60年を経た現在においても、従軍慰安婦問題は様々な歴史認識が交錯する問題の一つであり、「従軍慰安婦」をめぐっては、いくつかの言説が存在している。本論文では、それらを整理した上で、2001年に「従軍慰安婦」問題を扱ったNHKの番組が、どのような言説の政治の下で改編され問題となったのかを明らかにするとともに、この番組は視聴者の「従軍慰安婦」問題の認識にどのような影響を与えたかについて、番組視聴調査の結果から考察を行なった。
著者
住岡 敏弘 Toshihiro SUMIOKA
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.73-84, 2014

本稿は、アメリカ南部で、プランテーション労働を支える労働力として奴隷制が発展していくなかで、どのように黒人に対して「読み書き」の教授の禁止の法制化が展開したかについて、ジョージア州を事例に取り上げ、明らかにしてきた。その法制化過程は大きく2つの段階に分けることができる。第一段階は、奴隷法による奴隷に対する読み書きの禁止の法制化の段階である。第二段階は、1829年の、いわゆる「反識字法」の一環として「黒人商船隔離法」が制定された段階である。こうした段階を経て、リテラシー教授禁止は自由黒人にまで広げられ強化されていった。
著者
野中 博史 Hirofumi NONAKA
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.323-341, 2007-03-20

民主主義社会における国家の運営は、自律した国民1人ひとりの意見を基盤とする世論に基づいてなされるのが原則である。国民が意見を表明する際の判断要素となるのは、生まれて以来受けてきた教育や体験を通して獲得した価値観、世界観、利害得失、印象、メディアや他人から得られた情報など様々である。中でもメディアによる継続的で正しい情報は、国民が適切な判断をする際の材料として不可欠の要素であるが、情報に接しない構成員が多い社会では、情報による適切な世論形成は困難になる。また、情報に間違った内容や意図的な操作などのノイズが入った場合も同様である。継続的で正しい情報が不在のまま世論形成がなされ、多数派を形成した社会では構成員の多寡に関わらず、少数派は沈黙しがちとなり、意見の寡占化が進む(沈黙の螺旋)。過剰な情報が意識の画一化、寡占化を促すとの説(象徴的貧困)もあるが、今回の考察では情報が少ない場合に、人々の意見はより寡占化が進む傾向がみられた。多様な意見が失われた社会は、民主主義の理念である多様な意見による社会形成効果が作用せず、全体主義的な空気を醸成する可能性が高くなる。しかし、構成員が非自律的であったにせよ適切な情報や対抗意見(対抗言論)に接すれば、"沈黙の螺旋"から解放され、意見の多様化が担保されるようになる。新聞を使った授業(NIE)でも、児童、生徒に対する教員側からの適切な情報提供や対抗意見を尊重する雰囲気作りが欠かせない。
著者
田村 恵理子 Eriko TAMURA
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.165-177, 2015

本書評は、人権法と人道法が動態的で複雑な相互作用の関係にあることを生命権について論証する近年の仏語の大著を取り上げる。本書の概要を目次に沿って紹介した後、評者のコメントが展開され、本書が照らしだす今後の残された課題も提示される。
著者
野中 博史 Hirofumi NONAKA
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.221-238, 2005-03-22

薬の副作用などのリスク(危険性)をどのように市民に伝えるか。報道に携わるものにとってリスク情報の取り扱いはきわめて難しい。蓋然性は高くても必然性のないリスク情報は、伝え方によっては社会にパニックを引き起こす。伝えなければ、現実的被害を招く結果になるかもしれない。日本では過去、睡眠薬「サリドマイド」、血友病治療薬「非加熱製剤」、風邪薬「PPA」などの薬害が続き、いずれも統治者である政府の対応の不適切さが指摘されているが、同時にリスクを適切に伝えなかった新聞をはじめとする報道機関の責任も問われるべきではないだろうか。市民(国民)の知る権利に応えるべき報道機関のそうした"報道萎縮"は、市民一人ひとりの安全よりも共同社会の平穏を第一義的に考える報道倫理に原因があると考えられる。統治者と報道機関の"共同幻想"といってもよい。共同幻想社会での報道萎縮は、公共の概念すらも国家や統治者サイドに立ち、市民を信用しない報道となりかねない。それは市民の安全を脅かすものであると同時に民主主義社会そのものを空洞化させる危険性がある。
著者
山下 藍 Ai YAMASHITA
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.261-280, 2015-03-13

「目標の可視化・明確化」は、ゲーミフィケーションにおける必修要素と言えるが、心理学やインストラクショナルデザインなど、様々な分野においてその重要性は確認されている。そのためゲーミフィケーション要素を正しく認識、導入するにあたり、どのような方法で戦略を立て強化を行うかが重要である。そこで本論では、韓国語授業において「目標の可視化・明確化」の強化を行い、その結果、学習者の動機づけと学習効果にどのような影響を与えるのかについて論じる。また、授業での検証結果を基に強化方法を見直し、今後の韓国語授業において「目標の可視化・明確化」を含むゲーミフィケーション基本4条件をどのように強化していくべきか、具体案を示しながら述べることとする。
著者
中別府 温和 Harukazu NAKABEPPU
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.73-108, 2013-03-08

本稿では、宗教的文化統合という仮説的操作概念を使用して、マヤ・ユカテカの一カトリック村落マニの空間感覚を分析した。具体的な分析の場面での仮説的視点は、宗教事象の太古性・残存性、世界性・公共性、理念性・非合理性、社会統合(integration)・内調整(inner adjustment)機能である。 マニの空間感覚の全体像としては、中心・四方(五方)および共有地の太古性・残存性、神話的事実の現実化の理念性・非合理性、祈りとコンパドラスゴの世界性・公共性が重要である事実を提示した。 さらにマニの修道会・教会がマヤの伝統とカトリシズムを複合させつつ重要な空間として存続変容してきている実態を分析した。具体的には、修道会・教会の建築空間の象徴性を宗教事象の太古性・残存性、世界性・公共性、理念性・非合理性、社会統合(integration)・内調整(inner adjustment)機能の視点から分析した。主に中心(k'iwic ; centro)、インディオ学校・インディオ礼拝堂、セイバの木(yaxche)・洞窟(actun)、マヤ十字形と十字架、聖母マリアによる幼子イエスの左抱き聖像を分析することによって、マニの修道会・教会がマヤ・カトリシズム複合体として存続変容してきている事実を提示した。 これらの分析結果を踏まえて、さらにマニの空間感覚を個人の断面で具体的にかつ厳密に分析することが今後の研究課題である。