著者
池田 信
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.15, no.12, 1963-10

人に於て精子免疫に基ずく不妊が存在するか否かを検討するために, 先ず成熟モルモットを用い4群〔1群, モルモット睾丸乳剤+Freund's Adjuvant(F. Adj.)注射群. II群, モルモット肝乳剤+F, Adj, 注射群. III群, F. Adj. のみ注射群. IV群, 無処置群〕の実験を試みた. 法射後約3週後に, i) 抗原としてモルモット精子乳剤(蛋白含量0.6g/dlの0.5ml)を注加して, 剔出子常によるSchultz-Dale試験, ii) モルモット精子乳剤(蛋白含量0.6g/dlのものを原液抗原)を抗原として血清による沈降反応, iii)血清や頚管, 腟分泌液のモルモット精子に対する精子不動化作用等を検べた. I群はSchultz-Dale試験で14例中12例(85.7%)陽性, 沈降反応では6例中4例陽性であった. 精子不動化作用はI群では対照に比し顕著な不動化作用がみられた. 更にI群及び馬, 牛, 豚等の血清附加 F. Adj. で感作した成熟雌の子宮を腟と共に剔出し, 当該抗原を子宮腟部, 子宮内にのみ注入するに子宮収縮はみられなかったが, 子宮漿膜面に接触させると, 顕著な収縮がみられた. 又I群のSchultz-Dale試験で精子乳剤抗原の微量を用いると反応は陰性であり, 陽性となるためにはある一定量以上の抗原の量が必要であった. I, II, III, IV群を成熟雄と同棲せしめ最長6ヵ月にわたり観察した所, I群では10例中2例, II群では10例中6例, III群では6例中4例, IV群では6例中5例妊娠し, 明らかに有意差を示した. かくの如くモルモットでは免疫を強化することにより, 人工不妊を起し得るが, これは精液が子宮腟部, 子宮内壁に接触して攣縮が起り不妊を起すと考えるよりも, 寧ろ子宮内, 頚管, 腟等の分泌液中の抗精子抗体のため精子の不動化が起り, 不妊が起きると考える方が妥当であろう. 次に人の精子免疫に基ずく不妊が存在するならば上述の成績から, 血清, 頚管粘液の精子に対する作用を重視すべきであるから, 原因不明不妊, 経産, 十代の未婚の婦人の血清をとり, 人精子に対する作用を比較検討したが, 不妊症21人と対照の各々20人との間に差を認め得なかった. 又不妊症と経産婦人の排卵期の頚管粘液を採り人精子に対する作用を検べたが有意差はなかった. 更に健康人の精液をとり, 生理食塩水を加え, ガーゼで濾過し, 遠沈, 沈渣で浮游液を作り, 凍結融解し, 蛋白含量12γ/mlに稀釈し不妊症, 経産, 十代の未婚婦人の皮内に0.05ml宛注射し, 15~20分後に反応を検べたが有意差はなかった. 故にモルモットでは免疫を強化することにより人工不妊を起し得たが, 人では自然性交時には性器より吸収される精子量が微量なため, 精子に対する抗体の産土量が少いためか体液中には不妊を起す抗精子抗体は証明されない. 従って体液内抗精子抗体による不妊症の存在は, 人に於ては考えられない.
著者
森 巍 金岡 毅 関場 香
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.265-273, 1973-04

Prostaglandin F_<2α> は新しい子宮収縮剤として, 又学問的にも極めて興味ある薬剤として最近注目をあびている. しかしながらその産科学的な評価については未だ明確に確立されてはいない. そこで私達は私達の病院に入院した陣痛未発来の妊娠末期婦人185例について, これを Pg F_<2α> 8.3μg/min 注入群, Pg F_<2α> 16.7μg/min 注入群, Oxytocin 8-20 mU/min 注入群の三群にわけ, Balloon 法又は Open-tip 法による子宮内計測により次の観察結果を得た. (1) 陣痛発来効果は Pg の方が Oxytocin よりもややすぐれている. (2) しかし児娩出効果は Oxytocin が Pg に比しすぐれている. (3) Bishop の頚管成熟度別に注入開始から分娩迄の時間をみると, Oxytocin がはるかに Pg よりもすぐれている. (4) 子宮収縮曲線において Pg により誘発される収縮は振幅がやや低く, 収縮時間が長く, 頻度の多いものが多く, Oxytocin は初めから規則的な子宮内圧の大きい, 収縮時間の比較的短かい子宮収縮がみられる. しかし Pg を 16.7/min とすると Alexandria unit でみた子宮活動は Pg も Oxytocin も ほゞ同様となる. (5) しかしながら子宮活動がこの様に高まり, 子宮内圧が高まつてきても, 子宮頚管の開大度や頚管の成熟度の改善率は Oxytocin と比較して Pg ははるかに劣つており, 子宮活動が高まつても分娩を積極的に進行させる効果は Oxytocin がすぐれているものと考えられた. (6) Pg の投与は子宮筋の Oxytocin に対する感受性を増加させ, Pg をあらかじめ投与することにより Oxytocin の priming effect を生ずることが in vivo, in vitro 両方の実験で判明した. (7) Pg の陣痛既発来例に対する陣痛促進効果は Oxytocin より劣つていた. (8) 児の Apgar 指数, 体重減少率, 母体の分娩時出血量は Pg, Oxytocin ほゞ同様である. 以上から, Pg は Oxytocin と比較して, 特にすぐれた陣痛誘発剤とはいえないが, Oxytocin 感受性の低い妊婦, 頚管未熟妊婦, 緩徐な陣痛発来を期待したい妊婦などにはその価値が認められる.
著者
久保 健太郎
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.20, no.7, pp.759-762, 1968-07
著者
落合 東朔
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-9, 1970-01
被引用文献数
1

挿管法により家兎及びヒトの子宮収縮を記録し以下の成績を得た. 1) 家兎非妊: estrogen 投与時は去勢時に比し, 収縮の高さは著明に増大し持続時間も延長するが回数に差はない. progesterone 投与時は est. 投与時より高さの増大は少なく, 持続は短縮するが回数は著しく増加する. est.-prog. 投与時は prog. 投与時より高さは大きく持続も長いが回数は減少する. 2) 家兎妊娠: 妊娠10日は高さの小さな持続の短い頻回の収縮であるが, 妊娠20日には高さは増し持続も延長するが回数は減る. 妊娠30日は20日と比較し高さは変化しないが持続は長く回数は少ない. 妊娠30日の胎盤附着部と非附着部を比べると, 持続, 回数に差はないが, 高さは前者平均 (以下平均を略す) 1,9mmHgに対し後者 4.5mmHgであり附着部の収縮の抑制を認めた. 3) ヒト非妊: 月経時が最も大きく規則的な収縮で高さ 4.5mmHg, 持続23.2秒, 10分間の回数(以下回数と略す)は22.5回である. 増殖期になると, 中等大のやゝ不規則な収縮で高さ2.5mmHg, 持続17.9秒, 回数22.7回である. 分泌期は最も小さくさざ波様で高さ1.5mmHg, 持続16.0秒, 回数22.9回である. 閉経後の収縮は高さ1.3mmHg, 持続22.3秒, 回数16.0回であり, 閉経後の年数が長い程, 回数は減少し小さい. 4) ヒト妊娠初期: 分泌期の収縮に類似し, それより小さく高さ0.8mmHg, 持続16.8秒, 回数22.7回である. 5) ヒト分娩時: 分娩第1期は高さ37.9mmHg, 持続87.9秒, 回数3.8回であり, 分娩第2期は高さ57.1mmHg, 持続84.1秒, 回数5.5回である. 6) ヒト妊娠初期流産: 高さ3.5mmHgで, 進行流産が高さ4.7mmHgで最も大きく, 不全流産が1.8mmHgでこれにつぎ, 完全流産が1.4mmHgで最小である.
著者
鈴木 五六
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.24-32, 1967-01

胎児心音に関する今日までの研究は,いずれも単独記録であり,胎児心電図と同時記録によつて,その関連を検索した報告は甚だ少ない.これは胎児心電図との同時記録が技術的に困難なためでもあるが,著者は胎児心音,心電同時の写真記録により両者の相互関係を求め,これが臨床上いかなる意義を示すか検討した.すなわち妊娠,分娩時を通じI II時間は0.15~0.22秒,II I時間は0.15~0.31秒,QI時間0.02~0.06秒の範囲にあり,分娩時児心音数減少例でこの範囲を僅かに逸脱するものが数例みられた.II I/I IIは従来まで1.0~1.6を正常とし,それ以外の値をとると,出産時仮死が多いというが,必ずしも該当しないようである.むしろQII/√<RR>の値,I II時間の不整に臨床意義を認め,前者では0.33~0.39を正常,それ以外の値をとれば仮死児の出生の多くなること,後者では0.03秒以上の不整のとき分娩時胎児心音数減少の起りやすいことを認めた.胎児心音の波形ではI音に続く雑音,分裂,振幅不揃などの出現が,児の切迫仮死を示すものとして重視するものもあるが,今回の検索ではこれに反し,この種の成績に意義を見出せなかつた. 次に胎児心音の臨床応用として,母体に硫酸アトロピンを投与し,胎児心拍数の変動が起るまでの時間から胎盤機能の判定を行う方法が最近実施されている.これに代る安全な方法として2%塩化カルシウム20ccの静脈内注射によつても,この種の検査は実施出来ることを認めた.本検査法が果して胎盤機能を示すものか再検討した結果,本法により現われた胎児心拍数の変動は,母体に投与された薬物そのものの作用によるものでなく,母体心拍数の変動により二次的に影響されたものでないかとの成績を得た.したがつてHonらのいう重症妊娠中毒症,あるいは予定日超過例にみる胎盤機能不全例において,本検査成績の出現し難いということ,これにより胎盤機能が判定できるという説とは異つた成績となつたが,橋本らのいうような胎児機能,すなわち本法実施により胎児心拍数の著明な変動を来たした症例に仮死児が多いという成績に対しては,仮死が必ずしも多くみられなかつたが,分娩中胎児心音数の100以下減少例が多かつたという面で一致の成績を得た.
著者
林 俊郎
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.211-220, 1970-03

妊娠ラット子宮筋の活動を, in situで筋電図学的に研究した.そして得られた筋電図のpatternについて, 周期的に発生する活動電位群の間隔, 活動電位群の放電持続, 群中棘波の発生頻度, 棘波の伝播範囲, 振幅及び速度を示標とし, 妊娠に伴う子宮筋の興奮性変化を見た.その結果, 妊娠中期, 妊娠末期を比較すると, 子宮筋の興奮性は妊娠の経過と共に漸増するのが見られる.妊娠末期では小切開を加えただけでも著しく収縮活動が亢進し, 分娩を誘発完了する.これは最下部胎嚢の内圧の変化, 切開部周囲の筋線維の伸展性が変化することによると思われ, 分娩の発来機序について示唆を与えるものである.非胎盤附着部, 胎盤附着部における活動電位の発生様式を妊娠経過に従つて, その差異を検討したところ, 胎盤附着部における興奮伝播性は非胎盤附着部に比し, 多少抑制されているようにみえるが, その他の興奮性を示す要素には相違は認められず, 胎盤による局所抑制作用を過大に評価することは難しいと結論せざるを得なかつた.estradiolを与えた家兎卵管については, その基本的収縮様式は, 卵管采部, 膨大部では弱い蠕動性収縮が頻回に現われ, 次々子宮側に伝播することが多く, 時にゆり返す様に逆伝播が起こる.しかし狭部に到ると弱い蠕動性収縮の中にtetanicな強い収縮を混じ, 子宮側に移行すれば次第に増強する.卵管子宮移行部では興奮の伝播に関して特別な障碍, 又は抑制はなく, 一方に発生した興奮は殆んど常に他方に伝播し得る.その方向は正逆いずれの場合でも起こり得るが, 本実験条件下では正伝導が多かつた.
著者
小林 博
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.521-530, 1968-05

生体にstressが加わるとcatecholamines〔(以下CAと略), adrenaline (以下Aと略), noradrenaline (以下NAと略), dopamine (以下DAと略) の総称で特にA, NAを指す〕が増量することは基礎的並びに臨床的な実験によって確かめられている. Selyeのstress学説による適応ホルモンの概念の導入によりCannonのemergency reaction と stressとの関連が問題とされて来たが, Selye自身も強調している如く, 適応ホルモンの機転が唯一の非特異的防禦手段ではなく, 自律神経系も又重要な役割を演じていることは疑いがない. 妊娠という試練を母体はどう受け止めるか. 妊娠中毒症はこの様な負荷に対する異常反応に基づく生体のbalanceの破綻 (換言すれば適合不全) によって起ると解されないだろうか. 著者はこの様な観点から自律神経系のneurotransmitterであり昇圧物質でもあるCAの妊娠中毒症における動態について検討を加えた. 尚測定に当っては尿中CAの測定に際し問題となっていたDOPAを除去する為, イオン交換樹脂Duolite C-25を使用した. その概要は以下の如くである. 1) 妊娠後半期になるとNAの平均値は上昇し, 高値を示すものもあり, かつバラツキも著明となり自律神経系の不安定性が示唆された. 2) 妊娠中毒症では毎日連続的に測定すると, NA値は必ずし.も血圧の動きとは関係なく, 周期的な波状の変動を示した. 全平均値は妊娠末期と差がない. この事から血圧上昇には血管のNAに対する感受性の光進も又重要な因子となることが推測される. 3) 分娩子癇の患者では子癇発作後 pheochromocytoma に於てのみみられる様な, 正常人の約30倍にも達するNAがspike状に放出され, 一たん減少後, 再び一見rebound的に上昇している. これは子癇独自の現象で, その意味ずけはいまだ困難である. 4) 尿中CA値と血圧とは相関関係が明らかでなく, CAが一次的に昇圧機序レこ関与するとしても, 二次的には, 他の昇圧機構ないし血圧維持機構が作働することが推測される. すなわちCAが妊娠中毒症の一元的な原因とはいえないが, 交感神経系が妊娠中毒症発症に関与していることは充分考えられる.
著者
大島 清 林基治 能勢尚志 横井義之 可世木辰夫
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.31, no.10, pp.p1853-1861,図4p, 1979-10

妊娠末期のニホンザルにDHA-S2mg/kgを静注すると,投与後3時間から6時間の間に肉眼的にも明瞭に赤色化及び膨潤の変化を認めることができる.急性的に子宮筋電図を記録した実験では,子宮体,頚管ともにDHA-Sによる収縮作用を認めず,頚管熟化は筋電図不変ということと同義であると解釈できる、妊娠ザルにDHA-S投与後,時間を追ってDHA.E_1、E_2,E_3をRIAで測定したところ,E_2は投与後6時間のところで有意の差で上昇していた.妊娠ザルではDHA-SがDHAを経てE_2に転換されたことが立証でき,これは臨床結果とも一致する.以上の結果の基礎として,DHA-S投与4時間又は6時間後の妊娠子宮頚管部を部分切除して電子顕微鏡像を調べたところ,DHA-S投与後の頚管のコラーゲン線維の合成が促進されること,又,一方で破壊も同時進行していることが推論される結果を得た.頚管のコラーゲン代謝とE_2,また酸性ムコ多糖類,ヒアルロン酸やグリコーゲン顆粒の関与など,コラーゲン新生破壊の機序は今後の基礎的研究にまって解明されなければならないが,上記の結果は,DHA-Sのサル頚管熟化作用を示唆するものであると判断される.
著者
加藤 紘
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.22, no.12, pp.1317-1326, 1970-12

二重抗体法によりHCGの Radioimmunoassay を行つたが, その感度は10mIU/m1以上であつた.また Assay に対するHGH, HTSH, ACTH及び Prolactin の影響は軽微であり, 他の非特異的反応も殆んど認められなかつた.この Radioimmunoassay を妊婦及び絨毛性疾患患者のHCG測定に応用し次の結果を得た.1)妊婦血中及び尿中のHCG量は9~12週目にpeakを示した後速やかに減少し, 21週目より40週目にかけて再び漸増した.また羊水中のHCG量は, 妊娠前期において高値を示す例が多かつた.2)分娩時母体血, 臍帯静脈血及び羊水中のHCG量を測定し, 母体血と臍帯静脈血のHCG量に相関関係を認めた(γ=0.80).また新生児血中のHCGは生後16時間目で半減した.これらの成績より臍帯静脈血中のHCGは母体または胎盤由来のものと思われる.3)切迫流産患者の血中HCG量に対する尿中HCG量の割合は0.44±0.01となり, 正常妊婦の値0.80±0.12より低値であった.4)絨毛性疾患患者の血中HCG量を測定し, Follow up に利用した.経過良好な例では, 絨毛上皮腫では子宮単純全摘出術後4週間目に, また胞状奇胎では子宮内容除去術後3週間目に正常 Gonadotropin level に下降した.