著者
湯原 悦子 伊藤 美智予 尾之内 直美
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.127, pp.63-79, 2012-09-30

ここ数年, 家族介護者への支援の必要性が多くの場で語られるようになってきた. 支援者の側から家族介護者への支援を論じた研究は数多く見られるが, 家族介護者の側から支援者の支援を論じた研究はほとんどない. 本研究では, 認知症の人の家族介護者 6 名を対象に, ケアマネジャーが行う支援をどう捉えているかを明らかにすることを目的に, インタビュー調査を行った. その結果, 家族介護者のなかにはケアマネジャーの役割や業務範囲を理解できていない者がいること, 病気や制度, サービスに関しては専門職に頼られるほどの
著者
吉村 輝彦
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.123, pp.31-48, 2010-09-30

参加や協働によるまちづくりという言葉は, 広く一般的に使われており, 全国各地で様々な実践が行われてきた. 今後, 「まちづくり」 の実践や展開においては, 「自分たちで意思決定を行い, 自分たちで実行できるシステムを作り」, また, 「多様な関係主体が, 地域の中で様々な関係性を構築し, 組織や活動を生み出していく (選び取る)」 ことが重要になっていくだろう. そして, この実践・実行のためには, 相互作用や関係変容を促す対話と交流の 「場」 の形成が不可欠になる. そこで, 本稿では, 対話と交流の場づくりから始めるまちづくりに関して, その意義を示すとともに, 具体的な実践事例を通じてその可能性を示す.
著者
湯原 悦子
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.122, pp.41-52, 2010-03-31

日本では, 介護者支援の基盤となる法制度は十分に整備されていない. 要介護高齢者を介護する者について言えば, 介護保険法を根拠とする家族支援事業は任意事業であり, 自治体には行わなければならない義務はない. 高齢者虐待防止法では 「養護者」 への支援が規定されているが, 目的は支援を要する高齢者の権利利益の擁護であり, 介護者支援はそのための達成手段にすぎない.イギリスでは, 介護者法を根拠に, 介護者を要介護者の支援者と捉えるのみならず, 要介護者とは違う個人として認め, その社会的役割を確認し, 彼らが介護を原因に社会から孤立しないことを目指している. オーストラリアでも, いくつかの州で介護者法を設け, 介護者支援の充実をめざす動きが広がっている.本研究では, イギリス, オーストラリアの介護者法の内容と到達点を調べ, 日本が学ぶべき点について検討した. その結果, 介護者を独自のニーズを有する個人と認識し, 「社会的包摂」 を目的に介護者法を制定し財源を確保すること, 自治体は介護者とサービス提供者に法の内容を告知し, 介護者アセスメントを実施し, その結果に基づき適切なサービスの給付を行うことの 2 点を確認できた.
著者
小嶌 健一
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.142, pp.155-168, 2020-03

マット型睡眠計を介護施設に設置し,要介護高齢者の睡眠状態について1 週間にわたって計測した.また施設に入所している要介護高齢者の睡眠状態と認知症に併発する行動心理症状Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia(BPSD)との関係性についても検討した. 分析対象者は1 週間連続してデータ収集ができた26 名であった.対象者の属性については,平均年齢は85.4±6.1 歳,性別は男性3 名,女性23 名,入所期間の平均は225.7±313.9 日.要介護度の平均は2.9±1.1 であった.医学的情報については,認知症をはじめとする中枢神経疾患17 名,整形外科疾患8 名,内科系疾患1 名であった. 睡眠状態については,タニタ社製睡眠計スリープスキャンSL-511 を活用した.居室のベッドに敷かれたマットレスの下に設置して被検者の呼吸,心拍,体動による振動を検知して睡眠測定をおこなった.次いで,BPSD 症状についてはNeuropsychiatric Inventory Nursing Home Version(NPI-NH)を用いて測定した. 本調査の結果から以下の2 点が明らかとなった.第1 に,介護施設に入所する要介護者は1 日のうち半日分にあたる約12 時間をベッド上で毎日過ごしていることがわかった.ベッドに臥床しつつも目が覚めている状態を示す覚醒時間の平均では約2.6 時間,次いで眠っている時間を示す睡眠時間の平均が約9.5 時間,睡眠効率の平均が79%,睡眠回数の平均は2.2 回であった. 第2 に,睡眠状態とBPSD との関係性については,NPI-NH の結果からBPSD 所見の有無2 群間と,睡眠状態を計測した覚醒時間,睡眠時間,就寝時間,睡眠効率,睡眠回数の5 項目について検討したところ,BPSD 所見がみられた群が所見のみられなかった群と比べて1 週間のうち日曜・月曜・火曜・金曜・土曜日のそれぞれにおいて1 日あたりの平均した睡眠回数が約1 回少なかったことかわかった.BPSD 所見がみられた群は当該曜日ごとに1 日の睡眠回数の平均が約2 回,一方,BPSD 所見のみられなかった群では平均が約3 回であった. 介護施設に入所する要介護高齢者の睡眠状態については,対象とした多くの方において就寝時間の延伸した状態が明らかとなった.またBPSD 所見がみられる方は所見がみられない方と比べて睡眠の質が低下している可能性の高いことが示唆された.
著者
田中 千枝子 本名 靖
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.121, pp.43-54, 2009-09

医療財資源の効率化を目的にした, 第五次医療法改正の目玉である 4 疾患 5 事業制度が始まった. 各疾患や事業ごとの地域連携を促進する仕組みである. それに先駆けて, HIV/AIDS 医療体制でも整備事業が行われている. これは HIV/AIDS に関するブロック・中核の各拠点病院間また拠点・非拠点病院間の地域医療連携体制づくりの試みである. そこでは医療ソーシャルワーカーには, ミクロレベルの個別事例の直接支援のための連携のみならず, 組織や地域に介入するメゾからマクロレベルの連携行動が必要とされる. しかし従来病院に所属している医療ソーシャルワーカーはミクロレベルへの直接介入のサービスマネジメントにとどまり, 組織や地域に展開するメゾ・マクロレベルの連携行動としてのソーシャルワークを, 通常業務として行っているとは言い難い状況にあるのではないかと考えられた.そこで HIV/AIDS に対する医療ソーシャルワーカーの地域連携活動についての認識とその実態について, 全国の全拠点病院 (368 名), 非拠点病院 (800 名) のソーシャルワーカーに対して量的調査を平成 20 年 12 月から 21 年 1 月にかけておこなった. 回収率は前者 50.8%で, 後者で 43.8%であった. 調査の結果, 回答を行った拠点病院の 75%のソーシャルワーカーは HIV/AIDS 事例体験を有しており, 非拠点病院では 15%であった. 対象の集団は, 専門職団体である日本医療社会事業協会会員とほぼ同じ基本属性を持つ集団であり, 性別で 8 割弱が女性, 8 割弱が社会福祉士資格をもち, 拠点病院ではさらに精神保健福祉士や介護支援専門員資格も 3〜4 割程度と有意に多く持っていた. しかし拠点病院のソーシャルワーカーの経験年数は非拠点病院よりも有意に少なく, 比較的若年層が多かった.HIV/AIDS 拠点および有事例者集団の連携行動の特徴は, メゾのチーム・組織レベルでの認知や理解は得られており, また経験を積んでいることによって, 外部との連絡を自分なりに吟味して動き出すという専門職としての自律性を有していることが分かった. また事例経験のないソーシャルワーカーほど, 他組織との連携の必要を強調しているが, 経験を積めば積むほど, 拠点病院として他のスタッフや組織的な認知が深まっていると思われる状況では, むやみに他と連携するような行動はとらず, 状況をアセスメントした上で, 必要な連携の形を吟味していることが推察された.さらに有事例者のみに対して, 保健師や地域権利擁護専門員を対象に信頼性妥当性があるとされる筒井の 4 領域 15 項目にわたる地域連携活動尺度を援用した. その結果 HIV/AIDS へのメゾレベルへの介入行動としての連携活動は, 地域に軸足を置くコミュニティワーカーとしての保健師や, 権利擁護専門員とは異なる連携の型を持っていることが考えられた. それは病院内に軸足を置きながら, 組織の人間として地域や組織をアセスメントし, 組織の代表として地域と繋がっていこうとする行動と関連があるように考えられた. この点の具体的な確認作業が今後の課題であると考える.
著者
中村 強士 Tsuyoshi Nakamura
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.133, pp.17-27, 2015-09

子ども虐待や貧困問題がクローズアップされていることをふまえて,貧困と育児ストレス,育児ストレスと虐待,そして貧困と虐待との連関については研究が進められてきている.しかし,乳幼児期の貧困とこれらの連関については十分な検討がなされていない.本研究では,乳幼児期の貧困問題の構造を明らかにすることを目的にした名古屋市内の大規模質問紙調査の結果から,保育所保護者における貧困層の養育態度について分析する.その結果,第1に,貧困層は他階層に比べて保育所利用を消極的にとらえていること,第2に,所得が低くなれば「同じことの繰り返し」「解放されたい」「我慢している」という育児ストレスを抱えやすく,そのストレスの発散方法として「ついついあたった」「ついつい叩いた」「厳しく叱った」という養育態度になること,第3に,200名を超える保育所利用者が「世話に関心ない」と答えていることの諸点を確認できた.
著者
天池 洋介
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.138, pp.15-30, 2018-03

アトキンソンはイギリスにおける失業保険削減と所得の不平等化に対して,制度的要因を分析することでその原因と内在的な必然性を考察した.労働市場の2部門モデルでは,失業保険給付が「よい仕事」への雇用補助金となり,「よくない仕事」からの労働移動を促進することで,賃金と生産性の累積的上昇過程の形成が検討できる.そのためアトキンソンの失業保険制度は,ウェッブなどの産業進歩論の系列に位置づけることが可能である.
著者
湯原 悦子
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.130, pp.1-14, 2014-03-31

親や配偶者など大切な存在が要介護状態になったとき,それまでの関係性から,できる限り自分が介護を担いたいと考える者は少なくない.このような気持ちを尊重し,かつ,介護者を支えるシステムを社会に構築するためには,我々は介護というものを社会にどのように位置づけ,支援の充実を図ればよいのだろうか.本稿では,はじめに日本における家族介護者支援の政策を振り返り,不可避の「依存」と依存者をケアする「依存労働者」が必然であることを確認し,依存者と依存労働者を国家が保護を講ずるべき対象としての家族ととらえ,ケアに伴う二次的依存を解消していく考え方を示した.また,自分と親密な関係にある他者を自分の手でケアする権利は「ケアすることを強制されない権利」に裏付けられていなければならないこと,ケアの関与のありようを各自の状況に応じて選ぶことができる状態を作り出すために,関係性へのニーズを権利と捉える視点が有効であることを示した.
著者
小松尾 京子 Kyoko Komatsuo
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.133, pp.75-86, 2015-09

本研究は,実習指導者による実習スーパービジョンの課題について,教育的機能の視点から明らかにするものである.社会福祉士実習指導者講習会の受講者にアンケート調査を行った.その結果,受講者の8割以上が,スーパービジョンの経験がないまま,実習指導者として実習スーパービジョンを担う立場にあった.実習指導者の多くは,教育的機能の実施がもっとも難しいと捉えていた.その理由として,環境要因,教育方法,スーパーバイザーとしての自分自身の要因から整理できた.実習指導者の担う教育的機能の明確化や実習担当教員と実習指導者の連携のあり方,実習指導者の置かれている状況に対応したフォローアップ体制の検討が今後の課題である.
著者
後藤 順久
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.128, pp.23-34, 2013-03-31

GPS 電波がない地下鉄駅で, 地図情報を障害者等のスマートフォンに提供することを目的に, ナビゲーションシステムのプロトタイプを構築をした.3 つの現在位置の検知方式の中から, 予備実験の結果により, 赤外線 ID タグによる位置検知の方法を採用した. ナビゲーションシステムの更なる機能向上を図るために, 地下鉄空間内で実証実験を行った.名古屋市営地下鉄の久屋大通駅 (南改札口) を出発地とし, 目的地の八事駅 (改札外) までの実験シナリオとなる. そのルートは, 久屋大通 (名城線) -上前津 (名城線→鶴舞線) -八事 (鶴舞線) となり, 上前津駅で 3 回のエレベーター乗車が発生する.実証実験は概ね成功裏に推移したが, 赤外線 ID タグによる方式にとどまらず, どの方式にしても地下空間全体でナビゲーションを行おうとすると相当額の投資額が必要となり, 費用対効果の検証が必要となる.
著者
福田 静夫
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
pp.121-140, 2012-06-30
著者
湯原 悦子
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.134, pp.9-30, 2016-03

本研究では,過去18 年間に生じた介護殺人716 件の全体状況を確認し,被告の介護を担う力量が問われた3 つの事例の分析を行った.介護殺人防止に向けては,国の施策として生じた事件の情報をデータ化し,特徴や傾向の分析を行い,得られた知見を制度や施策に活かしていくことが求められる.支援の現場では専門職により,介護を担う者の意思や能力の見極めを行うことも必要である.介護者を対象にしたアセスメントと,それに基づくケアプランの作成を行うことは介護殺人の予防のみならず,すべての被介護者と介護者にとって,介護や生活の質の向上を目指すツールとなり得る.現在日本でもイギリスの実践に習い,ケアマネジャーらが介護者アセスメントの開発を行い,ケアプラン作成技術の向上をめざす試みが始まっている.それらを一部の実践に留めることなく,介護者支援の方策として全国に展開していくことが今後の課題である.
著者
小松 理佐子
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.124, pp.39-54, 2011-03-31

社会福祉基礎構造改革の集大成として 2000 年に制定された社会福祉法の第 1 条に, 法の目的として 「地域における社会福祉の推進を図る」 ことが掲げられて以降, 地域を基盤とした社会福祉システムの形成に向けた政策が推進されてきた. その一環として, 第 1 条の改正と並行して, これを実現するための社会福祉関係法の制定・改正も行われてきた. それにもかかわらず, 孤独死の発生など, 地域で生活する人々への支援が十分に行われていない実態が明らかになっている. 本稿は, 地域で生活する人々の生活を支えるための社会福祉供給のあり方を明らかにすることを目的にして, 社会福祉供給の基本枠組みであるニーズとその充足1)について考察する.はじめに, 従来の公的社会福祉サービスの提供を地域を基盤とした支援体制へと転換するための課題を検討する. 次に, 地域生活支援におけるニーズを明らかにする. それを踏まえて, ニーズに対応する支援手段の充足の方法を考察する.
著者
三宅 亜希子 小沼 聖治 佐藤 光市 杉本 浩章 小松尾 京子 田中 和彦
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.129, pp.107-123, 2013-09-30

本研究は, 相談援助実習の巡回指導における実習教育スーパービジョンの内容とその課題を明らかにすることを目的としている. 巡回指導における複数回の実習教育スーパービジョンにおいて, それぞれの回で取り上げるべき実習教育スーパービジョン項目があることを仮説とし, 各回の実習教育スーパービジョンの項目を明らかにするための調査を行った. 分析方法は, 新カリキュラム初年度に本学通信教育課程の教員が作成した 『巡回指導ガイドライン』 の分類枠組みを作業仮説とした逐語データの分析である.その結果, (1)それぞれの回の巡回指導を構成する実習教育スーパービジョン項目の位置づけ, (2)実習生の語りから実習教育スーパービジョンの手がかりを得ることの有用性, (3)実習教育スーパービジョンにおける 「実習記録」 活用の有用性が明らかになった.
著者
朴 兪美 平野 隆之 穂坂 光彦
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.125, pp.67-82, 2011-09-30

この試論では, 福祉社会開発研究領域でのアクションリサーチにおいて, 研究者が実践現場に関わりつつその現場を研究対象とするときの方法論を考察する. 高浜市における 「計画空間」, 高知県での 「研究会事業」, 釧路市での 「普遍化事業」 の 3 事例の分析を通じて提起されるのは, 「メタ現場」 の構築である. 対象地域の社会変化をある抽象度をもって写像する 「場」 において, 実践者も研究者もそれぞれ自己を 「異化」 し自己相対化しつつ, その場に 「同化」 すなわち内在的・文脈的・共感的に理解しあえる 1 アクターとなる. 研究者は, このメタ現場に自己の研究枠組みや観察結果を投げかけ, それへの反応から枠組みを変更し, 観察を修正する. 実践者は日常的な生活の現実を振り返り, 俯瞰的に観察し, 現場に洞察を還元できる. 意識的に現場からの一定の距離をもって仮構されているという双方の理解の下に, 実践者と研究者との協働の場となる空間が, メタ現場である.