著者
島本 整
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.441-450, 2003-05-30 (Released:2009-02-19)
参考文献数
32

細菌の逆転写酵素は, 大腸菌などのグラム陰性細菌に広く分布しており, multicopy singlestranded DNA (msDNA) と呼ばれる特殊なRNA-DNA複合体の合成に必須の酵素である。大腸菌由来の逆転写酵素を精製し, in vitro でmsDNA合成を調べたところ, 細菌逆転写酵素は2',5'-ホスホジエステル結合を形成する活性を持つ特殊な酵素であることが明らかになった。また, ビブリオ属細菌を中心に病原細菌における逆転写酵素の有無を探索したところ, コレラ菌や腸炎ビブリオなどで逆転写酵素遺伝子 (ret) とmsDNAが発見された。新たに発見された病原細菌由来のmsDNAの構造解析を行ったところ, 従来のmsDNAにはない特徴的な構造をもっており, msDNAおよび逆転写酵素の機能と病原細菌特有の機能との関連性が示唆された。特に Vibrio cholerae では, いわゆるコレラ菌であるV. cholerae O1/O139株とnon-O1/non-O139株との間で逆転写酵素の有無と病原性との関連性が認められた。
著者
笹津 備規
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.755-765, 1996-07-25 (Released:2009-02-19)
参考文献数
61
被引用文献数
1 1

黄色ブドウ球菌の消毒剤耐性株はMRSAの出現とともに報告された。消毒剤耐性の機構はいづれも膜蛋白による細胞からの薬剤の排出であり, 化学構造の異なる各種消毒剤に対し多剤耐性を示すことが特徴である。現在, 消毒剤耐性遺伝子としてはqacA, qacB, qacC (ebr, smr), qacC', qacDがブドウ球菌から, qacFがバチラス属の細菌から, qacE, qacEΔ1, EBRがグラム陰性桿菌から分離されている。qacA/B遺伝子は非常に類似した12回膜貫通型の膜蛋白をコードしており, 高度耐性を示す。他の遺伝子がコードしている蛋白は, 4回膜貫通型の小さな膜蛋白で, 低度耐性を示す。また, これらの消毒剤耐性遺伝子をもった菌株とは異なる, トリクロサン耐性黄色ブドウ球菌株が出現してきている。MRSAに対する消毒剤の使用量が増加するのに伴い, 新たな耐性遺伝子の出現が予想される。
著者
大村 智
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.795-813, 1999-11-30
参考文献数
41
被引用文献数
5 15

サルファ剤やペニシリンの導入以来,化学療法は絶えることなく耐性菌問題を引きずって,今日に至っている。最近では,薬剤耐性結核菌やバンコマイシン耐性腸球菌などの出現が社会問題となりつつある。また,過去20年間で新たな感染症は30種類以上とも報告されているが,治療法もいまだに確立されていないものも多く,化学療法剤の前途は厳しいと言わざるを得ない。一方,最近では個々の病原性遺伝子の役割がより詳細に知られるようになり,付着,侵入などの病原性に関わる遺伝子も薬剤の標的として考えられる。従って,従来の化学療法剤のように抗菌,静菌作用を有するものに加え,今後はbacterial adaptation/survivalまたは病原性をコントロールできる薬剤や宿主の免疫力を高める薬剤等を含め“抗感染症薬(antiinfective drugs)”と表現される,より拡大された概念をもった薬剤の開発が期待される。本稿では“抗感染症薬”という新しい概念の下で研究される(1)新規な標的を有する化学療法剤,(2)細菌毒素の毒性軽減物質,(3)毒素分泌機構に作用する薬剤,(4)病原細菌の感染機序から発想された標的,(5)宿主の感染防御機構に学ぶ抗感染症薬の開発を取り上げ,その可能性を論じる。

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出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.53-105, 1989-01-25 (Released:2009-02-19)
著者
白井 誠 中野 康伸 中野 昌康
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.511-522, 1993-05-25 (Released:2009-02-19)
参考文献数
56
被引用文献数
1 1
著者
磯貝 恵美子 木村 浩一 磯貝 浩
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.863-869, 1996-07-25 (Released:2009-02-19)
参考文献数
15
著者
山本 俊一 宮崎 正之助 岡田 和夫 館野 功 高木 忠信 古田 昭一 呉 大順 佐藤 富蔵
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.20, no.8, pp.534-539, 1965-08-25 (Released:2009-02-19)
参考文献数
18

The authors tried to elucidate the therapeutic effect of hyperbaric oxygenation on the experimental infection of the anaerobic pathogens, using mice and rabbits as experimental animals.1) Cl. novyi was rather resistant to the action of oxygen at high pressure. It was presumably due to the spore formed.2) In order to prevent the death of the mice inoculated with Cl. novyi, the animals should be repeatedly exposed to the oxygen at moderate pressure. The excessive oxygenation was toxic to the animals, rendering them less resistant to the infection.3) Toxin of Cl. novyi was not decomposed by hyperbaric oxygenation. It has also no effect on the detoxication process of the organisms or on the toxin neutralization in vitro and in vivo.4) In case of gas gangrene hyperbaric oxygenation therapy should be combined with antitoxin treatment, as the former suppresses the growth of pathogens and the latter neutralizes toxin produced.5) In the experiment with with rabbit, repeated hyperbaric oxygenation was proved markedly effective to the infection with Cl. norvyi, but less effective to Cl. tetani.In the latter case, the excessive oxygenation was unfavorable to the infected animals.
著者
木村 幸司
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.547-555, 2014-11-28 (Released:2014-11-28)
参考文献数
36
被引用文献数
1 3

Group B Streptococcus(GBS, Streptococcus agalactiae)は, 新生児に敗血症, 髄膜炎を引き起こすことが知られている。また, 高齢者や糖尿病患者などに侵襲的な感染症を引き起こすことも知られている。GBS は, 他のβ溶血レンサ球菌と同様, ペニシリンが医療現場に導入された1940 年代以来60 年あまり, すべての臨床分離株がペニシリンを含むβラクタム系薬に感性であると考えられてきた。そのため, GBS 感染症の予防, 治療の第一選択薬は, ペニシリンを含むβラクタム系薬である。我々は, 国内で1995–2005 年に臨床分離されたペニシリン低感受性B 群連鎖球菌(Group B streptococci with reduced penicillin susceptibility, PRGBS)を解析し, その存在を確定させた。我々は, さらにPRGBS に関する一連の研究を推進し, 現在では, 米国Centers for disease control and prevention(CDC)が新生児GBS 感染症予防のガイドラインの中で, 我々の論文を引用し, PRGBS について注意を促している。
著者
藤村 節夫
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.587-594, 2001-11-15 (Released:2009-02-19)
参考文献数
44

遊離鉄の量が絶対的に少ない宿主内で, この必須元素を病原細菌がどのように獲得しているのかはシデロフォアを中心に調べられてきた。シデロフォアを持たない細菌の鉄獲得方法についての検討が始められてまだ日も浅く, また分からない点が多いが, その知見は確実に蓄積している。しかし一つの事実が明らかになるとさらに次なる疑問も生まれてくる段階でもある。この稿では歯周病原菌とくに Porphyromonas gingivalis の鉄の取り込み, およびその周辺の若干の知見について紹介する。
著者
池 康嘉
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.189-211, 2017 (Released:2017-06-28)
参考文献数
177
被引用文献数
4 24

Enterococci belong to the group of lactic acid bacteria (LAB), and inhabit the gastrointestinal tracts of a wide variety of animals from insects and to human, and the commensal organism in humans and animals. The commensal/probiotic role of enterococci has evolved through thousands of years in mutual coexistence. Enterococcus have many favorable traits that have been appreciated in food fermentation and preservation, and many serve as probiotics to promote health. While lactobacillus have been shown to confer numerous benefits on and often regarded as health bringing organisms, enterococci have become more recognized as emerging human pathogens in recent years. Mac Callum and Hastings characterized an organism, now known to be Enterococcal faecalis, which was isolated from a lethal case of endocarditis on 1899. The report was the first detailed description of its pathogenic capabilities. Over the past few decades, multi-drug resistance enterococci have become as important health-care associated pathogen, and leading causes of drug resistance infection. The modern life style including the broad use of antibiotics in medical practice and animal husbandry have selected for the convergence of potential virulence factors to the specific enterococcus species such as E. faecium and E. faecalis. The development of modern medical care of intensive and invasive medical therapies and treatments for human disease, and existence of severe compromised patients in hospitals has contributed to the increased prevalence of these opportunistic organisms. The virulence factors converged in E. faecalis and E. faecium which have been isolated in nosocomial infections, include antibiotic resistance, extracellular proteins (toxins), extrachromosome and mobile genetic elements, cell wall components, biofilm formation, adherence factors, and colonization factor such as bacteriocin, etc. In these potential virulence factors, I presented characteristics of enterococcal conjugative plasmid, cytolysin, collagen binding protein of adhesion, bacteriocins, and drug resistances. I made reference to our original reports, and review books for this review. The review books are “Enterococci: from Commensals to Leading Causes of Drug Resistant Infection, NCBI Bookshelf. A service of the National Library of Medicine, National Institute of Health. Ed. by Michael S Gilmore, Don B Clewell, Yasuyoshi Ike, and Nathan Shankar”, and “The Enterococci: Pathogenesis, Molecular Biology, and Antibiotic Resistance, Gilmore M., Clewell D., Courvadin P., Dunny G., Murray B., Rice L., (ed) 2002. ASM Press”.
著者
川上 正也
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.603-616, 1999-08-30
参考文献数
95

体液性感染防御因子としては,微生物の表層構成物質を分解する酵素やそれを穿孔する殺菌性オリゴペプチドなどが知られていた。しかし体液性因子の中では抗体が最強であるという認識があった。抗体それ自身の防御力は限られているが,それは補体活性化をすることによって貪食促進や殺菌などの力を発揮して,からだ全体の防衛機能を動員する。1980年代に私たちは強力に補体を活性化して殺菌するレクチンRa-reactive factor (RaRF)を見出だし,補体を活性化するレクチンの存在が,抗体に並ぶ防御因子としてクローズアップされるようになった。私たちはこの因子が新しい補体活性化経路(レクチン経路)を活性化することを見出だし,その蛋白構造を明らかにし,遺伝子のマッピングなどを行った。現在では世界各国で研究が進められ,RaRFの構成蛋白のひとつをコードする遺伝子MBLが異常になると易感染症をはじめ種々の疾患を引き起こすことが明らかになって,感染防御におけるRaRFの重要性が注目されるにいたった。ここでは,私たちの研究成果に加えて,これらの最近の知見を紹介する。
著者
目黒 庸雄 小沢 恭輔 竹内 和子
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.16, no.11, pp.970-977, 1961 (Released:2011-06-17)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2
著者
福長 将仁 田淵 紀彦
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.343-353, 2010 (Released:2010-08-27)
参考文献数
84

ライム病(Lyme disease)は,野ネズミやシカ,野鳥などを保菌動物とし,マダニによって媒介されるスピロヘータの一種,ボレリアBorrelia感染によって引き起こされる人獣共通感染症のひとつである。一方,回帰熱(relapsing fever)は,齧歯類や鳥類等を保菌動物とし,ヒメダニ科のダニやシラミによって媒介されるボレリア感染症で,アメリカ大陸,アフリカ,中東や欧州で患者の発生が報告されている。近年のボレリア研究の進展はめざましく,特にライム病ボレリアでは遺伝子組換え用ベクターが開発されたことから遺伝子欠損株が作成されて,ボレリアライフサイクル中における特異的発現タンパク質の機能解析が可能となってきた。現在ではボレリアの宿主への感染成立のためのボレリアタンパク質―宿主側結合因子や媒介ベクターへのボレリア定着因子など,ボレリアと宿主,ボレリアと媒介ダニのインターフェイスにおける発現タンパク質の同定に注目が集まっている。
著者
中村 昌弘
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.607-628, 1978-07-25 (Released:2009-02-19)
参考文献数
97
著者
中瀬 安清
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.637-650, 1995-07-25
参考文献数
58
被引用文献数
1 1

北里柴三郎が1894年(明治27年),香港のペスト流行に際し,A.J.E.Yersinとほぼ同時にペスト菌を発見してから百年になる。これを記念して,北里は当時どの様な状況下で,どの様にしてペスト菌を発見し,どの様に始末したか等に就いて述べた。先ず北里と青山胤通がペスト調査員として香港派遣に至るまでの経緯に就いて考察した。次に香港上陸後,北里が悪条件の中,ラボの設定,病原検索の確固たる方針に基づく,死体臓器と患者血液の鏡検,培養,動物試験によって,着手4日目でペスト菌を発見した経過,その公表方法,また,実験室内感染した青山と石神亨のペストへの対応と適切な処置,帰国後の始末等に就いて述べた。さらに,その5年後に始まった国内のペスト流行に際し果した,検疫,血清とワクチンの作成,接種の普及,防疫等の指導的役割,並びに,ペスト防疫での国際協力に就いて要約した。北里と門下生の論文数から見てもペストの研究は伝染病研究所設立後の北里の最重要の業績と言える。
著者
中山 浩次
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.573-585, 2001-11-15 (Released:2009-02-19)
参考文献数
64
被引用文献数
3

口腔偏性嫌気性細菌 Porphyromonas gingivalis は成人性歯周炎の発症・増悪に関わる最重要細菌であり, 血液寒天培地上での黒色集落形成, 赤血球凝集性, ヘモグロビン吸着性, 糖非発酵性, 強力な菌体表面および菌体外プロテアーゼ産生性などの興味深い性状を示す細菌である。本菌の分子遺伝学的解析手段の開発を行うとともに, 本菌のスーパーオキシドジスムターゼ (SOD) 遺伝子 (sod) のクローニングおよびsod変異株の構築を行い, sod変異株が高度に酸素感受性を示すことから嫌気性菌においてもSODが酸素障害抵抗性において非常に重要であることを発見した。また, 本菌のもつ主要なプロテアーゼであるジンジパイン群 (RgpとKgpプロテアーゼ) の遺伝子 (rgpA, rgpB, kgp) のクローニンゲとそれらの欠損株を構築した。三重変異株を含むいくつかの多重変異株を作製し, 性状を検討することでこれらの遺伝子群が本菌の特性ともいえる黒色集落形成, 赤血球凝集性およびヘモグロビン吸着性に深く関与していることがわかり, 赤血球からのヘム鉄獲得蓄積機構という独特な鉄獲得戦略を明らかにした。また, RgpはFimA線毛タンパクなどの菌体表面タンパクの成熟化過程のプロセッシングを行うプロテアーゼであることを発見し, Rgpプロテアーゼが多彩な目的のためにその酵素活性が利用される“多目的酵素”であることを示した。
著者
戸田 真佐子 大久保 幸枝 原 征彦 島村 忠勝
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.839-845, 1991-09-25 (Released:2009-02-19)
参考文献数
10
被引用文献数
37 56

茶エキス,緑茶から分離精製した(-)エピガロカテキンガレート(EGCg)および紅茶から分離精製したテアフラビンジガレート(TF3)はmethicillin resistant Staphylococcus aureus (MRSA)に対して抗菌力を示した。また,これらは食中毒材料から分離したすべてのS. aureusにも抗菌力を示した。紅茶エキスはS. aureus標準株およびMRSAに対してほぼ同程度に殺菌力を示したが,EGCgのMRSAに対する殺菌効果は標準株に対するそれよりもやや強かった。MRSAは紅茶エキスやEGCgに対して食中毒材料からのS. aureus分離株よりもより感受性であった。