著者
河邉 真如 秋吉 直樹 山下 剛司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0535, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】腹横筋は体幹の深部に位置し,腹圧のコントロールに関与するとされている。尿失禁患者や出産経験のある女性は腹横筋や骨盤底筋の機能低下から失禁や臓器脱,腰痛を起こしやすいとされている。腹横筋の促通を行う場合,呼吸を通したアプローチが多いが呼吸時に胸郭の可動性が乏しい患者を目にする。腹横筋が付着するとされる下位胸郭の可動性が低い場合だけでなく,上位胸郭の可動性が低下している場合でも腹横筋の収縮が乏しいことを経験する。先行研究では,腹部・骨盤への口頭指示の違いによる腹横筋の活動が変化することや腹横筋の促通で体幹可動性が向上すると報告されているが,胸郭の可動性と腹横筋の機能については報告されていない。本研究は,胸郭高位の拡張差の違いが腹横筋の収縮と関連があるか調べることを目的とする。【方法】対象は健常成人女性10名(平均年齢35.5±14.21歳)。計測肢位は全て膝関節90度屈曲位の背臥位とした。計測する胸郭高位は腋窩高(以下,上位胸郭)・第10肋骨高(以下,下位胸郭)とした。各レベルで最大吸気・最大呼気の胸郭周径をテープメジャーで3回計測し,平均値を算出した。超音波(SIEMENS社製)にて腹横筋を撮影し,最大吸気時と最大呼気時の腹横筋厚を比較した。腹横筋の測定位置は布施らの方法を参考に,上前腸骨棘と上後腸骨棘間の上前腸骨棘側1/3の点を通り,床と平行な直線上で,肋骨下縁と腸骨稜間の中点とした。統計処理はR(Ver.1.4-8)を使用し,超音波測定の検者内信頼性は級内相関係数(ICC)を算出し,上位胸郭と下位胸郭の拡張差と腹横筋厚の関係はピアソンの積率相関係数を算出した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究にあたり,医療法人社団淳英会倫理委員の承認を得た。また,被験者には本研究の目的・方法について十分に説明を行い同意を得た。【結果】超音波による腹横筋厚測定の検者内信頼性は級内相関係数(ICC(1.1))=0.94となった。最大吸気の値から最大呼気の値を引いた上位胸郭の拡張差は3.13±1.0cm,下位胸郭の拡張差は3.67±2.05cmとなった。上位胸郭・下位胸郭の拡張差と腹横筋厚の相関係数はr=0.65(p<0.05)となり,上位胸郭の可動性が低く下位胸郭の可動性が大きいほど腹横筋厚は増加しやすい結果となった。【考察】上位胸郭と下位胸郭の拡張差の違いと腹横筋厚に有意な相関が認められた。腹横筋は第7肋骨~第10肋骨に付着し肋骨を引き下げ呼気時に胸郭全体を下方へ運動させる。腹横筋は下位胸郭に付着を持つため上位胸郭の可動性が低下している場合でも腹横筋の収縮を十分に行うことができると考える。しかし,上位胸郭の可動性の減少は下位胸郭の体容積を増加させるとの報告があり,これにより胸郭の形状が変化し全体的な可動性の減少を起こすことが考えられる。胸郭の全体的な可動性の低下は腹横筋の収縮を制限すると考えられる。また,今回は女性のみの被験者であったため乳房や普段着用している下着の着用位置や締め付け具合なども影響することが考えられ,胸郭可動性だけでなく形状による評価も必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】今回,腹横筋の促通には下位胸郭の可動性が必要なことが示唆された。腹横筋の促通には腹部・骨盤への直接的な介入・運動療法だけでなく,胸郭の柔軟性や形状にも配慮した介入が必要と考える。女性は加齢によっても出産によっても体幹筋の機能低下は起こしやすく,骨盤・腹部への口頭指示や運動療法では腹横筋の促通を十分に誘導できないことは多々ある。今回の研究で胸郭の可動性を確保することで,腹横筋を促通しやすい身体環境に整えることが可能と考える。
著者
伊藤 俊一 世古 俊明 田中 智理 久保田 健太 富永 尋美 田中 昌史 信太 雅洋 小俣 純一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0326, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】筋ストレッチングは,疼痛改善や関節可動域改善のための治療法の一つとして臨床で多用されている。その実施に関しては,静的ストレッチング(static stretching:以下,SS)と動的ストレッチング(dynamic stretching:以下,DS)が一般的である。SSは,目的とする筋群を反動動作なしにゆっくりと伸張を数秒から数十秒間保持する方法であり,SSは筋や腱の損傷の危険性が低く安全に実施することが可能とされている。近年では,近赤外線分光法(Nuclear Information and Resource Service:以下,NIRS)を用いた動物実験での筋血液動態の検討結果として,DSではSSに比べて筋収縮による血液循環の改善が認められるとされているが,ヒトにおける詳細な検討はない。また,ヒトを対象とした研究では,ストレッチング前後の関節可動域やパフォーマンスの比較は多数みられるが,血液変化での検討はほとんどない。本研究の目的は,ストレッチング法の違いがヒトでの筋血液量に与える影響を検討することである。【方法】対象は健常成人女性20人(21.7±0.7歳)とし,内科および整形外科的疾患を原因とする肩こりを有し薬物を使用している者や通院している者は除外した。また,対象のBMIは22.4±0.8であった。方法は,各被験者の利き手側を対象として,僧帽筋上部線維に対して頚部側屈他動的伸展によるSSとDSを24時間以上の間隔を空けてそれぞれ施行した。SSはストレッチ持続時間を30秒間×3セットとし,セット間は10秒間の安静とした。DSは5秒間の筋収縮後25秒間の安静を1セットとして3セット施行した。また,各ストレッチングの施行順序は無作為とした。筋血液量の変化は,ストレッチング介入前後での酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb),脱酸素化ヘモグロビン(deoxy-Hb)をDyna Sence社製NIRSを用いて測定した。NIRSのデータの測定間隔は1秒とし,僧帽筋上部線維(第7頸椎棘突起と肩峰を結ぶ線上で,第7棘突起から3横指外側)に筋線維の走行と平行にプローブを貼付した。さらに,頚部側屈角度は酒井医療社製REVOによりストレッチング施行側の最大側屈角度を測定した。関節可動域の測定方法は,日本整形外科学会の測定方法に準じた。筋硬度の測定箇所は,イリスコ社製筋硬度計PEK-1を用いてNIRSのプローブ貼付部位と同一箇所とした。被験者は,いずれの条件下でも15分以上安静を保った後に測定を開始した。頚部側屈角度と筋硬度の測定は椅座位とし,筋ストレッチング実施前と実施後の2回の測定を行った。統計的解析には,Mann WhitneyのU検定とWilcoxonの順位和検定を用い,関節可動域および筋硬度には対応のあるt-検定を有意水準は5%未満として検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,福島県立医科大学会津医療センター倫理委員会の承認を得て,全対象者に書面により本研究の趣旨を説明し,同意書を得て実施した(承認番号24-21)。【結果】Oxy-Hb変化量(安静時値とストレッチング後の値との差)は,DSではSSと比較して有意な増加を認めた(p<0.01)。しかし,deoxy-Hbの変化および頚部側屈可動域,筋硬度には有意な差を認めなかった。【考察】NIRSの測定値に影響を与える因子として,被検者の皮下脂肪圧が挙げられている。先行研究では,BMI20-24の被験者では皮下脂肪厚が影響されないとされており,本研究の対象はすべてBMI20-24の範囲内であったことから,測定値に皮下脂肪厚の影響はないと考えられた。また,光岡らによるNIRSを用いた運動前後の筋内酸素動態の検討結果では,動脈血内においてはoxy-Hb量・deoxy-Hb量は両者ともに変化するが,静脈血内においてはoxy-Hb量は変化するがdeoxy-Hb量は変化しない,あるいは減少傾向を示すと報告されている。今回の結果,DSでは随意的な筋活動により,筋の収縮-弛緩による静脈還流を高めるミルキング作用が働き,DSではSSに比べ有意にoxy-Hb量を増加させた理由と考えられた。しかし,本研究により頚部側屈可動域,筋硬度には有意な差を示さなかったことは,今回の対象を健常成人女性としたためと考えられ,肩こりや頚部痛を有する対象者で再検討する必要がある。またさらに,本研究の対象者は20歳代の成人女性だけであるため,今後高齢者での加齢変化や性差の影響なども検討していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】従来から,疼痛の原因の一つとして筋の血行障害が挙げられている。これまでのヒトを対象としたストレッチングの検討結果は,ストレッチング施行前後の可動域,筋出力,パフォーマンスでの比較であり,筋血液動態での検討は少ない。本研究結果は,今後臨床において血行障害改善のためのストレッチングの選択や適応を検討するに際に有用になると考えられる。
著者
木原 太史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1537, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】橈骨遠位端骨折などの患者の運動療法を行う際,手関節の背屈の関節可動域(以下,ROM)の角度が改善しても,日常生活動作の中で,なかなか動作が改善しない事を経験する。日本リハビリテーション医学会が制定するROM検査法では,手関節の背屈は,前腕中間位にて測定するように定められている。だが,日常生活動作の中で,前腕中間位で動作する事は少ないように感じる。今回,前腕の肢位の違いにて手関節背屈のROM角度(以下,手背屈ROM角)に有意差があるのかを比較検討し,その因子について検証するため,前腕の屈筋群と母指の外転筋群に着目し,筋腹を直接圧迫するダイレクトストレッチ法(以下,ストレッチ)を実施することで,手背屈ROM角がどう変化するのかを測定し,検証を行った。前腕の肢位による手背屈ROM角の有意差だけではなく,母指の外転筋群の手背屈ROM角の影響など,若干の知見を得たのでここに報告する。【方法】対象は手関節に問題のない健常成人42名(男性22名,女性20名,平均年齢30.5±9.2歳)とした。まず,42名の左右の手関節背屈ROM角を,前腕の中間位,回内位,回外位で測定した。また,その背屈運動時に,同時に起こっている手関節の橈側・尺側への偏位角度(以下,偏位角)も測定した。その結果,42名左右の手関節ROM角に有意差がなかったことから,左右手の84肢に対し,7つのグループにわけ,背屈時の拮抗筋となる前腕の屈筋群と母指外転筋群に対して,患者の痛みを伴わない程度の弱いストレッチを行い,手背屈ROM角の変化を測定した。ストレッチの強さは,防御性筋収縮反応が出ない程度の強さで,伸張時間は,各筋腹に対して20秒×3か所の合計1分間行った。ストレッチは,(1)橈側手根屈筋に対して行った群(以下,FCR群),(2)尺側手根屈筋に対しての群(以下,FCU群),(3)長母指屈筋に対しての群(以下,FPLM群),(4)深指屈筋に対しての群(以下,FDP群)(5)長母指外転筋に対しての群(以下,APL群)(6)短母指伸筋に対しての群(以下,EPB群),に実施した。比較対象として,(7)ストレッチ非実施群を設けた。その後,ストレッチ前後の手背屈ROM角について統計処理を行った。統計処理は,対応のあるt検定を用い,危険率5%未満を有意差ありとした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には今回の研究に対して十分な説明を行い,同意を得た。【結果】(1)前腕の肢位による手背屈ROM角は,平均で中間位75.79±6.85°>回内位63.79±6.68°>回外位56.21+6.78°であった。それぞれp<0.0001と有意差があった。(2)また,その時の偏位角は,平均で,回外位19.93±5.4°(橈側偏位)>回内位17.33±4.72°(尺側偏位)>中間位4.6±65.98°(尺側偏位)であった。偏位角においても,それぞれの肢位で,p<0.0001と有意差があった(3)ストレッチ実施前後での変化として,それぞれの肢位にて,有意差が出ており,ストレッチによる角度の変化が出ていた。(4)母指外転筋群である長母指屈筋と長母指外転筋において,前腕中間位と回内位において,p<0.0001と有意差があった。回外位においては,有意差はなかった。(5)特に長母指外転筋においては,ストレッチ後の手背屈ROM角の変化値と偏位角の変化値においてR=0.83と相関が見られた。【考察】今回,前腕の肢位により,手背屈ROM角の有意差が見られた。また,背屈する際,橈側へ,尺側へと偏位する事が分り,偏位の仕方も前腕の肢位によって違いがあることが分った。これは,前腕回内外時に,橈骨が尺骨の周りを回ることで,骨のアライメントが変化し,また,それにより橈骨と尺骨に付着する前腕の筋に対して,筋の張力や長さに影響を与えると思われる。特に前腕回内時に,手背屈の動作筋であり,手背屈の拮抗筋とは思われていない母指外転筋において,手背屈の制限因子となりえるという事がわかった。これは,長母指外転筋が,起始部である尺骨の骨間縁と橈骨の後面から,筋が始まり,その後,前腕の背側面を走行し,橈骨茎状突起の遠位橈側面を通り,停止である第1中手骨底の外側面に着くためであると考えられる。つまり,前腕回内位により,橈骨が尺骨の周りを回り,内側へ動き,そのため,長母指外転筋の筋腹や遠位腱が伸張され,手背屈時に制限因子となりえる事を示している。【理学療法学研究としての意義】今回,前腕肢位の違いによる,手背屈ROM角の有意差が分った。日常生活においては,中間位だけではなく,回内位,回外位と使用することも多い。前腕回内位において,手背屈ROM角をリハビリする際,前腕の屈筋だけではなく,母指の外転筋に対してもアプローチする事で,手背屈ROM角の改善を得られ,患者の日常生活の改善につながると考えられる。
著者
松村 剛志 大場 美恵 山田 順志 楯 人士 青田 安史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1032, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】介護保険制度においてリハビリテーション(リハ)専門職は,生活機能全般,特に活動の向上に働きかける役割を求められている。役割にはこうした社会や制度の中で付与される集団的役割だけでなく,関係的地位の相手方の期待に基づく関係的役割も存在する。外来理学療法では患者の期待と理学療法士(PT)の役割認識にズレが生じていることが明らかとされているが,介護保険サービスにおいて要介護者が抱くPTへの役割期待は十分に解明されておらず,その変化を捉えようとする試みも見当たらない。そこで今回,通所リハ利用者の抱くPTへの役割期待の変化を質的研究手法を用いて明確にすることを試みた。【方法】対象者は静岡県中部地域にある2カ所の通所リハ事業所にてPTによる通所リハ・サービスを受けており,重度の記憶障害がなく言語によるコミュニケーションが可能で,かつ同意が得られた14名の要介護高齢者であった(男性10名,女性4名,平均年齢76.9±4.1歳)。主要疾患は脳血管障害9名,パーキンソン病3名,その他2名である。2012年9月に11名,追加調査として2013年3月に3名の対面調査を行った。面接は録音の許可を取った後に,通所リハ利用の目的,PTへの期待とその変化等について半構成的インタビューを行った。20~40分の面接終了後に,録音内容の逐語録を作成し,Steps for Coding And Theorization(SCAT)を用いて分析した。SCATによる分析では,まずSCATフォームの手順に沿って文字データから構成概念の生成を進めた。同時に,データに潜在する研究テーマに関する意味や意義を,得られた構成概念を用いてストーリーライン(SL)として記述した。次に,個々の対象者においてSLを断片化することで個別的・限定的な理論記述を行った。得られた理論記述の内容をサブカテゴリーと位置づけ,その関係性を検討した上でカテゴリーを構築した。最後に集約されたカテゴリーを分析テーマに沿って配列し直し,研究対象領域に関するSLを再構築した。対象者14名にて理論的飽和の判断が可能かどうかは,シュナーベル法を用いて構成概念の捕獲率を求め,捕獲率90%以上にて理論的飽和に達していると判断した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は平成24年度浜松大学研究倫理委員会の承認を受けており,対象者に対して書面ならびに口頭での説明を行った後に同意書への署名を得た。【結果】本研究では,76種類154個の構成概念が構築され,14例目における捕獲率は93.54%であった。また,全対象者から37個の理論記述が生成され,6つのカテゴリーに分類された。これらのカテゴリーから構築されたSLは以下の通りである。通所リハ利用者は,サービス開始当初,PTに対して身体機能や歩行能力の回復に対する働きかけを期待していた。ただし,脳血管障害の対象者にその傾向が強く,慢性進行性疾患の場合は悪化防止に焦点が当てられていた。リハ効果は,自己による自己評価と他者による自己評価の認知によって確認されており,息切れや歩行といったモニタリング指標を各自が持っていた。リハ効果が期待通り或いは期待以上であれば,PTへの信頼感に基づく全面的委任や担当者の固定による現状の継続が希望され,PTには得られた効果の維持が期待されるようになった。一方,転倒のような失敗体験の反復は,自己信頼感を低下させ,リハ効果が期待外れや不十分と認識される要因となっていた。この場合,サービスへのアクセスそのもの(回数増加や治療時間の延長)が期待されるようになり,治療効果を生み出すことは期待されなくなっていた。さらに,利用者に回復の限界に関する気づきがみられると,利用者は通所リハをピアと会える新たなコミュニティと位置づけていた。【考察】本研究においては,利用者のPTに対する役割期待に変化が認められ,その変化にはモニタリングされたリハ効果をどのように自己評価しているかが大きく影響しているものと考えられた。通所リハにおける利用者の満足感に関する背景要因には,(1)設備や雰囲気といった場,(2)サービス担当者の知識・技術・言動,(3)プログラムの多様性や治療機会,(4)心身の治療効果が挙げられている。利用者がPTから満足感を得ようとする場合,これら要因を組み合わせてPTへの役割期待を作り上げているものと考えられ,モニタリングの結果によって役割期待を能動的に変更している可能性も示唆された。【理学療法学研究としての意義】本結果は一地域の通所リハ利用者に限定されるものではあるが,通所リハ利用者の抱くPTへの役割期待の変化をSLとして明らかにし,PTが利用者理解を深めるためのモデルケースを提示できたものと考えられる。
著者
貴嶋 芳文 木山 良二 大重 匡 前田 哲男 湯地 忠彦 東 祐二 藤元 登四郎 関根 正樹 田村 俊世
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1505, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】脳卒中片麻痺者の自立歩行獲得は,リハビリテーションにおける目標の一つであり,早期の自立歩行獲得は歩行機会を増加させ,さらなる身体機能の向上や生活空間の拡大に繋がると考えられる。諸家により,歩行能力の客観的な評価として,加速度センサを用いた検討が報告されている。我々はこれまでの横断的な研究で,加速度センサを用いた評価が,脳卒中片麻痺者の歩行自立度の判定に有用であること,麻痺の程度により歩行自立度に関与する要因が異なることを報告した。しかし,脳卒中片麻痺者の回復に伴う,歩行中の加速度の変化を縦断的に検討した報告は少ない。そこで本研究では,歩行非自立時(要監視)と歩行自立時における,歩行中の腰部および大腿部の加速度の差を比較し,歩行自立度の変化に伴う,歩行中の加速度の変化を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,脳卒中片麻痺者18名(Br. Stage IV8名,V10名,右片麻痺10名,左片麻痺8名,男性12名,女性6名,平均年齢68±7歳)であった。加速度センサは,対象者の腰部と両大腿部にそれぞれベルクロを用いて装着した。対象者は,室内16mの直進路を快適速度で2回歩行し,中央10mを解析対象区間とした。10m解析区間から定常状態である中央の3歩行周期を抽出し,得られた加速度のデータより,腰部と両大腿部のRoot Mean Square(RMS),自己相関係数(定常性)を算出した。また,10m歩行速度,Berg Balance Scale(BBS),Fugl-Meyer Assessment(FMA)を測定した。計測は,上肢による支持なしで16mの歩行が可能となった時期(歩行非自立時)と,病棟での歩行が許可された時期(歩行自立時)の2回行った。歩行自立時と非自立時の各指標を,対応のあるt検定を用い比較した。また,加速度のセンサから得られた指標については,Br. Stage毎に比較した。すべての統計解析は,統計ソフトR(2.8.1)を用い,統計学的な有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本計測の際には,当該施設の倫理委員会の承認並びに対象者自身からのインフォームドコンセントを得た後,実施した。【結果】歩行速度(P=000),BBS(P=000),FMA(P=000)は非自立時に比べ,自立時で有意に高値を示した。自己相関係数も同様に,非自立時に比べ自立時に高い値を示し,歩行の定常性が改善していることが示された。有意な差の認められた項目は,Br. Stage IVでは腰部の前後(P=000)・上下成分(P=000),麻痺側大腿部の左右成分(P=000),非麻痺側大腿部の前後(P=000)・上下成分(P=000)において有意な差を認め,Br. Stage Vでは腰部の上下成分のみ有意な差を認めた(P=000)。またRMSにも有意な増加を認め,Br. StageIVでは腰部前後成分(P=000),麻痺側大腿部前後(P=000)・左右(P=000)・上下成分(P=000),非麻痺側大腿部左右成分(P=000)で有意に高い値を示した。Br. Stage Vでは非麻痺側大腿部左右成分を除くすべてにおいて有意な差を認めた(P<000)。【考察】今回の結果では,バランス能力や麻痺の改善に伴い,歩行自立度,歩行速度が向上し,それに伴い,歩行中の加速度のRMSおよび,自己相関係数が改善していた。しかし,麻痺の程度により,差がある指標が異なり,歩行自立度に関与する要因が異なることが示唆された。麻痺が重度であるBr. Stage IVでは,非自立時と自立時の比較において,腰部・両大腿部の自己相関係数が増加した指標が多く,歩行の定常性が,歩行の自立に大きな影響を与えることが示唆された。一方で,Br. Stage Vでは,非麻痺側大腿部左右成分を除くすべてのRMSで有意な増加を示したのに対し,自己相関係数の増加は腰部の上下成分のみであり,歩行の定常性が歩行自立度に与える影響は小さいと考えられた。【理学療法学研究としての意義】先行研究による歩行分析は,腰部加速度センサのみを使用したものや横断研究が多く報告されているが,本研究により回復過程における被験者内の腰部・大腿部加速度変化を調査することで,自立歩行獲得時にどのような加速度成分に変化があったかを把握することができ,Br. Stageに応じた歩行評価や治療効果判定指標となる可能性がある。
著者
大坂 まどか 富永 孝紀 今西 麻帆 河島 則天 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0387, 2014 (Released:2014-05-09)

【目的】半側空間無視(USN)の回復については,空間無視の存在を認識していない段階から,その存在を認識した上で意識的な注意の制御を行う過程,そして最終的に無意識的に制御するといった段階があるとされている(富永2006)。一方,回復段階においては,どのような視覚情報処理の変化が生じるかについて検証した報告は少ない。本報告では,USN症例における眼球運動と到達運動を行う際の視覚情報処理の変化について評価し,BIT行動性無視検査(BIT)を用いてUSN重症度との関係性を検証した。【方法】対象は,症例1:右中大脳動脈領域の広範な脳梗塞を呈した40歳代男性,症例2:右被殻出血の40歳代女性,症例3:右後頭-頭頂葉出血の70歳代男性,症例4:右中大脳動脈領域の広範な脳梗塞を呈した60歳代男性であった。4症例のBITの点数(通常検査/行動検査)は,症例1から40/7点,69/16点,77/28点,110/54点であり,USNを認めた。視空間処理の評価には,河島ら(2012)によって考案,開発されたアイトラッカー内蔵型タッチパネルPC(Tobii社製)を用いた。PC画面上には35個(縦7列,横5行)のオブジェクトが等間隔に配置され,ランダムな順序で5秒間点滅する。点滅するオブジェクトに対して手指にて接触,または0.5秒間注視することで点滅を解除することが可能であり,オブジェクトごとの点滅開始から解除までに要した時間と点滅解除の可否,課題遂行中の眼球運動の軌跡を記録することが可能である。対象者には,PCの正面に座位姿勢をとり,点滅するオブジェクトに対して,右示指にて接触(課題1)または注視(課題2)し,点滅を解除する課題を実施した。視覚情報処理の分析は,各課題中のオブジェクトの点滅解除の可否,課題2における眼球運動の軌跡を用いて検証した。【説明と同意】本研究は,村田病院臨床研究倫理審査委員会の公認を得て十分な説明を実施し,書面にて同意を得られた症例に行った。【結果】オブジェクトの列の表記は,縦7列のうち,中央の列をS0とし,S0から右側へR1,R2,R3,左側へL1,L2,L3と表す。眼球運動の軌跡は,S0を0cmとし,L3を-13cm,R3を13cmとした範囲で表す。課題1において,症例1はL1,L2,L3に加えてS0が,症例2はL3の抹消ができず,症例3はL3まで到達可能も,L3で2個抹消不可能なオブジェクトが存在した。症例4は全てのオブジェクトの抹消が可能であった。課題2は,症例1はL1,L2,L3に加えてS0が,症例2はL1,L2,L3に加えてS0の4個が抹消不可能であった。症例3はL2,L3に加えてL1に4個抹消不可能なオブジェクトが存在した。症例4はL1,L2,L3に合計5個の抹消不可能なオブジェクトが存在するものの,L3まで到達可能であった。一方,R1,R2,R3における抹消不可能なオブジェクトは症例1,症例2,症例4は5個,症例3は3個であった。課題2遂行中の眼球運動の軌跡中心は,症例1は5.7cm,症例2は5.9cm,症例3は4.0cmと右への偏位を認め,症例4では-0.7cmと左への偏位を認めた。【考察】症例1は,BITにてUSNが重度であり,両課題においても左側への注意の解放が困難なことから,抹消不可能なオブジェクトが存在した。これは,損傷部位が広範であり,特に前頭葉皮質の損傷が左側空間に対する探索に影響した(Verdonら2010)ことが推察された。症例2,3においてもBITでUSNを認め,課題2の結果や眼球運動の軌跡から,左側への注意の解放の困難さが伺える。一方,課題1では症例2,3ともに左側空間の拡大を認めており,到達運動実施による空間性注意の活性化(Ciavarroら2010)が生じた可能性が示唆される。課題2では,注視による注意の持続や,次の点滅刺激への注意の解放が必要となることから,よりUSNや注意の障害の影響により抹消不可能なオブジェクトが存在したと示唆された。症例4はUSNが比較的軽度で,両課題において左側空間への到達が可能であり,眼球運動の軌跡中心は左への偏位を認め,左側空間への意識的な制御が生じていることが考えられた。しかし,右側の末梢不可能なオブジェクトの存在は,左側への偏った意識的な注意の制御によって右側空間に対する視空間情報処理に影響を及ぼした可能性があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】今回の評価方法によって,USNの視覚情報処理を分析することが可能である。今後,多数のUSN症例での検証を行っていくことで,損傷部位と視覚情報処理の関連性を特徴づけられる可能性があり,USN改善のための課題設定の一助となるものと考えられる。
著者
上島 正光
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1513, 2014 (Released:2014-05-09)

【目的】健常者における正常歩行はエネルギー効率がとても良いといわれる。それをもとに考えれば,歩行を的確に評価するためには,エネルギー効率の良い歩行を見分ける能力が必要となる。エネルギー効率の良い歩行では歩行時の酸素摂取量が少なく二酸化炭素排出量が少ないことが報告されている。またその一要因として後足部肢位の変化(回外・回内)は,姿勢や歩行に大きな影響を与えることも報告されている。入谷式足底板では,歩行能力評価の一助として立位体前屈評価を利用することがある。実施が簡便である立位体前屈評価によってエネルギー効率の良い歩行を見分けることが可能であれば,難しいとされる歩行評価のハードルが下がる。しかしながら立位体前屈評価がエネルギー効率の良い歩行を見分ける手段として有用であるかは明らかになっていない。そこで立位体前屈評価がエネルギー効率の良い歩行を見分けることの一助として有用であるか検証することを目的に,本研究を行った。【方法】対象は,整形外科的および内科的疾患の既往がなく,足の実測長が23.0~24.0cmの健常人女性20名(年齢19.3±0.8歳,身長156.8±2.7cm,体重52.1±5.8kg)である。研究に先立ち,対象の後足部足底面にパッドを貼付することで後足部を回外・回内誘導し,どちらの誘導で立位体前屈動作がより向上するかを調査した。立位体前屈は,台の上に自然立位で立ち,膝関節を伸展したままで最大限に前屈動作を行った際の指床間距離(以下FFD)をメジャーにて計測した。足底部に貼布するパッドは50mm×25mm,厚さ3mm(材質:ポロン)の長方形のパッドを使用し,後足部足底面の内側および外側にパッドを貼付することで後足部の回外・回内を誘導した。本研究の測定項目は,トレッドミル歩行時の呼気ガス測定(酸素摂取量VO2/kg,二酸化炭素排出量VCO2/kg)である。測定には呼気ガス分析装置AE-300S(ミナト社製)を使用した。裸足で至適速度での10分間の準備歩行を行った後,歩行時の呼気ガスを1分間測定した。呼気ガス測定は,1)足底部にFFDが向上する後足部誘導パッドを貼付した状態でトレッドミル歩行を行う(以下FFD向上群),2)足底部にFFDが低下する後足部誘導パッドを貼付した状態でトレッドミル歩行を行う(以下FFD低下群)の2条件にて行った。2条件の測定順序は循環法を用い,各測定の間隔は5分間の休憩を挟むこととした。呼気ガス測定は各条件で1回ずつ行い,その測定値を解析データとして用いた。解析項目は,トレッドミル歩行時の呼気ガス分析値(酸素摂取量,二酸化炭素排出量)であり,t検定を用いて2群間で比較検討した。統計解析にはSPSS Ver12.0を使用し,有意水準は5%とした。【説明と同意】全被験者に実験概要,データの取り扱い,データの使用目的を示す書面を提示し,口頭にて説明したのち,同意書に署名いただいた上で本研究を行った。【結果】酸素摂取量は,FFD向上群5.93±2.28 l/min/kg,FFD低下群7.46±1.25 l/min/kgであり,FFD低下群に比べFFD向上群において酸素摂取量は有意に少なかった(p<0.05)。二酸化炭素排出量は,FFD向上群5.12±1.82 l/min/kg,FFD低下群7.73±2.98 l/min/kgであり,FFD低下群に比べFFD向上群において二酸化炭素排出量は有意に少なかった(p<0.05)。【考察】本研究は,FFDが向上する後足部誘導を行った群と,FFDが低下する後足部誘導を行った群の2群間における歩行時の呼気ガス値を比較検討したものである。後足部肢位に回外・回内の変化を加えることは,立位姿勢や歩行に影響を与えることが数多く報告されている。本研究においても,後足部誘導によりFFDに変化がみられた。他研究同様,後足部肢位が変化することで立位アライメントにも変化が加わり,結果的に全身の筋緊張が変化したことが要因と考えられる。呼気ガス分析の結果は,FFD低下群に比べFFD向上群において酸素摂取量および二酸化炭素排出量ともに有意に少なかった。このことはFFD向上群において歩行時の筋活動が少なかったことを示唆し,FFD向上群では歩行のエネルギー効率が良いと言える。2群間の測定条件は後足部肢位に差異があるのみであり,後足部肢位の変化が歩行時の筋活動に影響を与えていたものと推測される。結果的にFFD向上群では姿勢保持に必要な筋活動が少なく,歩行時のエネルギー効率も良くなったと考えられる。歩行時の呼気ガス値は歩行のエネルギー効率を表す一要素でしかないが,立位体前屈評価はエネルギー効率の良い歩行を見分ける一助となる可能性があるのはないだろうか。【理学療法学研究としての意義】歩行評価が苦手な理学療法士は多いが,エネルギー効率の良い歩行を見分けるための補助手段として,立位体前屈評価を利用できるのではないだろうか。
著者
野末 琢馬 高橋 健太 松山 友美 飯嶋 美帆 渡邊 晶規 小島 聖
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0569, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】ストレッチは可動域の拡大や組織の柔軟性向上,疲労回復効果などが報告されており,理学療法の現場においても多用されている。近年,ストレッチが柔軟性に与える影響だけでなく,筋力にも影響を及ぼすとした報告も散見される。Joke(2007)らは10週間週3回のセルフストレッチ(自動ストレッチ)を継続して実施したところ,発揮筋力が増大したと報告している。ストレッチによる筋力の増大が,他動的なストレッチにおいても得られるとすれば,身体を自由に動かすことが困難で,筋力増強運動はもちろん,自動ストレッチができない対象者の筋力の維持・向上に大変有用であると考えられた。そこで本研究では,長期的な自動および他動ストレッチが,筋力にどのような影響を及ぼすか検討することを目的とした。【方法】被験者は健常学生48名(男性24名,女性24名,平均年齢21.3±0.9歳)とし,男女8名ずつ16名をコントロール群,他動ストレッチ群,自動ストレッチ群の3群に振り分けた。他動ストレッチ群は週に3回,一日20分(各筋10分)の他動ストレッチを受け,自動ストレッチ群は同条件で自動運動によるストレッチを実施した。対象筋は両群とも大腿直筋とハムストリングスとし,介入期間は4週間とした。ストレッチ強度は被験者が強い痛みを感じる直前の心地よい痛みが伴う程度とした。測定項目は柔軟性の指標として下肢伸展拳上角度(以下SLR角度)と殿床距離を,筋力の指標として膝関節90°屈曲位の角度で膝伸展・屈曲の最大等尺性筋力を測定した。測定は4週間の介入前後の2回行った。測定結果は,それぞれの項目で変化率(%)を算出した。変化率は(4週間後測定値)/(初回測定値)×100とした。群間の比較には一元配置分散分析を実施し,多重比較検定にはTukey法を用いた。有意水準は5%とし,統計ソフトにはR2.8.1を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本学の医学研究倫理委員会の承認を得て行った。被験者には事前に研究内容について文書および口頭で説明し,同意が得られた場合にのみ実施した。【結果】膝伸展筋力の変化率はコントロール群で95.6±8.7%,他動ストレッチ群で115.2±21.2%,自動ストレッチ群で102.9±10.0%であった。コントロール群と他動ストレッチ群において有意な差を認めた。膝屈曲筋力,SLR角度,殿床距離に関してはいずれも各群間で有意差を認めなかった。【考察】本研究結果から,長期的な他動ストレッチにより膝伸展筋力の筋力増強効果が得られることが示唆された。筋にストレッチなどの力学的な刺激を加えることで筋肥大に関与する筋サテライト細胞や成長因子が増加し活性化され,筋力増強効果が発現するとされている(川田ら;2013)。本研究では,ストレッチによる,SLR角度や殿床距離の変化は見られなかったが,長期的なストレッチによる機械的刺激そのものが,上記に述べた効果に貢献し,筋力増強効果が得られたと推察される。膝屈曲筋力において筋力増強効果を認めなかった点について,両主動作筋の筋線維組成の相違が原因と考えられた。大腿四頭筋はTypeII線維が多いのに対し,ハムストリングスはTypeI線維が多く(Johnsonら;1973),筋肥大にはTypeII線維がより適しているとされている(幸田;1994)ことが影響したと考えられた。自動ストレッチによって筋力増強効果を得られなかったことに関しては,自己の力を用いて行うため,他動ストレッチに比べて筋を十分に伸張することができず,伸張刺激が不足したためと推察された。【理学療法学研究としての意義】他動ストレッチを長期的に行うことで筋力増強効果を得られる可能性を示唆した。他動的なストレッチが筋力にどのような影響を及ぼすのか検討した報告はこれまでになく,新規的な試みだと言える。他動的なストレッチを一定期間継続することで筋力の維持・向上に寄与することが明らかとなれば高負荷のトレーニングが適応とならない患者や,自分で身体を動かすことのできない患者にとって有用である。
著者
福岡 進 岡田 匡史 亀山 顕太郎 石井 壮郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0926, 2014 (Released:2014-05-09)

【目的】近年,野球選手にフィジカルチェックを行い,早期に予防策を講ずる取り組みが広く行われるようになってきた。しかし,実際に障害予防に対する選手の意識を高めて有病率を低下させるには数多くの課題がある。その中で特に重要だと考える4つの課題を列挙する。1.障害に対する選手の予防意識を十分に高められないため,予防効果があがらない。2.フィジカルチェックにおいて,どの項目を優先的に調べていくべきかという基準が曖昧である。3.フィジカルチェック後,選手へフィードバックするまでに時間がかかる。4.データを取得してもそれを蓄積していないため,良質なエビデンスを構築できない。こうした課題を解決するためには新しいシステムの開発が必要である。そこで本研究の目的は,必要最低限のフィジカルチェックを行うことにより,投球障害肩・肘に関する近未来の発症確率を予測し,リアルタイムに選手にフィードバックを行うことで選手の予防意識を向上させるシステムを開発することとした。【方法】高校野球部員30名に対し無症候期にフィジカルチェックを行い,その後の半年間にどの選手が投球障害肩・肘を発症したかを1週間毎に前向きに調査した。フィジカルチェックデータと発症データをロジスティック回帰分析することで発症に有意に関連する危険因子を同定し,それらから発症確率を予測する回帰式を算出した。算出した回帰式にフィジカルチェックデータを代入することにより,選手一人一人の近未来の発症確率を予測するシステムを構築した。その後次シーズンに本システムを活用して,選手一人一人に発症確率と危険因子を伝え,予防策を指導した後,アンケートにて予防意識に関する調査を行った。【説明と同意】選手にはヘルシンキ宣言に基づき研究の主旨を説明し同意を得た上で研究を行った。また,「参加の自由意志」を説明し,協力・同意を得られなかったとしても,不利益は生じないことを記載し文書にて配布した。【結果】調査期間中に33%(10/30例)の選手が投球障害肩・肘を発症した。発症に有意に関連性のあった項目は挙上位外旋角度,肩甲帯内転角度,踵殿部距離であり,これらの因子を用いて発症確率を高精度に予測する回帰式を算出した(判別的中率87%)。算出した回帰式をExcelに組み込み,Excelのマクロ機能を活用することにより,上記3つのフィジカルチェックデータをパソコンに入力するだけで,リアルタイムに発症確率を表示するシステムを構築した。また,入力データは自動的にデータベースに組み込まれ,労せずデータを蓄積できるようにした。システム構築後の次シーズンに,本システムを導入したところ,96%の選手の予防意識は向上し,79%の選手に実際に予防に取り組む姿勢がみられた。【考察】本研究で発症に関連のある項目は,挙上位外旋角度,肩甲帯内転角度,踵殿部距離であった。これらの機能低下は発症に対する危険因子であり,優先的にチェックしていくことが重要であると考える。これら3項目は簡便であるため,現場の指導者や選手も行うことができると思われる。本システムではExcelのマクロ機能を活用したため,フィジカルチェックの結果をその場でフィードバックできた。今回,ほとんどの選手の予防意識は向上し積極的に予防に取り組むようになった。その理由として以下の2つのことが考えられた。1発症確率という具体的な数値を用いて選手一人一人の近未来を予測したこと。2フィジカルチェック後すぐにフィードバックしたことで,その結果が選手の印象に残りやすかったこと。我々のデータベースの規模はまだ小さいため,今後もデータの集積が必要である。しかし,本システムのマクロ機能により,入力されたデータは自動的にデータベースに蓄積されるため,今後システムの効果や妥当性の検証にかかる労力はかなり軽減される。したがって,本システムは,現場の選手のために効率的なフィジカルチェックを行うことができ,リアルタイムにフィードバックを行うことで選手の予防意識の向上を図ることができる。また,データも蓄積できることから,多方面からのデータ集積も簡便であると考える。【理学療法学研究としての意義】高校野球選手を対象に,必要最低限のフィジカルチェックを行うことで,投球障害肩・肘に関する近未来の発症確率を予測し,リアルタイムに選手にフィードバックできるシステムを開発した。理学療法士が臨床での経験を生かし,このようなシステムを構築することで,選手を障害から予防できると考える。今後,本システムを活用しデータベースを拡張していくことで,現場に良質なエビデンスを供給できるとともに普遍的な障害予防法の確立に寄与できるものと思われる。
著者
鈴木 敏和
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1202, 2014 (Released:2014-05-09)

【目的】現在日本国では平均在院日数の短縮に伴い,退院後の管理を担う地域リハビリテーションが注目されるようになってきた。2011年4月に日本理学療法士協会が行った「日本理学療法士協会会員所属施設調査」では,介護保険施設所属会員は,医療施設所属会員の75%に対し,12%と非常に少なかった。日本理学療法士協会では,今後増加すると思われる多くの資格取得者の活躍の場として,地域リハビリテーション分野が注目されるようになったのだが,H24年度末に厚生労働省により行われた介護保険施設へのアンケート調査では,機能訓練指導員(理学療法士等)の確保が,非常に困難であるとの調査結果が出されており,理学療法士の介護保険施設への就職意欲の低さが伺える結果となっている。H24年,本研究者は介護保険施設への就職動機を調査するため,研究者の所属する法人内の介護保険施設所属理学療法士に対しアンケート調査を行い,要因分析を行った。結果は,“自分をスキルアップできる場所”として介護保険施設を選んだ要因が大きいことが明らかとなった。しかし,前回の調査は法人の特色に大きく作用された可能性が高く,介護保険施設への就職動機の要因分析には不確実性があった。今回,より広範囲の施設に協力をお願いし,再調査を行うことにより,再度介護保険施設への就職動機の分析を行った。【方法】介護保険施設に就職した理学療法士を対象に,アンケート調査を行った。対象には,新卒,中途採用を問わなかったが,経営者となる者と主な収入源が介護保険施設以外にある者は,対象外とした。公募及び回答は,研究者所属法人のホームページ上にて行い,所属施設情報,介護保険施設への就職動機を自由記載として回答をいただいた。但し所属情報に関しては,介護保険施設就職者としての同意を頂き,施設名の回答は自由意志とした。アンケート結果は,介護保険施設就職動機を計量テキスト分析ソフトKHcoder(Ver2.beta.29e)にて,計量テキスト分析を行い,10回以上出現するワードを就職要因に関する項目として判別した。但し,量の多さと動機の強さとの因果関係は証明されていないため,本調査では動機としての要因として,考えられるか否かを判断した。【倫理的配慮】本調査研究は,医療法人社団新和会倫理委員会の定める倫理規定に則り,同倫理委員会より承認を受け,対象者には書面をもって説明し,署名にて同意を得た。また説明を必要とする者には,相談窓口を設置し対応した。【結果】介護保険施設就職者のアンケート回答者は46名(有効回答率93%)であった。所属施設数は自由回答であり,不明となっている。介護保険施設就職動機を計量分析した結果,要因ワードは“地域リハビリテーション”“地域医療”“退院後”等「地域リハビリテーションに関する要因」,“産休”“休暇・休日”“勤務時間”等の「福利厚生に関する要因」,そして「中間ワード」の3つに大別された。また,個別の分析ワードは,中間ワードと,どちらか一方の要因に全て含まれていた。【考察】今回の調査では,前回の調査で就職動機要因としてあげた「スキルアップ」とは異なる結果となった。前回は法人の特色が顕著に出た結果で,今回の調査が広範囲の施設を対象にした事により,介護保険施設全体の標準データに近づいたと考えられる。今回の調査結果は,非常に綺麗に二分された。更に,両方の要因を含む回答者が無かった事は,どちらか一方に偏った動機で就職先を決定していると考えられた。一方は,退院後の地域リハビリテーションの必要性を感じ,自分が携わりたいと思う要因。もう一方は,福利厚生面が就職するにあたり自分の希望に即しているという点が要因にあげられた。今後,介護保険施設への就職動機を高める為には,地域リハビリテーションの必要性のアピールと福利厚生面の充実が効果的と考えられる。今回の調査では明らかにできないが,調査結果は,年齢(経験年数),性別の要因も関与していると考えられ,今後必要に応じては,この要素を含めた調査も必要となる可能性も示唆された。【研究意義】今回,調査範囲を広げた事により,より標準的な結果を得る事ができたと考えている。今回得られた結果を,有効にアピール,活用する事により,機能訓練指導員が不足していると言われる介護保険施設への就職促進効果を期待していきたい。