著者
松田 雅弘 大山 隆人 小西 由里子 東 拓弥 高見澤 一樹 田浦 正之 宮島 恵樹 村永 信吾 小串 健志 杉浦 史郎 三好 主晃 石井 真夢 岡田 亨 亀山 顕太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】加齢に伴う運動器障害のために移動能力の低下をきたし,要介護になったり,要介護になる危険の高い状態を「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」と定義し,中高齢者の運動器に起こる身体状態として知られている。子どもの発育の偏りや運動不足,食育などが原因となり,筋肉,骨,関節などの運動器のいずれか,もしくは複数に障害が起き,歩行や日常生活に何らかの障害を引き起こすなど,子どもでも同様の状態が起こりうる。さらに,転んでも手がつけない,片脚でしっかり立つ,しゃがみ込むなど基本動作から,身を傷害から守る動作ができない子が急増している。幼稚園児36.0%,就学児42.6%,小学校40%で片足立ち。しゃがみ込み,肩180度挙上,体前屈の4項目の検査で1つでも当てはまる児童生徒が存在する。【活動報告】千葉県浦安市の児童に対するロコモの検診を行政と連携し,千葉県スポーツ健康増進支援部中心に実施した。参加者は3~12歳の334名であった。検査項目は先行研究にある片脚立ち,肩180度挙上,しゃがみ込み,体前屈以外に,四つ這いバランス,腕立て・腹筋などの体幹筋力,2ステップテスト,立ち上がりテストなど,柔軟性・筋力・バランス能力など12項目とした。また,食事・睡眠などのアンケートを実施した。当日は理学療法士が子どもと1対1で検査することで安全性の確保と,子どもの集中力を維持させ,検診を楽しむことで計測が可能であった。【考察】この検診で成長にともなう運動発達が遅れている子の把握が可能であった。親を含めた検診を通じて家族の運動への関心が高まったことや,自分の子どもの運動能力の把握,日頃の運動指導にもつながった。【結論】今回の検診で子どもの運動機能の現状を把握するのに,この取り組みが有益なことが示唆された。今後は広く地域と連携して子どものロコモ検診を行い,健康状態の把握と運動の啓発を理学療法士の視点として取り組んでいきたい。
著者
宮島 恵樹 三好 主晃 東 拓弥 石井 真夢 村永 信吾 田浦 正之 小西 由里子 小串 健志 亀山 顕太郎 関 俊昭 松田 雅弘 高見澤 一樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】我々は,千葉県民の能動的で活発な健康社会づくりに寄与するため,2010年度より「千葉県から転倒を減らそうプロジェクト」を展開している。本取り組みは県内士会員による転倒予防を目的とした転倒予防セミナーの開催と,歩行年齢測定会の実施である。また,ロコモティブシンドロームの概念の普及,健康日本21プロジェクトの一環として活動の展開を広げている。高齢者の転倒予防の実践は,各個人の健康寿命延命のみならず,実益的な医療費削減や介護費削減,地域・自治体の活性への貢献として今後の重要課題といえる。【活動報告】測定会は,有志の県士会員の協力を得ながら千葉県内各地の健康増進,福祉関連イベントへの出展や,県・開催市町・医師会などからの後援を受け,県内各地で開催される健康増進,福祉関連イベントなどに出展を行ってきた。歩行年齢測定は,測定項目は,体組成,ファンクショナルリーチ,2ステップテスト,TUG,立ち上がりテストの5項目で行い,測定結果の説明は,転倒予防に対する危険度,機能低下が明らかな点,改善目標を自己管理の為の運動指導とあわせて説明した。運動動機能の維持向上への取り組みを歩行機能の低下を自覚する世代から,その予備軍まで幅広い働きがけをしている。これまでの4年間で4000名以上の県民の皆様が参加されており測定会場によっては毎年会場に足を運ぶ県民も少なくはない。【考察】理学療法士が国民の健康寿命延伸や,転倒予防活動に積極的に参加することで理学療法士の認知向上はもとより。理学療法士の知識技術が健康増進分野へも十分寄与することが示唆され,予防分野への職域拡大に貢献すること考える。【結論】進行する要介護状態への早期発見,運動習慣への動機付けという早期対応の促進にも繋がり,要介護状態への抑制の一助となり得ると考える。
著者
宮島 恵樹 関 俊昭 高見澤 一樹 七尾 真理子 早川 政人 彦田 直 森 大 東 拓弥 岡田 亨 村永 信吾 秋葉 洋介 石田 隆 亀山 顕太郎 河田 聡巳 小串 健志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101926, 2013

【はじめに、目的】高齢者の転倒予防の実践は,各個人の健康寿命延命のみならず,実益的な医療費削減や介護費削減,さらには地域,自治体の活性への貢献として今後の重要課題といえる.加えて運動機能の維持向上への取り組みは,現在,歩行機能の低下を自覚する世代から,その予備軍的な世代に対する幅広い働きがけが必要である.我々,千葉県理学療法士会は,県内における専門領域職能団体として,千葉県民の能動的で活発な健康社会づくりに寄与するため,千葉県理学療法士会公益事業局スポーツ健康増進支援部の取り組みとして2010年度より「千葉県から転倒を減らそうプロジェクト」を展開している.本取り組みは県内士会員による転倒予防を目的とした転倒予防セミナーの開催と歩行年齢測定会の実施を行なっている.測定会は,有志の県士会員の協力を得ながら県内各地で開催される健康増進,福祉関連イベントなどに千葉県理学療法士会として出展を行い実施している.各測定会では測定結果をもとに,その場でフィードバックと自己管理方法としてのエクササイズ指導を合わせて行っている.今回は我々が実施した歩行年齢測定会の結果を基に今後我々理学療法士が改めて目を向けるべきであろう予防について考察する.【方法】測定項目は,体組成(身長,体重,体脂肪率),Functional reachテスト(以下FR),Timed up&goテスト(以下TUG),立ち上がりテスト,2stepsテストの5項目を行った.対象者は2010年10月~2012年10月イベントに参加した1437名(30~85歳,平均58.6±18.2歳,男性338名・女性1099名)であった. 2stepsテストは最大に2歩前進した距離を計測する方法であり,その後身長で正規化した.FRは両上肢を肩関節90°屈曲し,両肘伸展位で出来るだけ前方にリーチさせたときの指先の移動距離を測定した.今回は上記の項目のうち年齢における差をFR,2stepsテストの2項目について検討した.統計処理は年齢とFR,2 stepsテストの関係をPearsonの積率相関係数を用いて分析し,また30~90歳までを5歳毎に分類し,その分類でFRと2stepsテストに一元配置分散分析を行い,その後の検定としてTukeyの検定,サブグループの作成を行った.危険率は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】測定に参加する県民には文章ならびに口頭にて十分な説明を行い参加する意志を確認した上で,測定を行った.また,測定会運営スタッフに対しては事故対応としてスポーツ健康増進支援部でイベント保険に加入した.【結果】年齢とFR,2stepsテストでは,FRはr=-0.45,2stepsテストではr=-0.46と有意な負の相関があった.各年代とFRは近い年代で有意な差を認めるのは60~64歳と,65歳~69歳の間であり,6つのサブグループに分かれ若年者との境の年代は50~54歳の世代となった.各年代と2stepsテストは近い年代で有意な差を認めるのは65~69歳と,70歳~74歳の間であり,6つのサブグループに分かれ若年者との境の年代は45~49歳の世代となった.どちらのテストも65歳以上は細かなサブグループに分割され,年齢の上昇とともに数値が低下していた.【考察】年齢と2stepsテスト・FRには,有意な負の強い相関が認められ,年齢とともにバランス能力が低下していることが示唆された.また,各項目とも65歳以上にサブグループが細かく分類され,バランス能力の低下が急激に進行していることが考えられる.特にFRでは60~64歳,2stepsテストでは65~69歳で次の年代と比較して急激にバランス能力の指標でもある両項目とも低下しており,その急激に低下する以前の60歳前半で予防的に運動介入することに意義があると考えられる.また,その急激になる以前のグループの区切れの年代はFRで50~54歳,2stepsテストで45歳~49歳となり,この年代より段階的に運動指導を実施して,65歳以降の転倒を未然に防ぐことが可能ではないかと考えられる.このように幅広い年代のデータを集積することで,バランス能力の低下だけではなく,急激に低下をする年代の発見につながり,ロコモティブシンドロームなどに対する予防的な取り組みを段階的に各年代にそった運動プログラム作成への足掛かりとして進めていきたいと考えている.【理学療法学研究としての意義】理学療法士が国民の健康寿命延伸や,転倒予防活動に積極的に参加することで理学療法士の認知向上はもとより.理学療法士の知識技術が健康増進分野へも十分寄与することが示唆され,予防分野への職域拡大に貢献すること考える.また,測定会を継続することによって,千葉県民各年代の転倒リスク,運動機能の指標が示され,行政施策の中で理学療法士として役割が求められると考える.
著者
亀山 顕太郎 斉藤 学 下井 俊典 岩永 竜也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C4P2163, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】内側型野球肘は、主としてコッキング後期から加速期にかかる外反ストレスに起因するといわれている。しかし、投球動作を繰り返しても痛みが出現する選手と、痛みが出現しない選手がいるため、この外反ストレスの影響を大きくうける不良なフォームとストレスが小さい理想的なフォームが存在することが考えられる。本研究の目的は、加速期の前腕回内・回外角度に着目し、外反ストレスに抗して働くと考えられる手関節屈筋群の筋活動量について調査し、投球時の前腕の肢位が前腕屈筋の筋活動に及ぼす影響を検討することで、理想的な前腕の肢位を明らかにすることである。【方法】対象は野球経験のある男性11名(平均年齢21.3±0.4歳)。測定肢位は、端坐位にて肩関節外転95度および最大外旋位にて肘関節屈曲90°とした。測定条件は、投球側手掌が投球側を向く加速期をイメージした前腕回内位を保持した肢位(以下:前腕回内位)と、投球側手掌が頭部を向く加速期をイメージした前腕回内回外中間位を保持した肢位(以下:前腕中間位)の2条件とした。被検者に、各条件にてひも付きのボールを把持させ、1kgの後方負荷を水平方向にかけ、5秒間保持するように指示をした。Noraxon社製Myosystem 1200を用いて、2条件で尺側手根屈筋と橈側手根屈筋の表面筋電図を導出し、安定した3秒間の筋電位について積分筋電位を求めた。なお、前腕回内位と前腕中間位の測定順番はランダムとした。統計学的手法は、各筋別の2条件間の積分筋電位について、対応のあるt検定を用い、有意水準は5%とした。【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、対象者に対して研究の目的を説明し同意を得た上で、研究を行った。【結果】11名全例で、前腕中間位の方が、前腕回内位よりも尺側手根屈筋および橈側手根屈筋のiEMGが高値を示し、有意差も認められた(p<0.01)。【考察】今回の結果より、加速期での前腕中間位は前腕回内位に比べて、尺側手根屈筋および橈側手根屈筋への負担が大きい肢位であることが明らかとなった。よって、加速期に前腕が中間位であると、橈側手根屈筋および尺側手根屈筋に遠心性の収縮がより強度に起きる結果、上腕骨内側上顆への牽引・伸張ストレスが増強すると考えられる。このストレスの繰り返しが、肘関節内側の損傷および疼痛の一要因となることが推測される。また、尺側手根屈筋の筋肥大が尺骨神経の絞扼につながるとの報告もあるため、尺側手根屈筋の過収縮を起こす前腕中間位での投球は、投球動作で引き起こされる尺骨神経障害にも影響があることが考えられる。 逆に、前腕回内位では、肘への外反ストレスに対する球状の上腕骨小頭とこれに対する凹面の橈骨頭をもつ腕頭関節の骨性の支持、および、蝶番関節である腕尺関節の骨性安定機構も得られると推測する。また、外反ストレス時の安定性の保持に最も重要な役割を果たしている靭帯である内側側副靭帯前方部分も、効率的に働くため、ストレスが分散され、前腕屈筋群にかかる遠心性ストレスは軽減されると考える。しかし、肘関節の屈曲角度が70~80度では、逆に内側側副靭帯前部へのストレスが過度になってしまうとの報告もあるため、実際の臨床では、十分な肘の屈曲が得られているかも評価する必要がある。 内側型野球肘の一要因となるストレスが生じる原因は、いくつかあると考えるが、今回着目した前腕中間位での投球もその一つであることが明らかになった。【理学療法学研究としての意義】今回の結果より、加速期にて肘の内側に疼痛を訴える選手の理学療法を進める上で、投球動作中の前腕回内外角度も評価する重要性が明らかとなった。また、前腕中間位の選手には、前腕回内位を指導することで、肘関節内側へのストレス軽減につながることが示唆された。
著者
仲島 佑紀 亀山 顕太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1265, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】近年,野球選手の投球障害に対する予防の取り組みに関する報告が散見される。また障害予防の観点から選手・指導者に対する検診を実施する地域が増加している。我々は2012年より障害予防の啓蒙活動の一環として少年野球選手を対象に,県内複数地域で障害調査やフィジカルチェックを中心とした野球肘検診を実施してきた。調査結果やフィジカルチェックにおける所見が障害発生にどのように関連するかを追究し,投球障害予防に貢献することを目的として投球障害肘の発症を縦断的に調査し,その発症因子を検討した。【方法】対象は2014年1月,2015年1月の検診に2年連続で参加し,初回検診時に肩肘に現病歴のなかった少年野球選手168名(9-12歳)とした。調査項目は2014年1月から2015年1月までの肘痛発症の有無と,初回検診時に実施したフィジカルチェックとした。フィジカルチェックの項目は,問診情報(①ピッチャー経験の有無・②1週間の総練習時間),局所所見(③肘伸展制限の有無・④肘屈曲制限の有無),柔軟性検査(⑤広背筋テストの可否・⑥踵臀部距離・⑦投球側股関節自動屈曲角度・⑧非投球側股関節自動屈曲角度),上肢機能(⑨上肢挙上位肩外旋角度・⑩肩甲帯内転角度・⑪腕立て伏せの可否),下肢機能(⑫投球側片脚立位テストの可否・⑬サイドジャンプ距離)の計13項目とした。統計解析として肘痛発症の有無を従属変数,フィジカルチェック項目を独立変数として多重ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を行った。多重ロジスティック回帰分析にて有意な関連(p<0.05)を示した連続変数についてはReceiver operating characteristics(ROC)曲線による分析を行い,カットオフ値を算出した。統計ソフトはR2.8.1を用いた。【結果】肘痛発症例は168名中,39名であった。有意な関連を示した項目は,1週間の総練習時間(p=0.009,オッズ比:1.13,95%信頼区間:1.03-1.24)と柔軟性検査である広背筋テストの可否(p=0.02,オッズ比:2.89,95%信頼区間:1.20-5.96)の2項目が抽出された。総練習時間のカットオフ値は17時間(感度:60.0%,特異度:82.6%,曲線下面積:0.73)であった。【結論】週17時間以上の練習時間は,日本臨床スポーツ医学会の提唱する1日2時間以内の練習時間を上回る結果となった。広背筋テストは両側の肘を合わせ,鼻の高さ以上に挙がるかをチェックするものであり,広背筋の柔軟性・胸郭の伸展動作などが関与する。これらの機能低下は投球動作における,いわゆる「しなり」を減弱させ肘下がりなどを惹起し,肘痛発症の要因となったと考える。障害予防においては,選手や指導者でも簡便に行えるチェック項目の抽出が重要なポイントと考えており,本研究結果は現場でも導入可能であり,障害予防に貢献し得ることが示唆された。
著者
亀山 顕太郎 高見澤 一樹 鈴木 智 古沢 俊祐 田浦 正之 宮島 恵樹 橋川 拓人 岡田 亨 木島 丈博 石井 壮郞 落合 信靖
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1000, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】成長期の野球選手において野球肘の有病率は高く予防すべき重要課題である。その中でも離断性骨軟骨炎(以下,OCD)は特に予後が悪く,症状が出現した時にはすでに病態が進行していることが多いため,早期発見することが重要である。OCDを早期発見するためにはエコーを用いた検診が有効であり,近年検診が行われる地域が増えている。しかし,現状では現場に出られる医師数には限界があり,エコー機器のコストも考慮すると,数十万人といわれる少年野球選手全体にエコー検診を普及させるのは難しい。もし,エコー検査の前段階に簡便に行えるスクリーニング検査があれば,無症候性のOCDを初期段階で効率的に見つけ出せる可能性が高まる。本研究の目的は,問診・理学検査・投球フォームチェックを行うことによって,その選手のOCDの存在確率を推定し,二次検診が必要かどうかを判定できるスクリーニングシステム(以下OCD推定システム)を開発することである。【方法】調査集団は千葉県理学療法士会・スポーツ健康増進支援部主催の「投球障害予防教室」に参加した小中学生221名とした。この教室では問診・理学検査20項目・投球フォームチェック5項目の他に医師による両肘のエコー検査が行われた。OCDが疑われた選手は病院での二次検査に進み,そこでOCDか否かの確定診断がなされた。上記の記録をデータベース化し,OCDの確定診断がついた選手と有意に関連性のある因子を抽出した。この抽出された因子をベイズ理論で解析することによって,これらの因子から選手一人一人のOCDの存在確率を推定するシステムを構築した。推定されたOCDの存在確率と実際のデータを照合し,分割表を用いてシステムの妥当性を評価した。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ条約に基づき,事前に各チームの監督,保護者に対して検診の目的,内容について説明し同意を得た。また,「プライバシーの保護」「同意の自由」「参加の自由意志」を説明し,協力・同意を得られなかったとしても,不利益は生じないことを記載し当日文書にて配布した。【結果】221名中17名(7.7%)の選手が,エコー上で骨頭異常を認め二次検診を受けた。結果,4名(1.8%)の選手がOCDと確定診断された。OCDに関連性の高かった問診項目は「野球肘の既往があること」「野球肩の既往がないこと」であり,理学検査項目は「肘の伸展制限があること」「肘と肘をつけた状態で上肢を鼻の高さまで上げられないこと(以下 広背筋テスト)」「非投球側での片足立ちが3秒間安定できないこと」,投球フォームチェックでは「投球フォームでの肩肩肘ラインが乱れていること(以下 肘下がり)」であった。これらの因子から選手一人一人のOCDの存在確率をベイズ理論を用いて推定した。推定したOCD存在確率のcut off値を15%に設定し,二次検査が必要か否かを判別し,実データと照らし合わせたところ,感度100%,特異度96.8%,陽性的中率36.4%,陰性的中率100%,正診率96.8%と高精度に判別できた。【考察】本システムは,OCDの危険因子を持った選手を抽出し,その存在確率を推定することによって,危険性の高い選手にエコー検査を積極的に受けるように促すシステムである。このシステムでは問診や理学検査を利用するため,現場の指導者でも簡便に使うことができ,普及させやすいのが特徴である。こうしたシステムを用いることで,選手や指導者のOCDに対する予防意識を高められるという効果が期待される。本研究でOCDと関連性の高かったフィジカルチェック項目は,投球フォームでの肘下がりや非投球側の下肢の不安定性,肩甲帯・胸椎の柔軟性を評価するものが含まれている。こうした機能の低下はOCDに対する危険因子の可能性があると考えられた。今後普遍性を高めるために,他団体とも連携し縦断的かつ横断的観察を進めていく予定である。【理学療法学研究としての意義】OCD推定システムを開発し発展させることで,理学療法士がOCDの予防に貢献できる道筋を開ける。今後,より簡便なシステムを確立し,無症候性のOCDを高精度にスクリーニングできれば,より多くの少年野球選手を障害から守ることが可能になる。
著者
岩永 竜也 亀山 顕太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C1439, 2008 (Released:2008-05-13)

【はじめに】我々は多くのスポーツ障害に対して、入谷式足底板を処方してきた。その多くはスポーツシューズに処方したものである。今回、裸足のスポーツである剣道競技者に対し、入谷式足底板の処方と足底板に対する補助手段を用いて疼痛が改善し、競技復帰したので報告する。【症例紹介】19歳女性。高校剣道部に在籍していた平成18年9月頃から足背部痛が出現する。多くの医療機関で治療を受けたが疼痛が改善せず、強い痛みが残存していた。同年12月当院初診、X線所見では、舟状骨に骨棘がみられた。左ショパール関節症と診断され理学療法を開始した。初診時の強い疼痛は裸足の競技のためテーピングを用いた足部誘導を行い改善された。僅かな疼痛が持続していたが、競技復帰可能であった。平成19年4月大学に入学後、剣道部に入部し競技を継続していた。同年9月に疼痛が増強したため当院を受診。X線所見では、舟状骨の変形が増悪していた。剣道以外の歩行時も疼痛が出現し、跛行がみられた。【方法】歩行時の疼痛に対して、通学などの日常の靴に入谷式足底板を処方した。競技用には剣道用足袋を用い、入谷式足底板を作製した。剣道用足袋の上からミズノ社製登山用足首サポーターにて、内果挙上誘導を追加した。【結果】歩行時の疼痛と跛行は、靴に作製した入谷式足底板にて改善した。しかし、剣道への競技復帰では、疼痛が残存していたため、入谷式足底板を作製した剣道用足袋と足首サポーターを用いることで、競技中の疼痛は消失した。【考察】本症例は疼痛を僅かながらも残存したまま競技を継続し、左足背部の疼痛が増強した。スポーツシューズを用いた競技であれば、足背部の疼痛コントロールは容易であったと推測されたが、裸足の競技であることと僅かな疼痛であったために、テーピングのみで競技可能と判断し、増悪させた反省すべき症例である。今回、左足背部の疼痛を残存させることは、より舟状骨の変形を進行させる可能性が高いと考え、剣道用足袋に入谷式足底板を作製した。剣道の左足は、裸足で踵を挙上して前足部のみで移動や床を蹴る動作を繰り返す特有のスポーツである。剣道用足袋に足底板のみでは、中足部と後足部の足底部が足底板と密着せず、足部誘導が不十分であったため、足首サポーターを用いて密着させ足部誘導を補った。また、足底板をより効果的するために、このサポーターの特徴である果部誘導を用い、内果挙上誘導を追加し良好な結果が得られたと考えられる。今回の剣道競技者の僅かな疼痛でさえ患部を増悪した経験から、外傷などの急性期を除くスポーツ障害において、テーピングのみでメカニカルストレスを十分に減じることが難しい場合は、足底板などで十分に足部誘導を行う必要があると考える。
著者
福岡 進 岡田 匡史 亀山 顕太郎 石井 壮郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0926, 2014 (Released:2014-05-09)

【目的】近年,野球選手にフィジカルチェックを行い,早期に予防策を講ずる取り組みが広く行われるようになってきた。しかし,実際に障害予防に対する選手の意識を高めて有病率を低下させるには数多くの課題がある。その中で特に重要だと考える4つの課題を列挙する。1.障害に対する選手の予防意識を十分に高められないため,予防効果があがらない。2.フィジカルチェックにおいて,どの項目を優先的に調べていくべきかという基準が曖昧である。3.フィジカルチェック後,選手へフィードバックするまでに時間がかかる。4.データを取得してもそれを蓄積していないため,良質なエビデンスを構築できない。こうした課題を解決するためには新しいシステムの開発が必要である。そこで本研究の目的は,必要最低限のフィジカルチェックを行うことにより,投球障害肩・肘に関する近未来の発症確率を予測し,リアルタイムに選手にフィードバックを行うことで選手の予防意識を向上させるシステムを開発することとした。【方法】高校野球部員30名に対し無症候期にフィジカルチェックを行い,その後の半年間にどの選手が投球障害肩・肘を発症したかを1週間毎に前向きに調査した。フィジカルチェックデータと発症データをロジスティック回帰分析することで発症に有意に関連する危険因子を同定し,それらから発症確率を予測する回帰式を算出した。算出した回帰式にフィジカルチェックデータを代入することにより,選手一人一人の近未来の発症確率を予測するシステムを構築した。その後次シーズンに本システムを活用して,選手一人一人に発症確率と危険因子を伝え,予防策を指導した後,アンケートにて予防意識に関する調査を行った。【説明と同意】選手にはヘルシンキ宣言に基づき研究の主旨を説明し同意を得た上で研究を行った。また,「参加の自由意志」を説明し,協力・同意を得られなかったとしても,不利益は生じないことを記載し文書にて配布した。【結果】調査期間中に33%(10/30例)の選手が投球障害肩・肘を発症した。発症に有意に関連性のあった項目は挙上位外旋角度,肩甲帯内転角度,踵殿部距離であり,これらの因子を用いて発症確率を高精度に予測する回帰式を算出した(判別的中率87%)。算出した回帰式をExcelに組み込み,Excelのマクロ機能を活用することにより,上記3つのフィジカルチェックデータをパソコンに入力するだけで,リアルタイムに発症確率を表示するシステムを構築した。また,入力データは自動的にデータベースに組み込まれ,労せずデータを蓄積できるようにした。システム構築後の次シーズンに,本システムを導入したところ,96%の選手の予防意識は向上し,79%の選手に実際に予防に取り組む姿勢がみられた。【考察】本研究で発症に関連のある項目は,挙上位外旋角度,肩甲帯内転角度,踵殿部距離であった。これらの機能低下は発症に対する危険因子であり,優先的にチェックしていくことが重要であると考える。これら3項目は簡便であるため,現場の指導者や選手も行うことができると思われる。本システムではExcelのマクロ機能を活用したため,フィジカルチェックの結果をその場でフィードバックできた。今回,ほとんどの選手の予防意識は向上し積極的に予防に取り組むようになった。その理由として以下の2つのことが考えられた。1発症確率という具体的な数値を用いて選手一人一人の近未来を予測したこと。2フィジカルチェック後すぐにフィードバックしたことで,その結果が選手の印象に残りやすかったこと。我々のデータベースの規模はまだ小さいため,今後もデータの集積が必要である。しかし,本システムのマクロ機能により,入力されたデータは自動的にデータベースに蓄積されるため,今後システムの効果や妥当性の検証にかかる労力はかなり軽減される。したがって,本システムは,現場の選手のために効率的なフィジカルチェックを行うことができ,リアルタイムにフィードバックを行うことで選手の予防意識の向上を図ることができる。また,データも蓄積できることから,多方面からのデータ集積も簡便であると考える。【理学療法学研究としての意義】高校野球選手を対象に,必要最低限のフィジカルチェックを行うことで,投球障害肩・肘に関する近未来の発症確率を予測し,リアルタイムに選手にフィードバックできるシステムを開発した。理学療法士が臨床での経験を生かし,このようなシステムを構築することで,選手を障害から予防できると考える。今後,本システムを活用しデータベースを拡張していくことで,現場に良質なエビデンスを供給できるとともに普遍的な障害予防法の確立に寄与できるものと思われる。