著者
今泉 史生 金井 章 蒲原 元 木下 由紀子 四ノ宮 祐介 村澤 実香 河合 理江子 上原 卓也 江﨑 雅彰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0342, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】足関節背屈可動性は,スポーツ場面において基本的な動作である踏み込み動作に欠かせない運動機能である。足関節背屈可動性の低下は,下腿の前方傾斜が妨げられるため,踏み込み時に何らかの代償動作が生じることが考えられ,パフォーマンスの低下やスポーツ外傷・障害につながることが予想される。スポーツ外傷・障害後のリハビリテーションの方法の一つとして,フォワードランジ(以下,FL)が用いられている。FLはスポーツ場面において,投げる・打つ・止まるなどの基礎となる動作であり,良いパフォーマンスを発揮するためにFLは必要不可欠な動作であると言える。しかし,FLにおいて足関節背屈可動域が動作中の下肢関節へ及ぼす影響は明らかではない。そこで,本研究は,FLにおける足関節背屈可動域が身体に及ぼす生体力学的影響について検討した。【方法】対象は,下肢運動機能に問題が無く,週1回以上レクリエーションレベル以上のスポーツを行っている健常者40名80肢(男性15名,女性25名,平均年齢17.6±3.1歳,平均身長162.9±8.4cm,平均体重57.3±8.7kg)とした。足関節背屈可動域は,Bennellらの方法に準じてリーチ計測器CK-101(酒井医療株式会社製)を用いて母趾壁距離を各3回計測し最大値を採用した。FLの計測は,踏み込み側の膝関節最大屈曲角度は90度と規定し,動作中の膝関節角度は電子角度計Data Link(バイオメトリクス社製)を用いて被験者にフィードバックした。頚部・体幹は中間位,両手は腰部,歩隔は身長の1割,足部は第二中足骨と前額面が垂直となるように規定した。ステップ幅は棘果長とし,速度はメトロノームを用いて2秒で前進,2秒で後退,踏み出し時の接地は踵部からとした。各被検者は測定前に充分練習した後,計測対象下肢を前方に踏み出すFLを連続して15回行い,7・8・9・10・11回目を解析対象とした。動作の計測には,三次元動作解析装置VICON-MX(VICONMOTION SYSTEMS社製)および床反力計OR6-7(AMTI社製)を用い,足関節最大背屈時の関節角度,関節モーメント,重心位置,足圧中心(以下,COP),床反力矢状面角度(矢状面での垂線に対する角度を表す),下腿傾斜角度(前額面における垂線に対する内側への傾斜)を算出した。統計解析は,各算出項目を予測する因子として,母趾壁距離がどの程度関与しているか確認するために,関節角度,重心位置,COP,床反力矢状面角度を従属変数とし,その他の項目を独立変数として変数減少法によるステップワイズ重回帰分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の実施にあたり被検者へは十分な説明をし,同意を得た上で行った。尚,本研究は,豊橋創造大学生命倫理委員会にて承認されている。【結果】母趾壁距離が抽出された従属変数は,床反力矢状面角度,足関節背屈角度,股関節内転角度であった。得られた回帰式(R≧0.6)は,床反力矢状面角度(度)=0.015×重心前後移動距離(mm)+0.299×母趾壁距離(cm)-0.211×膝関節屈曲モーメント(Nm/kg)-12.794,足関節背屈角度(度)=33.304×体重比床反力(N/kg)+0.393×足関節内反角度(度)+0.555×母趾壁距離(cm)+1.418,股関節内転角度(度)=0.591×下腿内側傾斜角度(度)-0.430×足尖内側の向き(度)+0.278×股関節屈曲モーメント(Nm/kg)-0.504×母趾壁距離(cm)+1.780であった。【考察】FLにおける前方への踏み込み動作において,母趾壁距離の大きいことが,床反力矢状面角度の後方傾斜減少,足関節背屈角度を増加させる要因となっていた。これは,足関節背屈角度が大きいと下腿の前方傾斜が可能となり,前脚に体重を垂直方向へ荷重しやすくなったことが考えられた。また,母趾壁距離と股関節内転角度との間には負の関係が認められた。これは,足関節背屈角度の低下により下腿の前方傾斜が妨げられるため,股関節内転角度を増加させて前方へ踏み込むような代償動作となっていることが原因である考えられた。この肢位は,一般的にknee-inと呼ばれており,スポーツ動作においては外傷・障害につながることが報告されているため,正常な足関節背屈可動域の確保は重要である。【理学療法学研究としての意義】FLにおける足関節背屈可動域が身体に及ぼす生体力学的影響を明らかにすることにより,スポーツ外傷・障害予防における足関節背屈可動域の重要性が示唆された。
著者
瀬川 槙哉 齊藤 明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1356, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:以下DVT)の予防は術後管理や長期臥床時に重要であり,その原因静脈はヒラメ静脈,後脛骨静脈,腓骨静脈とされている。解剖学的には後脛骨静脈や腓骨静脈はヒラメ筋と後脛骨筋,足趾屈筋群に囲まれて存在しており,筋ポンプ作用の影響を受けやすいものと推察される。そのためDVTの予防のために行う足関節底背屈運動の際に,上記の血管に対して背側に位置する下腿三頭筋だけではなく,腹側に位置する足趾屈筋群,後脛骨筋を働かせ,両方向から筋収縮を加えることによって,より効果的な筋ポンプ作用が得られると考えるが,そのような報告はない。そこで本研究の目的は,足関節底背屈運動と足関節底屈時に足関節内反ならびに足趾屈曲を加えた底背屈運動における大腿静脈血流速度の測定を行い,DVTに効果的な運動を明らかにすることである。【方法】対象はA大学に在籍する健常男子学生33名を対象とした。測定には超音波診断装置(HI VISION Avius)を使用し,背臥位,股・膝関節伸展位で右大腿静脈血流速度をパルスドプラ法にて測定した。運動条件は①足関節底背屈(以下,単独運動群),②底屈時に足趾屈曲を行う足関節底背屈(以下,足趾複合運動群),③底屈時に足関節内反を行う足関節底背屈(以下,内反複合運動群)とした。手順は背臥位にて5分間の安静を保持し,安静時の血流速度を測定した。その後,各条件で測定をランダムに行い,測定間には3分間の休息を設けた。足関節底背屈の運動速度は50回/minとした。解析は運動開始後の20~40秒の間で波形が安定した状態を視覚的に確認し,最大血流速度(単位:cm/s)を計測した。また,運動中及び直後には脈拍を計測した。データ処理は運動時の血流速度を安静時の血流速度で除して,安静時に対する各運動条件での最大血流速度比を算出した。統計学的解析は各条件での最大血流速度比を比較するためFriedman検定を用いた。その後,有意差の認められたものに対しBonferroniの多重比較検定を行った。また各条件とも運動後と安静時の心拍数の差を求め,一元配置分散分析を用いて比較した。統計処理には,PASW Statistics18(IBM社製)を用い,危険率5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には事前に研究目的および測定方法を十分に説明し書面で同意を得た。【結果】各条件での最大血流速度比の中央値(四分位範囲)は,単独運動群で2.64(1.94-3.71),足趾複合運動群では3.36(2.58-5.49),内反複合運動群では3.93(3.04-5.2)で足趾複合運動群及び内反複合運動群が単独運動群より有意に最大血流速度が速かった(それぞれp<0.01)。安静時に対する各運動時の心拍数の差は,単独運動群3.03±0.96回/min,足趾複合運動群2.97±1.12回/min,内反複合運動群4±1.27回/minであり,各条件間では有意な差は見られなかった。【考察】単独運動群と複合運動群の血流速度に差が認められた理由の一つとして,下腿における筋と静脈の位置関係が考えられる。単独運動群では底屈時に主にヒラメ筋静脈での静脈環流が促される。これと比して複合運動群では底屈によるヒラメ筋静脈の圧迫に加え,足趾屈曲では後脛骨静脈,足関節内反では後脛骨静脈と腓骨静脈に対しての圧迫が更に加わると考えられる。よって,下腿深部静脈を背側・腹側の両方向から圧迫できる複合運動群では,単独運動群に比べ,より速い血流速度が得られたのではないかと考える。また内反複合運動においては非荷重位の影響が大きいと考えられる。下腿三頭筋は非荷重位においては十分な筋収縮が得られないが,一方で後脛骨筋は非荷重位での筋活動が高いとの報告がある。本研究においても非荷重位で測定を行ったため,後脛骨筋の活動が高まり内反複合運動がより速い血流速度を得ることが出来たのではないかと考える。このことは特に内反複合運動が術後やベッド上での安静を要する時期のDVT予防に有用であると考える。血流速度と心拍数の関係について,心拍数の上昇は,動脈血流量が増大を引き起こし,結果として静脈還流促進に伴う血流速度上昇が生じる可能性がある。本研究においては各運動群での心拍数の変化に有意差は認められず,各運動条件間の血流比較において心拍数の上昇が与える影響は少なかったものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】以上のことから底背屈単独運動に比べて複合運動では,より大きな静脈還流促進効果が期待でき,臨床において効果的なDVT予防方法となりうることが示唆された。一般に臨床場面では足関節の底背屈運動によってDVT予防を図ることが多いが,今回の研究の結果より底背屈単独運動だけではなく,足趾屈曲や足関節内反の複合運動で行うことで,より高いDVTの予防効果が期待される。
著者
倉山 太一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1338, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】ヒトはある程度の騒音の中にいても,遠方から友人の声がすれば無意識的に反応し,注意を切り替えることができる。カクテルパーティ効果などと呼称されるこの能力は,外部刺激に対する自動的な脳内情報処理機構として動物が自然界で生き延びるための生来的な能力の一つと言われている。ミスマッチ陰性電位(Mismatch negativity:MMN)はこのような注意に関連した認知機能を反映する事象関連電位として,認知神経科学の分野で多く研究されている。本研究では二重課題歩行が,ヒトの注意機能に与える影響を明らかにすることを目的とし,歩行中のMMNについて検討した。【方法】対象は健常成人24名とした。計測課題はA1:坐位で無声動画を見ながらのMMN計測,A2:自由歩行にて無声動画を見ながらのMMN計測,およびB1:水運搬課題(水の入ったカップを把持し,こぼさず歩く)にてMMN計測,B2:粘土運搬課題(粘土の入ったカップを把持して歩く)にてMMN計測,の4つの課題を被験者ごとに擬似ランダムな順序で実施した(歩行速度は至適速度で統一した)。課題に先立ち5分以上の準備歩行を実施すると共に至適速度を定めた。カップは透明なものを用い,底部から上縁までの80%の高さまで水を入れ,左手で胸骨から真っ直ぐ前方へ30~50cmの持ちやすい位置で把持させた。粘土は水と同じ重さとした。歩行中は加速度計(TSND121,ATR-Promotions)を左手首・第三腰椎に装着し運動学的解析を行った。同時にヘッドフォンを通じて0.5秒間隔の音刺激(75ms)を通常音(1000Hz)と逸脱音(1000±100Hz)が5:1の割合となるよう1200回与え,脳波計(32ch Active-two system,Biosemi)によりMMNを計測した。実験終了後に各課題中に被験者が感じた難易度,覚醒度,集中度などについてvisual analog scale:VASを用いて質問した。脳波データは1-20Hzのデジタルバンドパスフィルターを適用後,音刺激をトリガーとして加算波形を作成した。統計解析は課題A1とA2の間でMMN振幅と頂点潜時,および課題B1とB2の間でMMN振幅と頂点潜時,および運動学的指標(躍度,歩幅,ケイデンス,歩行周期変動),またVASの平均値について,対応のあるt検定を実施した。MMN成分について有意差が認められた場合,Loreta解析を用いて脳活動部位の違いについて推定した。有意水準は5%とした。データ解析にはMatlab 2012aを,統計解析にはSPSS ver19.0のソフトウェアを用いた。【倫理的配慮・説明と同意】本研究は倫理審査会の承認を受けており,対象者への説明・同意の上,実施された。【結果】手先躍度,重心位置躍度,歩行変動性は水運搬課題に於いて自由歩行,粘土運搬課題に比べて有意に低下した。ケイデンスはほぼ一定であった。MMN振幅は,水運搬課題において粘土運搬課題に比べて有意に高い値となった。MMN潜時について有意差は認められなかった。課題中の主観的な難易度,覚醒度,集中度は水運搬課題で最も高かった。Loreta解析の結果,水運搬課題ではBrodmann area 6,32,24,4,8における有意な脳活動が推定された。【考察】MMN振幅は粘土運搬課題に比べ,水運搬課題で有意に高い値を示した。このことから二重課題歩行においては外部環境音に対する注意状態が高まることが示唆された。またLoreta解析により複雑運動に関与するとされるBrodmann6野,stroop課題など二重課題で活動する32野の活動が高まった。水運搬課題に於いては,水をこぼさないよう手先の制御に集中するほか,手先の位置を安定させるための滑らかな歩行が要請されたことが,被験者の感じる課題への集中度や覚醒状態が上がったことの要因と考えられた。なお水面の状態を常時確認するため,必然的に視線は水面に集中するが,このような状態で外部環境に対応するためには,聴覚的な注意機能を高める必要性が生じることも要因として考えられた。二重課題歩行(B1およびB2)にてMMNに差が生じた要因として以上のような注意・覚醒度の上昇,また視覚情報の制限などが挙げられた。【理学療法研究としての意義】脳波計測は非侵襲的で計測も簡便である一方,アーチファクトの問題により歩行中に実施することは難しく,これまで主に坐位,立位,歩行準備期など,静的な計測条件に限定されてきた。しかし近年,計器性能の向上により実用的なデータが得られることが示されてきており,臨床応用の可能性が広がっている。高齢者や各種疾患を有する人々に於いては,注意機能などの低下が転倒因子の一つと成ることが示されているが,これまで歩行中の注意機能について脳機能計測を用いた直接的な検討は非常に少ない。本研究は脳波計測を歩行中の脳機能評価として応用できる可能性を示した点に於いて意義があると考えている。
著者
澳 昂佑 福田 章人 奥村 伊世 川原 勲 田中 貴広
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0525, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】本邦の変形性膝関節症患者数は約3000万人と推測され(平成20年介護予防の推進に向けた運動器疾患対策に関する検討会-厚生労働省),膝関節機能不全によって,歩行能力の障害を呈することが多く,生活機能の低下を引き起こしてしまう。このため,膝OAの病態を把握し,適切な理学療法を模索することは重要である。とりわけ内側型変形性膝関節症(膝OA)患者の立脚期における膝関節内反モーメントの増加は膝関節内側のメカニカルストレスや痛みの増加に関与していることが報告されている(Schipplenin OD.1991)。これに対して,外側広筋は筋活動を増加することによって側方不安定性に寄与し,膝関節内反モーメントを制動することが知られている(Cheryl L.2009)。一方,股関節は体幹を立脚側に側屈することにより,立脚側へ重心を保持する代償動作を行い(Hunt MA.2008),股関節内転モーメントが減少することが知られている(Janie L.2007)。さらにこの戦略によって股関節外転筋は不使用による筋力低下を引き起こし,二次障害を誘発すると考えられている(Rana S.2010)。これらの知見は膝OA患者に対して膝関節のみではなく,股関節の筋にも着目したトレーニングを行う必要性を示唆している。しかしながら,膝OA患者において歩行中の股関節の筋活動の特徴は明らかとなっていない。そこで本研究の目的は膝OA患者における歩行中の股関節の筋活動の特徴を明らかにすることとした。【方法】対象者は健常成人7名(25歳±4.5)とデュシェンヌ歩行を呈する片側・両側膝OA患者4名(85歳±3.5)とした。膝OAの重症度はKellgren-Lawrence分類(K/L分類)にて,IIが4側,IIIが1側,IVが2側であった。対象者には筋電図の記録電極を外側広筋,中殿筋,内転筋に設置し,足底にフットスイッチを装着させた。筋活動の測定には表面筋電計(Noraxson社製MyoSystem1400)を使用した。歩行中の筋活動の測定は,音の合図に反応して快適な歩行速度で歩行させた。歩行計測終了後,各被検筋の最大随意収縮(Maximal Voluntary contraction:MVC)を等尺性収縮にて3秒間測定した。解析は得られた波形を整流化し,5歩行周期を時間にて正規化した。各筋の1歩行周期における平均EMG振幅,MVCの平均EMG振幅を算出した。各歩行周期の平均EMG振幅は%MVCにて正規化した。統計処理は健常成人とOA患者のEMG振幅をMann-Whitney U-testにて比較した。健常成人,OA患者それぞれの外側広筋と中殿筋,内転筋のEMG振幅をPaired t-testにて比較した。OA患者のEMG振幅とK/L分類の関係をSpearmann順位相関係数にて検証した。有意水準は0.05とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し,阪奈中央病院倫理委員会の承認を得て実施された。被験者には実験の目的,方法,及び予想される不利益を説明し同意を得た。【結果】OA患者における外側広筋,中殿筋,内転筋のEMG振幅は健常成人と比較して有意な増加を認めた。健常成人の外側広筋と中殿筋,内転筋のEMG振幅は有意差を認めなかった。他方,OA患者は外側広筋と比較して,内転筋のEMG振幅は有意な増加を認めた。OA患者のK/L分類と外側広筋(r=0.79,p>0.05),内転筋(r=0.83,p>0.05)のEMG振幅は有意な正の相関関係を認めた。【考察】健常成人は外側広筋と内転筋,中殿筋の筋活動に差がないにも関わらず,膝OA患者においては外側広筋の筋活動より,内転筋の筋活動が増加した。これは健常成人と膝OA患者の歩行中の筋活動パターンが異なることを示している。OA患者の外側広筋の筋活動が増加し,K/L分類と相関関係を認めたことはOAの進行による側方不安定の増加に対して外側広筋が制動に寄与しようとした結果であり,先行研究(Cheryl L.2009)と一致した。OA患者の内転筋の筋活動が増加し,K/L分類と相関関係を示したことは膝OAの進行による側方不安定の増加に対し,内転筋が遠心性収縮に作用することによって,体幹を立脚側に側屈(デュシェンヌ歩行)し,メカニカルストレスを軽減しようとした結果であると考える。しかしながらこれらの結果は筋活動であり,筋力を反映していないため,今後,筋活動と筋力の関係を調査する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】膝OA患者の歩行中の外側広筋と内転筋が同時に代償的に活動していることは新たな知見であり,理学療法として膝関節のみではなく,股関節の筋活動にも着目したトレーニングを行う必要性が示唆された。
著者
栁澤 千香子 押見 雅義 鈴木 昭弘 齋藤 康人 高橋 光美 鹿倉 稚紗子 洲川 明久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1117, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに】当センターは高度専門医療を担っており一般病棟268床の他,第二種感染症指定医療機関として51床の結核病床を有する。結核患者に対してのリハビリ介入も行っており,理学療法部の24年度新規依頼件数1223件のうち結核患者27件であり,全件数の2.2%を占めている。結核患者の理学療法実施にあたり,N95マスクを装着し他患者との接触を避けるため隔離病棟でのベッドサイド対応で感染予防を行っている。N95マスクの使用頻度は高いが,装着方法についてはマニュアルに記載されている程度で十分教育されてはいない。N95はフィルターの性能を示すものであり,装着後のマスクと顔の密着性は保証されていないため,米国では最低年1回のフィッティングテスト実施を勧告している。感染リスク抵減のため,N95マスクの正しい装着方法をマスターする事・自分の顔に合うマスクを見つけることを目的として,フィッティングテストを行う事が必要である。今回リハビリ部門において,N95マスクを使用しての定量的フィッティングテストを施行し教育効果の検証を行った。【方法】対象は当センターのリハビリスタッフ7名(PT6名・リハ医1名)。N95マスクは2種類使用した(マスクA:3M三つ折りマスク,マスクB:KOKENハイラック350型)。定量的測定は,労研式マスクフィッティングテスターMT-03型を使用(大気じんを使用してマスク内外の粉じん量の測定により漏れ率を測定)した。漏れ率5%以下で適合すると判定した。1回目の測定は,全員にマスクAを通常使用している方法で装着してもらい行った。2回目の測定は非適合の者に対し装着の方法・息の漏れがないか確認するためのユーザーシールチェック方法の指導後行った。3回目の測定は全員にマスクBを使用して行った。1回目の測定の際,装着方法が正しいか・ユーザーシールチェックを行えているか観察した。また,アンケートを行い基本的な装着方法を知っていたか・N95マスクの交換頻度等について調査した。【説明と同意】対象者には施行内容について主旨の説明後,同意を得て実施した。またアンケートは個人情報に配慮した。【結果】1.マスクAでは7名中3名が適合した。適合者平均0.88%(0.7~1.11%)・不適合者平均7.97%(5.02~9.99%)であった。不適合者の指導後の再測定では全員適合であった(全体平均1.52%)。2.マスクBでは全員適合した。全体平均0.54%(0.38~0.88%)。3.観察にて装着そのものができていなかったのは2名・装着やユーザーシールチェックまでできていたのは4名であった。できていた4名のうち不適合は2名であった。4.アンケートでは,N95マスクの装着方法を知っているは2名・だいたい知っている4名・知らない1名であった。ユーザーシールチェックまで意識して行っているのは1名・行っていない(知らない)3名であった。N95マスクの交換頻度は毎日5名・1週間ごと2名であった。【考察】マスクAでの適合者は,ユーザーシールチェックを意識して行えていた者・無意識で行っていた者・装着もできていなかったが偶然顔の形で適合した者が1名ずつであった。マスクBでは,装着方法の指導後の結果であったため適合者が増えた結果となった。ユーザーシールチェックに関しては,4名が行えていた。意識して行っているのは1名で他は無意識で行っていた。無意識で行っていたうち適合したのは1名であり,しっかり意識付けして行う事が必要である。N95マスクの交換頻度は,使い捨てが原則であるが実際にはばらつきがあった。衛生面でも統一した知識の共有が必要である。当センターでは,N95マスクを3種類採用しているが装着感のみで自己選択している現状である。しかし1種類のもので検証した結果,適合の割合は個々の顔の形や大きさにより8~9割程度のみとの報告もある。自分にフィットする製品を知っておくことも必要である。アンケートより今回定量的測定を行った事で,漏れを数値で確認でき客観的にわかりやすかった・結果が良かったので安心した・ユーザーシールチェックを行うことで,漏れる場所のポイントが分かり漏れが改善した等の反応があった。国内での結核罹患率は欧米諸国と比べると依然として高く,未だ年間2万1千人以上が新規に登録されている。また結核病床を有する病院での医療従事者の結核罹患率は,一般の発生率の3倍とされている。感染予防のためにも正しいN95マスクの装着方法について継続的な教育が大切である。【理学療法学研究としての意義】N95マスクの装着に関して定量的なフィッティングテストを行う事で,視覚的に正しい装着方法を学習できる。感染リスク軽減のために正しいマスクの装着についての教育・啓発は必要なことであると考えられる。
著者
西 啓太 鶴崎 俊哉 弦本 敏行 加藤 克知
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0835, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】臨床場面において,腰痛などの骨盤帯領域の機能障害は,腰椎・骨盤・股関節などの複数領域の機能障害が複雑に組み合わさっている場合が多い。そのため,近年では腰椎・骨盤・股関節を複合体としてとらえ,総合的に評価治療を行うことが重要と考えられている。諸家の報告では,Hip-spine syndromeのように股関節と腰椎の機能障害に関連性があるという報告は多いが,仙腸関節と他関節の機能障害の関連性を報告している研究は殆どみられない。そこで今回,腸骨耳状面の年齢推定法を仙腸関節の加齢性変化を示す指標として用い,他関節の加齢性変化との関係を調べた。本研究の目的は,仙腸関節の加齢性変化が股関節などの他関節と関連性があるのかを明らかにすることである。【方法】死亡時年齢が記録されている男性晒骨100体(平均年齢56.5歳:19-83歳)の左右腸骨耳状面(200側)を肉眼で観察し,Buckberryら及びIgarashiらによる年齢推定法に準じて関節面の年齢推定を行った。2法から得られた推定年齢値の平均をその個体における仙腸関節の『関節年齢』とし,実年齢と関節年齢から年齢校正値を算出した。次に,関節年齢と年齢校正値の差を,腸骨耳状面の加齢性変化の程度を表す『Gap』と定義した。他関節の加齢性変化の指標として,同一の骨標本を使用したTsurumoto(2013)らの先行研究から股関節(200側)と膝関節(102側)の関節周囲骨棘指数のデータを引用した。さらに,耳状面形態に個体によって多様性がみられたため,耳状面の『くびれ率』を定義し測定を行った。これは,耳状面の長腕と短腕の関節面の最後方を直線で結び,この直線と耳状面の前下縁と後上縁の最長距離を測定し,後上縁までの距離から前下縁までの距離を除した値のことである。2つの年齢推定法の妥当性を検討するために,実年齢との相関性を調査した。また,くびれ率と年齢,耳状面Gap,股関節骨棘指数との関連を検討した。さらに,耳状面形態が関節の加齢性変化に及ぼす影響を考慮し,くびれ率の大きさが仙腸関節と股関節の加齢性変化の関連性を検討した。統計学的分析はMicrosoft Excel 2010の分析ツールを用いて行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究で用いた骨標本は,長崎大学医学部生の解剖実習のために同意を得て献体されたご遺体から取り出した標本である。本研究では骨標本に直接手を加えず,肉眼観察を行うために使用したため,倫理的な問題はない。【結果】2つの年齢推定法ともに,実年齢との間に高い正の相関がみられた。2法の平均推定年齢も実年齢との高い正の相関を示した。耳状面Gapと股関節骨棘指数との間には中等度の正の相関を示し,膝関節との間には弱い正の相関を示した。くびれ率に関しては,耳状面Gapおよび股関節骨棘指数との間に相関はみられなかった。さらに,くびれ率の分布の90%領域中の個体群において,耳状面Gapと股関節骨棘指数の間にr=0.40の相関を示した。くびれ率の大きさで仙腸関節と股関節の加齢性変化の関連性をみたところ,くびれ率が小さいほど仙腸関節と股関節の加齢性変化の相関が強くなる傾向がみられた。【考察】Vleemingらは骨盤帯の関節安定戦略に異常をきたした場合,仙腸関節に破綻をきたし,退行変性を進行させてしまう可能性があると述べている。本研究で行った腸骨耳状面の加齢性変化の評価より,仙腸関節における安定機構の変化が他の関節に影響を及ぼす可能性があることが示唆された。本研究結果より,仙腸関節と股関節の加齢性変化の間に相関がみられた。腰痛患者に見られる骨盤帯のアライメント不良や諸筋の活動変化により,関節にストレスが加わり,その加齢性変化が進行する可能性があると考えられる。本研究からは,股関節と仙腸関節のどちらが原因で加齢性変化が生じるのかは知ることが出来ないが,腰椎・骨盤・股関節のアライメント異常などによる安定戦略の変化により,股関節と仙腸関節の両方に加齢性変化が生じる可能性が示唆された。また,仙腸関節面のくびれ率が小さいほど仙腸関節と股関節の加齢性変化の相関が強くなる傾向がみられた。このことより,仙腸関節の形状がHip-spine syndromeのような腰椎・骨盤・股関節領域の複合的な病態の生じやすさに影響を及ぼしている可能性があることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究結果は,骨盤とその周囲の運動器疾患に対する考察を助けるデータとなり,さらに,腰椎・骨盤・股関節領域における運動器疾患の予防を行う上でも有用なデータになると考える。
著者
江崎 太宣 柗田 憲亮
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1299, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】距骨下関節としての踵骨の位置は,立位での重心動揺に大きな影響を与えているとされる。また距骨下関節への介入を行いパフォーマンスの向上も多数報告されている。しかし,同時に筋出力を計測したものはなく,足部の形状に応じた介入方法を選択,実施する為の重要な根拠となる可能性があるため今回調査したので報告する。【方法】1.対象 測定に支障のない健常成人の男性5名,女性6名の計11名(年齢21.5±0.5歳,身長160.4±9.4cm,体重54.2±11.8kg)を対象とし行った。2.方法(1)支持脚の決定 ボールを蹴らない足を支持脚として採用した。(2)足部可動域の測定 足関節の回内・回外関節可動域を測定。その後,非矯正,回内矯正,回外矯正時のLeg-heel-aligment(以下,LHA)を片脚立位で三通り測定した。また,誘導は足底板を用いて行った。(3)片脚立位での重心動揺,足部筋出力の計測 重心動揺計(アニマ社製TWIN GRAVICORDER G-6100)を用いて総軌跡長,外周面積,X・Y方向動揺平均中心変位の計測を行い,測定時間は30秒とした。また,同時に被検筋(後傾骨筋,長腓骨筋,前脛骨筋,腓腹筋外側頭)に電極を取り付け,表面筋電図を用いて各介入時の筋活動について計測した。(4)統計学的処理非矯正位,回内矯正位,回外矯正位における計測値は,一元配置分散分析後Tukey法を用いて多重比較検定を行った。また,対応のある検定を用いて各肢位での筋活動について比較検討した。統計はSPSSを使用し,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】被検者には研究の趣旨を十分に書面をもって説明し同意を得た。また,本研究は国際医療福祉大学研究倫理委員会の承諾(番号13-48)を得た。【結果】LHAは,回外矯正位で4.4±4.3°であり,非矯正位と比較し回外矯正位では有意な低下を認めた。総軌跡長は,非矯正位で74.9±13.6cm,回外矯正位で66.2±13.1cmを示し,回外矯正位では有意に低下を認めた。非矯正位と回外矯正位のおける筋活動を比較では,回外矯正位で後脛骨筋,前脛骨筋の活動が有意に低下することを認めた。その他の項目については有意差を認めなかった。【考察】本研究の結果,LHAの比較から,本研究の対象者の立位距骨下関節のアライメントが回内位にあることを認めた。その為,非矯正位と回内誘導時の計測値全般に差がないと考えられた。一方,回外矯正位では非矯正位と比較し,LHAの値が有意に低下したことから,足底板による回外誘導はある程度実施できていると考えられた。また,回外矯正位の総軌跡長は,非矯正位と比較し有意に低下することから,片脚立位での安定性は増加したと考える。先行研究では,距骨下関節の回外誘導は中足部の外側面が内側面に対して下降することにより距舟関節と踵立方関節が交差した位置関係を取り,横足根関節の可動性が減少するため中足部が強固なテコとして機能すると報告されている。このため回外誘導により足部の骨性や靭帯性による固定性が増加し,片脚立位の安定性増加の一要因として影響していることが示唆される。一方,回外矯正位の筋活動について非矯正位と比較し,後脛骨筋と前脛骨筋の筋活動の有意な低下を認めた。この理由として,回外誘導による骨性・靭帯性による固定性の増加,足部内側支持の減少に伴う筋活動の低下が予測される。また,回外誘導に対するカウンターフォースとして作用する長腓骨筋や腓腹筋外側頭については,筋活動が維持されるため低下しなかったと考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,距骨下関節の回外誘導が片脚立位の安定性の増加に寄与することが示された。
著者
上島 隆秀 高杉 紳一郎 河野 一郎 禰占 哲郎 高橋 みゆき 河村 吉章 岩本 幸英
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1281, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】総務省発表によれば,2013年9月15日時点の人口推計で,65歳以上の高齢者が総人口の25%に達した。今後,高齢者人口の増加とともに,介護予防対策は多様なニーズに応えるべく,その多様化が求められてくると予想される。介護予防対策として,リハビリテーションの重要性も認識されているが,継続のための仕組みやモチベーションを高める工夫が不十分である現状は否めない。一方,家庭用ゲーム機の本格的な普及から30年が経過し,ゲームは,シリアスゲームやゲーミフィケーションとして今後,医療・介護分野においてもますます身近になるものと考えられる。今回,デイサービスセンターに導入されたリハビリ用ゲーム機の活用効果について報告する。【方法】対象はY市のKデイサービスセンター利用者のうち,ゲーム機を継続的に利用した群(ゲーム群)15名(男性1名,女性14名,平均年齢85.3±5.8歳)およびゲーム機を全く利用しなかった群(非ゲーム群)96名(男性20名,女性76名,年齢85.0±6.4歳)である。この両群を対象に体力測定を行い,ゲーム機活用効果について検討した。使用したゲーム機は,主に高齢者の運動機能向上を目的として開発されたものであり,上肢の筋力・敏捷性向上を目的とした「ハンマーフロッグ」「ワニワニパニック」,下肢の筋力・敏捷性向上を目的とした「ドキドキへび退治2」,目と手の協調性向上を目的とした「ポンポンタッチ」である。両群とも通常のデイサービスプログラムを行っており,ゲーム群ではさらに,自らの意思で選択したゲームも行っていた。測定項目は,握力,Functional Reach(FR),開眼片脚立ち(片脚立ち),光刺激に対する反応時間(反応時間),3mTimed Up and Go Test(TUG),ステッピング(ステッピング)であった。そして,体力測定により得られた結果から,開始時と7カ月後のデータを対応のあるt検定にて比較検討した。【倫理的配慮,説明と同意】対象者および家族には,当該デイサービスセンターにて文書による説明を行い,同意を得ている。【結果】両群の開眼片脚立ちにおいて,開始時と7カ月後の比較で改善傾向が認められた。ゲーム群4.9秒→8.2秒(P=0.084),非ゲーム群4.6秒→8.3秒(P=0.059)。ゲーム群における3mTUGにおいて,開始時と7カ月後の比較で改善傾向が認められた。12.3秒→10.4秒(P=0.073)。【考察】今回,ゲーム群,非ゲーム群ともに有意な改善を示した測定項目は認められなかった。我々は,第39回日本理学療法学術大会において,「デイサービス利用者のゲーム機による身体機能改善効果」について研究し,その結果,ゲーム群においてFR,長座体前屈の有意な改善を認めたことを報告しているが,この研究では,有意な改善が認められるまで1年を要している。一方,本研究は,まだ8カ月を経過した時点であり,今後,より明確な結果が出る可能性がある。現在,ゲームの総合得点および実施回数を積算した数値を基にした評価を開始しており,ゲーム回数の多寡による影響についても分析する予定である。ゲーム群の対象者に対する聞き取りでは,リハビリのため,楽しいから,負けたくないという声が挙がっている。ここに継続のための仕組みやモチベーションを高める工夫へのヒントが隠されていると考えられる。非ゲーム群の対象者では,少なくとも一度はゲーム機を体験していたが,ゲームに関心がないなどの理由で,ゲームを行っていなかった。ゲームに限らず,多様な選択肢を提示することで,ICF(国際生活機能分類)が提唱する社会参加を促す一助となることが期待される。【理学療法学研究としての意義】今後,医療・介護分野においてもロボットやその他の支援機器導入が進むことが予想されるが,その際に重要となるのは利用者に合った機器選択である。適切かつ様々な選択肢を提供できる環境づくりは,多様化するニーズに対応できる理学療法を行う上での参考となることが期待される。
著者
内田 大 岡本 龍児
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1272, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】ウォーミングアップの具体的な効果として血流量や皮膚温の増加,神経伝導速度や心理的な興奮水準の上昇,怪我の防止とさまざまな効果があると報告されている。しかし,実際にウォーミングアップを行うことで神経伝導速度の変化について明らかになっていない。よって今回,ウォーミングアップを行うことで,ウォーミングアップにおける神経伝導速度の変化を研究し,実際にどの程度ウォーミングアップを行えばよいか,運動時間を把握することを目的とした。【方法】対象者は健常大学生男性:10名(年齢:20.5±1.0歳,身長:173±4.4cm,体重:62.2±7.2kg,BMI:20.76±2.5kg/m²)とした。事前に研究の趣旨と内容を説明し,同意を得て測定した。神経伝導速度の変化は誘発電位・筋電図検査装置(MEB-2208日本光電)を用い,記録電極を小指球(小指外転筋)の中間部と小指基節骨基部に表面電極を装着し,アースは手背面に装着した。尺骨神経の遠位側刺激部位(T1)として手関節近位部,また,近位刺激部位(T2)として上腕内側上顆付近と設定した。刺激強度はM波の振幅が増大しなくなる最大刺激より更に15~20%程度強い刺激である,最大上刺激を用いた。ウォーミングアップではトレッドミル(WOODWAY社製)を使用し,ウォーミングアップを行った。走行では,トレッドミルの歩行速度及び負荷量はポラールスポーツ心拍計(polar社製S810i)を用い,心拍数が110~120回/分となるよう設定し30分間行った。運動前~運動終了後5分後までを測定した。走行5分ごとに尺骨神経の神経伝導速度の測定を行い,迅速な測定が必要となるため,アースや電極は装着しながら行った。なお,室温は26℃と設定した。統計処理は統計ソフトJSTATを用い,神経伝導速度において一元配置分散分析反復測定法を使用した後,多重比較検定(Bonferroni法)を使用した。なお,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】計測に先立ち,全対象者に文章及び口頭にて研究の趣旨を説得し,同意書へ署名をもって同意を得た。なお,本研究計画は国際医療福祉大学の倫理審査会の承認(番号13-30)を得ている。【結果】神経伝導速度では,運動前55.7±4.3(m/s),運動5分後57.0±4.4(m/s),運動10分後57.0±4.8(m/s),運動15分後57.6±5.4(m/s),運動20分後56.6±5.4(m/s),運動25分後56.0±5.2(m/s),運動30分後55.0±4.9(m/s),5分休息後56.2±4.6(m/s)であった。神経伝導速度は,運動15分後までは上昇し,その後,運動30分後まで減少し,走行後に5分間休息を挟むと再び上昇した。運動15分後で神経伝導速度は最高となり,運動30分後で最低となった。一元配置分散分析の結果,走行期間に主効果がみられた(p<0.05)。また,多重比較の結果,運動15分後は運動前に比べ有意に上昇し,運動30分後は運動5,10,15分後に比べ有意に低下した。【考察】今回,神経伝導速度は運動15分後まで上昇し,運動20~30分後まで減少し,休息を挟むと再び上昇した。運動15分後が運動前に比べ有意に上昇した原因として,走行による体温上昇が神経伝導速度の上昇に関与していると考える。小村¹)らはトレッドミルでの走行より皮膚温の上昇を報告している。また,湯浅²)らは,皮膚温度は神経伝導速度へ最も影響を与える因子であると報告している。運動30分後が運動5・10・15分後に比べ有意に低下した原因として,走行による疲労が関与している可能性があると考える。運動30分後に5分休息を挟むことで再び伝導速度が上昇したことからも疲労の影響が考えられる。青木³)によると運動が長時間にわたるとシナプスや運動終板における刺激の伝達物質であるアセチルコリンの分泌は低下し,神経衝撃は筋に伝達されにくくなると報告している。走行というウォーミングアップでは,神経伝導速度を上昇させるには心拍数110~120回/分程度の運動強度で15分程度の走行が適切であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】心拍数110~120回/分程度の運動強度で15分程度の走行がウォーミングアップに適していると考えられ,ウォーミングアップを行う際の指標になると考える。
著者
松田 直樹 金子 文成 稲田 亨 柴田 恵理子 小山 聡
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0499, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】運動錯覚とは,実際に運動を行っていないにも関わらず,あたかも運動が生じているような自覚的運動知覚が脳内で生じることである。近年,我々はKanekoらが報告した視覚刺激による運動錯覚を用いて,脳卒中片麻痺患者に治療的介入を実施し,急性効果を検証してきた。本研究では,発症後10年を経過した脳卒中片麻痺患者に対して,視覚刺激を用いた運動錯覚と運動イメージを組み合わせた治療的介入を実施し,上肢の自動運動可動域に急性的な変化が生じたので報告する。【方法】対象は,平成14年に被殻出血を発症した右片麻痺症例(50代男性)であった。Br. stage上肢・手指II,下肢IIIであり,表在・深部感覚は共に重度鈍麻であった。認知機能に障害はなかった。治療的介入方法は,視覚入力による運動錯覚と運動イメージの組み合わせ(IL+MI),動画観察と運動イメージの組み合わせ(OB+MI),運動イメージ単独(MI)の計3種類とし,別日に行った。IL+MIでは,視覚刺激による運動錯覚を誘起するため,事前に撮影した健側手指屈伸運動の映像を左右反転させ,麻痺側上肢の上に配置したモニタで再生し,対象者に観察させた。さらに,動画上の手指屈伸運動とタイミングが合致するように,麻痺側手指の屈伸運動を筋感覚的にイメージするよう教示した。OB+MIでは,IL+MIと同じ映像を流したモニタを,対象者の正面に設置し,観察させた。そして,IL+MIと同様に動画に合わせて運動イメージを行わせた。MIでは,麻痺側手指屈伸運動の運動イメージのみ実施させた。各治療は20分間とし,2週間以上の期間をあけて実施した。日常生活上で本人が希望することとして肘関節屈曲運動があったことから,運動機能評価として,各治療の前後に麻痺側肘関節の自動屈曲運動を実施した。肩峰,上腕骨外側上顆,尺骨茎状突起にマーカーを貼付し,対象者の前方に設置したデジタルビデオカメラによって撮影した映像から,最大肘関節屈曲角度を算出した。また,IL+MIにおいて,上腕二頭筋及び上腕三頭筋に表面筋電図を貼付し,肘関節屈曲運動中の筋活動を治療前後で記録した。さらに,ILを実施した際に,どの程度運動の意図(自分の手を動かしたくなる感覚)が生じたかを,Visual Analog Scale(0:何も感じない~100:とても強く感じる)で評価した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,研究者らが所属する大学および当院倫理委員会の承認を得て実施した。また,対象者に対しては書面にて研究の内容を説明し,同意を得た上で実施した。【結果】IL+MIでは,治療前と比較して,治療後に最大肘関節屈曲角度が増大した(治療前3.1°,治療後56.1°)。これに対し,OB+MIとMIでは治療前後で大きな変化を示さなかった(OB+MI:治療前3.6°,治療後1.2°,MI:治療前2.3°,治療後3.4°)。また,IL+MI後においては,治療前後で上腕二頭筋の筋活動の増加が確認された。さらに,IL中にはVisual Analog Scaleで98と強い運動の意図が生じた。IL+MI後には,対象者から「力の入れ方を思い出した」という内観が得られた。【考察】本症例においては,OB+MI及びMIでは自動運動可動域に変化が生じなかったのに対し,IL+MIでは自動運動可動域が拡大した。このことから,視覚刺激により運動錯覚が生じたことが,自動運動可動域の改善に寄与した可能性があると考える。本研究では,手指の運動錯覚により上腕の筋に急性効果が生じた。Kanekoらは,視覚刺激による運動錯覚中に補足運動野・運動前野の賦活が生じることを報告している。高次運動野は一次運動野と比較して体部位局在の影響が少ないことから,本研究においては,手指の運動錯覚に伴う高次運動野の賦活が上腕の運動機能に影響を与えた可能性があるものと推察する。以上より,本研究では視覚刺激による運動錯覚と運動イメージを組み合わせた治療的介入が,脳卒中片麻痺患者における上肢の自動運動可動域に対して,急性的な変化を生じさせる可能性が示された。【理学療法学研究としての意義】本研究は,視覚刺激による運動錯覚と運動イメージの組み合わせが,慢性期脳卒中患者の運動機能に対して,急性的な変化を生じさせることを示した最初の報告である。本研究で用いた治療方法は,非侵襲的かつ簡便であり,本研究は理学療法における新たな治療方法の開発という点で意義深いといえる。
著者
山口 大輔 上野 貴大 荒井 駿 佐野 井雪 山本 陽平 佐々木 和人 鈴木 英二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1511, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】徒手筋力計(以下:HHD)は筋力の定量的な評価を可能とし,簡便性,コスト面においても有用と考えられている。HHDを用いた下肢筋力測定法の信頼性・再現性については数多く検討されてきているが,未だに統一された見解に至っていない。現段階ではHHDを用いた測定法はDanielsらの徒手筋力検査法(以下:MMT)に準じて行うことが望ましいとされている。しかし,実症例に対してMMTの方法は測定肢位がとれない等の理由から正確な筋力評価が行えていない場合も少なくない。我々はHHDを用いた測定法で測定肢位に苦慮する股関節伸展,外転,膝関節屈曲において実症例に対する測定し易い別法を考案し,MMTの方法による測定値との間に正の相関があることを報告した(股関節伸展:r=0.57,股関節外転:r=0.68,膝関節屈曲:r=0.58)。そこで,今回は本法における検者内及び検者間の信頼性について検討したので報告する。【方法】測定機器にはHHD(モービィMT-100,酒井医療社製)を用い,測定単位は重量キログラム(kgf)とした。検者内の検討では1名の検者(臨床経験3年目の男性理学療法士)が30名の健常成人(男性24名,女性6名,平均年齢23.5±3.7歳)を対象に同日内での3回反復測定による信頼性を検討した。また,検者間の検討では3名の検者(臨床経験1年目の男性2名,女性1名の理学療法士)が健常成人5名(男性3名,女性2名,平均年齢24.4±2.6歳)の左右10肢を対象に測定し,3回の最大値を代表値として検討した。被験者の疲労が反映されないよう3日間に分けて測定し,測定順が同一にならないよう配慮した。また,検者には研究の目的,意義は教示せず,的確に実施できるよう測定方法と注意点のみ説明した。HHDを用いた別法は実症例で測定し易い肢位を考慮し,股関節伸展は足底と床面が離れた端座位を測定肢位とし,大腿遠位部後面と座面との間でHHDを圧迫する方法とした。股関節外転は背臥位で両側下腿遠位部にベルトを装着し,検者が対側下肢を固定した上で,被験肢の股関節外転を行わせるベルト固定法とした。膝関節屈曲は足底と床面が離れた端座位にて下腿遠位部にベルトを装着し,検者の抵抗に対し膝関節を屈曲する徒手抵抗法とした。検者内及び検者間での測定方法は統一とし,各測定時間は最大努力での約5秒間,各測定間には約30秒の休息時間を設け,計3回ずつ測定した。統計学的分析には級内相関係数(Intraclass correlation coefficients:以下ICC)を用い,検者内信頼性係数はICC(1,3),検者間信頼性係数はICC(2,3)を用いて算出した。また,統計処理にはIBM SPSS Statistics 21を用い,有意水準は1%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属機関の倫理委員会で承認を受け,全対象者に十分な研究内容を説明し,同意を得た上で実施した。【結果】検者内信頼性は股関節伸展ICC(1,3)=0.97,股関節外転ICC(1,3)=0.98,膝関節屈曲ICC(1,3)=0.98であった。検者間信頼性は股関節伸展ICC(2,3)=0.81,股関節外転ICC(2,3)=0.88,膝関節屈曲ICC(2,3)=0.81であった。【考察】ICCの評価基準として桑原ら(1993)は0.8~は良好,0.9~は優秀とし,Landisら(1977)は0.81以上をalmost perfectと述べている。本研究の結果では検者内及び検者間信頼性共に全項目で高い信頼性が得られた。股関節伸展のMMTに準じた測定方法は腹臥位をとることが必要条件となる。しかし,実症例では腹臥位がとれない対象も少なくない。平野ら(2004)は背臥位で股関節伸展の測定方法における信頼性を報告しているが,検者が2名必要であり,測定の簡便性に対しては不利となる為,今回は測定肢位を座位とした。測定結果には体重や重力の要因が加味されるため,被験者間での比較は困難であるが,臨床において個々の対象者における経時的な筋力評価には有用な方法と考える。股関節外転は測定肢位を背臥位,測定方法をベルト固定法にし,測定バイアスを最小限に留めたことで,比較的高い信頼性が得られたと考える。膝関節屈曲は臨床でより簡便性を重視した徒手抵抗法にて測定した。Reeseら(2001)はHHDを使用した測定方法の制約として,検者が十分な抵抗力を与えることができない事を挙げ,検者の抵抗力が測定結果に影響を及ぼす可能性があると報告している。しかし,本研究の結果では検者内及び検者間において高い信頼性を認め,徒手抵抗による膝関節屈曲測定法の有用性が示唆された。本研究の限界は,対象が健常成人である為,実症例で同様の結果が示せるか現段階では不明であるが,本研究結果での高い信頼性は本法の有用性を支持するものとなった。【理学療法学研究としての意義】実症例を想定した本法の検者内及び検者間信頼性の検討において有用な結果を示せたことは,今後の理学療法分野における筋力測定法の一助になると考えられる。
著者
建内 宏重 白鳥 早樹子 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0568, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】腸脛靭帯炎は,ランナーや変形性膝関節症患者において頻度が高く,大腿骨外側上顆部での腸脛靭帯(ITB)による圧迫や摩擦により生じるため,ITBの硬度が高いことが腸脛靭帯炎の直接的な原因と考えられる。したがって,ITBの硬度に影響を与える要因を明確にすることは,腸脛靭帯炎の評価・治療において重要である。しかし,現在までITBの硬度を測定した報告は存在しないため,ITBの硬度に影響を与える要因も明らかではない。ITBの硬度を変化させる要因としては,主に股内外転角度や股内外転モーメント,股外転筋群の筋活動の変化などが考えられる。本研究では,近年開発された,生体組織の硬度を非侵襲的に測定できるせん断波エラストグラフィーを用いて,股関節の角度およびモーメント,股外転筋群の筋活動の変化がITBの硬度に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は健常者14名(男性7名,女性7名:平均年齢22.0歳)とした。課題は,骨盤,体幹ともに3平面で中間位の片脚立位(N),下肢挙上側の骨盤を前額面で10°下制させ体幹は中間位にした片脚立位(Pdrop),Pdropの肢位で体幹も下肢挙上側へ傾斜させた片脚立位(PTdrop),下肢挙上側の骨盤を前額面で10°挙上し体幹は中間位にした片脚立位(Prise),Priseの肢位で体幹も支持脚側へ傾斜させた片脚立位(PTrise)の5条件とした。ITB硬度(弾性率)の測定には,超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用いた。測定部位は膝蓋骨上縁の高位とし,5秒間姿勢を保持し超音波画像が安定してから記録した。また同時に,3次元動作解析装置(Vicon motion systems社製)と床反力計(Kistler社製)を用いて,各条件の股内外転角度・モーメント(内的)を測定した。加えて,ITBと解剖学的に連続する大殿筋(上部線維),中殿筋,大腿筋膜張筋(TFL),外側広筋の筋活動量を表面筋電計(Noraxon社製)により記録した。筋電図は,各筋の最大等尺性収縮時の値で正規化した。各条件の測定順は無作為とし,各々2回ずつ測定を行った。超音波画像でのITB硬度の測定は,ITB部に関心領域を3か所設定し,それらの部位の弾性率の平均値を求めた。なお,この測定は,実験後に条件が盲検化された状態で一名の検者が行った。ITBの硬度,筋活動量,股角度とモーメント各々について2試行の平均値を解析に用いた。各条件間の比較をWilcoxon符号付順位検定とShaffer法を用いた補正により行い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】所属施設の倫理委員会の承認を得たのち,対象者には本研究の主旨を書面及び口頭で説明し,参加への同意を書面で得た。【結果】股外転角度は,N(0.2°;中央値)に対してPdrop,PTdropで有意に内転位(-7.5°,-8.7°),Prise,PTriseで有意に外転位(11.0°,11.4°)であった。PdropとPTdrop間,PriseとPTrise間には有意差はなかった。ITB硬度は,N(10.7 kPa;中央値)に対してPTdrop(13.2 kPa)では有意に増加し,PTrise(8.1 kPa)では有意に減少したが,Nに対してPdrop(11.8 kPa)とPrise(8.7 kPa)では有意差を認めなかった。また,ITB硬度はPdropよりPTdropで有意に増加し,PdropよりもPriseで有意に減少した。股外転モーメントは,NよりもPTdropで増加,PTriseで減少し,Pdrop,Priseでは有意な差を認めなかった。さらに股外転モーメントは,PdropよりもPTdropで有意に増加し,PriseよりもPTriseで有意に減少した。筋活動における有意差として,大殿筋はPriseで他条件よりも増加し,中殿筋とTFLはNよりもPdrop,PTdropで減少,Priseで増加し,外側広筋はNに対してPriseで増加した。【考察】ITB硬度はPTdropで最も増加した。PTdropはNよりも中殿筋やTFLの筋活動量が減少したが股内転角度は増大しており,外転筋群の筋活動量よりも股関節角度の影響を強く受けたと考えられる。しかし,PdropはPTdropと股内転角度は同じでもNと比べてITB硬度の有意な増加は認めなかった。PTdropとPdrop間では,筋活動量に差がないもののPTdropの方が股外転モーメントは増加しており,股関節角度だけでなくモーメント変化もITB硬度に重要な影響を与えることが示された。【理学療法学研究としての意義】本研究により,ITB硬度が増加しやすい姿勢とともに硬度に影響を与える要因が明らかとなった。本研究は,腸脛靭帯炎の評価・治療に関して意義のある研究であると考える。
著者
竹内 知陽 鈴木 昭宏 服部 義
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1160, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】近年,軽量パーツの開発や筋電位を利用した義肢に関する研究等が進み,小児の四肢欠損児に対しても,比較的早い乳幼児期に機能的義肢を処方することが可能となった。運動発達期においては,ボディイメージの育みや義肢の受け入れ,義肢操作のパフォーマンスの高さ等を鑑み,適切な義肢を提供することが重要である。今回,先天性片側骨盤下肢欠損児に対する理学療法支援の機会を得た。本研究の目的は,本児が義足を使用して基本動作を獲得していく経過を振り返ることにより,生まれつき片脚のない児の粗大運動発達を促進する関わりについて,義足支援の視点から検討することである。【方法】対象は,右先天性骨盤下肢欠損の男児である。在胎37週0日,1980gにて出生,臍帯ヘルニア,鎖肛,右腎欠損,右精巣欠損,腹壁瘢痕ヘルニア,胸腰椎部の潜在性二分脊椎,右腸骨形成不全,右尺側列形成不全による裂手,右下肢形成不全による先天性骨盤下肢欠損の診断を受けた。理学療法は,義肢が処方された時点,すなわち児が9ヶ月の時に開始し,その後は1ヶ月毎に実施した。調査は,児が3歳3ヶ月時,理学療法初回から2年3ヶ月が経過した時に,診療記録をもとに後方視的に行った。調査内容は,初回受診時の運動発達の状況,義足装着練習の内容および主な粗大運動能力の獲得時期,義足の更新状況とした。調査結果をもとに,児の粗大運動発達と義足支援との関係について検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究内容の学術集会での報告について,研究対象児の親権者に説明し同意を得た。【結果】児の粗大運動発達は,頸定3ヶ月,腹臥位および寝返り6ヶ月で,理学療法初回受診時において,座位,ずり這い移動は未達成であった。9ヶ月時,最初の訓練用義足を処方,義足装着下での床上移動および座位の達成を目標とし支援を開始した。10ヶ月時にずり這いがはじまり,その後1歳時に達成した。10ヶ月時点で,健側座骨部に補高すればセット座位を保持でき,1歳過ぎには健側を割座させて座位達成となった。この後の11ヶ月時には,セットによるつかまり立位で義足に荷重することをし始めた。1歳2ヶ月時,義足未装着の状態で床からの台立位が可能となり,義足装着下では横方向への台伝い歩きを始めた。目標を手引き歩行の達成とし,1歳4ヶ月時に2本目となる本義足を処方,1歳半で斜め方向への台伝い歩きを開始した。義足への荷重に十分慣れていたが,ソケットの適合調整に難渋し,義足の長さが安定しなかった。1歳9ヶ月以降に手引き歩行をし始めたことから,床からの立ち上がり,および独歩の獲得へと目標を更新し,支援の頻度を増やした。1歳11ヶ月時,壁伝いでの歩行が可能となり,義足未装着では,支えなしで床からの立位が可能となった。2歳2ヶ月時に3本目となる義足を処方,健肢側の片手引きでの歩行が可能であったが,なかなか独歩には至らず,伝い歩きを始めてから1年以上が経過した2歳3ヶ月時,杖の使用を検討した。2歳半で2~3歩の距離を手放しで歩くようになったが,転倒の頻度も多く,転倒しそうな感覚から手放しでの歩行練習を嫌がる様子が見られた。2歳8ヶ月時に4本目となる義足を処方し,その後独歩可能となった。また,自ら手をついて床に降りたり立ち上がったりすることも可能となったが,右裂手の二指では股継ぎ手のロックを自分で解除することが出来ず,自力で床上での座位姿勢に変換することはできなかった。その後は,歩行安定性の向上を目的に自宅での歩行練習を促した。同時に,目標を立位から床座位への姿勢変換の自立とし,股継ぎ手のロック解除操作の自立支援方法について,義肢装具士と検討を重ねた。3歳3ヶ月時に5本目の義足を処方,ロック解除用の延長レバーを工夫して設置したところ,右裂手の二指間にレバーを把持し,右肘の伸展動作によって自力でのロック解除が可能となり,立位から座位への姿勢変換が自立した。同様に,床座位から立位への変換も支えなしで行い,股継ぎ手のロックも自力にて可能となった。【考察】先行研究に乏しく比較検討は困難であるが,粗大運動の発達を意識しながら義足支援を行うことで,基本動作の自立を促進することができたと思われる。その後は,義足装着の自立に向け支援を継続している。児の身体機能と構造を考慮し,操作性を加味した義足支援をすることが,先天性骨盤下肢欠損児の粗大運動発達を促進する上で重要であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】先天性四肢欠損児の義肢支援における理学療法士の関わり方の一事例研究として提示した。類似する症例の理学療法に携わる臨床研究者にとって,理学療法介入方法を考察する上で意義のある研究と考える。
著者
櫻田 弘治 石井 香織 長山 医 中嶋 美保子 葉山 恵津子 氷見 智子 加藤 祐子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1073, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに・目的】栄養関連指標であるGNRI[Geriatric Nutritional Risk Index={14.89×血清アルブミン}+{41.7×(現体重/理想体重)}]は手術後患者や透析患者などの生命予後予測指標として注目されている。我々は,心不全患者におけるGNRIが,その後の心血管疾患による死亡の規定因子であることを報告した。心不全患者は心不全の進行により,呼吸負荷や交感神経系の活性化によるエネルギー消費量の増大や筋肉の異化亢進に伴う筋肉量の低下,腸管浮腫による腸管運動障害による吸収障害や食欲低下によって,低栄養状態に陥りやすいといわれ大きな問題となっており,心不全患者における栄養状態の改善が急務とされている。一方,心不全患者の予後規定因子として確立とされている運動能の指標と栄養状態の関係について検討した報告は少ない。今回,栄養関連指標としてGNRIを用いて,心不全患者の栄養状態と運動療法の効果との関係を検討した。【方法】2011年6月から2013年10月までに,NYHAII度以上の心不全患者に対する運動療法を週2回以上の頻度で291±180日間実施した21例{男性:14例,年齢:62±11歳,NYHA(II度:11例,III度:9例,IV度:1例)}を対象とした。運動療法は,有酸素運動とレジスタンストレーニングを行った。評価項目は,患者基本情報,運動療法前後の血液生化学データ(Hb,CRP,eGFR,ALB,BNP),心臓エコー検査による左室駆出率(LVEF),GNRI,心肺運動負荷検査(AT@VO2,Peak VO2,VE/VCO2 slope,Peak WR)とした。心不全患者による運動療法前後のGNRI改善率と心肺運動負荷検査による諸指標の改善率との関係,さらに,心不全患者の中でGNRIが94未満の心不全患者を,栄養障害リスクあり心不全群(7例)の運動療法前後のGNRI改善率と心肺運動負荷検査による諸指標の改善率の関係について検討した。統計学的手法は運動療法の効果についてはPaired t-test,相関関係はSpearmanの順位相関係数により統計解析を行った。全ての検定における有意水準はp=0.05とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の実施にあたり,事前に研究の趣旨,研究内容及び調査結果の取り扱いについて説明し同意を得た。また,本研究は他者との利益相反はない。【結果】運動療法前後のHb,CRP,eGFR,ALB,BNP,LVEFは有意差を認めなかった。GNRIは運動療法前が97.3±9.2から運動療法後に100.4±7.1と有意な改善が認めた(p<0.05)。また,運動療法によってAT@VO2は運動療法前が9.2±1.9ml/min/kgから運動療法後に10.0±1.8 ml/min/kg(p<0.01),Peak VO2は運動療法前が12.7±3.8 ml/min/kgから運動療法後に14.4±3.2ml/min/kg(p<0.01),Peak WRは運動療法前が68.1±28.0Wから運動療法後に79.8±27.1W(p<0.01)と有意に改善したが,VE/VCO2 slopeは運動療法前が37.0±9.8から運動療法後に34.7±10.3と有意差は認めなかった。全ての心不全症例において,運動療法前後のGNRI改善率と心肺運動負荷検査による諸指標の改善率には有意な相関を認めなかった。しかし,栄養障害リスクあり心不全群において,運動療法前後のGNRI改善率とAT@VO2改善率(r=0.978;p<0.001),GNRI改善率とPeak VO2改善率(r=0.877;p<0.001),GNRI改善率とPeak WR改善率(r=0.791;p<0.05)には有意な正の相関関係を認めたが,GNRI改善率とVE/VCO2 slope改善率には相関関係を認めなかった。【考察】心不全患者を対象とした,GNRIを用いた本研究結果より,栄養障害リスクのある患者は,栄養状態の改善率によって,運動療法の効果に影響を及ぼす可能性がある。このため,今後は積極的な栄養状態の改善に対する介入研究が必要と考える。【理学療法学研究としての意義】心不全患者に対する運動療法の有効性は周知されている。今回の研究結果によって,栄養障害リスクのある患者は,栄養状態の改善へのアプローチも心臓リハビリテーションの役割のひとつであると再認識できた。栄養状態の改善によって,さらなる効果的な運動能の改善が期待され,心不全患者の生命予後の改善に影響する可能性が示唆された。
著者
佐藤 真樹 小林 寛和 金村 朋直 岡戸 敦男
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1001, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】肩・肘関節などの投球障害に対する理学療法においては,投球動作の特徴と関係する機能的要因を確認し,対応することが重要となる。投球障害発生に関係する投球動作の問題として,早期コッキング期から加速期における肘下がりや肩関節水平外転位でのボールリリースが代表的である。しかし,投球動作は前の位相における動的アライメントの特徴が後の位相に影響を与えるため,問題が生じる位相のみでなく,原因となる位相への対応が求められる。後の位相につながる動作の問題として,ワインドアップ期における骨盤後傾の増大が挙げられる。理学療法を行う上では後の位相への影響を予測し,必要に応じて改善を図る。本研究では,ワインドアップ期の動的アライメントの問題とされる骨盤後傾に着目し,機能的要因との関係について確認を試みた。【方法】対象は,高校在学中に野球部に在籍した健常男子大学生20名とした。対象に約3 mの距離に設置したネットへ5球の全力投球を行わせた。その際の投球動作を三次元動作解析機器VICON Nexus-1.3.106(VICON社製)を用いて撮影・解析し,ワインドアップ期の骨盤傾斜角度を算出した。あわせて,歩行解析用フォースプレートZebris FMDsystem(Zebris Medical GmbH社製)を用いて足圧中心軌跡面積を測定した。5球の試技のうち,非投球側下肢の離地から最大挙上までの足圧中心軌跡面積が最小の試技を代表値として採用した。機能的要因として次の項目を測定した。1,股関節可動域:屈曲,伸展,内転,外転,内旋,外旋の各関節可動域を測定した。測定は,日本整形外科学会,日本リハビリテーション医学会の関節可動域測定法に準じた方法で実施した。2,下肢筋力:股関節屈曲・伸展・外転・内転,膝関節屈曲・伸展の各筋力を測定した。股関節筋力は,徒手筋力検査法に準じた肢位での等尺性筋力をアイソフォースGT-300(オージー技研社製)を用いて測定した。膝関節筋力は,Bte(Primus RS社製)を用いて60deg/secでの等速性筋力を測定した。3,体幹抗軸圧筋力:両足部接地・右足部接地の2条件で,片側の肩甲帯に軸圧負荷を加えた際に体幹正中位を保持しうる左右それぞれの等尺性筋力を測定した。測定には,アイソフォースGT-300を使用した。4,体幹筋筋厚:超音波診断装置Xario SSA-660A(東芝メディカルシステムズ社製)を用いて,安静時・収縮時における左右の腹横筋・多裂筋の筋厚を測定した。また,変化率:(収縮時-安静時)/安静時の筋厚×100も算出した。統計学的解析は,Pearsonの相関係数またはSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は日本福祉大学倫理審査委員会の規定に基づき,対象に本研究の主旨を説明し,内容を十分に理解したうえで書面にて同意を得て実施した。【結果】骨盤後傾角度は10.9±8.6°(平均±標準偏差)であった。骨盤後傾角度と機能的要因との関係については,体幹抗軸圧筋力においては,両条件で左右ともに有意な負の相関がみられた(両足部接地左軸圧負荷:r=-0.58,両足部接地右軸圧負荷:r=-0.57,右足部接地左軸圧負荷:r=-0.68,右足部接地右軸圧負荷:r=-0.58)。深部筋筋厚においては,非投球側腹横筋変化率で有意な負の相関がみられた(r=-0.53)。その他の要因に関して相関はみられなかった。【考察】体幹抗軸圧筋力と骨盤後傾角度との間に,有意な負の相関がみられた。Hodges(2008),金岡ら(2009)は脊柱運動時のトルクを発生させる表在筋と,腰椎・骨盤の制御を担う深部筋は,いずれも腰椎骨盤安定性に関与するとしている。体幹抗軸圧筋力は,片側肩への長軸方向の負荷に抗して体幹正中位を保持しうる筋力として,体幹の表在筋と深部筋の機能を示す指標と考える。したがって,骨盤固定筋としての体幹表在筋・深部筋の機能低下は,ワインドアップ期の骨盤後傾増大につながると考えられる。さらに,非投球側腹横筋の変化率と骨盤後傾角度との間に負の相関がみられたことから,骨盤後傾の代償を伴わずに股関節屈曲を行うには非投球側腹横筋の収縮が重要である可能性が確認された。ワインドアップ期における骨盤後傾について,股関節可動域や下肢筋力との関係も指摘されているが,今回の結果では相関がみられなかった。今後,ワインドアップ期の骨盤後傾が他の位相における動的アライメントに与える影響について検討を加えていきたい。【理学療法学研究としての意義】投球動作のワインドアップ期の骨盤後傾に関係する機能的要因のひとつとして,体幹筋機能の関係が確認できた。投球障害の理学療法を行う上で,ワインドアップ期に骨盤後傾を呈する対象には,体幹筋機能の改善も重要であるといえる。
著者
岡棟 亮二 横矢 晋 出家 正隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1466, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】スポーツ障害予防の観点から,競技による身体特性を知ることは重要である。本研究の目的は健常野球選手と肩関節の使用機会の少ない競技者であるサッカー選手において,原テスト及び下肢・体幹機能の理学所見を比較し,野球選手の身体特性を明らかにすることである。またその身体特性を踏まえ投球障害肩の症状を呈する野球選手と健常野球選手を比較し,投球障害肩の症状を呈する野球選手に特徴的な所見を明らかにすることで,その治療や予防に繋げることである。【方法】対象を投球障害肩を示す野球選手12名(P群),本研究に影響する既往のない野球選手11名(B群)とサッカー選手10名(S群)とし,原テスト11項目,下肢・体幹機能4項目を検査した。原テストとは,scapula spine distance(SSD),下垂位外旋筋力(ISP),下垂位内旋筋力(SSC),初期外転筋力(SSP),impingement test(Impinge),combined abduction test(CAT),horizontal flexion test(HFT),elbow extension test(ET),elbow push test(EPT),関節loosening test(loose),hyper external rotation test(HERT)のことであり,下肢・体幹機能4項目とはstraight leg raising angle(SLR),指床間距離(FFD),踵臀間距離(HBD),股関節内旋角度(HIR)である。なお本研究ではHERTを,同様に肩関節過外旋をさせる手技であるcrank test(crank)で代用した。またISP,SSC,SSP,ET,EPTは,ハンドヘルドダイナモメーター(MICRO FET2,Hoggan Health社製)を,CAT,HFT,SLR,HIRは角度計を用いて計測した。筋力の項目は非投球側に比べ投球側で10N以上の弱化,CATとHFTは非投球側に比べ投球側で10°以上の可動域制限があれば陽性とし,その他は原らの基準に従い陽性の判断をした。各項目陽性率,合計陽性項目数,各測定での投球側値,非投球側値の群間の差の検討と,同群内での各測定の投球側値と非投球側値の差を検討した。統計処理は,対応のあるt検定,Wilcoxonの検定,一元配置分散分析,Tukey-Kramer,Steel-Dwassの方法を行い,危険率5%未満を有意,10%未満を傾向ありと判断した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の目的と趣旨を説明した上で同意の得られた者を本研究対象とした。本研究は所属施設倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】S群,B群間でHBDの投球側値に有意差を認めた(S群>B群)。B群,P群間では原テスト合計陽性項目数(P群>B群),crankの陽性率(P群>B群),Impingeの陽性率(P群>B群)で有意差を認めた。また,同群内の投球側,非投球側値の差ではS群のHFT(非投>投),B群のCAT(非投>投),P群のIR(非投>投),CAT(非投>投),HFT(非投>投)にて有意差を認め,B群のSLR(非投>投),P群のISP(非投>投),SLR(非投>投)にて傾向を認めた。【考察】サッカー選手に比べ野球選手の投球側におけるHBDの距離は有意に小さく,SLR角度は小さい傾向にあった。つまり,野球選手は非投球側に比べ投球側下肢の大腿四頭筋が柔軟でハムストリングは短縮しているという特性が示唆された。また,野球選手の投球側においてCATの角度が有意に小さいことから,投球側のCATの可動域制限は野球選手の特性であり,投球側肩関節の関節包の拘縮,腱板の筋緊張や筋拘縮,innerとouter muscleの筋バランス異常等が疑われた。一方,HFTではサッカー選手にも投球側の可動域制限を認めた。つまりこの現象は野球選手の特性ではなく誰にでも起こり得る利き腕側の特性であることが考えられた。投球障害群において,投球側のISPは弱化傾向にあり,IRは有意に弱化していた。すなわちrotator cuffの不均衡により前後のinstabilityが生じ,internal impingement等を惹起している可能性が示唆された。野球選手と投球障害群との比較から,野球選手の中でも投球障害群は原テスト合計陽性項目数が多くなること,またその中でもcrank,Impingeが投球障害肩に特徴的な検査であるといえる。原らはImpingeとHERTを含む9項目以上が陰性であることを投球開始基準としており,大沢らは原テストの項目のうち,SSP,Impinge,CAT,ET,EPT,HERTが投球障害群で有意に陽性率が高かったと報告している。今回の結果は原らがHERT(crank),Impingeを重要視していることと大沢らの報告の一部を裏付けるものとなった。しかしSSP,CAT,ET,EPTの陽性率に差を認めなかったことが大沢らの報告と異なった。これは,今回我々が筋力値を定量化して陽性の判断をしたために生じた相違と考えられる。このことから原テストの定性的評価と定量的評価の場合の陽性検出率の差異が考えられた。【理学療法学研究としての意義】野球選手及び投球障害群の原テスト,下肢・体幹機能における特性を明らかにしたことで,今後,検査等で野球選手の身体異常を判断する際の一助となると考える。
著者
杉本 紘介 道口 康二郎 佐原 由希子 深堀 ユリエアリーシア 南 太貴 川越 陽介 酒井 康成 江島 美希 請田 咲紀 山下 将毅 井上 美沙 田村 美由紀 橋本 誠 力武 宏樹 松田 朋子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1028, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに】超高齢社会を迎え,高齢者においては栄養状態の評価や栄養状態改善への取り組みが注目されており,低栄養状態は創傷治癒の遅延だけでなく入院期間の延長や死亡率にまで影響すると言われている。理学療法の臨床においても低栄養状態により動作レベルが制限され,身体機能や各種動作,ADL等に影響を及ぼすケースがあり,転帰先への影響も考えられる。そこで高齢者の低栄養状態を判断する一つの指標である血清アルブミン値(以下Alb)が転帰先に対して影響しているのではないかと考えた。本研究は,当院回復期病棟入院患者を対象に入退院時のAlbを用いて比較検討を行い,また動作等への影響を調べるためFIM,日常生活機能評価との関連性を調べたので報告する。【方法】対象は平成24年6月から1年間で当院回復期病棟に入院した70歳以上の運動器疾患30名,脳血管疾患14名,廃用症候群(術後・肺炎等)36名の計80名(男性26名,女性54名),平均年齢84.79±5.69歳である。方法は入退院月のAlb,FIM,日常生活機能評価を用いて,自宅及び施設に退院した自宅施設群と転院やその他であった転院他群を比較した。FIM,日常生活機能評価の入退院月は自宅施設群63名(平均年齢84.7±5.51歳,男性15名,女性48名),転院他群は17名(平均年齢85.12±6.52歳,男性11名,女性6名)であった。Albは検査した対象者のみの比較であるため,入院月は自宅施設群59名(平均年齢84.64±5.47歳,男性15名,女性44名),転院他群16名(平均年齢85.13±6.73歳,男性10名,女性6名)であり,退院月は自宅施設群22名(平均年齢85.14±5.63歳,男性11名,女性11名),転院他群16名(平均年齢86.06±5.4歳,男性10名,女性6名)であった。また対象者の入院期間内の総評価数を用いてAlbとFIM(評価総数n=143),Albと日常生活機能評価(評価総数n=140)の関連性を求めた。なお解析ソフトはSTAT VIEWを使用し,入退院月の比較はMann-WhitneyのU検定とt検定(対応なし),各項目の関連性はSpearmanの順位相関にて解析した。有意水準は全て5%とした。【説明と同意】本研究は所属の倫理委員会の承認を得て,患者・患者家族に研究の目的・方法を十分に説明した上で協力の可否を問い,同意書にて同意を得た。【結果】Albでは,入院月では自宅施設群(中央値3.4g/dL)が転院他群(中央値2.85g/dL)に比べ有意に高い値を示した(p<0.001)。また退院月でも自宅施設群(中央値3.2g/dL)が転院他群(中央値2.7g/dL)に比べ有意に高い値を示した(p<0.05)。FIM,日常生活機能評価では,入院月・退院月ともに自宅施設群が有意に高い値を示した(全てp<0.0001)。Albとの関連性では,FIM(相関係数0.375,p<0.0001),日常生活機能評価(相関係数-0.327,p<0.001)と有意な相関関係が認められた。【考察】先行研究では退院時のAlbにおいて自宅退院群が非自宅退院群に比べ有意に高値を示した報告がある。本研究では,退院月は栄養状態に問題のある対象者のみの検査結果ではあるが同様の結果を示した。さらに退院月だけでなく入院月のAlbが自宅や施設退院につなげる因子の一つであることが示唆された。またFIM,日常生活機能評価に関しても同様に入院時から能力が高い方が自宅や施設へ退院できる要因と言える。Albとの関連性では有意な相関関係が認められ,AlbがFIMや日常生活機能評価に関係している結果も得られた。Albは骨折,手術及び点滴,輸液などで低値を示す。つまり急性期から回復期へ転院する際の値が後の転帰先に影響を及ぼしていることになる。超高齢社会が進む中,理学療法においても在宅復帰を実現するためには,基本動作やADLなどの動作能力や認知機能の向上とともに高齢者の低栄養状態の改善を考慮し,急性期から他職種との連携による栄養状態の把握や積極的な介入が必要だと考える。【理学療法研究としての意義】超高齢社会が進む中,高齢者の栄養状態は理学療法を実施する上でも把握する必要がある。AlbがFIMや日常生活機能評価と関連性は認められたが,相関係数としては低い値であった。今後は各評価項目の中で何に対して影響が大きいのかを調べていくことで,栄養状態と基本動作能力やADL能力,認知機能など踏まえて適切な予後予測につながっていくと考える。
著者
岩坂 憂児 大友 伸太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0338, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】観察学習は他者の運動を観察することで学習が図られるものであり,学習心理学の分野で研究されてきた。近年では運動観察学習による学習の効果の神経基盤について研究が進められている。Rizzolattiら(1988)はサルのF5領域(人における補足運動野)からミラーニューロンを発見し,これが観察学習の神経基盤である可能性を示唆した。Fadigaら(1995)はポジトロン断層法(PET)を用いた研究で人にも存在することを示唆している。したがって運動観察学習では,ミラーニューロンが活動することで,脳内で観察した運動を自動的にリハーサルし,これが技術の向上に関わっていると考えられる。Erteltら(2007)はこの運動観察を脳血管障害患者に対して介入として導入し,麻痺側の上肢機能が有意に改善したこと,また運動に関する脳領域の賦活を報告し,運動観察がリハビリテーションに有効であることを述べているが,長時間・長期間の介入を実施する必要があり,より運動観察の効果を高めることが今後のリハビリテーション導入には必要であると考えられる。運動観察学習の効果を向上させるための方法として,Maedaら(2000)は観察する動画と実際の上肢の位置が同一であるほうが効果を向上させることができることを示唆している。また,運動観察によって脳内で自動的に運動のリハーサルが起こるならば,実運動と同様に難易度を徐々に高めていく方法が有用であることが考えられる。そこで本研究は,運動観察学習における提示動画の速度変化が学習に及ぼす影響を検討するために実施した。【方法】対象者は専門学校・短期大学に在籍する学生33名とした。課題は手掌でのボール回転課題とし,30秒間可能な限り早く右手で時計回しに回転するように指示した。課題は2回実施し,回転数を測定値として採用した。その後,3分30秒の動画を視聴してもらい,同じ課題を実施した。対象者を視聴する動画ごとにランダムに3群に振り分けた。視聴する動画について3種類作成(再生速度が変化しない動画:通常観察群,再生速度が徐々に上がっていく動画:介入観察群,再生速度がランダムに提示される群:ランダム観察群)し,学生をランダムに割り当てた。統計処理にはRを利用し,二元配置の分散分析を用いた。多重比較検定にはBonferroni法を採用した。有意水準は0.05以下とした。【倫理的配慮,説明と同意】被験者に対して本研究の目的及び介入における効果と身体にかかる影響を文章および口頭にて説明して同意を得た。【結果】介入前後の回転数は通常観察群は30.9±10.5回から33.1±8.4回,介入観察群は35.4±10.2回から40.9±9.6回,ランダム群は30.1±8.1回から32.5±8.6回へそれぞれ変化した。分析の結果,介入前後と群間における主効果は有意差を認めたが,相互作用には有意差は認められなかった。主効果を確認したため,多重比較検定を行なったところ,介入観察群と通常観察群,ランダム観察群の視聴後における回転数に有意差が認められた。【考察】本研究は観察する動画の速度が学習効果に影響を及ぼすかを見たものである。動作観察中の脳活動は実運動と共有している部分が多く,運動観察学習の効果も実運動と似たような傾向を示す可能性が考えられる。したがって簡単な運動の観察から徐々に難易度の高い運動の観察へ変化させたほうが学習効果を高める可能性が示唆される。過去の研究では熟練した運動を観察しているときはミラーニューロンシステムと考えられる部位の活動がより賦活かされることを示している。そのため,観察学習を実施する際に単に同じ動画を観察させるよりも速度を徐々に速めるような画像を提示したほうが学習の定着が高い可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】近年,運動観察に関する効果が検討されている。本研究は運動観察を理学療法に導入し,より高い運動学習効果を保証するための新しい視点を示していると考えられる。
著者
亀山 顕太郎 高見澤 一樹 鈴木 智 古沢 俊祐 田浦 正之 宮島 恵樹 橋川 拓人 岡田 亨 木島 丈博 石井 壮郞 落合 信靖
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1000, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】成長期の野球選手において野球肘の有病率は高く予防すべき重要課題である。その中でも離断性骨軟骨炎(以下,OCD)は特に予後が悪く,症状が出現した時にはすでに病態が進行していることが多いため,早期発見することが重要である。OCDを早期発見するためにはエコーを用いた検診が有効であり,近年検診が行われる地域が増えている。しかし,現状では現場に出られる医師数には限界があり,エコー機器のコストも考慮すると,数十万人といわれる少年野球選手全体にエコー検診を普及させるのは難しい。もし,エコー検査の前段階に簡便に行えるスクリーニング検査があれば,無症候性のOCDを初期段階で効率的に見つけ出せる可能性が高まる。本研究の目的は,問診・理学検査・投球フォームチェックを行うことによって,その選手のOCDの存在確率を推定し,二次検診が必要かどうかを判定できるスクリーニングシステム(以下OCD推定システム)を開発することである。【方法】調査集団は千葉県理学療法士会・スポーツ健康増進支援部主催の「投球障害予防教室」に参加した小中学生221名とした。この教室では問診・理学検査20項目・投球フォームチェック5項目の他に医師による両肘のエコー検査が行われた。OCDが疑われた選手は病院での二次検査に進み,そこでOCDか否かの確定診断がなされた。上記の記録をデータベース化し,OCDの確定診断がついた選手と有意に関連性のある因子を抽出した。この抽出された因子をベイズ理論で解析することによって,これらの因子から選手一人一人のOCDの存在確率を推定するシステムを構築した。推定されたOCDの存在確率と実際のデータを照合し,分割表を用いてシステムの妥当性を評価した。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ条約に基づき,事前に各チームの監督,保護者に対して検診の目的,内容について説明し同意を得た。また,「プライバシーの保護」「同意の自由」「参加の自由意志」を説明し,協力・同意を得られなかったとしても,不利益は生じないことを記載し当日文書にて配布した。【結果】221名中17名(7.7%)の選手が,エコー上で骨頭異常を認め二次検診を受けた。結果,4名(1.8%)の選手がOCDと確定診断された。OCDに関連性の高かった問診項目は「野球肘の既往があること」「野球肩の既往がないこと」であり,理学検査項目は「肘の伸展制限があること」「肘と肘をつけた状態で上肢を鼻の高さまで上げられないこと(以下 広背筋テスト)」「非投球側での片足立ちが3秒間安定できないこと」,投球フォームチェックでは「投球フォームでの肩肩肘ラインが乱れていること(以下 肘下がり)」であった。これらの因子から選手一人一人のOCDの存在確率をベイズ理論を用いて推定した。推定したOCD存在確率のcut off値を15%に設定し,二次検査が必要か否かを判別し,実データと照らし合わせたところ,感度100%,特異度96.8%,陽性的中率36.4%,陰性的中率100%,正診率96.8%と高精度に判別できた。【考察】本システムは,OCDの危険因子を持った選手を抽出し,その存在確率を推定することによって,危険性の高い選手にエコー検査を積極的に受けるように促すシステムである。このシステムでは問診や理学検査を利用するため,現場の指導者でも簡便に使うことができ,普及させやすいのが特徴である。こうしたシステムを用いることで,選手や指導者のOCDに対する予防意識を高められるという効果が期待される。本研究でOCDと関連性の高かったフィジカルチェック項目は,投球フォームでの肘下がりや非投球側の下肢の不安定性,肩甲帯・胸椎の柔軟性を評価するものが含まれている。こうした機能の低下はOCDに対する危険因子の可能性があると考えられた。今後普遍性を高めるために,他団体とも連携し縦断的かつ横断的観察を進めていく予定である。【理学療法学研究としての意義】OCD推定システムを開発し発展させることで,理学療法士がOCDの予防に貢献できる道筋を開ける。今後,より簡便なシステムを確立し,無症候性のOCDを高精度にスクリーニングできれば,より多くの少年野球選手を障害から守ることが可能になる。
著者
佐藤 慎也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0717, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】近年,海外のスポーツ分野を中心に高周波治療器Tecnosix-Red Coral(以下,Tecnosix)が用いられている。この機器の特徴として,導子によって熱の深達度を変更することが可能である。capacitive modeでは水分含有量の多い表在組織に対して有効であり,resistive modeは水分含有量の少ない深部組織に対してより有効であると考えられている。先行研究では,Tecnosixによる温熱刺激は表面・深部温度を上昇させると報告されているが,臨床的効果に関する報告は少ない。そこで,本研究はTecnosixによる温熱刺激方法の違いが組織の伸張性と硬度に与える影響について検討した。【方法】健常学生32名(男性16名,女性16名)を対象とした。高周波治療器Tecnosixを使用し,実験条件はcapacitive照射群,resistive照射群,ダミー照射群,control群(以下,cap群,res群,ダミー群,cnt群)の4群とした。まず被験者に足関節柔軟性の計測を一度練習させた後,5分間の馴化時間をとり,照射前の計測を実施した。さらに5分間の馴化時間を設けた後,それぞれの条件で照射を実施した。照射部位は右下腿三頭筋筋腱移行部とし,導子に専用のクリームを塗布した後,ストローク法で照射を実施した。周波数は1000kHz,照射出力は50~55%とした。照射中は「Dose」による主観的温熱感を聴取し,DoseIIIが10分間維持できた時点,また照射開始から15分間経過した時点のいずれかで照射終了とした。表面温度の計測はサーモグラフィーFSV-1100を用い,照射前計測終了後の馴化時間から照射終了時まで行った。軟部組織硬度の計測にはNEUTONE TDM-N1を用いた。足関節底背屈中間位で腹臥位をとらせ,計測部位は右下腿三頭筋筋腱移行部とした。計測は照射前および照射後にそれぞれ5回ずつ行い,最大値と最小値を除いた残りの数値の平均値を各計測値とした。足関節柔軟性の計測はBennelらが考案した,Dosal Flexion Lungeによる壁から第一趾間距離の計測方法を用いた。足関節柔軟性および軟部組織硬度について前後差を求めた後,Kruskal-Wallis検定およびSteel-Dwassによる群間比較を行った。なお,統計学的有意水準は危険率5%未満を有意差あり,10%未満を有意傾向ありと判断した。【倫理的配慮,説明と同意】全ての被験者に対し本研究の目的について十分に説明し,文書にて同意を得た。なお,本研究はすべてヘルシンキ宣言に基づいて実施した。【結果】表面温度は照射群において,クリーム塗布後の温度低下とその後の温度上昇を認めた。さらに,照射群においてDoseIIIを維持することが可能であった。軟部組織硬度の前後差はcap群-1.96±1.33N,res群-2.46±1.75N,ダミー群-0.67±2.44N,cnt群1.00±1.69Nであった。cnt群と比較しcap群(p=0.02)およびres群(p=0.02)にて軟部組織硬度の低下を認めた。足関節柔軟性の前後差は,cap群8.13±8.63mm,res群9.75±6.11mm,ダミー群8.88±7.00mm,cnt群0.13±12.36mmであった。cnt群と比較しres群(p=0.07)およびダミー群(p=0.06)にて足関節柔軟性の増加傾向を認めた。【考察】先行研究ではcap群,res群ともに約3℃の表面温度上昇が認められているが,本研究においてはcap群で約7℃,res群で約5℃の上昇が認められた。また,照射群でDoseIIIを維持することが可能であった。これより本研究では,出力を調節したことでより高い温熱効果をもたらすことが可能であったと考える。軟部組織硬度についてはcnt群に対し,cap群,res群で軟部組織硬度の低下が認められた。先行研究より温熱刺激はコラーゲン線維の伸張性を高め,軟部組織硬度の低下に作用することが報告されており,本研究においても類似した結果が得られた。足関節柔軟性について,本研究ではcnt群に対しres群,ダミー群で足関節柔軟性が増加する傾向を認めた。先行研究では,温熱刺激によって筋の伸張性が改善したと報告されており,本研究においてもこれに近い結果が得られたと考える。また,軟部組織に対する触圧刺激はマッサージ効果をもたらすと報告されている。本研究では導子による触圧刺激がマッサージ効果につながった可能性が示唆された。そのため,Tecnosixでは温熱効果だけでなく,導子によるマッサージ効果も期待される。【理学療法学研究としての意義】Tecnosix照射は軟部組織に対し,温熱効果を発揮することが知られているが,エビデンスは少なく,本実験はその効果を立証するものである。また,被験者の主観的温熱感に基づき出力を調節することで,より高い温熱効果をもたらす可能性が示唆された。今後,他の物理療法機器との比較や温熱以外の効果についても検証していく必要がある。なお,本実験における利益相反はない。