著者
伏田 幸平 長野 祐一郎
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.1502oa, (Released:2015-11-19)
参考文献数
50

競争は心臓血管反応を増大させることが知られている。これまで,競争相手の性質,勝敗の結果,精神活動などの効果が検討されてきた。しかし,競争環境の効果が生理活動に与える影響に関しては,まだよく知られていない。本研究では競争型コンピュータ・ゲームを用い,競争環境が生理反応に与える影響を検討した。20名の大学生が,対面競争 (FF) 条件とネットワーク (NW) 競争条件の両競争条件に参加した。各条件は,4分の安静,3分の課題,3分の回復期間で構成されていた。心拍数 (HR)・指尖容積脈波 (PV)・皮膚コンダクタンス (SC) が測定された。安静期のPVは対面競争条件の方が低い値を示し,これは競争相手の非言語情報により生じた緊張感が末梢組織の血管収縮を強めた結果であると考えられた。さらに,回復期のSCは対面競争条件の方が高い値を示し,これは競争相手の非言語情報の効果を反映していると考えられた。これらの結果から,競争環境は生理活動を左右する重要な要因の1つであると言える。
著者
吉村 貴子 苧阪 満里子 前島 伸一郎 大沢 愛子
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.199-208, 2010-12-31 (Released:2012-02-29)
参考文献数
36

もの忘れをはじめ,言語,遂行機能, 問題解決などの様々な認知機能障害を呈する疾患のひとつに認知症がある(DSM-IV)。リーディングスパンテスト(RST, Daneman & Carpenter, 1980)はワーキングメモリ(Working Memory: WM)を測定する検査のひとつであり,前頭葉機能を反映すると考えられている。本研究はSPECTによる局所脳血流(regional cerebral blood flow (rCBF))をRSTの成績に基づいて分析することにより,RSTの成績差からみた,もの忘れを訴える患者の脳循環動態の相違や,RSTの認知症診断における有用性について考察することを目的とした。対象は,もの忘れを主訴として来院した在宅高齢者33 名であった。検査は,高齢者版RST(苧阪,2002),MMSE,SPECTを実施した。RSTの成績を高得点群と低得点群に分けて,領域別rCBF について統計分析を行った結果,RST高得点群と低得点群のrCBFの間に有意差を認める脳領域があった。しかし,MMSEの成績によりMMSE高得点群とMMSE低得点群に分けて各rCBFを分析すると,いずれの脳領域のrCBFにおいても有意差を認めなかった。さらに,認知症タイプ間にも各脳領域のrCBFに有意差を認めなった。以上より,RSTの成績差に影響を与えると考えられる脳領域や,RSTの臨床的意義について考察をした。
著者
三木 盛登 入戸野 宏
出版者
Japanese Society for Physiological Psychology and Psychophysiology
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1-10, 2014

視聴者が動画に注意を向けるほど,動画とは無関係なプローブ刺激に対する事象関連電位のP3 (P300)成分の振幅が減衰する。本研究では,短い動画に対する主観的興味と脳波測度との相関を求めることにより,この知見を追試・拡張した。15名の大学生・大学院生が映画の予告編12本(<i>M</i>=143 s)を視聴した。視聴中に,痛みのない電気プローブ刺激(0.2 ms)を左手中指に5–7 s間隔で提示し,左手親指によるボタン押し反応を求めた。それぞれの予告編について印象評定を行った。6項目(興味ある,注意を引く,好き,快,目が覚めた,本編が見たい)のヴィジュアルアナログスケールの合成得点を"興味"得点として使用した。ステップワイズ回帰分析により,プローブ誘発P3振幅(β=-.20)と刺激が提示されない区間の後頭部アルファ帯域パワー(β=-.29)はどちらも興味得点を説明することが分かった。本研究により,単一電気プローブ刺激法が視聴者の興味を客観的に測る実験プロトコルとして有望であることが示された。
著者
中野 珠実
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.1303si, (Released:2013-11-25)
参考文献数
18
被引用文献数
3

デフォルト・モード・ネットワークは,外的な処理を行っているときは活動が低下し,内的な処理を行っているときに活動増加を示す神経ネットワークである.筆者らは,映像観察時の瞬きに関連して,脳の中では,デフォルト・モード・ネットワークが一過性に賦活する一方,注意の神経ネットワークの活動が一過性に抑制されることを発見した.行動研究により,映像情報の暗黙の切れ目で,人々が一斉に瞬きをしていたことから,瞬きは連続した視覚情報の分節化と関係していることが推測される.このことから,外的に注意を向けている状態でも,瞬目に伴い,拮抗する神経ネットワークの状態を一過性に変動させることで,注意を内的に解除し,情報の分節化が行われていることが示唆される.この発見により,デフォルト・モード・ネットワークは,内的処理を担っているだけでなく,他の神経ネットワークと相互作用することで,積極的な認知処理機能を担っている可能性が考えられる.
著者
豊巻 敦人 渡辺 隼人 柳生 一自 室橋 春光
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.41-49, 2013-04-30 (Released:2014-01-07)
参考文献数
21
被引用文献数
1

社会的認知の偏奇を中核障害とする自閉症スペクトラム障害においても安静時機能画像によるDefault mode networkを評価した検討が多くあるが必ずしも所見は一致していない。機能画像ではなく,脳波・脳磁図を用いたDefault mode networkの評価も関心が持たれてきおり,本研究では脳磁図による機能的結合の解析を行い,自閉症スペクトラム障害でDefault mode networkの異常の有無を検討した。信号源波形の位相同期性による機能的結合について自閉症スペクトラム障害ではベータ帯域において前部帯状皮質と後部帯状皮質の結合強度が低下している傾向が観察された。また内側面の局所的な結合強度の増大は,細部への注意やコミュニケーション能力と相関していた。これらのことから,脳磁図計測でも自閉症スペクトラム障害の認知特性に寄与するDefault mode networkの異常を評価出来ることが示された。