著者
越野 英哉 苧阪 満里子 苧阪 直行
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.1304si, (Released:2013-11-25)
参考文献数
111
被引用文献数
1

デフォルトモードネットワーク(Default Mode Network: DMN)は脳内ネットワークのひとつであるが,様々な認知課題遂行中に活動の低下を示すため,近年神経科学の分野で注目を集めている.ブレインイメージングにおいては,認知機能の神経基盤を探るにあたって,従来の構造と機能のマッピングから,最近はネットワーク間の競合や協調に注目するように観点が変化してきていると思われる.その際にネットワークを構成する領域がどのような状況で同じ活動を示し,またどのような状況では異なったネットワークの一部として活動するかという機能的異質性の問題は近年重要性を増している.これは大きな領域や,大規模ネットワークに関して特に問題になる.脳の領域と機能の間の関係は,特に連合野は,単一の領域が複数の機能に関係しまた単一の機能はそれが高次機能になればなるほど複数の領域の協調によって遂行されるという多対多の関係にある.また脳内ネットワークと機能の間の関係も一対一とは限らず,したがってある課題において同一のネットワークに属する領域も課題の状況によっては異なったネットワークに属することも考えられる.本稿ではこの機能的異質性の問題についてDMNを中心に検討する.
著者
山本 哲朗 林 光緒
出版者
Japanese Society for Physiological Psychology and Psychophysiology
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.249-256, 2006
被引用文献数
3

午後の眠気の抑制には短時間仮眠が有効であることが報告されている。しかし, 短時間仮眠が運動パフォーマンスを向上させるかどうかについては検討されていない。そこで本研究は, 短時間仮眠が運動パフォーマンスに及ぼす効果を検討した。運動部に所属する男子大学生10名が実験に参加した。彼らは14 : 00に仮眠をとるか (仮眠条件), 15分間新聞を読んだ (仮眠なし条件) 。仮眠条件では, 睡眠段階2が3分間出現した時点で起こした。15 : 00より自転車エルゴメータで, 参加者の限界に至るまで運動を続けた。その結果, 運動継続時間は仮眠条件の方が27秒長かった (<I>p</I><.05) 。運動中の心拍数に差はみられなかったが, 仮眠条件の方が, 主観的運動強度, 眠気が有意に低く, 活気も有意に高かった (<I>ps</I><.05) 。これらの結果は, 短時間仮眠が午後の運動パフォーマンスを改善させる効果があることを示唆している。
著者
渡邊 正孝
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.5-17, 2013-04-30 (Released:2014-01-07)
参考文献数
47

安静時には認知課題遂行時より大きな活動を示す脳部位がある。“デフォルト脳部位”と呼ばれるもので,主に大脳内側部に位置する前頭連合野内側部,前帯状皮質,後帯状皮質,楔前部などの部位からなる。デフォルト脳活動は“内的思考過程”に関係していると考えられており,それは言語的になされると考えられることから,デフォルト脳活動は動物にはないと考えられてきた。しかし最近の研究では,チンパンジー,サル,ラットにもデフォルト脳活動が認められ,動物にも言語を介さない原初的な内的思考過程があるのではないかとも考えられる。最近は社会性認知,社会性行動を支える社会脳に注目されているが,デフォルト脳部位と社会脳は大きくオーバーラップしていることがヒトでも動物でも示されており,デフォルト脳活動の機能的意義は,社会性認知,社会性行動に関わる内的思考を担うことにあるのではないか,と考えられている。
著者
中村 航洋 川畑 秀明
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.1602ci, (Released:2017-07-08)
参考文献数
76
被引用文献数
1

脳機能画像技術の発展に伴い,人が主観的に経験する美がどのような脳神経過程によって生み出されているかを研究する神経美学が近年注目を集めている。これまでの脳機能画像法による計測から,視覚芸術や人間の身体に対して主観的に美が経験されている際には,情動的処理システム,認知的処理システム,感覚運動的処理システムの少なくとも3つの機能的に独立した神経システムが駆動することが示されてきた。情動的処理システムは美の知覚に伴う快情動の経験において中核的役割を果たし,脳の報酬系を構成する眼窩前頭皮質や腹側線条体の神経活動は美的評価の程度と相関する。また,認知的処理システムは美的印象評価の決定に必要とされる情報の統合を担い,背外側前頭前野の関与が指摘されてきている。さらに,具象画や顔,身体像などの知覚処理を担う感覚運動的処理システムは,対象に特定的な知覚処理のみならず,対象の視覚美も表現していることが明らかになってきた。近年では,このような美的経験の神経基盤を計測するのみならず,経頭蓋磁気刺激や経頭蓋直流電気刺激などの脳刺激法を導入した研究も行われ,美的経験はその背後にある神経活動状態を脳刺激によって修飾することで操作されることが明らかになってきた。こうした脳機能画像法と脳刺激法による神経美学的研究から,美は報酬価値表象,意思決定,感覚運動に関わる神経システムの複雑な相互作用によって生み出されていることが示唆される。
著者
石田 修 勝二 博亮 飯村 大智 宮本 昌子
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.2314si, (Released:2023-12-01)
参考文献数
25
被引用文献数
1

発話の流暢性障害である吃音者は,遅延聴覚フィードバック(DAF)下では非流暢性発話が増加する場合や減少する場合があり,その個人差が生じる要因は明らかにされていない。本研究では,吃音者10名を対象にDAF下の音読と触覚・音声刺激への単純反応を求める二重課題の実験パラダイムを用い,NIRSを用いた脳血流計測の結果からDAF下の音読で発話が非流暢/流暢になる機序を検討した。その結果,DAF下で非流暢性が増加した非流暢性増加群8名と,減少した非流暢性減少群2名に分かれたが,群のサンプルサイズに偏りがみられたため,脳血流は非流暢性増加群を対象に分析した。非流暢性増加群は,触覚条件において能動的な注意の配分に関与する右上前頭回近傍と右上頭頂回近傍が活性化していた。そのため,触覚モダリティの標的に能動的に注意を配分し,逸脱刺激である遅延音声を無視しながら音読している可能性が推察された。これらの特異的な活動がDAF下における非流暢性発話の減少と関係しているものと考えられる。
著者
杉山 敏子 出多 英興
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.255-265, 2007-12-31 (Released:2012-11-27)
参考文献数
39
被引用文献数
2 1

本研究は健常成人の内因性 (自発性) 瞬目の諸属性についてその標準値を得ることを第一の目的とし, さらに年齢差, 性差, コンタクトレンズ装着の影響などを検討した。実験参加者は20歳代から93歳までの男女成人617名で, 共通の課題として3分間に編集したビデオ刺激の視聴を課し, その際の瞬目をビデオに記録し解析した。結果は, (a) 成人の標準的な瞬目率はほぼ20/分であった, (b) 女性の方が高頻度傾向という性差が認められたが, (c) 著明な年齢差は認められなかった。さらに, 開瞼時間, 閉瞼時間, 左右眼瞼の同期の程度, 瞬目の時間分布, メガネやコンタクトレンズの影響などを性と年齢段階別に解析した。その結果, コンタクトレンズ装着者は非装着者に比べて瞬目率が高いことが明らかになった。
著者
筒井 健一郎 渡邊 正孝
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.5-16, 2008-04-30 (Released:2012-11-27)
参考文献数
43
被引用文献数
3

本論文では, 脳内の報酬系にかかわる最新の知見を取り上げてレビューする。黒質緻密部 (SNc) および腹側被蓋野 (VTA) のドーパミン細胞は, 側坐核, 背側線条体, 辺縁系, および前頭連合野など, さまざまな報酬関連領域に軸索を投射しており, 報酬の脳内表現に重要な役割をはたしている。ドーパミン細胞が報酬の予測誤差の検出に関わっているのに対して, 側坐核や辺縁系に属する複数の脳領域は, 報酬から快感や喜びを生じさせることに関わっている。背側線条体は, 特定の刺激や行為の価値を学習することに関わっており, パブロフ型および道具的条件づけの成立に重要な役割を果たしている。前頭連合野は, 行為を実行したり将来の行動を組織化したりするための動機づけの支えとなる, 短期および長期の報酬期待に関わっている。また, 行動選択肢の評価, 行おうとする行為の検討や, 行為の結果のモニタリングなどに関わることにより, 報酬情報に基づいた意思決定に重要な役割を果たしている。
著者
杉本 史惠 片山 順一
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.18-28, 2014-04-30 (Released:2015-03-19)
参考文献数
21
被引用文献数
1

本研究は,体性感覚プローブ刺激と聴覚プローブ刺激に対するP300の振幅がトラッキング課題の難度を反映するか検討し,この難度の効果がプローブ刺激のモダリティによって異なるかを調べた。実験参加者はトラッキング課題中に,体性感覚または聴覚オドボール課題を二次課題として行った。手首と指への電気刺激と,2種類の音刺激を標準(呈示確率.80)または標的(.20)プローブ刺激として呈示した。参加者は標的プローブ刺激に対してマウスのボタン押し反応を行った。標的刺激に対するP300振幅は体性感覚と聴覚プローブどちらに対しても,トラッキング課題の難度が低い場合に比べて高い場合に減衰した。本研究はプローブ刺激に対して二次課題を行う手続きにおいて,体性感覚プローブ刺激と聴覚プローブ刺激に対するP300が主課題への注意配分量に対して同程度の感度を持つことを示す。

3 0 0 0 OA 一般演題II

出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.100-178, 2013-08-31 (Released:2014-06-26)
著者
中川 紗江 鈴木 直人
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.181-191, 2013-12-31 (Released:2014-10-29)
参考文献数
32

本研究の目的は,不快感情が喚起されている時に意図的に笑顔を表出することによって生じる主観的な感情と表情の違いが,心臓血管系反応に及ぼす影響を検討することである。42名の実験参加者が2本の短い映像を視聴した。それぞれの群ごとに嫌悪映像(不快刺激群),楽しい映像(快刺激群),中性映像(中性刺激群)を2本ずつ使用した。実験参加者は,一方の映像は意図的に笑顔を表出しながら視聴するよう求められ(笑顔条件),もう一方の映像は自然な表出で視聴するよう求められた(自然条件)。実験参加者が映像を視聴している間,心臓血管系反応測定した。さらに,実験参加者が視聴し終わった後も心臓血管系反応を継続して測定した。その結果,笑顔条件において全ての群の収縮期血圧および拡張期血圧の値が上昇した。しかしながら,心拍数は快群において上昇した一方,不快群では減少した。不快群の心臓血管系反応パターンは,α-アドレナリン作動性収縮によって引き起こされるパターンII反応に類似している。心臓血管系の活動に関する研究において,このパターンはしばしば不適応な反応の指標としてみなされる。したがって,これらの結果は,感情価のズレが不適応的な生理反応を引き起こす可能性を示唆している。
著者
山川 香織 大平 英樹
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.40-52, 2018 (Released:2020-03-13)
参考文献数
81
被引用文献数
1

過度のストレスに曝されるような危機的な状況において,われわれは不合理な選択をしてしまうことがある。危機的状況によって生じた自律神経系,内分泌系,免疫系などの生物学的反応は,情報の更新や感情処理などに関連する脳領域を修飾しヒトの意思決定を変容させる。これまでの研究により,異なる時間的特性をもつそれぞれの生物学的反応が,認知・行動に特異的な影響を与える可能性が示されている。本論では,急性ストレス暴露が意思決定に与える影響およびその背景にある認知機能に関する実証的知見を概観する。そして基盤となる神経・生物学的メカニズムについて時間的要因の観点から考察し,その適応的役割について論ずる。
著者
大湾 麻衣 入戸野 宏
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.169-176, 2020-12-31 (Released:2021-03-19)
参考文献数
25

ハイレゾリューション音源はCDより時間方向あるいは振幅方向の解像度が高く,その高周波成分が生理状態に影響を及ぼすという報告がある。本研究では192 kHz/24 bitで録音された自然環境音(オリジナル音源)にフィルタをかけ,高周波成分(>22 kHz)をカットした2種類の音源(サンプリング周波数192 kHzと44.1 kHz)を作成した。24名の大学生が3種類の音刺激をランダムな順で聴取した。脳波のシータ帯域(4.0―8.0 Hz)とスローアルファ帯域(8.0―10.5 Hz)のトータルパワーは,サンプリング周波数が高い音を聴取しているときの方が高くなった。主観的気分や音質評価には明瞭な条件差が認められなかった。この結果は,CDよりもサンプリング周波数が高い音源は,意識的に違いに気づかなくても生理状態に影響を及ぼすことを示唆している。
著者
平 伸二
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.57-70, 2009-04-30 (Released:2010-12-28)
参考文献数
61
被引用文献数
3 2

本稿は,脳機能の指標として記録される,事象関連電位(ERP)と機能的核磁気共鳴画像(fMRI)によるconcealed information test(CIT)に関する最近の研究を主に論述した。ERPによるCIT研究によると,犯罪捜査への実務応用に最も有望な指標は,被験者の課題に関連し,まれで有意味な事象に対して生起するP300である。しかしながら,ERPによるCITに対するカウンタメジャーへの対抗策と個別判定の基準が,犯罪捜査に応用する前に確立されなければならない。fMRI研究のほとんどは,被験者が本当のことを言うより,嘘をつくときに前頭前野の大きな賦活を示している。しかしながら,これらの研究は,2つの目的に分かれており,1つ目が嘘に伴う機能的な神経解剖学と認知処理への関心,2つ目がCITをさらに洗練させることに向けられている。今後,CIT手続きに基づく研究が,犯罪捜査のために必要であろう。
著者
黒原 玄弥 小川 景子
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.2012oa, (Released:2020-12-10)
参考文献数
40

画像の色は,感情画像によって喚起される感情の処理を促進させる。感情処理過程に関連する事象関連電位について,初期後頭陰性電位 (early posterior negativity: EPN) はモノクロ画像よりもカラー画像で振幅が増大するのに対し,後期陽性電位 (late positive potential: LPP) に対する色の影響は一貫していない。色は画像の大域的な認識も容易にする。そこで本研究では,画像内容の識別が困難な不鮮明画像(低周波通過処理画像)を用いることで,画像の色が感情に関連する主観および生理指標(EPNとLPP)に影響を及ぼすか検討した。参加者に対して,快/中性/不快画像の感情価を判断する課題を実施し,課題中の脳波を測定した。検討の結果,快/中性画像では,カラー画像の方がモノクロ画像と比べ主観的に快と評定された。画像の鮮明性に関わらず,EPN振幅はモノクロ画像よりもカラー画像で増大したのに対して,LPP振幅に色の影響は観察されなかった。本研究結果から,画像の色は,画像の鮮明性に関係なく,感情画像の初期の知覚を促進し,感情画像の主観評定にも影響を及ぼすことが明らかになった。
著者
広重 佳治
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.1617re, (Released:2018-03-30)
参考文献数
31

WolfsonとCarskadon (1998)の科学論文は,たとえば性的思春期,学校スケジュール(始業時刻)そして学業成績などの重要な要因が青年期の子どもの就床時刻と起床時刻の遅れに影響を与えていることを強調し,そうした睡眠習慣の乱れが今度は日中の活動性の低下を招く可能性があるとした。本稿は彼らの研究の意義をわが国の睡眠教育との関連から再考した。まず,彼らの研究は子どもの睡眠習慣の疫学的,発達的アプローチの教育的意義を明確した。第2に,2002年の日本学術会議で承認された新しい学際的な睡眠科学である睡眠学の創設に寄与した。第3に,環境的圧力(学校スケジュール)が青年期の子どもの睡眠に与える影響を批判的に論じた。それは始業時間の遅延や昼休み中の仮眠の効果を実験的に検討する近年の研究を触発している。特筆すべきはWolfsonと Carskadon自らの結果を睡眠パターンと学業成績の1対1の対応関係を示すものではないと慎重に考察している点である。しかし,そうした考察は睡眠パターンを従属変数および独立変数として理解する点においてわが国の睡眠学には十分な紹介がされていないように思われる。もっとも注目される彼らの知見の一つは,学業を適切にこなすには少なくとも7時間20分の睡眠時間が青年期の子どもたちには必要であり,そうでなければ貧弱な睡眠習慣が日中の気分や行動に悪影響を与える可能性が大きくなるという事実である。これは青年期の子どもたちの睡眠をできる限り優先する環境の調節を必要としているということであり,わが国においても同様のことが言えよう。
著者
稲垣 杏太 小野田 慶一 山口 修平
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.1716oa, (Released:2019-08-27)
参考文献数
43

小脳が運動機能に関連することは広く知られているが,近年の研究は非運動機能にも小脳が関与することを実証してきた.小脳の寄与は運動の場合,無意識的な処理にまで及ぶが,非運動機能の無意識的処理に小脳が関わるかは明らかではない.そこで本研究では,閾下呈示された感情表情に対する処理において小脳が関与するかどうか,機能的MRIを用いた実験によって検証した.右小脳皮質の第Ⅵ小葉は,閾上呈示された怒り表情画像に対して顕著な活動を示したが,閾下呈示された表情画像に対しては特異的な活動を示さなかった.本研究の結果にもとづけば,小脳は無意識的な情動処理に寄与しないことが示唆される.