著者
広重 佳治
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.66-76, 1995 (Released:2012-11-27)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

覚醒・睡眠移行時における様々な意識体験を25名の女子学生より聴取した.強制覚醒前3分間のポリグラフ記録は標準的睡眠段階と緩徐眼球運動 (SEM) の変動性を反映した5つのEEG-EOG段階に分類された : W (低頻度のSEMを伴う標準的段階W), D1 (高頻度のSEMを伴う標準的段階W), D2 (高頻度のSEMを伴う標準的段階Wと1), D3 (高頻度のSEMを伴う標準的段階1と2) およびS (低頻度のSEMを伴う標準的段階2と3+4).睡眠感と眠気はEEG-EOG段階の関数として増加したが, SEMが睡眠感と直接関係した.視覚心像は段階Wを除くすべての段階で報告され, その半数は夢見あるいは幻覚の印象を伴い, 経過時間の過小評価と相関した.思考は段階D1とD2では未来定位, 現実定位および過去定位を含んだ多様な内容をみせたが, 段階D3とSでは曖昧さが増して内容忘却が優勢となった.こうした混沌とした思考活動はしばしば視覚心像とともに生じた.
著者
入戸野 宏
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.275-290, 2004-12-31 (Released:2012-11-27)
参考文献数
41
被引用文献数
3 8

反復測定を含む実験計画で得られたデータに分散分析を実施することは, 心理生理学の研究で広く行われている.しかし, 研究者が適切な統計手法を選ぶことは往々にして難しい.本稿は, 心理生理学データに反復測定の分散分析を行うときの, 統計学的に妥当で, 容易に実施できる手続きについて述べたものである.取り上げたのは, 単変量・多変量分散分析の比較, 誤差項の選択, 単純効果と交互作用対比の検定, 多重比較, 効果量といった話題である.典型的な統計検定の流れを数値例を用いて解説する.
著者
小野田 慶一
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.231-238, 2015-12-31 (Released:2017-03-08)
参考文献数
20
被引用文献数
6

脳は複雑なネットワークであり,特性や状態によって変化する動的な存在である。グラフ理論解析により,こうした脳ネットワークを神経生物学的に有意義な,かつ計算の簡単な指標によって特徴づけることが可能である。本稿では,脳の結合データからネットワークを構築する手法に関して議論し,脳機構の機能分離,機能統合,中心性などを定量化するネットワーク指標を説明する。最後に,グラフ理論解析に用いられるツールを紹介する。
著者
宮田 洋
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.225-234, 2009 (Released:2011-02-14)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

1904年にPavlovはノーベル生理学・医学賞を受けた。その受賞対象となったイヌの主要消化腺の働きに関する研究が偽飼法,小胃法,唾液瘻,膵臓瘻の研究と共に概説された。また,1901年から3年にわたり候補者として推薦されながら受賞できなかった主な理由,1904年の受賞時の様子,受賞後のPavlovの研究や生活,心理学に与えた影響などが述べられた。
著者
山本 哲朗 林 光緒
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.249-256, 2006-12-31 (Released:2012-11-27)
参考文献数
30
被引用文献数
2 3

午後の眠気の抑制には短時間仮眠が有効であることが報告されている。しかし, 短時間仮眠が運動パフォーマンスを向上させるかどうかについては検討されていない。そこで本研究は, 短時間仮眠が運動パフォーマンスに及ぼす効果を検討した。運動部に所属する男子大学生10名が実験に参加した。彼らは14 : 00に仮眠をとるか (仮眠条件), 15分間新聞を読んだ (仮眠なし条件) 。仮眠条件では, 睡眠段階2が3分間出現した時点で起こした。15 : 00より自転車エルゴメータで, 参加者の限界に至るまで運動を続けた。その結果, 運動継続時間は仮眠条件の方が27秒長かった (p<.05) 。運動中の心拍数に差はみられなかったが, 仮眠条件の方が, 主観的運動強度, 眠気が有意に低く, 活気も有意に高かった (ps<.05) 。これらの結果は, 短時間仮眠が午後の運動パフォーマンスを改善させる効果があることを示唆している。
著者
宮田 洋
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.255-261, 2012 (Released:2013-07-14)
参考文献数
54

I.P. Pavlovの86年の生涯と約60年におよぶ研究が,16編の資料に基づいて年譜の形式で70項目にわたって概観されている。Pavlovの研究には3つのテーマがあり,第1は1873-1883年に行われた膵臓及び心臓の神経支配の研究である。第2は1886-1901年に行われた消化腺活動に関する研究で,この研究に対して1904年にノーベル生理学・医学賞が授与された。最後の研究は1902-1935年にわたり行われた条件反射による大脳両半球の働きについての研究である。年譜には,Pavlovの研究に対して欧米・日本で行われた生理学および心理学的関連の事項61項目が対比されている。
著者
小野田 慶一
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.29-44, 2010 (Released:2011-08-26)
参考文献数
92
被引用文献数
1 1

人間は社会的動物であり, 望ましい関係性から排斥されたときに悲痛な感情を経験する。このネガティブな感情は社会的痛みと呼ばれる。多くの動物実験及び画像研究の知見から, 身体的痛みと社会的痛みはその機能と神経機序を共有していることが示されてきた。本稿では, 背側前帯状回が身体的痛みと社会的痛みの共有システムに重要な役割を果たし, 鎮痛作用のあるオピオイドは社会的痛みをも減弱または消失させることを示した知見を紹介する。さらに, 社会的痛みの進化, 発達, 個人差に関しても概説する。社会的痛みの個人差に関しては先天的 (遺伝的)・後天的 (社会的) な要因の双方に言及している。また, 社会的排斥に対するサポートの効果に関しても議論する。最後に社会神経科学における排斥研究の展望を述べる。
著者
林 光緒 堀 忠雄
出版者
Japanese Society for Physiological Psychology and Psychophysiology
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.45-59, 2007
被引用文献数
7

眠気は, 午後に頻繁にみられる現象であり, これがいわゆるパフォーマンスにおける「昼食後の低下」を招いている。近年, 30分以下の短時間仮眠が日中の覚醒水準の維持にポジティブな効果を持つことが明らかにされてきた。これらの仮眠は徐波睡眠を含まないため, 起床直後の睡眠慣性は少ない。カフェインや高照度光, 音楽や洗顔, 自己覚醒法は, 睡眠慣性を低減するとともに, 短時間時間仮眠の効果を高めることが指摘されている。
著者
辻井 岳雄 山本 絵里子 渡辺 茂
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.41-48, 2008-04-30 (Released:2012-11-27)
参考文献数
40

抗ヒスタミン薬は, アレルギー疾患の治療薬として広く臨床で用いられる薬物であるが, 旧世代の抗ヒスタミン薬 (例 : ケトチフェン) は, 眠気・ふらつき・認知パフォーマンスの低下などの副作用を招くことが指摘されてきた。一方, 新世代の抗ヒスタミン薬 (例 : エピナスチン) は, 抗アレルギー作用が強く, かつ中枢神経の抑制作用が低いことが知られている。本論文は, 記憶認知とその神経相関に及ぼす抗ヒスタミン効果について, 近赤外分光法 (NIRS : near-infrared spectroscopy) を用いた最新の研究成果を紹介し, 特に小児神経薬理学の分野におけるこの手法の有効性について議論した。
著者
中野 珠実
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.19-26, 2013-04-30 (Released:2014-01-07)
参考文献数
18
被引用文献数
3

デフォルト・モード・ネットワークは,外的な処理を行っているときは活動が低下し,内的な処理を行っているときに活動増加を示す神経ネットワークである。筆者らは,映像観察時の瞬きに関連して,脳の中では,デフォルト・モード・ネットワークが一過性に賦活する一方,注意の神経ネットワークの活動が一過性に抑制されることを発見した。行動研究により,映像情報の暗黙の切れ目で,人々が一斉に瞬きをしていたことから,瞬きは連続した視覚情報の分節化と関係していることが推測される。このことから,外的に注意を向けている状態でも,瞬目に伴い,拮抗する神経ネットワークの状態を一過性に変動させることで,注意を内的に解除し,情報の分節化が行われていることが示唆される。この発見により,デフォルト・モード・ネットワークは,内的処理を担っているだけでなく,他の神経ネットワークと相互作用することで,積極的な認知処理機能を担っている可能性が考えられる。
著者
鈴木 博之
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.17-34, 2007-04-30 (Released:2012-11-27)
参考文献数
53

近年の研究は睡眠中にも覚醒時と同様に情報処理が行われていることを示している。本論文は睡眠中の情報処理を1) 入力 : 睡眠中の外部刺激への反応, 2) 処理 : 睡眠中に起こる学習した記憶の固定と向上, 3) 出力 : 夢出現の時間的特性と夢内容の特徴, の観点から概観する。睡眠中は外部の刺激への反応が減少するが, 注意や動機づけといった心理的機能は維持されている。ある種の手続き記憶と宣言的記憶の向上には練習後の睡眠が必要である。夢は朝方に頻繁に起こり, 変化した意味記憶の連合が独特な夢の内容と関連している。睡眠中の情報処理に関する研究の発展は人間の認知機能と心的活動のさらなる理解を提供するであろう。
著者
林 光緒 堀 忠雄
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.45-59, 2007-04-30 (Released:2012-11-27)
参考文献数
95
被引用文献数
3 7

眠気は, 午後に頻繁にみられる現象であり, これがいわゆるパフォーマンスにおける「昼食後の低下」を招いている。近年, 30分以下の短時間仮眠が日中の覚醒水準の維持にポジティブな効果を持つことが明らかにされてきた。これらの仮眠は徐波睡眠を含まないため, 起床直後の睡眠慣性は少ない。カフェインや高照度光, 音楽や洗顔, 自己覚醒法は, 睡眠慣性を低減するとともに, 短時間時間仮眠の効果を高めることが指摘されている。
著者
小野田 慶一
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.1510tn, (Released:2016-04-05)
参考文献数
20
被引用文献数
6

脳は複雑なネットワークであり,特性や状態によって変化する動的な存在である。グラフ理論解析により,こうした脳ネットワークを神経生物学的に有意義な,かつ計算の簡単な指標によって特徴づけることが可能である。本稿では,脳の結合データからネットワークを構築する手法に関して議論し,脳機構の機能分離,機能統合,中心性などを定量化するネットワーク指標を説明する。最後に,グラフ理論解析に用いられるツールを紹介する。
著者
山口 健治 櫻井 芳雄
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.203-212, 2013-12-31 (Released:2014-10-29)
参考文献数
12

本稿では,Arduinoマイコンを用いたリアルタイムでのオペラント箱制御方法およびデータロギングの方法について解説する。Arduinoマイコンは廉価で扱い易いマイコンであるが,神経科学の様々な行動実験で使用するためには十分な性能を持っている。本稿ではまずArduinoマイコンについて解説し,デジタル入出力装置としての使い方を説明する。加えて,Arduinoマイコンを用いた行動データのロギング方法を紹介する。この方法は外部記憶装置を用いる方法よりも優れた点を持っている。最後に,Arduinoマイコンを用いた行動神経科学の実験例として,我々の研究における方法を紹介する。
著者
小島 政滋 山崎 勝男 宮田 洋
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.61-70, 1992

本研究は, 入眠期における脳波, 眼球運動, 行動指標, 主観的睡眠体験を測定し, これらの時間特性及び各指標間の対応関係を検討した.被験者には言語刺激 (羊が1匹-700匹) を提示し, 内容 (羊の数) を記憶させながらボタン押しを行わせて昼間睡眠を取らせた.覚醒後に記憶していた羊の数を再生させた.本研究では, 被験者が初めて再生を失敗した時点を主観的睡眠体験の発生時点とした.α%, SEM<SUB>s</SUB>出現数, 運動反応率及び反応時間を測定し分析の対象とした.その結果, α%と運動反応率の間に正の相関, 運動反応率と反応時間, およびα%と反応時間の間に負の相関が認められた.また, α%と運動反応率は主観的睡眠体験の発生後に顕著な低下を示した.これらの結果は, 入眠期における脳波と行動指標が主観的睡眠体験と強く相関しながら変動することを示している.
著者
小野田 慶一
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.2204si, (Released:2022-08-27)
参考文献数
136
被引用文献数
1 1

意識は長らく哲学や心理学において扱われてきたが,近年漸く神経科学の正当な研究対象として扱われるようになってきた。そこでは意識を科学的に扱うための実験的アプローチや情報理論に基づく数理的研究が進展してきた背景がある。本稿では神経科学における意識研究がどのように意識の問題に取り組んできたかを概観する。さらに意識と脳の複雑性の連関を踏まえた上で,統合情報理論に基づき意識の神経基盤を探求した自身の研究を紹介する。