著者
中尾 敬 大平 英樹 Georg Northoff
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.45-55, 2010 (Released:2011-08-26)
参考文献数
49
被引用文献数
1

多くの意思決定研究では予測しやすいもしくは予測しにくい一つの正答がある事態について検討がなされてきた。意思決定に伴う結果が確率的に変化する, もしくは他者の決定により変化するために予測困難な事態(予測可能性が低い事態)は不確実下における意思決定として研究がなされてきた。このような意思決定とは異なり, 全く正答の存在しない事態における意思決定というものも存在する。本論文では, 一つの正答のある, そして正答のない事態における意思決定研究をレビューし, それらの研究において観察されている内側前頭前皮質内の活動部位の違いを比較した。その結果, 一つの予測可能性の低い正答のある意思決定と正答のない意思決定の両方で内側前頭前皮質の上部に活動が認められていることが明らかとなった。このことは不確実性という概念の再考とMPFCの機能についての示唆を与えるものである。
著者
井澤 修平 吉田 怜楠 大平 雅子 山口 歩 野村 収作
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.245-249, 2016-12-30 (Released:2018-10-06)
参考文献数
8
被引用文献数
4

爪に含まれるコルチゾールは過去の比較的長期的なホルモンの動態を反映すると考えられているが,その標準的な定量方法についてはまだ確立されたものがない。本研究では爪試料の粉砕粒度や抽出時間が爪試料から抽出されるコルチゾール量に与える影響を検討した。健常な男性14名から手の爪を採取した。爪試料を1, 4, 16分間粉砕し,粉砕粒度の条件(粗い,中程度,細かい)を設定した。また,粉砕した検体はメタノールにより抽出処理を行うが,本研究では抽出時間を1, 6, 24, 48時間の4条件に設定した。上澄み液にろ過処理を施し,蒸発乾固させた後に,最終的にコルチゾールの抽出量を酵素免疫測定により評価した。粉砕粒度と抽出時間を要因とした分散分析を行った結果,粉砕粒度が細かいほど,また抽出時間が長いほど,コルチゾールの抽出量が多いことが示された。また,粉砕粒度と抽出時間の交互作用が有意であり,爪試料が中程度以上に粉砕されていて,かつ抽出時間が48時間の条件では,粉砕粒度の影響は小さいことも示された。本研究では粉砕粒度や抽出時間が爪からのコルチゾールの抽出量に影響を与えることを明確に示した。爪からコルチゾールを測定する際はこれらの要因にも留意する必要性が示された。
著者
三木 盛登 入戸野 宏
出版者
Japanese Society for Physiological Psychology and Psychophysiology
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
2014

視聴者が動画に注意を向けるほど,動画とは無関係なプローブ刺激に対する事象関連電位のP3 (P300) 成分の振幅が減衰する。本研究では,短い動画に対する主観的興味と脳波測度との相関を求めることにより,この知見を追試・拡張した。15名の大学生・大学院生が映画の予告編12本 (<i>M</i> = 143 s) を視聴した。視聴中に,痛みのない電気プローブ刺激 (0.2 ms) を左手中指に5--7 s間隔で提示し,左手親指によるボタン押し反応を求めた。それぞれの予告編について印象評定を行った。6項目 (興味ある,注意を引く,好き,快,目が覚めた,本編が見たい) のヴィジュアルアナログスケールの合成得点を"興味"得点として使用した。ステップワイズ回帰分析により,プローブ誘発P3振幅 (β = -.20) と刺激が提示されない区間の後頭部アルファ帯域パワー (β = -.29) はどちらも興味得点を説明することが分かった。本研究により,単一電気プローブ刺激法が視聴者の興味を客観的に測る実験プロトコルとして有望であることが示された。
著者
川本 大史 入戸野 宏 浦 光博
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.33-40, 2011-04-30 (Released:2012-02-29)
参考文献数
22

人は他者から受け入れられているかどうかに対して敏感に反応する。社会的排斥は個人の感情や行動に多様な影響を及ぼす。しかし,集団から受け入れられていると感じる状況において他者から選択されなかったときに,排斥と類似した反応が生じるかは不明である。本研究では,そのような小拒絶に対する認知過程について,コンピュータ上で簡単なキャッチボールを行うサイバーボール課題を用い,事象関連電位(event-related potential: ERP)を測定することによって検討した。その結果,投球後約200 ms 後に,参加者に投球されたとき(受容試行)と比較して,投球されなかったとき(小拒絶試行)に,陰性のERP 成分であるfERN が惹起された。fERN は予測より悪かった事象に対して生じることが知られている。本研究の結果から集団の中で他者から選択されないことはネガティブに知覚されることが示唆された。
著者
小川 時洋 松田 いづみ 常岡 充子
出版者
Japanese Society for Physiological Psychology and Psychophysiology
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
2015
被引用文献数
2

隠匿情報検査(CIT)時の生理反応の特徴は,この分野の研究トピックスであり続けている。本研究では,関連項目の数が1個の場合と複数ある場合とで,生理反応および自己報告された感情を比較した。実験参加者は,模擬窃盗でアクセサリーを1個ないし3個盗むことを求められた。また,色の名前を示すカードを3枚ないし1枚,ブラインドで選択するよう求められた。次に実験参加者は,盗んだアクセサリーもしくは選んだ色の名前を尋ねるCITを受けた。生理測度における関連-非関連項目の差異は,関連項目が3個の場合には,関連項目が1個の場合に比べて小さくなった。自己報告測度は,実験参加者が関連項目提示時に驚きや緊張を感じていたことを示した。しかしながら,質問中の関連項目の数は,自己報告尺度の感情には影響しなかった。これらの結果は,CITの項目を感情喚起刺激とするプロセスの存在を示唆する。
著者
澤田 幸展
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.257-271, 2006-12-31 (Released:2012-11-27)
参考文献数
58
被引用文献数
3 1

ストレス負荷時心臓血管系血行動態の中心的指標が血圧 (BP) 反応性であるとの考え方 (澤田, 1990) を, 再び取り上げる。この考え方は, BP目標値仮説によって根拠づけられ, また, 血行力学的反応パターン仮説によって補足されるものである。最近の知見に従って, 本評論では, 恐らくもっとも影響力の強い要因であるアドレナリン作動性受容体感度に焦点を当てる。本要因は, BP目標値と実際のBP制御量との乖離を生じさせるものである。この認識から, BP反応性は個人内で比較可能である, との考え方が得られる。というのも, アドレナリン作動性受容体感度が, 比較的短期の観察では一定なためである。同様に, それらの平均がほぼ等しければ, 群間での比較も可能である。これらの考察を踏まえ, 上記の諸仮説が, 心理生理学的に興味深い二つのテーマへ適用される。すなわち, 心理生理学的虚偽検出 (被疑者内でアドレナリン作動性受容体感度が一定), 並びに, 失感情症 (失感情のある者とない者のあいだで平均アドレナリン作動性受容体感度が近似), である。
著者
白川 由佳 北 洋輔 鈴木 浩太 加賀 佳美 北村 柚葵 奥住 秀之 稲垣 真澄
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.2302si, (Released:2023-06-24)
参考文献数
59

発達性協調運動障害(DCD)は,協調運動技能の獲得や遂行に著しい困難を示す神経発達症である。本研究では,DCDにおける協調運動障害の神経学的な機序の解明を目指し,遺伝子多型に基づく脳内DA濃度と,運動反応抑制に関わる神経活動の両者が,協調運動機能に及ぼす影響を検討した。成人97名を対象に,DA関連遺伝子多型,運動反応抑制にかかわる事象関連電位および協調運動機能を評価した。その結果,脳内DA濃度の高い場合には,協調運動機能の低下が認められなかった。一方で,脳内DA濃度の低さと運動反応抑制にかかる神経活動の低下が重畳する場合に,バランス機能の低下が認められた。これらの結果は,複数の要因が重畳した場合に,協調運動障害が顕在化する可能性を示唆するものである。
著者
玉置 應子
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.2108si, (Released:2021-12-17)
参考文献数
109

人はなぜ眠るのか?この疑問は何世紀にも渡り問われ続けてきたものの,未だに統一見解に至っていない。ノンレム睡眠が学習・記憶に貢献することが報告され,システムコンソリデーション仮説やシナプス恒常性仮説など,複数の仮説が提案された。しかし,レム睡眠については,未だ議論の余地がある。本項では,視覚学習を中心として,ヒトの学習における睡眠の役割について,これまでに蓄積されてきた知見に加えて,新しい脳機能計測技術を用いて明らかにされてきた研究成果を述べる。特に,MRスペクトロスコピーと睡眠ポリグラフの同時計測により,ヒトの睡眠中の興奮抑制バランスを計測することも可能になった。この技術を用いることで,ノンレム睡眠とレム睡眠中には,視覚システムにおいて脳の変化のしやすさ(脳の可塑性)が変動し,オフラインゲインと干渉に対する頑健さという,学習の異なる側面に,それぞれの睡眠が貢献することが明らかになってきた。
著者
林 光緒 荻野 裕史
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.52-64, 2021-04-30 (Released:2022-03-23)
参考文献数
61

入眠困難は,生理的覚醒だけでなく不安や懸念などの認知的覚醒によっても生じると考えられている。しかし認知的覚醒によって入眠過程のどの部分が妨害されるのかについては明らになっていない。本研究は,9つの脳波段階を用いて入眠努力が入眠過程に及ぼす影響を検討した。睡眠愁訴をもたない健常な男子大学生(9名,21―23歳)が2夜の実験に参加した。彼らは眠くなったら眠る(中性条件)か,できるだけ早く眠る(努力条件)よう教示された。その結果,努力条件において,脳波段階1(α波連続期)と4(平坦期)の出現時間延長した。これらの結果から,入眠努力は覚醒系の活動が低下する入眠期初期にのみ影響を及ぼす可能性が示唆された。
著者
榊原 雅人
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.2209si, (Released:2022-10-29)
参考文献数
120
被引用文献数
1

生理心理学や関連領域において心拍変動は自律神経活動を検討する目的でひろく利用されている。本稿は心拍変動の分析を用いた心理生理学的状態の評価と心拍変動の増大に関わる臨床的応用(心拍変動バイオフィードバック)について解説した。はじめに,心拍変動の高周波成分(呼吸性洞性不整脈)は統制された条件のもとで信頼性の高い迷走神経活動の指標となり,これを利用してさまざまな行動的課題(すなわち,ストレスやリラクセーション)に対する心理生理学的反応性を評価できることを示した。一方,迷走神経制御の特徴から呼吸性洞性不整脈は迷走神経活動の指標というよりはむしろ心肺系の休息機能を反映する内因性指標であると考えられ,これを利用して日常場面に関わる心理生理的状態を評価できることを示した。次に,心拍変動の増大に関わる臨床的応用の文脈から,心拍変動バイオフィードバック研究の起源,臨床的な有用性,作用機序について解説した。心臓血管系の調節に重要な役割を果たしている圧受容体反射には共鳴特性があり,共鳴周波数(おおむね0.1Hz)の呼吸コントロールは著しい心拍変動を生み出す。このような共鳴のメカニズムを通して心拍変動バイオフィードバックは圧受容体反射に関わる自律系のホメオスタシス機能を高め,ストレス症状の緩和や情動制御の効果をもたらしている。総じて,心拍変動の分析は心理生理学的状態を評価する有用なツールとなり,心拍変動の増大は心身の健康やウェルビーイングにとって重要な要因であると考えられる。
著者
長野 祐一郎 永田 悠人 宮西 祐香子 長濱 澄 森田 裕介
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.17-27, 2019-03-30 (Released:2020-04-28)
参考文献数
38
被引用文献数
3

48人の大学生の皮膚コンダクタンスと主観評価を,従来型の講義,授業内実験,およびディスカッションを含む授業中に測定した。講義中は,皮膚コンダクタンスの概要を解説し,授業内実験では射的ゲームを行い,ディスカッションは,精神生理学的測定の社会的応用について行った。参加者の皮膚コンダクタンスは,講義が進むにつれて徐々に低下したが,ディスカッション中に著しく高くなった。授業に関する学生の主観的評価は,講義を除き概ね肯定的であった。学生の生理的反応と主観評価は,授業内実験でのみ相関し,講義とディスカッションでは失われた。自己の覚醒水準の認識が難しいため,相関が講義中に減少したと考えられた。また,対人状況によって生じる不安により,ディスカッション中の相関が弱められた可能性があった。教育環境において,精神生理学的活動の多人数測定を適用することの可能性と問題について議論を行った。
著者
浅岡 章一 福田 一彦 山崎 勝男
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.35-43, 2007-04-30 (Released:2012-11-27)
参考文献数
46
被引用文献数
4 2

日本人の平均睡眠時間はこの40年間で約1時間短くなっている。この傾向は児童・学生においても認められ, 児童・学生の日中における眠気の訴えは成人よりも強いことが明らかにされている。このような睡眠時間短縮に代表される睡眠習慣の悪化は, 児童・学生の様々な問題と関連している。そこで, 本稿では乳幼児期から大学生までの睡眠の発達について概観するとともに, その年代における睡眠習慣の悪化が, 日中の活動に対してどのような悪影響を与えるかについて先行研究の結果を紹介する。さらに児童・学生の睡眠習慣を悪化させる社会的要因についても紹介する。
著者
田村 聖 松浦 倫子 北村 航輝 山仲 勇二郎
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.2110si, (Released:2022-01-15)
参考文献数
45
被引用文献数
1

眠気の日内変動には,起床6から8時間後に高まる眠気(午後の眠気)と夜間就寝前にむけて高まる眠気(夜間の眠気)が存在する。夜間の眠気は,脳内の生物時計中枢の制御を受ける深部体温の概日リズムに起因する。一方,午後の眠気の発生機序については不明である。本研究では,眠気に関わる生理的要因として末梢皮膚温,深部体温,自律神経活動に注目し,眠気と生理的要因との関係性を明らかにすることを目的とした。その結果,5名中4名の実験参加者において,起床3時間後以降に2から5時間毎の眠気の変動が観察された。起床後0–2時間および就寝時刻付近の眠気は深部体温,皮膚温,自律神経活動と有意な相関が認められた。一方,午後の眠気については個人差が大きく,体温,自律神経活動と一貫した相関関係は認められなかった。これらの結果から,眠気の日内変動に存在するウルトラディアンリズムは体温と自律神経活動の概日リズムに依存しないが,起床後および就寝前の眠気は,主に概日リズムを発振する生物時計中枢の制御を受けることが推測された。
著者
越野 英哉 苧阪 満里子 苧阪 直行
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.27-40, 2013
被引用文献数
1

デフォルトモードネットワーク(Default Mode Network: DMN)は脳内ネットワークのひとつであるが,様々な認知課題遂行中に活動の低下を示すため,近年神経科学の分野で注目を集めている。ブレインイメージングにおいては,認知機能の神経基盤を探るにあたって,従来の構造と機能のマッピングから,最近はネットワーク間の競合や協調に注目するように観点が変化してきていると思われる。その際にネットワークを構成する領域がどのような状況で同じ活動を示し,またどのような状況では異なったネットワークの一部として活動するかという機能的異質性の問題は近年重要性を増している。これは大きな領域や,大規模ネットワークに関して特に問題になる。脳の領域と機能の間の関係は,特に連合野は,単一の領域が複数の機能に関係しまた単一の機能はそれが高次機能になればなるほど複数の領域の協調によって遂行されるという多対多の関係にある。また脳内ネットワークと機能の間の関係も一対一とは限らず,したがってある課題において同一のネットワークに属する領域も課題の状況によっては異なったネットワークに属することも考えられる。本稿ではこの機能的異質性の問題についてDMNを中心に検討する。
著者
堀 忠雄
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.45-52, 2012 (Released:2013-01-25)
参考文献数
34
被引用文献数
2 4

睡眠心理学の最近30 年のトピックスとして,三つの実験研究を取り上げた。 1. 夢理論の実験的検証 夢理論の中からHobson-McCarley(1977)の“ 活性化-合成仮説” とOkuma(1992)の“ 感覚映像-自由連想仮説”について,レム睡眠中の急速眼球運動の開始点と停止点で求めた事象関連電位を用いた検証作業が進められている。 2. 睡眠依存性の記憶向上現象の検証 新たに獲得された視覚・運動学習はその後の睡眠により成績が向上する。この記憶向上には睡眠紡錘波活動が緊密に関連していることが指摘されている。 3. 予防仮眠の開発 午後にはしばしば強い眠気が起こり,産業事故や交通事故を引き起こす原因となっている。これを防ぐ方法として20 分以下の短時間仮眠法が開発されている。
著者
入戸野 宏
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.5-18, 2006-04-30 (Released:2012-11-27)
参考文献数
63
被引用文献数
16 11

二次課題に含まれるプローブ刺激に対する事象関連電位 (event-related brain potential : ERP) の後期陽性波 (P3またはP300) の振幅は, 主課題に配分される知覚-中枢処理資源の量と負の相関関係にある。この理論が生まれた経緯について述べ, ERPを用いたプローブ刺激法の簡単なレビューを行う。次に, Suzuki, Nittono, & Hori (2005,International Journalof Psychophysiology, 55, 35-43) を補足する実験を報告し, 聴覚プローブ刺激に対するP300の振幅が映像 (ビデオクリップ) への関心度に応じて変化すること, それは映像の知覚的複雑さが同等であっても生じることを示す。具体的には, 実験参加者がビデオクリップを最初に見るときの方が, 同じ映像を5回目に見るときよりも, プローブ刺激に対するP300の振幅が小さかった。また, 知覚的に逸脱した非標的プローブ刺激に対するP300の方が, 同じ低確率で呈示される標的プローブ刺激に対するP300よりも, 振幅の減衰が顕著であった。労働以外の場面におけるERPを用いたプローブ刺激法の利点について論じる。
著者
本間 由佳子 石原 金由 三宅 進
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.35-43, 1992-06-30 (Released:2012-11-27)
参考文献数
22
被引用文献数
1

本研究はヒトの活動の概日リズムを朝型-夜型において比較した.朝型13名, 夜型14名の女子大学生を対象とし, ACTIGRAPHによって連続5-7日間の活動数が計測され, 同時に被験者によって睡眠表に就床・起床時刻も記録された.就床・起床時刻の判定は睡眠表と活動計から行われた.その結果, 睡眠時間を除いて就床・起床時刻に朝型-夜型で有意差が認められた.活動数においては, 総活動数, 日中の活動数, 夜間睡眠中の活動数, 起床時刻からの活動数の変動において差は認められなかった.しかしながら時刻に伴う活動数の変動において両型を比較すると, 早朝では朝型の方が, 深夜では夜型の方が活動数が有意に多かった.またコサイナ分析の結果において, 朝型の活動数の頂点位相は夜型より1時間前進していた.これらの結果から朝型-夜型の活動数の違いは就床・起床時刻の違いだけでなく, 睡眠習慣の不規則性を反映していることが示唆された.さらにこれらのデータを平日と休日に分けて再分析した結果, 休日では朝型一夜型で起床時刻のみに有意差が認められ, 平日では朝型-夜型の起床時刻, 活動数の違いに加え, それらの分散にも差が認められた.また平日と休日において夜型では起床後30分間の活動数に差は認められなかったが, 朝型では休日の活動数が平日より多かった.
著者
黒原 彰 梅沢 章男
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.35-44, 2009-04-30 (Released:2010-12-28)
参考文献数
33
被引用文献数
3 2

本論文では,法科学領域のポリグラフ検査,とりわけ裁決と非裁決質問に対する反応の違いをみるポリグラフ検査(concealed information test: CIT)において出現する呼吸活動が,ふたつの主要な成分から構成されることを,これまでの実験結果に基づき考察した。第1の成分は,CIT検査事態を通して誘発される吸気流速(呼吸ドライブ機構)の変化であり,安静時に比べて有意な増加を示す。第2の成分は,CIT事態で呈示される裁決質問に対する一過性の抑制性呼吸であり,呼吸流速の低下や呼気後ポーズ時間の延長という特徴を持つ。本稿では,ストレスや情動に伴う呼吸代謝活動に関する我々の実験結果をもとに,第1の変化成分は,ストレス,情動に伴う促進性呼吸と同じ性質を持つ呼吸変化であり,呼吸中枢の状態を反映したものと考察した。一方,後者の成分である一過性の呼吸抑制は,注意に伴う呼吸変化に関する先行研究の結果から,裁決質問に対する注意レベルの上昇に起因した,呼吸中枢から上位中枢へと制御が切り替わって出現する変化であろうとの見解を示した。
著者
小野田 慶一
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.29-44, 2010
被引用文献数
1

人間は社会的動物であり, 望ましい関係性から排斥されたときに悲痛な感情を経験する。このネガティブな感情は社会的痛みと呼ばれる。多くの動物実験及び画像研究の知見から, 身体的痛みと社会的痛みはその機能と神経機序を共有していることが示されてきた。本稿では, 背側前帯状回が身体的痛みと社会的痛みの共有システムに重要な役割を果たし, 鎮痛作用のあるオピオイドは社会的痛みをも減弱または消失させることを示した知見を紹介する。さらに, 社会的痛みの進化, 発達, 個人差に関しても概説する。社会的痛みの個人差に関しては先天的 (遺伝的)・後天的 (社会的) な要因の双方に言及している。また, 社会的排斥に対するサポートの効果に関しても議論する。最後に社会神経科学における排斥研究の展望を述べる。