著者
須賀 知美 庄司 正実
出版者
目白大学
雑誌
目白大学心理学研究 (ISSN:13497103)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.137-153, 2008
被引用文献数
1

感情労働が職務満足感やバーンアウトに及ぼす影響については,これまでの研究で一貫した結果が得られていない。本稿は,これまでの研究を概観し,研究対象や測定方法などを整理することを目的とした。その結果,さまざまな職業が調査対象とされ,感情労働の測定指標もさまざまであることが明らかにされた。この測定指標の混在が,一貫した結果が得られない理由の一つと考えられる。また,感情労働以外の独立変数や調整変数,媒介変数について,仕事の自律性やソーシャル・サポートなどの労働条件や職場環境に関する変数は多いが,パーソナリティや態度のような変数が少ないこと,労働者が感情労働を行うことよるクライエントや客からの感謝・承認を含めた検討がほとんどないことが指摘された。また,感情労働と他の変数の交互作用の検討も少ないことが示された。さらに,日本での文献数は外国の文献数と比較すると遥かに少ないことが明らかになった。これまでの研究の問題点に対する今後の課題について言及された。
著者
相浦 沙織 氏森 英亞
出版者
目白大学
雑誌
目白大学心理学研究 (ISSN:13497103)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.131-145, 2007
被引用文献数
1

発達障害児をもつ母親は,診断が確定しにくい点から,母親は子どもが障害を持っているかどうかの疑いの時期が長く,障害の肯定・否定の葛藤を繰り返すといわれる(中田,1995)。葛藤を起こしている状態は,心理的に危機的な状態だといえ,障害の疑いの時期から診断名がつくまでの時期における母親を対象とした事例を中心に調査研究を行うこととした。その結果,障害の疑いから診断までの時期が平均して,2年1ヶ月の期間を要しており,先行研究と同様に,診断までの期間が長いことが発達障害児の特徴であることが明らかになった。この期間に対象者全員が,障害があるかどうかの葛藤や不安を感じており,つらかった時期であった。また,10人中8人の母親は,子どもを養育する中で最もつらかった時期としてこの時期をあげた。このような疑いから診断までの時期で,母親の心理的過程に影響を与えたものは,特に,夫からの心理的サポート,同じ悩みをもつ母親同士のピアサポート,専門機関や病院からの実際的サポートであった。以上より,臨床家によって夫への子育ての参加を促す場,同じ悩みを持つ母親同士のピアサポートが得られる場,専門機関や病院につなげるサポートなどの提供が必要であると考察された。
著者
須賀 知美 庄司 正実
出版者
目白大学
雑誌
目白大学心理学研究 (ISSN:13497103)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.77-84, 2007

サービス業従事者は,職務上適切な感情状態を保つための感情管理-感情労働-が,職務の一部として求められている。特に,接客サービスを基本とする職種では,そのサービスの質には従業員個人のパーソナリティが大きく影響すると考えられている。本研究では,飲食店従業員(203人)を対象に,感情労働を行っていることを示す行動-感情労働的行動-とパーソナリティの関連を検討した。本研究では,サービス業と関連があるパーソナリティとしてセルフ・モニタリングと自己意識について取り上げた。重回帰分析の結果,予想通り,セルフ・モニタリングの自己呈示変容能力が感情労働的行動の下位尺度のすべて(感情の不協和,客の感情への敏感さ,客へのポジティブな感情表出)と関連を示した。しかし,予測に反して,自己意識の公的自己意識は感情労働的行動との関連がほとんど見られず,私的自己意識が関連を示した。今後は,感情労働に関連するパーソナリティについて,顧客満足のためのパフォーマンスと,従業員自身の職務満足感の両側面から捉えた研究が必要であると考える。
著者
黒沢 幸子 日高 潤子 張替 裕子 田島 佐登史 Sachiko Kurosawa Junko Hidaka Yuko Harigae Satoshi Tajima 目白大学人間学部 目白大学人間学部 目白大学人間学部 目白大学人間学部 Mejiro University Faculty of Human Sciences Mejiro University Faculty of Human Sciences Mejiro University Faculty of Human Sciences Mejiro University Faculty of Human Sciences
出版者
目白大学
雑誌
目白大学心理学研究 (ISSN:13497103)
巻号頁・発行日
no.4, pp.11-23, 2008

筆者らは心理学を専攻する大学生をボランティアとして,小・中学校へ派遣するシステムを構築した。この「メンタルサポート・ボランティア活動」システムは,子どもたちの心理的支援のためのボランティア活動と,それを支える大学での授業から成り立っている。本研究は,このシステムにおいてボランティア活動を体験した学生の変化・成長の様相を明らかにすることを目的とした。そのため,学生が活動を振り返って記述した感想と活動評価アンケートへの回答を対象として,KJ法による分類を行った。分析対象となった回答は,延べ179名分であった。分析の結果,学生の変化・成長は,「学生自身の人間的変化・成長」,「現場での実践から得た学び」,「授業から得た学び」の3つの大グループと,その他3つの中グループに分類された。この3つの大グループは,相互作用・相互促進していることが見出された。キャリア教育の視点から見た学生の変化・成長は,「自他の理解能力」,「コミュニケーション能力」の2つに集約された。また,本システムにおけるボランティア活動が学生の「人間関係形成能力」を育成している可能性が示唆された。
著者
田中 勝博 土田 恭史 今野 裕之 丹 明彦
出版者
目白大学
雑誌
目白大学心理学研究 (ISSN:13497103)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.49-61, 2008

本研究は,卵画と洞窟画における描画内容および対象者の自己印象評定と自己イメージとの連関について検討した。その結果,自己イメージの違いによって,卵画や洞窟画に投影される描画アイテムが異なることが示唆された。自己イメージ高群は明るく,構成的な描画を行うのに対して,低群は暗く非構成的な描画を行うことが多い傾向が認められた。描画に対する印象評価は,描出された描画の全体的な印象や構成度などによって影響を受けるが,自己イメージも描画の印象評定に影響をおよぼすことがうかがわれた。
著者
土田 恭史
出版者
目白大学
雑誌
目白大学心理学研究 (ISSN:13497103)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.63-73, 2008

本研究は,長期の自己コントロールにともなうストレスと対処行動におけるセルフモニタリングの役割について,長期にセルフケアを続けなければならない慢性疾患患者を対象としてセルフモニタリングの認知面・行動面の違いによる影響について検討した。対象者を4つのセルフモニタリング型に分類し,セルフモニタリングの違いと,セルフケア維持に伴う心理的ストレス(抑うつ)及び対処法略との関連を検討した。その結果,高セルフモニタリング群では心理的負担感や抑うつ傾向が低いことが見出された。また,モニタリングに対する認知水準が高い群では病気との折り合いが高かったことから,セルフモニタリングによる自我関与の高まりが病気との折り合いを形成することを促進し,心理的負担感を緩和すると考えられた。
著者
土田 恭史 福島 脩美
出版者
目白大学
雑誌
目白大学心理学研究 (ISSN:13497103)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.25-33, 2006

本研究の目的は慢性疾患患者の「病気との折り合い」の構造とその影響について検討することである。糖尿病(以下DM)患者を対象に、患者にとっての病気との折り合いがどのような構造をもち、それが病気に対してどのような影響をもつのかを検討した。総合病院内科を受診したII型DM患者99名(男性59名、女性40名)に対し、TEG、CMI、筆者と臨床心理士によって作成した「糖尿病に関する意識調査」による質問紙調査を実施した。身体的変数(血糖状態)、精神症状的問題、性格、病気に対する態度、生活習慣・生活状態を説明変数とし、「病気との折り合い」を従属変数とするステップワイズの重回帰分析を行った結果、「DM安定感」、「自己管理傾向」、「治療満足度」、「罹患期間」が有意な正の説明変数として得られた。血糖状態は有意な説明変数とならなかった。慢性疾患患者にとっては、主観レベルで病気を苦痛と感じないですむことは、QOL向上につながる可能性がある。また、患者が主体的に自分自身の治療に関与することは、客観的な体調の良さに劣らず、患者に病気との折り合いを導き出すと考えられた。
著者
福島 脩美 高橋 由利子 松本 千恵 土田 恭史 中村 幸世
出版者
目白大学
雑誌
目白大学心理学研究 (ISSN:13497103)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-12, 2005

カウンセリング研修における、話し手・聴き手演習の効果について検討した。研究1では、小集団で話し手・聴き手演習を実施し、実施前後に感情気分評定を、体験後に感想を自由記述で求め、話し手・聴き手演習の効果について検討した。研究2では、1群に2者間相互話し手・聴き手演習を、もう1群に想定書簡法を実施し、実施前後に感情気分評定を求め、話し手・聴き手演習と想定書簡法の効果について比較検討した。その結果、話し手・聴き手演習による、肯定的感情気分の促進効果と否定的感情気分の低減効果がみられ、話し手・聴き手演習は、想定書簡法に比べて、実施前の感情気分状態が実施後の肯定的な感情効果と有意に関連していることが示唆された。また、本研究では、感情気分評定20の効果測定ツールとしての有効性が認められた。
著者
福島 脩美 土田 恭史 森 美保子 松本 千恵 鈴木 明美
出版者
目白大学
雑誌
目白大学心理学研究 (ISSN:13497103)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.63-75, 2007

カウンセリング研修参加者間の話し手・聴き手役割演習(模擬カウンセリング)において,まず個別方式(2人の間で相互に話し手と聴き手を交代)で実施し,次に集団(井戸端会議)方式(小集団内で1人の話し手に他の参加者が共同の聴き手になって順次全員が話し手となる方式)で実施し,最後に一人で想定書簡によって経験の整理を行うという3つの演習をセットにしたプログラムを開発し,その効果を体験振り返り評定と感情気分評定によって検討した。体験振り返り評定は,先行研究の参加者体験報告(自由記述)をもとに項目化し,専門家の点検と因子分析を経て,クライエント体験評定については2因子(関係性因子と効果性因子),カウンセラー体験評定については1因子(共感的傾聴成分)が同定され,3つの尺度が作成された。そして事前の感情気分評定の後,研修プログラムを構成する各方式の直後に感情気分評定とクライエント/カウンセラー体験の評定を求めた。その結果,感情効果(肯定的感情の促進と否定的感情の緩和)においても,クライエント体験(関係性と効果性)評定とカウンセラー体験(共感的傾聴)評定においても,個別方式の効果をその後の集団(井戸端会議)方式がさらに促進すること,そして想定書簡の後には幾分か低下することが認められた。この結果から,それぞれの方式の特徴と意義について考察した。
著者
土田 恭史 福島 脩美
出版者
目白大学
雑誌
目白大学心理学研究 (ISSN:13497103)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.85-93, 2007

認知行動的立場における行動コントロールにおいて,セルフモニタリングは行動に対するモニタリングだけでなく,モニタリングされた行動に対する認知も重要とされている。これまでの尺度は行動面のモニタリングを重視するもので,自己コントロールにおける認知的・行動的側面のセルフモニタリングを測定する尺度としては不十分なものであった。本研究では,従来の研究で検討されてこなかったモニタリングに対する認知的態度を含めたセルフモニタリング尺度の作成を目的とした。調査1で改訂版セルフモニタリング尺度および後藤アレキシサイミア尺度を元に新たなセルフモニタリング尺度を作成し,96名の対象者に実施した。因子分析の結果,「行動モニタリング(α=.854)」,「環境モニタリング(α=.768)」,「モニタリング認知(α=.779)」の17項目3因子が得られた。調査2ではこの尺度の妥当性を検討するため,自意識尺度と内省尺度との関連性について検討した。その結果,「行動モニタリング」,「環境モニタリング」,「モニタリング認知」因子はいずれも自意識尺度,内省尺度と有意な相関が認められた。以上のことより本尺度はセルフモニタリングを測定する尺度として妥当であると考えられた。
著者
沢崎 達夫
出版者
目白大学
雑誌
目白大学心理学研究 (ISSN:13497103)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-12, 2006

これまでに作成されたいくつかのアサーション尺度はいずれもアサーションが攻撃性と高い相関を示すことを報告している。このことを言語的攻撃性を測定する尺度を用いて再度検討することが本研究の第1の目的である。第2の目的はアサーションが自尊感情や自信と関連するというこれまでの見解を自己受容測定尺度を用いて確認しようとすることである。青年期女子134名を調査対象とし、青年用アサーション尺度、自己受容尺度、日本版BAQの言語的攻撃性尺度の3尺度を実施した。その結果、アサーションと攻撃性の間には.70の高い相関が見られ、アサーションの得点で低、中、高の3群に分けたときも、明確に3群間で有意な差が見られた。このことから、アサーションと攻撃性に共通の要因がかかわっていることが示唆された。また、アサーションと自己受容の間には.40の相関が見られ、各領域との間にも有意な相関が見られたので、アサーティブな人ほど自己受容的であることが示唆されたと言える。