著者
宇都宮 睦男
出版者
福山大学
雑誌
福山大学人間文化学部紀要
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-17, 2001-03-01

大久保彦左衛門忠教の『三河物語』には、初稿本系統の蓬左文庫本と自筆本などがある。この二本を比較すると、用語と表記に大きな相違がみられる。特に表記では、自筆本に宛字、誤字などが多く、蓬左文庫本が後人による転写であるにしても、その余りの違いに驚かされる。忠教の無学故に、このような宛字・誤字がみられるのであろうか。このことを検証するために、自筆本から七年後に成った、忠教自筆の「釈教和歌釈義」の用語・表記を調べてみた。結果は、むしろ蓬左文庫本の用記・表記に近い。このことからすると、自筆本の宛字・誤字が忠教の無学故とは一概に言えないように思われる。
著者
引野 亨輔
出版者
福山大学
雑誌
福山大学人間文化学部紀要
巻号頁・発行日
vol.6, pp.63-76, 2006-03-01

これまで神仏習合は、日本古来の伝統である神祇崇拝と、外来宗教である仏教とを混淆させた、不合理な信仰とみなされてきた。しかし、現実社会に存在するところの神仏習合は、合理性の発達に伴い徐々に姿を消していくようなものではない。本稿では、江戸時代の在地社会に焦点を絞る事で、新たな視角から神仏習合が否定されていく過程を探ってみた。
著者
奥田 邦男 奥田 久子
出版者
福山大学
雑誌
福山大学人間文化学部紀要
巻号頁・発行日
vol.3, pp.55-67, 2003-03-01

本稿では、3つの視点から、最近のアメリカ合衆国における外国語学習の動向を明らかにすることを試みた。(1) アメリカ応用言語センターが実施したアンケート調査に基づく報告書『外国語教育-アメリカ合衆国は他の国々から何を学ぶことができるか-』(2000) を分析し、最近のアメリカ合衆国の外国語学習をより活性化するためにどのような方策をとるべきであるかという提言を検討した。(2) アメリカ合衆国で急成長している「双方向バイリンガル教育」の特徴を明らかにし、幼児期から第1言語および第2言語の能力を最大限に伸ばすためのアプローチがどのような内容であるかを明らかにした。(3)『21世紀のアメリカ合衆国における外国語学習の基準』(1999) の内容を分析し、外国語学習の5つの目標として、「コミュニケーション能力、文化の学習、教科内容との連携、言語及び文化の比較対照、地域社会との連携」の内容を明らかにした。アメリカ合衆国の外国語教育 (日本語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、中国語、ロシア語、古典語 (ラテン語、ギリシャ語)) のそれぞれの言語教育の学習内容の基準を示すと同時に、幼稚園から大学までの学習基準を提案していることは、大いに評価されるべきであることを論じた。
著者
八重樫 文
出版者
福山大学
雑誌
福山大学人間文化学部紀要
巻号頁・発行日
vol.6, pp.123-133, 2006-03-01

本稿では、その概念拡大と解釈の不定性が指摘される「デザイン」に関する今後の議論の共通基盤を築くために、現代社会における「デザイン概念」の整理を行った。その結果、(1)「(英語としての)design」の語義から捉え、その解釈を人間の根源的営為にまで拡げた観点、(2)近代デザインの専門性を背景とした観点、の2つの解釈が錯綜した状況であることが確認された。
著者
秋枝(青木) 美保
出版者
福山大学
雑誌
福山大学人間文化学部紀要
巻号頁・発行日
vol.6, pp.A21-A34, 2006-03-01

現代作家の中でも宮沢賢治の作品を最も多く引用している長野まゆみの作品において、その引用が童話「銀河鉄道の夜」に集中していることを示し、そこに「病む女性」という共通の要素があることを指摘する。さらに、それが一九八〇年代文化と一九二〇〜三〇年代の文化的背景との共通の問題の基盤に由来することを示唆する。
著者
青野 篤子
出版者
福山大学
雑誌
福山大学人間文化学部紀要
巻号頁・発行日
vol.7, pp.65-79, 2007-03

男女共同参画社会の担い手を育成すべき保育者が,男女平等やジェンダーに対してどのような考え方をもっているのか,また,性差や男女の特性をいかにとらえ,どのような保育方針をもっているのかを検討した。その結果,保育者は男女平等のための保育の意義を認めながら,男女の差異や女らしさ・男らしさを尊重した上で,男女を同等に扱うのが望ましいと考えていることが明らかになった。また,ジェンダー(・フリー)の知識がある人はそうでない人より,性差の社会構築性をより強く意識していることもわかった。
著者
信岡 巽
出版者
福山大学
雑誌
福山大学人間文化学部紀要
巻号頁・発行日
vol.4, pp.159-202, 2004-03-01

1914年7月一次大戦が勃発すると、T. E. Hulme はためらうことなく直ちに陸軍名誉砲兵中隊に一兵卒として志願し入隊した。翌年4月ベルギーのフランダースで戦闘中、負傷して本国に送還され入院した。しかし、退院後、再度志願し、今度は海兵隊の士官として1917年8月、ベルギーのオースト・ダンケルク・ベインズに出動。それからまもなくの9月28日ドイツ軍の砲撃にあって不帰の客となった。34歳の若さであった。知識人の多くが戦争に懐疑的であった中で、彼は、なぜ敢然と銃をとり、砲弾に身を曝したのであろうか。彼は入院除隊中 New Age 誌や Cambridge Magazine 誌で戦争擁護の論陣を張り、特に後者の誌上で当時の反戦平和論者 Russell (Bertrand) と激しく論戦した。彼はその中で Russell の平和論が、個人の生やパーソナリティに価値を置くローマン主義的な進歩思想に基づいていると批判し、ヨーロッパのヘゲモニーを目指すドイツの軍国主義に対し伝統的な文化や思想を防衛するために、「英雄的価値」に拠る主戦論を展開した。しかし、彼がいう「英雄的価値」とはなんであろうか。Hulme は比較的早い時期、フランスのサンジカリスト、ソレル (G. Sorel) やアクシオン・フランセーズの思想に触れ強い影響を受けた。また、熱烈な原罪説の信仰者でヒューマニズムを激しく攻撃した。彼の戦闘参加と彼のこうした思想とは、どのように結びつくのであろうか。このノートは、比較的おろそかにされている Hulme の政治思想の解明に、これらの問題に照準を合わせながら、一つのアプローチを試みたものである。
著者
秋枝(青木) 美保
出版者
福山大学
雑誌
福山大学人間文化学部紀要
巻号頁・発行日
vol.8, pp.A1-A17, 2008-03

童話「銀河鉄道の夜」は、一九八〇年代以降、アニメーション化されて若者によく知られるようになり、現代少年少女の教養の一部となっている。二〇〇一年刊行の人気小説「世界の中心で、愛をさけぶ」は、恋愛小説の形をとりながら、実はその若者の教養の上に、互いに愛し合った十代後半の主人公二人が死別に直面し、自らの苦悩を通して死生観を構築していく過程を描いた一種の教養小説である。本論においては、現代社会において構築の困難な死生観を、若者が身近に存在する文学を通して立ち上げる過程を、作品内の表現を分析することを通して論じた。それによって、この小説の教養主義的な性格を明らかにした。
著者
篠田 昭夫
出版者
福山大学
雑誌
福山大学人間文化学部紀要
巻号頁・発行日
vol.8, pp.35-54, 2008-03

The Mystery of Edwin Droodは作家の他界により未完に終わったディケンズ15番目の長篇小説である。クロイスタラム(ロチェスター)大聖堂の聖歌隊長という地位にありながら、ロンドンの阿片窟に出入りする阿片常習者であるとともに、甥工ドウィン・ドルードをクリスマスの日に殺害してまで、その許嫁ローザ・バッドへの偏執的愛を実現させようとする主人公ジョン・ジャスパーの人間像と生の軌跡の分析を通して、それに投影されている大作家という名声の輝きの下で苦闘と不安の軌跡を描き続けたディケンズとの関わりを考察することを目的としている。
著者
吉永 昭
出版者
福山大学
雑誌
福山大学人間文化学部紀要
巻号頁・発行日
vol.1, pp.A1-A21, 2001-03-01

この論文では、これまですすめてきた個別御家騒動研究の一環として、肥後国人吉藩2万2000石、藩主相良頼寛治政下で寛永17年 (1640) に起こった相良清兵衛騒動について考察する。この騒動については残された史料が極めて乏しく、ここでは主に騒動記を中心に、家中対立の原因や騒動の内容、その経緯や性格などについて検討を試みることにしたい。
著者
橋本 優花里 澤田 梢
出版者
福山大学
雑誌
福山大学人間文化学部紀要
巻号頁・発行日
vol.8, pp.117-127, 2008-03
被引用文献数
1

認知リハビリテーションには,認知機能回復訓練および代償手段の獲得だけでなく,障害認識の向上や社会的行動障害および心理症状へのアプローチが含まれる。本稿では,認知リハビリテーションの現状について,ここ20年ほどの間に定着してきた認知機能回復訓練の手法を概観するとともに,コンピュータの導入や集団訓練などの近年の新しい試みを紹介し,これからの課題について考える。また,認知リハビリテーションに携わる心理士についても,業務の実態を通して今後の課題を検討する。
著者
久保 卓哉
出版者
福山大学
雑誌
福山大学人間文化学部紀要
巻号頁・発行日
vol.5, pp.A37-A50, 2005-03-01

六朝の宮廷では七夕の宴が催され歌舞音曲とともに盛んに詩歌が作られた。宮廷での七夕詩を陳後主の場合を中心にして、西晋の皇太子と潘尼、陸機及び梁の武帝と任〓の七夕詩の特徴を明らかにする。