著者
小塩 隆士 浦川 邦夫
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.42-55, 2012-01

幸福感や健康感など主観的厚生は,自らの所得水準だけでなく他人の所得との相対的な関係によっても左右されると考えられる.本稿では,この「相対所得仮説」が日本においてどの程度当てはまるかを大規模なインターネット調査に基づいて検証する.具体的には,性別・年齢階級・学歴という3つの個人属性に注目して合計40の準拠集団を定義し,自らの所得と準拠集団内の平均所得との差が幸福感・健康感・他人への信頼感とどのような関係にあるかを調べる.さらに,最後に通った学校の同級生の平均年収の推計値との比較など,主観的な相対所得の重要性についても検討する.推計結果は全体として相対的所得仮説と整合的だが,(1)女性は男性と異なり,本人所得ではなく世帯所得の格差を気にしていること,(2)健康感や他人に対する信頼感は幸福感より相対所得,とりわけ準拠集団の平均所得を下回る状況に敏感に反応すること,などが確認された.
著者
中島 賢太郎 上原 克仁 都留 康
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.18-34, 2018-01

本稿は,企業内の社員間コミュニケーション・ネットワークの構造,およびそれが業務成果に与える影響について定量的に分析することを目的とする.ウェアラブルセンサによって,法人顧客向けソフトウェア・サポート業務を行う企業の2つの事業所の社員同士の対面コミュニケーション行動データを収集した.このデータを用い,まず,ソシオグラムによってコミュニケーション・ネットワークの構造を明らかにした.次いで,各社員の成果データ(生産性)を用い,コミュニケーションが個人および事業所の生産性に与える影響を分析した.その結果,コミュニケーション・ネットワークにおける媒介中心性の上昇は事業所の成果に頑健に正で有意な影響を持つことが示された.このことは,知的業務におけるコミュニケーションが知識・情報交換であるがゆえに,直面した問題に対し,適切に他の社員からコミュニケーションによって情報収集することが重要であることを示唆する.This paper empirically investigates the structure of communication networks among employees within a firm and the impact of the communication networks on their productivity. To collect information on face-to-face communication among employees quantitatively, we use wearable sensors that automatically record data on face-to-face communication among employees wearing them at two offices of a company that provides software support to corporate clients. Using the data, we first show the structure of the communication network using sociogram. Next, we investigate the impact of the communication network on productivity. The results show that an increase in betweenness centrality in a communication network has a positive and significant impact on office performance. Communication between employees can be interpreted as the transfer of their specialized knowledge. Thus, it is considered that an employeeʼs high betweenness centrality indicates that the employee efficiently gathers information from various colleagues through the communication network. These results imply that the efficient gathering of information through face-to-face communication with various colleagues who have specialized expert knowledge improves productivity by helping to solve complicated problems that employees face.
著者
尾高 煌之助 劉 怡伶
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.133-142, 1999-04

戦前期台湾の工産統計に付随して集計された工員統計は,工場に働く工員のほかに家内工業の工員と副業者を包含するとの解釈にたち,これに工場統計から得らる職員,技術員,その他の従業員の数値を加えて,工業の全雇用統計(推定)とする.これに鉱業と公益業との雇用を加え,戦後の雇用センサスの該当数値と連結すれば,第二次産業の雇用動向が明らかになる.これと同産業の実質付加価値生産高とを組合わせて,平均実質労働生産性の変動を観察する.
著者
久保庭 真彰
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.246-262, 2007-07

本稿は,転換点にあるロシア経済の成長を供給サイドと所得サイドの両面から分析することを主要なテーマとした試論である.まず,ロシア経済成長の油国際市場価格の動向への依存という側面と,独立性という側面をもつことを確認する.次に,伝統的成長会計によって供給サイドの考察を行う.これは,(1) Goldman-Sachs の BRICs レポートの批判的考察,(2) 独自のデータ構築にもとづくマクロ成長会計分析,(3) 再編成された産業連関表と資本ベクトルを利用した多部門成長会計分析から成る.さらに,倉林・クルビス・ステューヴェル・作間による交易条件効果の議論を理論的に整理し,ロシアにおける所得 (GDI) と GDP の成長連関を実証分析する.最後に,供給サイド成長予測からみると,ロシア経済が高成長を持続する潜在力を有していることを示唆する.
著者
浦沢 聡士 笠原 滝平
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.250-263, 2017-07

我が国の対外的な経済取引の動向を表す経常収支の動きをみると,過去最高水準の貿易赤字を記録する一方,旅行収支が半世紀ぶりに黒字となるなど,近年,これまでと異なる動きがみられる.こうした動きは,我が国経済の対外的な稼ぎ方の変化を表すものと理解され,特に,最近では,訪日外客数や訪日外国人旅行者による旅行中の消費が過去最高となる中,いわゆるインバウンドへの関心・期待が高まっている. その一方で,最近の動きを含め,特に,我が国を主眼にインバウンドの動向を定量的に分析する研究は必ずしも多くない.なぜ,ここ数年で,訪日外客数がこれほどまでに増加したのか.また,訪日外客数の増加は,日本経済にプラスの影響を与えているのであろうか.本研究では,最近,特に増加が顕著である我が国のインバウンドの動向に焦点を当て,増加の背景や要因,我が国経済への影響について実証的に検証を行う.グローバル・パネルを用いたグラビティ・モデルによる検証の結果,訪問外客数の増加には,出発国の所得の増加が重要であることが示される中,我が国については,中間所得者層を中心に所得の増加が著しいアジア地域に近接することが寄与していることが示された.ビザの発給免除措置等を含む政府による誘致政策も,また,訪問外客数の増加にプラスの影響を与えていることが示唆された.加えて,時系列データを用い,我が国におけるインバウンドと経済成長の関係を検証した結果,訪日外客数の増加が経済成長率の押し上げに寄与していることが示された.特に,2013年以降,ビザ発給緩和措置や我が国の物価が相対的に割安となることなどを背景に,訪日外客数が大きく増加したことは,消費税率引上げ等の影響を受ける我が国経済の支えとなってきた.
著者
神林 龍
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1-29, 2019-01

1980年代以降ゆらいでいるといわれる日本的雇用慣行について,中長期的な観点から議論したのが,『正規の世界・非正規の世界』(2017年,慶應義塾大学出版会)である.出版以来,いくつかの重要な指摘を受けてきたが,とくに主要な主張に関わるデータがリーマン・ショック以前の2007年に留まっていることが問題視された.本稿では,データを2012年まで延長し,リーマン・ショック以降についても本書の主要な主張,とくに長期雇用慣行の代理変数とした大卒勤続5年以上の被用者の十年残存率と,非正社員と自営業の人口に対するシェアの負の相関は変化がないことを示す.ただし,2012年の総務省『就業構造基本調査』の調査票改訂により,自分の労働契約期間がわからないとする被用者が相当数いることがわかっており,後者の主張は,これらの被用者をどう解釈するかに依存するかもしれない点も確認された.
著者
西村 孝夫
出版者
大阪府立大学経済学部
雑誌
経済研究 (ISSN:04516184)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.p90-75, 1977-07
著者
宇佐美 誠
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-14, 2004-01

環境問題において現代世代が将来世代に与える甚大な影響は,公共政策による将来世代配慮を要請する.他方,非同意者への拘束,物理的強制,市民生活への多大な影響,課税による資金調達という公共政策の諸特徴のゆえに,将来世代配慮の政策は正当化を求められる.このような基本認識の下,本稿は,将来世代配慮の多様な正当化論の概観と最近の新潮流の批判的検討を目的とする.まず,30年余にわたる学説史を黎明期・批判期・展開期に区分して回顧した上で,原理基底的/自我基底的と2項関係/3項関係/非関係という2つの観点から主要学説を分類する.次に,1990年代に台頭した2つの自我基底的理論,すなわち過去世代の達成物を評価し拡張する責務を根拠とする見解と,比較的近接の将来世代と現代世代を包括する超世代的共同体の観念に訴える見解とを多角的に吟味する.最後に,以上2つの作業が今後の将来世代配慮の研究に対してもつ示唆を考察する.
著者
渡辺 努
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.358-379, 2000-10

大規模な負の需要ショックに対応するために名目短期金利をゼロまで下げているにもかかわらずも需要が不足している場合に,中央銀行は何ができるだろうか.この問いに答えるために,本稿では,名目短期金利の非負制約を明示的に考慮しながら中央銀行の最適化問題を解く.最適な政策は,「ショックの発生移行のインフレ率や需要ギャップの累積値がある一定の水準に達するまでゼロ金利政策を続ける」とコミットすることであり,歴史依存性 (history dependence) が重要な特徴である.このように,政策ラグを意図的に発生させることにより,足元の名目長期金利が下がる一方,期待インフレ率は上昇するので,負の需要ショックの影響は和らげられる.日本銀行が1999年2月から2000年8月にかけて採用したゼロ金利政策は,(1)長めの金利への波及を当初から意図してきた.(2)ゼロ金利の継続期間を物価上昇率に関連づけながらコミットした,という点で最適解に近い性質を持つ,しかし,「デフレ懸念の払拭が展望できるまでゼロ金利を続ける」という日銀のコミットメントでは,ゼロ金利解除の条件が先見的 (forward looking) な要素のみで決まっており,最適解のもつ歴史依存性が欠落している.典型的な最適解ではインフレ率が正の値まで上昇するのを待ってゼロ金利を解除するのに対して,日銀のコミットメントはインフレになる前の段階でゼロ金利を解除するため,ゼロ金利期間が短すぎるという難点がある.
著者
岡崎 哲二 浜尾 泰 星 岳雄
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.15-29, 2005-01

本論文は1878年の創設から1930年代半ばにいたる東京株式取引所(東株)の発展を概観し,その上場企業の増加に影響を与えた要因を探る.東株の規模は,対GDP比で見て,同時代の他国に比べても,また現在の先進国に比べても,非常に大きなものであった.東株への上場基準は緩かで,特に現物市場への上場はほとんど規制されていなかったので,当時のデータを使ってどのような企業が上場を決定したのかを調べることができる.綿紡績企業を使った回帰分析から,資本金が大きい企業ほど,そして年齢が高い企業ほど上場する確立が高いことが確認できる.また,東日本の企業は西日本の企業よりも東株に上場する確立が高いが,この傾向は時代を経るにつれて,特に1918年の東株の組織改革以降,弱まった.組織改革は,上場株の増加を促す効果も持った.最後に,外部株主の権利を強めた1911年の商法改正も,東株への上場を増加させる効果を持った.
著者
吉原 直毅
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.253-268, 2001-07

本論の目的は70年代の数理マルクス経済学の展開によって,マルクス派搾取理論がいかにその含意の転換を迫られてきたかを,現時点の現代社会科学の到達点から鑑みて考察する事にある.その主要な帰結は,労働価値概念に立脚するマルクス主義の古典的な搾取理論解釈は,まさに数理マルクス経済学の反証可能な手続きによる検証によって,否定されたという事である.主な論点は,(1)マルクスの基本定理及び,森嶋―シートン方程式,(2)「マルクスの総計一致2命題」,(3)「価値法則」の検証からなる.これらの分析結果は,労働価値が市場の均衡価格決定の説明要因たり得ない事,及び正の利潤の唯一の源泉としての労働搾取という含意の完全な喪失を意味している.さらに,正の利潤を資本家が取得する事も,私的所有を前提する限り,剰余生産物生産可能性を有している資本財が社会の総労働人口に比して希少性を有する下では何ら不当なものとは言えないことも示され得る.
著者
麻生 良文
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.152-161, 2000-04

この論文では厚生省が1997年に発表した「5つの選択肢」および1999年度改正案がどのような所得移転をもたらすのかを分析した.分析の結果,次のことが明らかになった.まず,(1)5つの選択肢のどの案が採用されるかで大きな影響を受ける二つのグループが存在する.一つは1980年生まれ以降の世代(将来世代)であり,もう一つのグループは1940年から1970年生まれの世代(移行期世代)である.(2)将来世代にとっては A 案(現状の給付水準を維持する案)がもっとも不利で,D 案(給付水準を4割削減する案)が有利である.しかし,移行期の世代にとっては A 案が有利で D 案は不利である.(3)厚生年金の1999年度改正案は C 案とほぼ等しい内容である.この案のもとで,負担と給付が均衡する世代は1960年生まれの世代であり,それ以降の世代は負担が給付を上回っている.将来世代とっては生涯所得の10%程度が厚生年金を通じて取り上げられている.(4)厚生年金制度は労働供給に対して暗黙の課税を行っているが,暗黙の税率は将来世代ほど大きい.(5)国民年金の所得移転は厚生年金に比べれば小さいが,やはり世代間格差が存在する.負担と給付がほぼ均衡するのは1975年生まれの世代であり,それ以降の世代は負担超過である.将来世代の負担は夫婦合計で生涯所得の3%程度である.
著者
都留 康
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.42-52, 2005-01

本稿の目的は,機械関連のメーカーA社が1993年度と96年度に実施した2回の希望退職募集を分析対象とし,希望退職応募者と在職者全体ならびに自己都合退職者とを比較することにより,両者の査定点などにどのような差異があるのかを分析することにある.A社人事データを分析した結果,以下のことが明らかとなった.まず,第一次雇用調整においては,在職者全体と希望退職者との比較,ならびに自己都合退職者と希望退職者との比較から,希望退職者の職能資格等級や給与は相対的に高いにもかかわらず,査定点は在職者と同等程度であり,自己都合退職者よりも低いことが判明した.つまり,この回は,希望退職者は会社にとって辞めてほしい人だったといえる.次に,第2次雇用調整においては,同様の比較から,管理職層では在職者全体と希望退職者との間の査定点はほぼ同等程度であったが,非管理職の資格の低い層では希望退職者の査定点が有意に高く,自己都合退職者と希望退職者との間には査定点の差はないことが明らかとなった.これから,非管理職層で能力の高い者が流出している可能性があるといえる.希望退職には指名解雇とは異なり「誰が辞めるかわからない」面がある.A社の事例は,優遇条件や勧奨活動によっても,会社が辞めてほしい人だけが辞めるのではなく,成績優秀者も流出するという逆選択現象が希望退職には伴うことを明らかにしている.
著者
筒井 義郎
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.p376-379, 1993-10
著者
井沢 裕司 筒井 義郎
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.p139-147, 1983-04