著者
西川 朋美 NISHIKAWA Tomomi にしかわ ともみ
出版者
お茶の水女子大学日本言語文化学研究会
雑誌
言語文化と日本語教育 (ISSN:09174206)
巻号頁・発行日
no.48, pp.32-40, 2015-06

子どもを対象とした日本語の第二言語習得(SLA)研究の数は、非常に少ない。本稿の目的は、SLA研究の対象としての子どもの第二言語(L )話者の存在を再確認し、年少者日本語教育への応用の可能性を議論することである。まずは、概説書などに必ず紹介される先駆的なSLA研究には、実は子どものL 話者を対象とした研究も多く、子どもを対象とした研究は決して周辺的な存在ではなかったという事実を紹介する。次に、日本語をL とする子どもを対象とした研究でも、SLA研究と呼べるものは少ないという事実に関連して、SLA研究とは何かと言う点について議論する。最後に、子どもを対象とした日本語のSLA研究の今後の可能性について述べる。
著者
小川 治子
出版者
お茶の水女子大学日本言語文化学研究会
雑誌
言語文化と日本語教育 (ISSN:09174206)
巻号頁・発行日
no.6, pp.36-46, 1993-12-04

日本語の感謝とわびの「定式表現」には、「ありがとう」「ごめんなさい」のような典型的な表現のほかに「すみません」のように感謝にもわびにも使うことのできる表現がある。本稿では、感謝の「すみません」の使用制約と使用場面の世代差を調査し、さらに「すみません」の機能の分析を試みた。感謝の「すみません」は、使えない場面があるが、若い世代の軽い感謝のことばとして、目上やソトの人に多用される。逆に上の世代では、目下や友達(ウチ)に対して使われる傾向がある。「すみません」は感謝やわびに使われるだけでなく、話の場づくり、話題づくり、さらに会話を円滑にすすめる機能をもっている。
著者
石井 怜子 田中 和佳子
出版者
お茶の水女子大学日本言語文化学研究会
雑誌
言語文化と日本語教育 (ISSN:09174206)
巻号頁・発行日
no.33, pp.73-82, 2007-06

本研究は、読解力育成を掲げる中級日本語教科書(3種4冊)を対象に、取り上げている学習項目・教え方と練習・系統性と多読拡大練習の実際を調査・分析した。分析の焦点は、文章構造知識によるトップダウンと情報間の意味的関連付けによるボトムアップ両面からのcoherenceの把握能力育成に絞り、分析の枠組みとして、Graesser, McNamara & Louwerse(2003)の提案を援用して、重要情報の選択、意味接続関係、文章構造にかかわる学習について調査した。分析の結果、これらの教科書は総じて、従来の質問応答による内容確認にとどまることなく、多様なタスクを通じてこれらの知識を教授し、知識の使用の練習をさせていることが明らかとなった一方、学習項目の厳選と配列、知識の提示と練習のあり方、知識を自ら活用できる読み手となるための学習過程に、今後検討するべき課題があることが示された。
著者
大関 真理
出版者
お茶の水女子大学日本言語文化学研究会
雑誌
言語文化と日本語教育 (ISSN:09174206)
巻号頁・発行日
no.5, pp.23-34, 1993-06-19

本稿は、日本語教育の視点からみた副詞の研究の一環として、日本語教育における効果的な副詞指導を考えることを目的に、教科書調査を行ったものである。日本語学習用初級教科書及び中・上級教科書で扱われている副詞語彙の特徴を、副詞の三分類(情態副詞・程度副詞・陳述副詞)を一つの指標にして明らかにしようとした。そして、教科書で盲点となっている副詞の機能を探り、「まったく」「もう」を例に、談話において重要な役割を果す副詞の存在を示し、辞書や教科書の意味記述との比較検討を行った。
著者
曹 大峰
出版者
お茶の水女子大学日本言語文化学研究会
雑誌
言語文化と日本語教育 (ISSN:09174206)
巻号頁・発行日
no.35, pp.1-9, 2008-07

海外の日本語教育では、教科書の役割が大きい。中国でも明(1368年)の時代から日本語教育が始まり、教科書の作成が時代とともに発展してきたが、20世紀70年代以来、中日国交正常化により日本語の学習が特に盛んになり、教材作成は主に素材補強→素材改善→素材統合の方向で進んできた。現在、さらに教材研究を通して言語学・外国語教育学・教育工学など広く学際的な成果を盛り込んだ新しい日本語教材の開発が進んでいる。本稿では筆者所属の北京日本学研究センターで実施された「中国の日本語教育における主幹科目"総合日本語(精読)"に関する総合研究」と「中国の日本語教育のための新しい教材像に関する研究」の成果を踏まえて、教育部「十一五」教材出版計画で実施中の新教材編纂のための総合シラバス研究を事例に、中国における大学専攻用日本語教科書作成の現状と課題を論述する。
著者
木山 三佳
出版者
お茶の水女子大学日本言語文化学研究会
雑誌
言語文化と日本語教育 (ISSN:09174206)
巻号頁・発行日
no.5, pp.35-45, 1993-06-19

場面に応じた「誘い」の言語様式使用の指導のために、実際の言語活動に近い「誘い」を提示した教科書を用いることは大切である。よく利用されている初級・中級教科書15冊の分析を通じて、指導上の留意点を考察した。初級では形の定着をはかるために、提出順序の配慮が重要である。また会話者間の関係によって、どの言語様式を選択することが適切であるかを示すために、上下関係のある会話者間の「誘い」の会話例も提示することが必要であると考える。中級ではそれに加えて談話の展開方法を重層的にする工夫が必要である。言語化過程モデルによる「誘い」の伝達の段階に加えて、「誘い」の補足や説得の段階を、本文だけでなく練習も利用して提示することが望ましい。
著者
OHRI Richa
出版者
お茶の水女子大学日本言語文化学研究会
雑誌
言語文化と日本語教育 (ISSN:09174206)
巻号頁・発行日
no.26, pp.27-40, 2003-12

多言語化・多文化化していく日本社会の目指す言語的な方向性を築く手がかりを探ることを最終的な目標とし、本稿では、コミュニケーションストラテジーとして使われているスピーチレベルシフトを例に取って接触場面における共生日本語の一側面の解明を目指した。共生日本語とは、接触場面において参加者の協働の結果新たに生み出される「内容」を言語的に担うものであるとされている。本稿では、接触場面におけるスピーチレベルシフトが実現するものを「内容」と捉え、その「内容」の解明を試みた。会話データの分析の結果、接触場面における非母語話者のスピーチレベルシフトの要因として、(1)「アドレス」、(2)「心的態度」、(3)「力関係」の三つが示され、それぞれが、(1)「オンステージの明示」、(2)「心的距離の短縮」、(3)「母語話者への感謝の気持ちの表示」や「日本語・日本文化の教示の要請」を実現していることが分かった。共生日本語は、接触場面において定住型非母語話者がとるコミュニケーションストラテジーの側面を持つことから、母語話者のそれへの理解や受容していく姿勢が望まれることを指摘した。
著者
佐々木 泰子
出版者
お茶の水女子大学日本言語文化学研究会
雑誌
言語文化と日本語教育 (ISSN:09174206)
巻号頁・発行日
no.4, pp.1-10, 1992-12-05

終助詞の「ね」は、日本人の談話で多用される。終助詞の「ね」について、辞書には、「詠嘆、念押し、同意を求める気持ち」などの記述が見られる。しかし、終助詞「ね」の使用には、上記用法のほかに談話における「丁寧さ」とのかかわりがあるように思われる。小論では、まず、類似した分析視点を有する主だった先行研究をサーベイし、次いでテレビの談話分析とアンケート調査を行い、終助詞「ね」が親しみをこめた丁寧さの働きかけをしていることを明らかにする。