著者
田中 和彦
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.111, no.1, pp.69-85, 2003 (Released:2003-11-19)
参考文献数
35
被引用文献数
2 2
著者
山崎 真治 藤田 祐樹 片桐 千亜紀 黒住 耐二 海部 陽介
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.9-27, 2014 (Released:2014-06-24)
参考文献数
8
被引用文献数
2

2012~2013年に沖縄県南城市サキタリ洞遺跡調査区IのII層(約16400~19300 BP[未較正])を発掘し,人骨2点(臼歯1点と舟状骨1点)とともに39点の断片化した海産貝類を検出した。先に報告したI層出土のものと合わせ,計47点にのぼる海産貝類は,人為的に遺跡近辺に運搬され,埋没したものと考えられる。II層由来のマルスダレガイ科(マツヤマワスレ[Callista chinensis]・ハマグリ類[Meretrix sp. cf. lusoria]),クジャクガイ[Septifer bilocularis],ツノガイ類[“Dentalium” spp.]について組成や形状,割れ方について記載するとともに,微細な線条痕および摩滅・光沢を観察したところ,マルスダレガイ科の破片には定型性が認められ,二次加工と考えられる小剥離痕が高い頻度で見られた。また,特定の部位に使用痕や加工痕と推定できる摩滅・光沢や線条痕が観察できることから,少なくともその一部は利器として使用されたと考えられる。また,クジャクガイの一部にも,使用痕と見られる線条痕や損耗が観察できた。ツノガイ類は,産状から装飾品(ビーズ)として用いられた可能性が高く,その一部には人為的な線条痕が観察できた。以上のことから,II層出土の海産貝類の少なくとも一部は,利器・装飾品を含む道具(貝器)として使用されたものと考えられる。II層出土の人骨と合わせて,こうした貝器の存在は,サキタリ洞での人類の活動痕跡が,少なくとも16400~19300 BP にまで遡ることを示している。
著者
香原 志勢 茂原 信生 西沢 寿晃 藤田 敬 大谷 江里 馬場 悠男
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
pp.1111180003-1111180003, (Released:2011-11-22)
被引用文献数
3 4

長野県南佐久郡北相木村の縄文時代早期の地層(8300から8600 BP(未較正))から,12体の人骨(男性4体,女性4体の成人8体,および性別不明の幼児4体)が,1965年から1968年にかけての信州大学医学部解剖学教室を中心とする発掘で出土した。数少ない縄文時代早期人骨として貴重なもので,今回の研究は,これらの人骨の形態を報告し,従来明らかにされている縄文時代早期人骨の特徴を再検討するものである。顔高が低い,大腿骨の柱状性が著しい,歯の摩耗が顕著である,など一般的な縄文人の特徴を示すとともに,早前期人に一般的な「華奢」な特徴も示す。脳頭蓋は大きいが下顎骨は小さく,下顎体は早期人の中でもっとも薄い。下顎骨の筋突起は低いが前方に強く張り出している。上肢は華奢だが,下肢は縄文時代中後晩期人と同様に頑丈である。他の縄文時代早前期人と比較検討した結果,縄文時代早期人の特徴は,従来まとめられているものの若干の改定を含めて,次のように再確認された。1)顔面頭蓋が低い。2)下顎は小さいが,筋突起が前方に強く張り出す。3)下肢骨に比べて上肢骨が華奢である。4)下顎歯,特に前歯部には顕著な磨耗がある。
著者
香原 志勢 茂原 信生 西沢 寿晃 藤田 敬 大谷 江里 馬場 悠男
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.119, no.2, pp.91-124, 2011 (Released:2011-12-22)
参考文献数
75
被引用文献数
3 4

長野県南佐久郡北相木村の縄文時代早期の地層(8300から8600 BP(未較正))から,12体の人骨(男性4体,女性4体の成人8体,および性別不明の幼児4体)が,1965年から1968年にかけての信州大学医学部解剖学教室を中心とする発掘で出土した。数少ない縄文時代早期人骨として貴重なもので,今回の研究は,これらの人骨の形態を報告し,従来明らかにされている縄文時代早期人骨の特徴を再検討するものである。顔高が低い,大腿骨の柱状性が著しい,歯の摩耗が顕著である,など一般的な縄文人の特徴を示すとともに,早前期人に一般的な「華奢」な特徴も示す。脳頭蓋は大きいが下顎骨は小さく,下顎体は早期人の中でもっとも薄い。下顎骨の筋突起は低いが前方に強く張り出している。上肢は華奢だが,下肢は縄文時代中後晩期人と同様に頑丈である。他の縄文時代早前期人と比較検討した結果,縄文時代早期人の特徴は,従来まとめられているものの若干の改定を含めて,次のように再確認された。1)顔面頭蓋が低い。2)下顎は小さいが,筋突起が前方に強く張り出す。3)下肢骨に比べて上肢骨が華奢である。4)下顎歯,特に前歯部には顕著な磨耗がある。
著者
鳩貝 太郎
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.115, no.1, pp.56-60, 2007
被引用文献数
2 1

わが国では法的な根拠を持った学習指導要領が教科・科目の内容等を定め,それに沿った教科書が発行されている。現行の高等学校学習指導要領では理科は11科目からなり,それらから必要な科目を数科目選択することになっている。そのため,生物Iの履修率は約67%,生物IIは約18%である。現状では生物に関する基本的な内容を学ばないまま高等学校を卒業する生徒が少なくない。高校生の3分の2ほどが選択している生物Iの内容にはヒトの遺伝,変異,進化,生態に関する内容及び生命現象の仕組みを分子レベルで扱うことなども含まれていない。学習指導要領で生物の内容を充実させることと,生物の基礎・基本の定着を図る指導の充実が求められている。<br>
著者
日下 宗一郎 五十嵐 健行 兵藤 不二夫 藤澤 珠織 片山 一道
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.119, no.1, pp.9-17, 2011
被引用文献数
8

江戸時代は,急激な人口増加とその後の人口安定,また陸・海路による交易網の発達によって特徴づけられ,コメや野菜や魚介類を主要な食物としていたと言われる。そのような江戸時代の人々の食性を,遺跡から出土した人骨を用いて実証しようとするのが本研究である。伏見城跡遺跡(京都市)より出土した江戸時代人骨および動物骨からコラーゲンを抽出して,炭素および窒素の安定同位体比を測定した。合計で27個体(男性9個体,女性12個体,子ども6個体)の人骨を分析に用いた。それにより,伏見江戸時代人の食性,その性差を検討することを目的とした。江戸時代の伏見の人々は,タンパク質源を淡水魚類に強く依存した食生活,もしくは陸上生態系から得られるC3植物と海産あるいは淡水魚類などを主たるタンパク質源とする食生活を送っていた可能性を示した。江戸時代の都市では,食生活が米,野菜,魚介類からなり,アワやヒエ,キビなどC4植物の消費が少ないとする古記録を考慮に入れると,後者の食生活像が支持される。また,男性の炭素同位体比は女性よりも高く,より多くの海産魚類や貝類などを摂取していた可能性がある。また,年齢が上がると子どもの窒素同位体比は下がる傾向があり,これは母乳の摂取と離乳の開始に関連していると考えられる。
著者
西村 剛
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.116, no.1, pp.1-14, 2008 (Released:2008-06-30)
参考文献数
105
被引用文献数
2 2

ヒトの話しことばにみられる連続的で変化に富んだ音声は,他の霊長類の音声とは異なり,言語で整理された多種多様な情報のすばやい効率的な伝達を可能にする。ヒトは,ヒト以外の哺乳類とは異なり,脳で作られた音声計画に合わせて音声器官の運動を随意に制御し,声道形状を的確なかたちへと連続的に変化させて,話しことばをつくりだす。古人類学的研究では,その話しことばに関連すると考えられる形態学的特徴を探し出し,その特徴に関する古人類の比較形態学的分析を通じて,言語の起源が論じられてきた。一方,ヒト以外の霊長類における音声器官の比較形態学的研究や音声の生物音響学的研究の進展は,話しことばの生物学的基盤は,ヒト系統以前から,それとは関係のない別々の適応を経て現れたというモザイク進化モデルを描き始めた。今後,両研究アプローチによる知見の蓄積とともに,それらが運動学的分析のもとに統合されることを期待したい。それにより,話しことばの解剖学的基盤の何がヒト特異的であるのか,あらためて浮き彫りになるだろう。その実証的知見が古人類学的研究へ還元されるとき,話しことばを含む言語の長い進化プロセスの解明への新たな一歩がふみ出されるに違いない。
著者
近藤 信太郎 金澤 英作 中山 光子
出版者
一般社団法人 日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.114, no.1, pp.63-73, 2006 (Released:2006-06-23)
参考文献数
78

ヒトの上顎大臼歯と第二乳臼歯に見られるカラベリー結節は最もよく知られた歯冠形質のひとつである。この形質に関しては様々な観点から多数の研究が行われてきた。本稿では最近の研究を紹介するとともに,この形質が歯の人類学に与えた多くの課題を3つのキーワード「分布」,「遺伝」,「系統と発生」にしたがって検証した。「分布」の項では形質の基準,集団間の違い,ヨーロッパ人にカラベリー結節が多く見られる理由を検討した。「遺伝」の項ではカラベリー結節の遺伝,左右側の非対称性,性染色体とカラベリー結節,性差について考察した。「系統と発生」の項ではカラベリー結節の系統発生と個体発生,カラベリー結節は大きい歯にみられるのか,に関して検討した。歯の内部構造の研究方法の開発や分子生物学的な研究によりカラベリー結節は多方面からより詳細に研究され,未解決の課題が解明されることであろう。
著者
巻島 美幸 荻原 直道
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.11-21, 2009 (Released:2009-06-20)
参考文献数
31
被引用文献数
2 3

津雲,吉胡貝塚出土の縄文時代人計19個体と現代日本人計22個体の頭蓋骨の形態変異を,3次元幾何学的形態測定学に基づいて分析し,従来の頭蓋計測値に基づく多変量解析の結果を再現するか,また今まで報告されていない新たな形態変異を検出するか検証を試みた。まず,CTスキャナを用いて頭蓋骨の精密3次元立体形状モデルを構築し,計35点の解剖学的標識点の3次元座標を取得した。そして縄文時代人と現代日本人の頭蓋形状の変異傾向を,幾何学的測定形態学に基づいて分析した。分析は,35標識点すべてを用いるが縄文時代人の個体数が少ない分析Iと,個体数は多いが遺存の悪い部位を除いた計23標識点のみを用いる分析IIに分けて行った。その結果,現代日本人は,津雲貝塚人と比較して相対的に上顔高と鼻高が高く,脳頭蓋幅と頬骨弓幅が狭く,口蓋と頭蓋底が下方に位置し,顔面が立体的で歯槽性突顎の傾向があることが示され,幾何学的形態測定学に基づく分析結果は,従来手法に基づく先行研究の結果と基本的には一致することが明らかとなった。また,現代日本人の頭蓋骨では,津雲貝塚人と比較してラムダが相対的に前方にイニオンが後方に位置し,後頭鱗が相対的により垂直になる傾向があることが新たに検出された。幾何学的形態測定学に基づく古人骨の分析は,破損・欠損のため解析に含められる標本が必然的に限られてしまう問題があるが,形態の変異傾向を統計学的に抽出し,また視覚的に表示する上で有効であることが確認された。