著者
山添 崇 舟木 智洋 喜安 勇貴 溝上 陽子
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6+, pp.17, 2018-11-01 (Released:2019-01-29)
参考文献数
3

質感は物体から受ける印象を決定する主な要因であり,物体の好ましさや価値判断の指標の一つである.照明の指向性および拡散性が質感の印象に影響することは報告されている.しかし,どのような照明条件下で最も質感の印象が忠実に再現されるかについては,分かっていない.そこで,本研究では実物体観察時における質感の印象と照明条件の関係について検討した.実験では,初めに自然光源下において,被験者が視覚と触覚を用いて,実験刺激である食品サンプルの印象を形成した.その後,3種類の照度と3段階の拡散度の組み合わせ合計9条件の照明下において,実験刺激を観察し,最も印象に忠実な照明条件を選択した.同時に7件法の主観評価を行い,印象の変化についても評価を行った.実験の結果,拡散性の高い条件が最も記憶した印象に忠実な照明として選択された.また,7件法の主観評価では,拡散性による明確な印象の違いは得られなかった.ただし,刺激の種類により重さの評価等に違いがでたことから,拡散性の影響は物体形状や材質により異なると考えられる.以上より,印象を忠実に再現するために最適な照明の拡散性条件の決定が可能であることが示唆された.
著者
牧野 暁世
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, 2018

<p> 日本色彩学会第47回全国大会[名古屋]'16のビジュアルデザインを制作した.1.過去の実績と現状把握 2.制作物の目標設定 3.ロゴマーク制作 4.ポスター制作 5.デザイン展開 6. 制作の評価 の過程に基づき,「独自性」,「視認性」,「展開性」の3つの目標を定め,制作した.</p><p> メインビジュアルとなるロゴマークにおいて,色彩は本大会に関連する事物と対応付けた7色を用いた.全体の造形は,7つの三角形で構成される七角形を用い,中央に図地反転で光の漢字が読めるように配置した.ロゴマークデザインに基づいたポスター,会場案内,うちわも作成された.本制作は,デザインの専門家から一定の評価が得られたことから,本大会に相応しいビジュアルデザインの一例を示せたのではないかと考えられる.全国大会が今後も色彩学の進歩普及を図り,色彩を通じて社会や人々の暮らしへの貢献を先導するとともに,ビジュアルデザインが一層発展することを願う.</p>
著者
菱川 優介 桂 重仁 須長 正治
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3+, pp.141-144, 2017-05-01 (Released:2017-10-07)

色覚異常を持つ人の日常生活におけるトラブルとして,焼肉の焼け具合がわからないという報告がされている.このことから,色覚異常を持つ人は,一人で焼肉を行うことが難しいと言える.本研究では,2色覚の一人焼肉を補助すべく,焼肉が焼けたかどうかを知らせるアプリを作成した.実験では,肉の表面を測色すると同時に,3色覚と2色覚に焼肉の見た目の焼け具合を評価してもらった.焼肉の色変化の過程は,錐体刺激値LM平面にて特徴が現れていた.この変化過程は,2色覚に対してL軸またはM軸への射影となる.その結果,生肉の色が,肉が焼けていく過程の色変化のなかに埋もれてしまい,2色覚は色変化からでは焼け具合がわかりにくいことが示された.また評価結果をもとに,LM平面上にアプリによる焼け具合判断の閾値を設定した.作成したアプリと3色覚の判断がどれくらい一致するかを調べた.焼けた肉と焼けていない肉を,アプリが正しく判断する確率はそれぞれ63%と94%であった.また,焼けた肉,焼けていない肉に対して誤った判断をする確率はそれぞれ37%,6%であった.以上のことから,おおよそ正しく肉の焼け具合を判断するアプリを作成した.
著者
吉村 耕治 山田 有子
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, 2020

<p> 新しい色名は,いつの時代でも創られている.21世紀の日本車の新色名に,「グロリアスグレーメタリックモリブデン鸞鳳(らんぽう)」や「デミュアーブルーマイカメタリックモリブデン瑞雲(ずいうん)」がある.これらは最高級車センチュリーの色名で,その塗装には日本の伝統工芸の漆塗りを参考に,層を重ね,研ぎと磨きを加えることで奥深い艶や輝きが追求されている.そして,敢えてカタカナと漢字を併用することによって,高級感が表出されている.その他にも,「シリーンブルーマイカ摩周(ましゅう)」や「ブラッキッシュレッドマイカ飛鳥」などもある.四季や時の移り変わりによる景色の変化が,車のボディカラーにも表現されており,トヨタのジャパンカラーセレクションパッケージ(12色)には,「紅,仄(ホノカ),茜色,天空(ソラ),群青,紺碧(アオ),白夜(ビャクヤ),翡翠(ヒスイ),常磐色(トキワイロ),胡桃(クルミ),黒曜,白光」が用いられている.21世紀になってから,「白夜,白光,夜霞」なども車のボディカラーとして採用され,「エモーショナルレッド」や「アティチュードブラックマイカ」のような感情を表出する色名が増加している.</p>
著者
大石 如香 石本 豪
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3+, pp.169, 2019-05-01 (Released:2019-07-06)
参考文献数
12

性格特性によって色彩嗜好が影響を受けることが指摘されている.本研究では医療福祉を学ぶ大学生における性格特徴と色彩嗜好の関連性について検討した.方法は191名の大学生を対象とし,色彩嗜好調査ならびに性格特性調査を実施した.色彩嗜好調査では,赤,オレンジ,黄,黄緑,緑,青,紫,ピンク,茶,水色の10色名を提示し,各色の嗜好度を高い順に回答させた.性格特性調査では,アイゼンクの性格理論を基に16項目の性格特性に自分がどれくらい該当するか5段階尺度で評価させた.これらの指標値や得点についてそれぞれ在籍する学科ごとに分析を行ったところ,学科によって性格特性に差があること,性格特性によって色彩嗜好に質的な差異があることが示された.学科ごとの学生の性格特性を踏まえ,各医療専門職の資格を有する教員と臨床心理士の資格を有する教員が連携を取って,学生に対する細やかな指導を実施していく必要があると考える.
著者
木本 晴夫
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3+, pp.104, 2018-05-01 (Released:2018-07-17)
参考文献数
9

中国の色譜としては代表的なものとして,「色譜」(中国科学院,1957年)と,「中国の伝統色」(大日本インキ化学,1986年)とがある.「中国の伝統色」の応用は主に美術・デザイン方面にある.「色譜」の応用は「(動物,植物などの)生物学,鉱物学,印刷染色,絵画などの各領域」であり,「中国の伝統色」に比べてその応用分野は幅広い.「色譜」はその成立過程や編集関係資料などは明らかでないとされている.近年,インターネットの普及によって,世界中の種々様々な情報がアクセス可能となった.このことは中国においても同様である.本研究では,「色譜」の編集委員達について調査を行い,それを通して「色譜」の成立背景を考察した.併せて,関係資料として,特に,「色譜」が参考とした「ロシアのボンダルツェフ色譜」を入手して「色譜」との対比を行った.その結果,「色譜」と「ロシアのボンダルツェフ色譜」はその色と色名において顕著な類似性は見られなかった.「色譜」は中国の自然,文化を反映して,色,色名などを幅広い分野にわたって独自に作られたものと考える.色名造語も自由闊達で,多種多様である.
著者
大野 治代
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3+, pp.68-69, 2017-05-01 (Released:2017-10-07)

視覚表示として,液晶画面による動的表示が多いけれども,選挙ポスターは静的な表示として今なお使用されている.筆者は選挙ポスターの色彩調査を20余年前から実施し,今回第22回参議員選挙立候補者の選挙ポスターを調査した結果を報告する.ポスターの回収は,全立候補者222名(比例区除く)の88%(掲示のみ)である.回収したポスターの6割は色彩計で実測し,残りは現場で撮影した画像と実測したポスターと同時撮影した画像とを対照させて,色彩を検討した.色彩調査は,ポスターの色彩を13分類(N1, N5, N10, R, YR, Y, GY, G, BG, B, PB, P, RP)した結果に基づき,使用色数と色相についてまとめている.また,選挙ポスター掲示板前の視環境は,照度と色温度の測定値で示している.さらに,今回の選挙ポスターの色彩は,以前の結果と比較して使用色数が減少していること,使用頻度の高い色が赤から白色へ変化していることも述べている.
著者
山田 雅子
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.3, 2019-01-01 (Released:2019-01-29)
参考文献数
31

日本人女子学生による肌の色の言語的表現を探った調査では,男性の方が女性よりも色黒,女性の方が男性よりも色白と表現される傾向が捉えられている(山田, 2017).だが,色みについては不明瞭なままであった. 調査方法に若干の変更を加え,97名の日本人女子学生を対象として新規に調査した結果,男性の方が女性(回答者自身を含む)よりも色黒で黄み寄り,女性(同)の方が男性よりも色白で赤み寄りといった意識が持たれていることが判明した.また,当該傾向は現実に対する評価よりも理想において顕著となることが捉えられた. 更に,肌の色の明るさに関する言語表現の選択パタンには両調査で共通する部分が多分に見られ,日本人女子学生というほぼ同質の対象者ならば一定の反応パタンが安定的に存在することが推察された.同時に,こうした肌の色に対する選択パタンによって,人物の美的評価における肌の要素(色白肌,肌のきめ細かさ)の重視特性が異なる傾向も確認された.
著者
豊田 敏裕 門奈 哲也 鈴木 敬明 小浜 朋子
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6+, pp.12-14, 2017-11-01 (Released:2018-02-20)
参考文献数
4

【目的・背景】ソムリエは,ワインを視覚的に評価する際,ワイングラスを傾けて,白い紙など高反射率の背景にかざした時に液面に現れるグラデーションなどからワインの産地や品質を確認している.この一連の評価について,分光測色によりその意味について考察した.【方法】ソムリエが色合いを分類した5種類の赤ワイン(ガーネット系3種類,ルビー系2種類)を試料とした.まず,厚さ10mmの光学セルを用いて分光透過率を測定し,CIELAB値(D65,2度視野)を求めた.次に,透過率の低いガーネット系の試料(3種類)を,精製水(イオン交換水)で2倍,4倍,8倍,16倍に希釈した試料を用いて,光学濃度の変化を,測定光路長の変化とみなして,ワイングラスを傾けた場合に,どのような色彩の変化が伴うかを調べた.【結果】試料の測色値は,全て同じ色相で,彩度の異なる分布を呈し,試料の測色値とソムリエによる色合いの分類の間には,明度以外に明確な関係は見られなかった.また,ガーネット系の試料3種類すべてについて,希釈による光学濃度の変化により,彩度と明度の関係に非線形性がみられた.
著者
吉留 大雅 平井 経太 堀内 隆彦
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6+, pp.53-56, 2017-11-01 (Released:2018-02-20)
参考文献数
8

食肉の加熱調理において,色は焼き加減を判断する重要な指標の一つとして用いられており,加熱調理中の肉色変化の予測および視覚化は,スマートキッチンなどの調理支援技術に大きく貢献する.本研究では,肉色の決定に大きく関与している色素分子,ミオグロビンの熱変性に焦点を当て,加熱による肉色変化を分光ベースで推定するモデルを提案した.また,提案モデルによる肉色変化の結果を可視化するために,時間変化に基づく肉の加熱CGシミュレーションを作成した.提案モデルにおいて,加熱した肉の分光反射率は,ミオグロビンの誘導体3形態および変性ミオグロビンの分光反射率の線形和で表されると仮定した.ミオグロビン各形態の割合は,誘導体3形態および加熱した肉試料の分光反射率をK/S値(吸収散乱係数比)に変換することで導出した.推定モデルによる分光反射率と実測による分光反射率を比較すると,変性前の推定モデルの分光反射率には一部の誘導体の分光的特徴が反映されなかったが,変性が進行すると,推定モデルに各誘導体の特徴が確認されるようになり,肉色も実測値に近くなった.
著者
遠藤 聡 石田 泰一郎
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.31-34, 2017

<p> 近年,照明技術の発展に伴い,機能的な側面だけでなく,芸術性までも照明に求める場面が増えてきた.また,歴史都市として発展してきた京都は,夜間であってもほかの都市と異なる雰囲気を感じる人は多くいると思う.そんな京都の夜間照明に関して,現地調査により測定された実測値と,写真による印象実験によって得られた結果とを分析した既往研究は少ない.また,京都の観光地の夜間照明を対象にした既往研究は多く見られるが,京都市内広域を対象とした既往研究は少ない.本研究では,京都の都市照明における独自性に着目し,無作為サンプリングを行い,京都市内広域に渡って,さまざまな地点で照度の測定などの現地調査を行い,そこで撮影した写真を用いて印象評価実験を行い,その結果を分析し,結果と実測値や撮影写真を照らし合わせて「京都らしい」都市照明とはいかなるものかを検証した.そして「京都らしい」夜間照明の印象評価や物理量などに関して,一定の特徴が明らかになったことを論じる.</p>
著者
若田 忠之 森谷 春花 齋藤 美穂
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3+, pp.96, 2018-05-01 (Released:2018-07-17)
参考文献数
2
被引用文献数
1

前報であるWakata&Saito(2017)に引き続き,複数の感覚間の関係性に着目したCross-modal 研究における,色(視覚),音楽(聴覚),香り(嗅覚)の3つの感覚に共通する印象次元を抽出し,その印象次元における各感覚の関係性の検討および前報の結果に加えて香り,音楽に対する調和色の傾向と印象との関係性を検討することを目的とした.その結果,色の明るさとあざやかさと対応する印象次元が認められ,特に因子1は明るさ,あざやかさの判断と関連し,その判断が香りと色,音楽と色の感覚間の調和関係に影響を与える傾向が示された.
著者
桂 重仁 須長 正治
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.189-200, 2017-09-01 (Released:2017-09-25)
参考文献数
9

色彩や色名はコミュニケーションの情報として日常的に使用されている.しかし,色覚異常を持つ幼児は,色覚という概念が理解できないため,困惑すると思われる.そのような幼児に対し,まず,家族や保育士が色覚異常に気づき,そして,対処することが望まれる.そこで,本研究では,幼児の色覚異常に気づくために,色覚異常特有のクレヨンの色使い,すなわち,混同して使われることがある色に着目し,色彩科学的見地から市販されているクレヨンの混同色の解析を行った.さらに,2色覚のクレヨンの混同のしやすさに対し,“混同色対指数”という新たな指標を導入し,クレヨンの混同色のランク付けを行った.そして,幼児のクレヨンの色使いにて混同色対指数0.6以上のクレヨンの混同が色覚異常の可能性を示すひとつの目安となることを論じた.
著者
菱川 優介 桂 重仁 須長 正治
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.141-144, 2017

色覚異常を持つ人の日常生活におけるトラブルとして,焼肉の焼け具合がわからないという報告がされている.このことから,色覚異常を持つ人は,一人で焼肉を行うことが難しいと言える.本研究では,2色覚の一人焼肉を補助すべく,焼肉が焼けたかどうかを知らせるアプリを作成した.実験では,肉の表面を測色すると同時に,3色覚と2色覚に焼肉の見た目の焼け具合を評価してもらった.焼肉の色変化の過程は,錐体刺激値LM平面にて特徴が現れていた.この変化過程は,2色覚に対してL軸またはM軸への射影となる.その結果,生肉の色が,肉が焼けていく過程の色変化のなかに埋もれてしまい,2色覚は色変化からでは焼け具合がわかりにくいことが示された.また評価結果をもとに,LM平面上にアプリによる焼け具合判断の閾値を設定した.作成したアプリと3色覚の判断がどれくらい一致するかを調べた.焼けた肉と焼けていない肉を,アプリが正しく判断する確率はそれぞれ63%と94%であった.また,焼けた肉,焼けていない肉に対して誤った判断をする確率はそれぞれ37%,6%であった.以上のことから,おおよそ正しく肉の焼け具合を判断するアプリを作成した.
著者
益満 大志 溝上 陽子
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3+, pp.26, 2018-05-01 (Released:2018-07-17)
参考文献数
2

本研究では,画像の鮮やかさの知覚が,彩度変調画像および彩度・明度コントラスト変調画像への順応によって影響を受けるか検証した.自然画像において彩度の上昇(低下)と同時に輝度コントラストを上昇(低下)させると,彩度のみを上昇(低下)させた場合より自然に見える範囲が広がるとされ,この知覚される自然さの違いが彩度の順応効果に影響を与える可能性がある.実験では,同じ変調係数にて変調した彩度・明度コントラストを有する複数の画像に順応後,彩度のみを変調したテスト画像を呈示し,その彩度知覚を測定した.結果,彩度のみを変調した画像と,彩度・明度コントラストを同時に変調した画像に順応した条件では,順応効果に有意な違いは現れなかった.しかし,彩度の上昇(低下)と同時に明度コントラストを低下(上昇)させ,明らかに不自然と感じられる画像に順応した条件では,順応効果がそれらと比べて極めて小さくなった.この変調方向においては,被験者の自然に見える範囲も他の変調方向と比べて狭いという結果となった.したがって,この知覚される画像の自然さの違いにより,彩度順応効果に違いが表れると考えられる.
著者
浅野 晃 出口 絢那 浅野(村木) 千恵
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6+, pp.37, 2018-11-01 (Released:2019-01-29)
参考文献数
5

本研究では,製品の色の嗜好を,上の「事物の介在による選好の変化」という観点から検討する.ここでは,色そのものに対して持つ「選好」と,どういう色の製品を好むかという「嗜好」との違いに注目し,両者の一致度が各条件でどのように異なるかを調べた.調査では,まず色だけについての選好を被験者に尋ね,さらに,冷蔵庫・ノートパソコン・スマートフォンを対象として,色の嗜好を調べて,「色自身の選好」と「製品の色についての嗜好」を比較した.その結果,「選好」と「嗜好」の一致度は,製品によって異なるのみならず,男性と女性の間でも差があることが示唆された.とくに,女性は男性に比べて,製品が「身に付けるもの」かどうかが,色の選好と製品色の嗜好の一致度に影響している傾向が見られた.
著者
北嶋 秀子
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.15, 2018-01-01 (Released:2018-02-07)
参考文献数
21

暈繝彩色は7 世紀に中国からわが国へ伝来した彩色技法である.主に仏教的なものに使用され,「鮮やかな多彩感」や「立体感」を表す.中国と日本の暈繝彩色は,同じ画材,同じ描法であるにも関わらず,違いが認められる.敦煌莫高窟に代表される中国の暈繝彩色は「立体感」を,それに対して日本の場合は,「鮮やかな多彩感」を重視した.その結果,日本の暈繝彩色は平面的で,その後装飾的なものになったと考えられる. 本稿ではもともと立体感を表す彩色技法であった暈繝彩色が,なぜ日本では平面的で,後に装飾的になったのかを考察した.奈良時代までは立体感を帯びた暈繝彩色であったが,徐々に日本独自の暈繝彩色へと変容する.そこには当時の平面的な絵画(仏画)の影響があり,その変容の時期は,密教請来との関係が考えられる. 8 世紀に立体的であった暈繝彩色は,9 世紀の過渡期を経て,10 世紀に平面的になった.そして11 世紀の平等院鳳凰堂では,平安貴族の耽美主義の影響により,装飾性を重視した暈繝彩色へ推移したと考えられる.日本の暈繝彩色で「鮮やかな多彩感」をどこよりも発揮しているのが,平等院鳳凰堂である.
著者
吉村由利香 大江 猛
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3+, pp.185, 2018-05-01 (Released:2018-07-17)
参考文献数
3

現在,最も普及している照明用白色LEDは青色ダイオードとこれを励起光とする黄色蛍光体による疑似白色光である.このLEDの光色は人間の脳には白と認識されるが,物体色の見え方は従来白色光と異なっている.そこで,本研究ではLEDの疑似白色光のスペクトル波形がその照明下の物体色に及ぼす影響について検討した.LEDの450nmのピーク強度を減少させた場合,赤系の物体色ではa*値が増大し,青系では逆にa*値が減少した.L*値とb*値への影響はほとんどなかった.これらは,450nm付近に感度を持つ三刺激値(X値,Z値)の変化に起因するものと考えられた.この物体色と太陽光(D65)との色差⊿E*値を算出すると,450nmのピーク強度を85%程度に低下させた場合に,赤系以外の物体色では⊿E*値が小さくなり,太陽光との見え方に近づく結果が得られた.一方,550nmのピーク位置を長波長側にシフトさせた場合,赤の色相ではa*値の減少とb*値の増大,青の色相の場合には,逆にa*値の増大とb*値の減少が認められた.これらの変化はいずれも彩度の高い物体色ほど顕著になることが分かった.
著者
馬場 靖人
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3+, pp.118, 2018-05-01 (Released:2018-07-17)
参考文献数
20

J. ドルトンによる歴史上初めての学問的な色覚異常論の発表から遅れること十余年,ゲーテは『色彩論』(1810年)を上梓する.彼はそのなかで色彩一般についての研究とは別に色覚異常についての研究も行なったが,その著書の出版に先立つ1790年代に,すでに色覚異常の被験者を相手に独自の実験を行なっていた.本発表では,W. イェーガーによるゲーテの色覚異常実験法についての研究やゲーテ自身の著作を参考にしつつ,ゲーテが行なった実験の仔細な内容を検討し,その実験からどのようにしてゲーテが有名な「青色盲」説を導き出したのかを論じる(彼は,現在では赤ないし緑の知覚機能の欠如として説明される(赤緑)色覚異常を「青」の欠如として説明し,彼の被験者を「青色盲」と名づけた).彼の行なった実験とは具体的には,(1)灰色のグラデーションの提示,(2)複数の色彩斑点による混同色の特定,(3)茶碗に色を塗りつける実験,(4)紙片に塗った色による実験――以上の四種である.これらの実験を再検討することによって,18世紀末‐19世紀初頭における色彩にまつわる技術や文化と色覚異常研究との関係性の一端を明らかにすることができるだろう.