著者
石井 萌美 川原 晋
出版者
一般社団法人 日本観光研究学会
雑誌
観光研究 (ISSN:13420208)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.85-94, 2021 (Released:2022-06-04)
参考文献数
14

銭湯は,日本の生活文化体験を求める外国人等の需要や,文化的価値を評価する動きがある一方,家庭内浴槽の普及や,親族への事業承継の慣例化による後継者不足で減少傾向にある。本研究は生活文化資源として銭湯を継承する可能性を見出すため,親族以外が事業承継した事例に着目して次の 3 点を明らかにした。第一に,事業承継において必ず克服の必要な障壁を明らかにしたこと,第二に,レクリーション利用等の新たな需要獲得のための取り組みを把握したこと,第三に,銭湯独自の建築や設備,道具といった「銭湯資産」の意識的・無意識的な継承状況を把握し,今後の喪失リスクを検討したことである。
著者
和栗 隆史
出版者
一般社団法人 日本観光研究学会
雑誌
観光研究 (ISSN:13420208)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.21-28, 2022 (Released:2023-06-23)
参考文献数
25

全国各地で宿坊開設の動きがあり、コロナ禍でも継続している。歴史的に宿坊は、土地と建物を所有する寺院が宗教活動の一環として参詣者に宿泊の供給を行ってきたが、近年の新しい宿坊にはこれまでとは異なる経営形態が生じていると推測される。本研究は、近年開業した施設ならびに観光庁が推進している「寺泊」事業が支援している施設に着目し、新しい宿坊の事業主体と経営形態に焦点を当てその特徴と役割を整理した。その結果、ホテル経営において所有と経営・運営の機能分化が生じていることが知られているように、宿坊においても、多様な外部アクターが参画し、経営形態の多層化と機能分化が生じていることが確認された。
著者
杉本 興運
出版者
一般社団法人 日本観光研究学会
雑誌
観光研究 (ISSN:13420208)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.29-47, 2023 (Released:2023-10-01)
参考文献数
40

本研究は、ライブ・エンタテイメント(LE)の全国的動向を、イベントの開催地域や開演時間の点から追求した。具体的には、大量の音楽・ステージイベントの個票データを分析し、イベント開催件数の地域集中度、イベント開演時間の分布とその地域差を明らかにした。また、サブジャンルや会場規模によるイベント開演時間の違いについても分析した。LEイベントは、空間的には一部の地域に集中していた。そして、時間的には平日夜間や休日昼間へ集中する傾向がみられたが、サブジャンルに細分化するとそれぞれで特徴的な時間分布をみせた。これらの結果から、LEの地域的特性や夜間経済との関わりについて考察した。
著者
杉田 由紀子 溝尾 良隆
出版者
一般社団法人 日本観光研究学会
雑誌
観光研究 (ISSN:13420208)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.1-10, 1998-09-30 (Released:2017-04-01)
被引用文献数
1

Since the reversion to Japan, the tourism industry in Okinawa has grown rapidly along with the increased number of tourists. This development is basically attributed to the abundance of its subtropical tourism resources. Furthermore this remarkable development of the tourism has been facilitated by the promotion of the Japanese airlines. The airlines promoted Okinawa's tourism by expanding air routes, adopting the low price policy of air fares, making the destination campaign in large scale and expanding its business to the hotel industry and so on. The main purpose of this article is to clarify the effects of air transport which contributed to the development of the tourism in Okinawa especially during the period right after the International Ocean Exposition.
著者
足立 大育 十代田 朗 津々見 崇
出版者
一般社団法人 日本観光研究学会
雑誌
観光研究 (ISSN:13420208)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.145-151, 2021 (Released:2022-06-04)
参考文献数
11

本研究は 1980 年代にブームとなったまちづくり運動である「ミニ独立国運動」の持続性について調査したものであり、インターネット検索にて現在活動が確認できたミニ独立国 40 か国を対象にアンケート、ヒアリングを行った。本研究の調査より、持続にはミニ独立国運動の特徴である「パロディで楽しくやること」と「地域の一体感を作ること」が重要であり、持続性のためには住民のやる気と自治体の人材・資金を組み合わせる方法が考えられる。ミニ独立国の活動の持続に初期の施策の充実度は関連しないが、活動の派生には施策の充実度が重要であると考えられることが分かった。
著者
砂本 文彦
出版者
一般社団法人 日本観光研究学会
雑誌
観光研究 (ISSN:13420208)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.1-10, 2006-03-31 (Released:2017-04-01)

The purpose of this study is to make clear states of Tourist Resort for foreigner at Matsushima and the Policy of Tourist Industry during 1930s. Miyagi Pref. had constructed New Park Hotel in 1939 through the Policy. It was planned as an accommodation to be taken in group tourists traveling on the Northern-Japan route for foreign tourist. The most expectation of those was the Olympic Game tourist. The architecture was designed by Isoya Yoshida and Sadataro Takahashi. They were each assigned design process. The basic part designed Takahashi and the detail one did Yoshida. Its Japanese-style design was referred on other facilities and surroundings in the park when the basic plan was finished. That style had been selected out for foreign tourist.
著者
海老沢 結 川原 晋 平田 徳恵
出版者
一般社団法人 日本観光研究学会
雑誌
観光研究 (ISSN:13420208)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.75-84, 2021 (Released:2022-06-04)
参考文献数
13

未指定文化財や文化財の周辺環境までを含む歴史文化資源を保全・活用していくためには,行政のみならず,地域全体での取り組みが必要とされる。本研究では,民間アーカイブズの担い手,かつ,未指定文化財等の所有者であり,文化財にふさわしい活用の担い手になる可能性が高い存在として偉人子孫に着目し,その全国の基礎的動向を把握した。また日野市新撰組の子孫をケーススタディとし,子孫が果たしてきた役割や特徴を行政の活動と比較しつつ明らかにした。偉人子孫は,歴史文化資源を伝承とともに継承してきた存在であり,個人史的解説をするなど,行政博物館と歴史の解説手法に違いがあることや,それが観光的魅力となっていることを示した。
著者
南地 伸昭
出版者
一般社団法人 日本観光研究学会
雑誌
観光研究 (ISSN:13420208)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.89-105, 2021 (Released:2022-04-01)
参考文献数
114
被引用文献数
1

本研究では、消費者行動研究の分野で発展してきた「経験価値モデル」に基づき、西国三十三所巡礼バスツアーの参加者を対象とする質問紙調査を行い、巡礼ツーリズムの中に現代の巡礼者が見出している多様な経験価値を捕捉するための尺度の開発を行った。その結果、経験価値の構成概念については、「脱日常的価値」および「真正性の価値」、「審美的および娯楽的価値」、「教育的価値」、「経済的価値」、「社会的価値」の計 6 因子、22 項目が抽出された。とりわけ、オリジナル性やリアル性、誠実さといった真正性を構成する重要な要素が抽出され、各々が真正性の探求を基底とする巡礼とツーリズムが融合した巡礼ツーリズムの特徴が確認された。
著者
田原 洋樹 敷田 麻実
出版者
一般社団法人 日本観光研究学会
雑誌
観光研究 (ISSN:13420208)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.49-64, 2023 (Released:2023-10-01)
参考文献数
70

関係人口は、人口減少時代の新たな地域づくりの担い手として期待されているが、交流人口や定住人口との境界は曖昧である。そこで本研究では、関係人口の概念を整理し、交流人口が関係人口に変容するための要件やプロセスを明らかにした。仮説モデルを構築し、Webモニター調査のデータから、多重指標モデルによる共分散構造分析を行った。その結果、観光経験の自己拡大と現地交流が、地域関与意識の自己表現と利他心を醸成させ、地域への積極的な関わり意向を高めることを明らかにした。この結果から関係人口は地域関係者と協働し地域づくり活動にかかわることで、地域にとっての新たな主体になりえる存在であるとの見解を示した。
著者
外山 昌樹
出版者
一般社団法人 日本観光研究学会
雑誌
観光研究 (ISSN:13420208)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.49-57, 2022 (Released:2023-06-23)
参考文献数
16

本研究は、1960 年代の海外旅行市場における消費者の意識を定量的に明らかにすることを目的に実施した。1967年に内閣官房広報室が実施した「国民の海外旅行に関する世論調査」の個票データを分析した結果、海外旅行意向を持つ確率が最も高かった属性は 20 代であることが明らかになった。また、海外旅行で見て来たいものや、行ってみたい国についても分析したところ、性別や年代別で異なる傾向が見られた。
著者
杉浦 佳奈 十代田 朗
出版者
一般社団法人 日本観光研究学会
雑誌
観光研究 (ISSN:13420208)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.59-68, 2022 (Released:2023-06-23)
参考文献数
21

近年、我が国ではアウトドアブームが再来し、キャンプ場とホテルの両方の利点を持つグランピングは特に開発が盛んである。一方で、本来のグランピングのあるべき姿からずれが生じている施設も見受けられる。本研究では、グランピングとはどのような特徴を持つのか知るために、英・米・日におけるグランピングの歴史や現在の施設の特徴を明らかにした。そして、豪華さ・地域振興・環境配慮のバランスのとれた施設を理想のグランピング施設と考え、計 578 施設を6つのタイプに分類した。各タイプにどのような特徴があるのかを明らかにしたところ、日本では〔豪華さ重視型〕と〔大型キャンプ場型〕といった贅沢志向の傾向が強いと言える。
著者
小原 満春
出版者
一般社団法人 日本観光研究学会
雑誌
観光研究 (ISSN:13420208)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.65-74, 2021 (Released:2022-06-04)
参考文献数
23
被引用文献数
2

ワーケーションとは、仕事(work)と休暇(vacation)を組み合わせた造語であり、旅先で仕事とレジャーの両方を行う働き方の一つである。コロナ禍によってテレワークが推奨され注目を浴びるようになった。本研究では、ワーケーション意向者に対して理想とする周辺環境に関する調査を行い、ワーケーション意向との関係について、探索的に研究を行った。その結果、ワーケーション意向者が理想とする周辺環境は自然、歴史、娯楽、寒冷、温暖、芸術、利便性、ワーケーション環境となり、理想とする周辺環境から、ワーケーション意向者は環境無関心、デジタルノマド、日本的ワーケーターの3 つの特徴を持った層に分類された。
著者
永石 尚子
出版者
一般社団法人 日本観光研究学会
雑誌
観光研究 (ISSN:13420208)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.127-136, 2022 (Released:2023-06-23)
参考文献数
81

本研究では、ホスピタリティ・ツーリズム産業におけるフロントラインスタッフによる人的サービスの価値を、デジタルとの棲み分けの観点から検討することを目的としている。対面コミュニケーションによるサービスへのデジタルの代替が加速する中で、日本の強みである人的な顧客接点のサービスの位置づけを、先行研究のレビュー、及び、旅館の定型業務と非定型業務の比較をもとに検討した。その結果、二つの可能性が示された。一つ目は、デジタルにはないパーソナライズされたサービスの品質が差別化を生むこと、二つ目は、デジタルと人的サービスは相互に利点を活かしつつ、統合が進むことである。最後に、今後の研究の方向性と課題を示す。
著者
山川 拓也 中尾 公一
出版者
一般社団法人 日本観光研究学会
雑誌
観光研究 (ISSN:13420208)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.81-93, 2021 (Released:2021-10-01)
参考文献数
73

ゲストハウス(GH)は、従来の低廉宿泊施設から、宿泊者同士の交流拠点、さらには生活体験も提供できる、地域住民との交流拠点への機能変化がみられるが、外国人宿泊客と地域住民との交流をもたらす機能について十分に明らかにされていない。また新型コロナウィルスが GH の経営に与えた影響も深刻である。本論では、全国の GH 経営者への質問票調査(N=231、回収率:約 28.8%)を行った結果、GH がその内外で地域住民と外国人宿泊客とを結びつけてきたことを確認した。また新型コロナウィルスは非常に深刻な影響を GHに与えた一方、自らの経営を見直し、新たな商機を見出す契機となったことも確認できた。
著者
砂本 文彦
出版者
一般社団法人 日本観光研究学会
雑誌
観光研究 (ISSN:13420208)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1-8, 2002-09-30 (Released:2017-04-01)
被引用文献数
2

The purpose of this study is to clarify the planning process of the Policy of Tourist Industry during 1930s in Japan. This paper focuses 3 persons who belong to Japanese Government Rai Iways and J. Inoue. Findings are as fol lows; Beginning of the pol icy had been prepared by J. Takaku and G. Arai as an officer of Japanese Government Railways. Then Y. Hatta who changed his occupation from an officer to a member of Parliament negotiated with others to legislate. The role of J. Inoue was that hotel enterprise in Osaka-City promoted by him had contributed towards the construction of Kokusai Kanko Hotel and its resort after 1930.
著者
岡田 昌彰
出版者
一般社団法人 日本観光研究学会
雑誌
観光研究 (ISSN:13420208)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.95-100, 2021 (Released:2022-06-04)
参考文献数
16

本研究では、共用水道遺産に焦点を当て、日本国内におけるこれらの現存状況ならびに保存に至るそれぞれの経緯と意義を明らかにすることを目的とする。現地調査及び関係機関に対するヒアリング調査を通して情報を収集・整理し、今後の地域資産としての可能性を示した。日本各地における共用水道遺産の現存状況ならびに地域的位置づけについて、各々の移設・復元の経緯をもとに明らかにした。いずれも日本における水道の近代化と各地域への普及過程を端的に示す重要な土木遺産であり、英国と同様の文化財的な価値づけ、あるいは観光資源としての可能性の議論の必要性を提示した。