著者
糟谷 知香江
出版者
九州ルーテル学院大学
雑誌
応用障害心理学研究
巻号頁・発行日
no.13, pp.37-46, 2014-03-31

本論では日本の福祉現場で生み出された技法である「人生紙芝居」を中米・コスタリカにおいて活用した事例を報告する。コスタリカでのフィールド調査において, スラムに暮らすニカラグア人夫妻にインタビューを実施して生活史を聞き取った。そして, その生活史をもとに紙芝居を制作して, 語り手と家族の前で上演した。考察では, この技法の利点についてナラティブ・アプローチの観点から以下の仮説を提示した。(1)語り手の経験が生起した順に整理される, (2)語り手に自らの経験への理解を促進させる, (3)他者との交流手段となる, (4)紙芝居は, 絵があるので内容が子どもにも伝わりやすい。以上のように, 人生についての紙芝居, そして紙芝居の制作過程とが心理的支援の機能を有している可能性が示唆された。
著者
児玉 恵美
出版者
九州ルーテル学院大学
雑誌
応用障害心理学研究
巻号頁・発行日
no.12, pp.13-26, 2013-03-31

本研究では, 1)卒業論文を提出し終わったばかりの大学生の卒業論文作成に対する認識と, その自尊感情との関連を調査し, 2)卒業論文作成について, 学生と卒業論文を指導する教員の考え方の相違を探索的に検討した。結果, 学生は卒業論文作成を重大なものと認識していることが示された。そして, 卒業論文作成過程におけるストレス度が自尊感情と負の相関を示し, 卒業論文作成状況に対する肯定的な認知が自尊感情と正の相関を示していた。また卒業論文作成について, 多くの学生がそれを肯定的な体験と意味付け, 研究の実施や新しい知識の獲得を楽しみ, 周囲の人との関わりを学んでいることがわかった。一方教員は学生に, 研究に対する姿勢や, 諦めずやり遂げる精神などを期待していた。そして卒業論文作成について, 学生・教員ともに, 達成感を得て自己成長できる体験だと捉えていることが示唆され, これらが卒業論文作成の教育的意義の大事な一側面を表していると考えられた。
著者
岩木 信喜/小坂 圭子/近藤 武夫/羽渕 由子 小坂 圭子 近藤 武夫
出版者
九州ルーテル学院大学
雑誌
紀要visio : research reports (ISSN:13432133)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.1-10, 2003-07-31

本研究では,互恵的利他行動の文脈における裏切り者の名前が,再発チェックのために効率的に検索されるのかどうかを検討した。16名の大学生が2セッションからなる実験に参加した。被験者には,第1セッションで互恵的利他行動が破綻する文章を読ませた。文章には,裏切り者と蔓切られる者,利害には無関係の中立者の3名が登場した(利害変数)。また,この文章読解では,被験者自身の名前が裏切られる者として登場するかどうかによって関与の有無を操作した(関与変数)。第2セッションでは,先の文章に登場した人物名かどうかを判断して選択的に反応する記憶探索課題を行った。もし裏切り者の検索過程が再発チェックのために効率化されるならば,その反応時間は少なくとも中立条件よりも短くなるはずであり,その程度は被験者自身に損害が及ぶと想定される場合の方が顕著であると予想された。実験の結果,関与有り条件では裏切り者に対する反応時間が中立条件よりも有意に短かったが,そのような差は関与無し条件では認められなかった。この結果は,先の予想を支持するものであった。
著者
久崎 孝浩
出版者
九州ルーテル学院大学
雑誌
応用障害心理学研究
巻号頁・発行日
no.11, pp.69-79, 2012-03

本研究は, 子どもの心の理論発達レベルと母親の愛着スタイルとの関連性について検討した。4~6歳の子どもはWellman & Liu (2004) の一連の心の理論課題に取り組み, その子どもの母親は愛着スタイルに関する質問項目に自己評定で回答した。その結果, 自分自身の愛着恐れ型の側面を高く評定した母親の子どもほどパスした心の理論課題の数が少なく, 愛着恐れ型の側面を高く評定した母親との相互作用は子どもの心の理解の発達に阻害的な影響を及ぼす可能性が示唆された。養育者の愛着スタイルが子どもとのどのような相互作用を通じて子どもの心の理解の発達に促進的あるいは阻害的影響を及ぼすのかという, その影響経路を今後明らかにすべきであることが問われた。
著者
糟谷 知香江 BLANCO Tatiana
出版者
九州ルーテル学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

「人生紙芝居」とは生活史に基づいた手作り紙芝居である。これは、過去の経験を時系列に並べ、視覚的に提示する心理教育的技法である。本研究ではコスタリカにおいて以下の3つの課題に取り組んだ。(1)この技法の実施手順を改良した。(2)心理教育的技法としての有効性を考察した。(3)制作した紙芝居がマイノリティ理解のための教材となりうるか検討した。
著者
百武 玉恵 岡野 水織
出版者
九州ルーテル学院大学
雑誌
紀要visio : research reports (ISSN:13432133)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.43-56, 2011-07-29

Various hats are featured in Katherine Mansfield's "The Garden party "beside the main characters, Laura and her mother. Furthermore, hats play an important role in Mansfield's other works. The purpose of this study is to research what hats mean in Mansfield's whole life and what they symbolize in "The Garden Party". In this paper, we attempt to interpret the role of each hat appearing in the work, referring to definitions of symbols and colors. Then we point out that the relationship between Laura and her mother reflects the one between the author and her mother. We also argue that the author's untold message to her mother is expressed in Laura's hat and lines.Various hats are featured in Katherine Mansfield's "The Garden party "beside the main characters, Laura and her mother. Furthermore, hats play an important role in Mansfield's other works. The purpose of this study is to research what hats mean in Mansfield's whole life and what they symbolize in "The Garden Party". In this paper, we attempt to interpret the role of each hat appearing in the work, referring to definitions of symbols and colors. Then we point out that the relationship between Laura and her mother reflects the one between the author and her mother. We also argue that the author's untold message to her mother is expressed in Laura's hat and lines.
著者
一門 惠子 古閑 法子 佐々木 順二
出版者
九州ルーテル学院大学
雑誌
応用障害心理学研究
巻号頁・発行日
no.11, pp.1-12, 2012-03

自閉症児を対象とした療育キャンプ(通称やまびこキャンプ)における参加児の活動状態に応じた支援担当学生の「思い」について分析, 検討した。参加児17名は, 8~18歳の男児13名, 女児4名であった。調査対象は, 直接子どもを担当した本学学生24名で, 男子9名, 女子15名であった。自由記述式のアンケート調査をキャンプの1週間後に実施した。回収率は100%であった。学生の「思い」のカテゴリー分析は著者らの合議によった。結果は454のカテゴリーが抽出されたが, 内訳は, ポジティブな思い(喜び・安心・安堵など)229(65.9%), ネガティブな思い(不安・心配・苦慮・困惑など)199(43.8%), 中立的思い26(5.7%)であった。学生たちの「思い」には子どもの逸脱行動の生起が大きく関与していた。