著者
井村 直恵
出版者
京都産業大学マネジメント研究会
雑誌
京都マネジメント・レビュー = Kyoto Management Review (ISSN:13475304)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.17-53, 2021-09-01

本稿は,400 年以上の歴史を持つ錦市場商店街が,平成24 年(2012 年)頃以降のインバウンド顧客の急増と平成30年(2019 年)をピークにしたオーバーツーリズムによる商店街の急激な観光地化を経験した後,COVID-19 発生に伴う令和2 年以降の観光客激減をどのように経験したかに関する調査・分析である.オーバーツーリズムは,現象としては古くから議論されてきたものの,オーバーツーリズムという用語で議論され始めたのは平成29 年頃以降であり,比較的新しい概念である.オーバーツーリズムに関する先行研究では観光客増加による地元の環境悪化や観光客と地元住民との軋轢等の議論がされている.本稿では,観光客増加に伴い商店街の中に地元住民や常連客ではなく,一見の観光客を対象にした店舗や軽食店・土産物屋の増加がどのように起きたか,それらの店舗がコロナ禍でどう行動したか,などを明らかにする.結論として,卸売中心の店は緊急事態宣言下でも営業を続けたこと,観光客向けの店は一時休業,撤退,店舗数集約などを行ったこと,実店舗での収益が減少した反面,オンライン販売の業績が倍増した店舗があったこと,などが明らかになった.また,錦市場商店街としては,コロナ禍の観光客現象を機に,食べ歩き禁止を徹底し,個店の側でも店内にイートインスペースを作るなど,令和2 年中に改装を進めた店舗が多かったこと,などコロナ後の再生に向けた環境づくりを行っていた.
著者
松本 和明
出版者
京都産業大学マネジメント研究会
雑誌
京都マネジメント・レビュー = Kyoto Management Review (ISSN:13475304)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.85-102, 2021-03-31

渋沢栄一の絶大なる信頼を受けてビジネスパートナーの一人として活躍し,「渋沢の股肱」(実業之世界社編輯・発行『財界物故傑物伝』1936 年)と評された,長岡出身の梅浦精一の足跡と活動について考察していきたい.梅浦は長岡藩医の脩介の長男として生まれた.脩介は長岡藩の藩医を務め,東洋,西洋医学ともに長ずる,先進的でかつ優れた漢蘭折衷医であった.梅浦は漢学にも造詣が深かった脩介の影響を強く受けて幼少期から学問への興味を抱き,刈羽郡南条村で藍沢南城が主宰していた三余堂で漢学を学び始めた.続いて,長岡藩の代表的な儒学者である山田愛之助に師事してオランダ語を学んだ.周知のとおり,山田は崇徳館の教授・都講として,小林雄七郎さらには外山脩造も指導した.雄七郎と外山は梅浦の生涯に大きな影響を与えたが,彼らとの関係構築は山田の門人となったことが大きなきっかけであった.その後,江戸に出て西洋医学を学ぶものの,学費が続かなくなり,洋学に転じた.1872 年に大蔵省に入り,A・シャンドの指導のもとで,小林雄七郎などとともに,近代複式簿記の翻訳を『銀行簿記精法』として完成させた.これの普及に尽力した1 人が外山である.1873 年には新潟県令の楠本正隆から招かれて一等訳官に着任した.あわせて楠本の主導により創設された洋学校である新潟学校の責任者を担い,学生に加えて教員にも英語を講じた.同校は新潟県の中等教育機関の嚆矢である.さらに,長岡洋学校の後継である新潟学校第一分校でも教????をとっている.
著者
小池 和彰
出版者
京都産業大学マネジメント研究会
雑誌
京都マネジメント・レビュー (ISSN:13475304)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.109-118, 2002-12

はじめにⅠ.給与所得控除と実額控除をめぐる判例(大島訴訟)Ⅱ.給与所得控除と実額控除むすび
著者
伊藤 進
出版者
京都産業大学マネジメント研究会
雑誌
京都マネジメント・レビュー (ISSN:13475304)
巻号頁・発行日
no.20, pp.17-33, 2012-03

Ⅰ.序言Ⅱ.リコールか自主改修か 1.リコールの経緯 2.リコールか自主改修かⅢ.リコール発生原因 1.品質評価の甘さ・気の緩み 2.設計・開発期間の短縮化と開発担当者への負荷の増大 3.車の複雑化・技術の高度化と総合的品質診断・評価力の低下 4.規模急拡大と人員不足,人材育成不足 Ⅳ.リコール大量化の背景 1.設計での不具合 2.部品共通化 3.生産開始からリコール届出までの期間Ⅴ.安全・品質改善への取り組み 1.安全・品質優先の車づくり 2.品質改善体制の強化と安全面での改善・取り組みⅥ.リコール対応の遅れ・まずさと対応改善 1.消費者対応の遅れ・まずさと販売台数減 2.リコールへの対応改善Ⅶ.結語
著者
行待 三輪
出版者
京都産業大学マネジメント研究会
雑誌
京都マネジメント・レビュー = Kyoto Management Review (ISSN:13475304)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.341-355, 2018-03-15

本研究では,Bernard and Noel[1991]およびStober[1993]の先行研究に依拠する形で,売上債権および棚卸資産における各要素(商製品・仕掛品,原材料)の「意図せざる」差額と将来利益にかかる予測可能性の検討を行った.分析の結果としては,売上債権に関しては売上総利益及び各利益との間に負の相関を発見することができた.また,仕掛品(WP)および原材料(RM)に関してであるが,仕掛品に関してはLEVEL に関して限定的ではあるが,利益に関して負の相関があることを発見した.原材料に関しては,CHANGE およびLEVEL のいずれに関しても売上高および利益に関して非常に強い負の相関を見ることができる.これは先行研究とは異なる結果となっている. そこで,次に本研究では分析に用いた棚卸資産各要素の「意図せざる差額」(FG,WP,RM)の分布の確認を行った.その結果,WP およびRM の平均値が極めてゼロに近いこと,またヒストグラムに関してもほぼゼロを中心として正規分布に従っていることを確認することができた.これらの分析より,仕掛品および原材料に関して予測回帰式より導き出された「意図せざる差額」は非常に僅少な金額であること,言い換えれば日本企業においては企業で意図せざる仕掛品や原材料の在庫投資は行われておらず,製造ラインにおける在庫管理は非常に徹底されており,これら在庫の存在そのものが企業の生産管理システムの機能不全を意味するものではないかとの推論を得た.
著者
大木 裕子
出版者
京都産業大学マネジメント研究会
雑誌
京都マネジメント・レビュー (ISSN:13475304)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.153-171, 2011-10

韓国の利川では伝統的な製法を取り戻し,かつて栄えたような陶磁器の製造を復活させようと産業クラスターの育成に尽力している.2010年にはユネスコからクリエイティブ・シティの認定も受け,世界陶磁器センター,陶芸村,ビエンナーレの開催,教育機関などインフラは整備されつつある.本稿では,利川のクリエイティブ・シティとしてのクラスター戦略を分析し,陶磁器産業発展のための施策について考察する.日用品より芸術志向が強い陶磁家が集まる利川では,集積のメリットを生かし切れていない現状がある.アート市場 の創造,利川ブランドの確立に向けたシステム構築が課題としてあげられる.
著者
大木 裕子
出版者
京都産業大学マネジメント研究会
雑誌
京都マネジメント・レビュー (ISSN:13475304)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.1-22, 2012-12

有田の陶磁器クラスターをポーターのダイヤモンド・モデルにより分析した.有田の製品は業務用食器が中心で,作家による芸術品とは明確な区別がされながら二極化している.有田では共販制度のために,産地問屋が資本力,組織力,信用力を組合に依存している構図となっており,集積には大資本もプロデュース力もない.他の産地は問屋だけがリスクテイカーだったが,有田は問屋もリスクを負わない仕組みとなっている.陶磁器産業では世界的にも有田のように300年以上の年月をかけ伝統が脈々と続いている産地は少ない.有田は分業体制の呪縛の中で,クラスターを存続させるための模索している.
著者
藤井 則彦
出版者
京都産業大学マネジメント研究会
雑誌
京都マネジメント・レビュー (ISSN:13475304)
巻号頁・発行日
no.12, pp.1-15, 2007-12

はじめに第1章 剰余金の配当について 第1節 配当および配当政策の原理について 第2節 会社法における剰余金の配当についての実務上の問題点についての私見 第3節 剰余金の配当とコーポレート・ガバナンスについて第2章 TOB,特に敵対的TOBに対する防衛策について 第1節 TOB,特に敵対的TOBに対する防衛策の本来のあり方と会社法の規定について 第2節 TOB,特に敵対的TOBに対する防衛策の現実に関しての株主の対応と結果についておわりに
著者
李 為
出版者
京都産業大学マネジメント研究会
雑誌
京都マネジメント・レビュー (ISSN:13475304)
巻号頁・発行日
no.32, pp.261-275, 2018-03

本稿は大学生のキャンパス規範意識の事実関係を把握するために,2016 年4 月入学の経営学部一年生を対象に行った実態調査の分析結果である.キャンパスにおける規範意識に関する自己認知の測定尺度を用いて,質問紙調査を行い,性別や社会規範の意識について分析し考察した.調査結果について初歩的な統計分析を行った.その結果,授業中の私語,授業への出席,キャンパスでの喫煙,脱法ハーブの使用,未成年飲酒と喫煙の経験者数は男女間に有意な相関関係がみられた.性別では,男女共に未成年飲酒と未成年喫煙に対する意識は,規範意識によるものではなく,健康意識によって判断される傾向にある.さらに男子学生は女子学生に比べて未成年飲酒と喫煙の経験者数の割合が高く,規範認知では大学生の意識の低さが目立っている.これらのことから,大学生初年次への規範教育は重要であり,キャンパスの規範意識を高めていく教育環境作りの必要性を示唆する.1.問題提起2.社会規範に関する一般的記述3.調査の目的と概要4.考察:規範意識の空間表象5.結語
著者
井村 直恵
出版者
京都産業大学マネジメント研究会
雑誌
京都マネジメント・レビュー = Kyoto Management Review (ISSN:13475304)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.295-309, 2018-03-15

リスクマネジメントは定義も多様で,分析視点も多岐にわたる.法令で求められる内部統制システムを持つ企業でもアウトプットが異なるのは,現場での運用が異なるからである.本研究では,Weick&Suttcliffe(2001, 2007, 2015)らによる高信頼性組織で主張する「マインドフル」な組織文化が日本企業内でどの程度存在するのか,企業を人的被害の大小・経済的被害の大小で4 類型に分け,類型の違いと文化について10 社からの聞取り調査の結果をテキスト分析した.分析の結果,インフラ系の企業(人的被害大×経済的被害大)の企業は,マインドフルな文化を持ち,一般企業の多くが個人の愛社精神やコミットメントに依存したリスクマネジメントを行っている事が示された.