著者
古田 吉史 丸岡 生行 中村 彰宏 大森 俊郎 園元 謙二
出版者
公益財団法人 日本醸造協会・日本醸造学会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.8, pp.579-586, 2009 (Released:2016-02-09)
参考文献数
27

焼酎製造の副産物である蒸留粕の有効活用は,依然として焼酎業界が抱える重要な課題の一つである。本稿では,焼酎蒸留粕の新規用途開発を目指して大麦焼酎粕から得られる上清液:醗酵大麦エキスFBEを乳酸菌の増殖培地素材として乳酸菌バクテリオシンの一種である抗菌物質ナイシンAを生産し,FBEの有効物質生産への応用及び大麦焼酎粕の高付加価値化の取組みについて概説していただいた。
著者
伊豆 英恵
出版者
公益財団法人 日本醸造協会・日本醸造学会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.105, no.2, pp.56-62, 2010 (Released:2012-02-13)
参考文献数
10

清酒のおいしさには,きき酒による「口の中で感じられるおいしさ」と「摂取したときのおいしさ(生理的おいしさ)」があり,両者の関係を筆者は,マウス,飲酒経験の浅い初心者群及び官能検査経験を有し長期飲酒経験者群について検討した。その結果,清酒の美味しさを決定する因子として,初心者群はマウスと同様,生理的美味しさが重要であるのに対し,経験者群は生理的美味しさの占める部分は少なく,情報や文化,経験など味覚以外の情報も影響していることを明らかにした。そのほか,空腹時と摂食後の嗜好の違いや美味しさを左右する要因についても言及しており,人間の嗜好判断の複雑性が理解できる。熟読をお勧めしたい。
著者
金田 弘挙
出版者
公益財団法人 日本醸造協会・日本醸造学会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.106, no.1, pp.9-18, 2011 (Released:2016-06-13)
参考文献数
13
被引用文献数
1

品質が向上し,いわゆる欠陥のある商品というのは少なくなった。そこで注目されているのは,人の感覚によって呼び起こされ,それによって支配される感情,欲望などといった感性の世界である,感性は,こころ(感情・記憶)でもあり,からだ(反射・運動)でもある。感性刺激に対し言葉によってかたられる官能評価はもちろん大切ではあるが,ヒトの脳や体の部位にどのような応答が現れるのか近年様々な研究が行われている。筆者は,ビールの「のど越し」という,それまで官能的に表現されていたものの混沌としていた感覚に果敢に取り組み,客観的にこれを計測する技術を開発された。ビールにとどまらずその研究の価値は広がっており,新たな分野を開拓している。
著者
須見 洋行 大杉 忠則 内藤 佐和 矢田貝 智恵子
出版者
公益財団法人 日本醸造協会・日本醸造学会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.106, no.1, pp.28-32, 2011 (Released:2016-06-13)
参考文献数
5
被引用文献数
1

納豆は日本人がこれまで慣れ親しんできた伝統的な発酵食品である。そのスターターである納豆菌の歴史や酵素ナットウキナーゼの特性を同属の枯草菌と比較して分かりやすく解説していただいた。ナットウキナーゼ活性がきわめて高いことが納豆菌の最大の特徴であると述べておられ,Bacillus subtillis nattoがこれまで長く使用されてきたことが首肯できよう。なお,Codex委員会に納豆やテンペなどアジアの大豆発酵食品の国際統一規格化の動きがあることから,その動きをフォローする必要性も述べておられ,業界も是非参考にしていただきたい。
著者
佐々原 浩幸
出版者
公益財団法人 日本醸造協会・日本醸造学会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.106, no.2, pp.90-96, 2011 (Released:2016-06-14)
参考文献数
27

近年食物アレルギーは増加しており,醤油の原料である小麦は表示義務があり,醤油と味噌の原料である大豆は表示推奨であり,これらを使用しないアレルギー患者用の醤油・味噌様調味料が開発されているが,特に原料の蛋白質含量が少ないために,得られる製品のアミノ酸含量が少なく,旨味が弱い問題があった。そこで,著者は各種原料から,蛋白質・炭水化物の含量が醤油・味噌の原料に近似している「そら豆」を選択して,香味共に良好な醤油・味噌様調味料を開発しているので,解説していただいた。そら豆醤油は商品化され,そら豆味噌は発売予定であり,新商品開発のプロセスが分かるのでご一読願いたい。
著者
久留 ひろみ 吉崎(尾花) 由美子 玉置 尚徳 和田 浩二 伊藤 清
出版者
公益財団法人 日本醸造協会・日本醸造学会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.105, no.3, pp.167-174, 2010 (Released:2012-02-17)
参考文献数
13

ミキの成分組成について測定を行った。その結果,仕込み後急速に流動性が増し,デンプンがマルトースに加水分解されることがわかった。本加水分解は,酵素に起因するものであるが,本酵素は生サツマイモ中に存在する,β–アミラーゼに由来するものであると推察された。また,仕込み後急速に酸度が増しさわやかな風味が形成されたが,酸の組成としては乳酸と酢酸が主成分であった。また,乳酸については,約70%がD乳酸,約30%がL乳酸であることがわかった。エタノール分については,約1週間経過した後も1%未満であったので,酒類には該当しなかった。
著者
久留 ひろみ 吉崎(尾花) 由美子 玉置 尚徳 和田 浩二 伊藤 清
出版者
公益財団法人 日本醸造協会・日本醸造学会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.106, no.3, pp.157-163, 2011 (Released:2016-06-14)
参考文献数
8

伝統的なミキは,奄美大島の自然飲料である。通常のミキは乳酸発酵が主体であり,酒類には該当しない。ミキのもろみに,焼酎酵母を仕込み初期から加えると,エタノールが生成し,酒類に該当した。しかし,発酵速度は遅く,発酵歩合も低かった。この理由として,糖化の主体が生イモ由来のβ-アミラーゼであり,生成糖のほとんどがマルトースであるためと考えられた。焼酎酵母は麦汁の発酵性が弱いために発酵が遅れると思われた。そこで,マルトースをグルコースに分解するために,焼酎麹を加えた。焼酎麹は多量のα-グルコシダーゼ等を含有するため,マルトースが効率的にグルコースに分解されると思われた。その結果,発酵が順調に推移した。糖組成の変化はHPLCで追跡したが,焼酎麹の添加により,グルコースの生成が認められた。焼酎麹の添加は,発酵歩合が向上する効果ももたらした。
著者
小林 健
出版者
公益財団法人 日本醸造協会・日本醸造学会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.10, pp.726-742, 2009 (Released:2016-02-12)
参考文献数
6
被引用文献数
1

製麹は清酒醸造においてもっとも重要な工程である。筆者は製麹現場の状況を実験室規模で再現し,厳密に管理された条件で製麹試験を行い,高度な統計解析により製麹操作と麹の品質との関係を詳細に検討した。そこから見えてきた麹内部の現象を「もう一つの並行複発酵」と概念付け,その一方で品温経過や乾燥条件という外部条件を高度に制御することにより,その条件に応じた品質の麹が得られることを示した。製麹に携わる方はもとより,麹の研究者にとっても大いに参考になる知見が精緻に記述されている。
著者
後藤 邦康
出版者
公益財団法人 日本醸造協会・日本醸造学会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.3, pp.209-214, 2009 (Released:2016-01-19)
参考文献数
14
被引用文献数
1

酒米47点,市販清酒および酒粕各25点中のカドミウム(Cd)濃度を測定した。試料は硝酸と過酸化水素を用いたマイクロ波分解装置により調整し,誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP-AES)により分析を行った。測定した酒造用玄米,70%精白米および市販酒粕中のCd濃度は平均でそれぞれ29.9,25.3,154.7μg/kg,市販清酒中のCd濃度は1.29μg/lであった。70%精白米中のCd濃度は玄米の約78%(7試料の平均値)となった。以上の結果から,精米工程によるCd濃度の減少効果は少なく,また原料米中のCdは清酒へはほとんど移行せず,酒粕に移行する可能性が示された。
著者
小野 文一郎
出版者
公益財団法人 日本醸造協会・日本醸造学会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.2, pp.90-97, 2009 (Released:2016-01-18)
参考文献数
24

酵母におけるアミノ酸代謝のうち,特に含硫アミノ酸の生合成は,細胞増殖をはじめ醸造においては好気成分等の生産に深く関連している。近年の研究でその生合成の制御には,多様な要因が関連していることがわかってきた。これらの含硫アミノ酸代謝に関与する遺伝子の発現制御メカニズムに関する研究は,醸造酵母における硫黄代謝の制御,さらには実用株の育種にとって重要な基礎的知識をもたらすことが期待される。ここでは,著者の長年にわたる研究成果を中心に,出芽酵母の含硫アミノ酸合成について最近の成果も含め解説していただいた。
著者
末澤 保彦
出版者
公益財団法人 日本醸造協会・日本醸造学会
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.105, no.2, pp.69-78, 2010 (Released:2012-02-13)
参考文献数
29
被引用文献数
1

減塩醤油は塩分濃度が9%程度であるので,耐塩性乳酸菌の生育によるガス発生変敗が大きな問題となる。従来,減塩醤油の変敗原因菌はホモ乳酸発酵型のLactobacillus属と知られていたが,種までは同定されていなかった。そこで,著者は16S rDNA配列決定法により,Lactobacillus renniniと初めて同定した。さらに,佃煮変敗菌として,ヘテロ乳酸発酵型のL.fructivoransとの比較も行った。従来の微生物検査に耐塩性乳酸菌検査を追加することにより,減塩醤油などの変敗が予知でき,さらに,PCR–DGGE法による製造工程の菌叢解析を行うことにより,変敗菌の有無の予測が期待できることを明らかにした。これらは減塩醤油などの低塩食品の製造に大いに参考となるので,ご一読いただきたい。