著者
岩井 圭司 冨永 良喜 鈴木 啓嗣
出版者
兵庫教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本来、防災教育はその災害時における実効性にとどまらず、ひろく精神保健、サイコエデュケーション、さらには人権教育、道徳教育につながるパースペクティヴを有している。しかし、防災教育と実際の防災計画との連携はこれまでのところ乏しいものであるし、その連携についての提言もほとんどなされていないのが実情である。そこで本研究では、防災計画と防災教育の統合をめざして、実効ある防災計画・防災マニュアルを同時に防災教育の教材としても活用可能なものとする方途をさぐった。昨年度われわれは、都道府県および政令指定都市の教育委員会の防災計画・防災マニュアルを収集し、その分析につとめた。その結果、教育委員会の防災計画は、自治体首長部局が作成した地域防災計画に比べて、通読可能性・携行性にすぐれるとともに、精神保健ないし「こころのケア」への配慮もより多く為されていた。しかし、一部を除いて防災教育との連携統合はまだまだ十分ではないことがうかがわれた。そこで今年度、われわれは、防災計画と直結した内容をもち、しかしただ単に防災計画の内容を覚えるだけではなく、児童・生徒たちが自分の安全を守るために自ら考え行動するための思考力とスキルを身につけるための教材を試作した。今回試作したのは、小学校3〜4年生向けに災害時の正しい避難の仕方を"イメージトレーニング"によって問題解決指向的に考えさせるための教材で、「イメトレで考えてみよう、避難のしかた」と題したカラー版8頁(表紙別)のものである。
著者
岩井 圭司
出版者
兵庫教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

裁判において精神的被害を正しく評価するためには、被験者の意識的あるいは無意識的な意図によって症状が過大に報告されることの少ない質問紙が必要である。その目的で、まずは外傷後ストレス障害(PTSD)診断におけるミネソタ多面人格目録(MMPI)の特性と有用性について検討した。対象としたのは自験例55例(うちPTSDは36例である)。従来からMMPI診断に用いられてきたプロフィール-4つの妥当性尺度と10の臨床尺度とからなるプロフィール-は、PTSDの病態を反映しており、PTSDと非PTSDをかなり正確に判別しえた(正診率0.82)。MMPIはPTSD診断テストとしても有用であると考えられた。MMPIの下位尺度であるPK尺度(PTSD Keane Scale)日本語版は、PTSDに関して非特異的な設問のみからなるにもかかわらず、PTSD診断検査として有用であることが見出された。また、PTSDの各臨床尺度得点の単純加減によるMMPI-PTSD Index(M-PTSD Index)を開発した。PK得点もM-PTSD Indexもともに、被験者の意図によって判定結果が左右されることのほとんどないPTSD診断検査としてPK尺度と同程度に有用であると思われた。次に、意図的に精神的被害を受けたかのように振舞う者と真に精神的被害を受けた者とを判別することを試みた。ドメスティック・バイオレンス(DV)からPTSDを発症した者と、模擬的にDV被害者になりすました"ニセ患者"に出来事インパクト尺度改訂版(IES-R)を2週間の間隔をおいて施行した。2回の施行間で2点以上の点数の移動があった項目数は、真の患者群(DV群)が"ニセ患者"(CP群、 Med群)に比べて有意に少なかった。"ニセ患者"では真の患者に比べて回答行動における再現性が低い、という仮説が裏付けられた。
著者
水野 信男 西尾 哲夫 堀内 正樹 粟倉 宏子 川床 睦夫
出版者
兵庫教育大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

本研究では主にシナイ半島南部を調査対象地域とし、その遊牧民の伝承文化を学際的見地から、民族誌の諸手法をもとに解明することを目的としている。以下、交付申請書の実施計画と対応させながら、本年度の調査でえられた研究成果を略述する。なお本研究の研究成果の本格的なまとめは、6.でのべるように、来年度いっぱいをかけておこなう予定である。1.方言、口承文芸、歌謡、器楽、舞踊の記録・採集ならびに分析と考察。(1)方言については、トゥール市近郊のワ-ディ村で、ジェベリエ族の言語の記録・調査を実施した。その結果、彼らの方言が、シナイ半島の遊牧民のなかでも、特別の言語形態をもっており、中世以来のシナイ半島の宗教史ともかさねあわせて分析・整理することが可能となった。(2)口承文芸については、各部族の由来にかんする説話を中心に採集・記録した。解読作業はまだ途中であるが、その多様な語り口は、遊牧民各部族の系譜をたどる糸口を提示しているようにおもえる。(3)歌謡・器楽・舞踊など音楽全般については、とくに遊牧民の結婚式や聖者祭に焦点をあて、採集・録音・録画をおこなった。これらの資料分析から、彼らがアラブ民族の文化の原型をより忠実に保持していることがわかってきている。2.アラブ系遊牧民文化の東西海上交流史における位置づけ。この地域の海上交流史では、おもに紅海側の拠点港が関係しているが、今回の調査では、考古学の視点から、とくにトゥール遺跡での海上文化の流通経路と、その遊牧民文化との関連を調査した。3.聖カテリ-ナ修道院とそれに仕えてきたジェベリエ族の文化の実体調査。これは、1.の(1)とも関連するが、今回は当修道院の図書館が保有する文書(もんじょ)の収集と研究に主体をおいた。その文書類はギリシア正教関係の資料から、修道院生活・巡礼・商業などにかかわるものまで、きわめて多彩である。その解読作業は現在続行中である。シナイ半島は、歴史的にユダヤ教徒、キリスト教徒およびムスリムの巡礼路として位置づけられるが、今後のこれらの文書研究からその実態をうかがいしるデータがえられるはずである。4.現代の遊牧民の生活動態調査とその文化人類学的・社会学的考察。遊牧民の生活動態を、主に各部族の現状を中心に調査した。とくに各部族が内部でかかえる諸問題、また各部族間のあいだの共同と確執、またシナイ半島の観光地化と遊牧民文化の関係などを調べた。この結果、現代の遊牧民は、かつてのアラブの文化要素を一定程度保持する一方で、社会状況の現代的変貌に対応して、その生活と文化を急激に変化させてきていることが判明した。5.現地調査拠点での野外調査記録の整理と検討。1.でのべたように、本研究では遊牧民の伝承文化を学際的に照射し、その全体像をうきぼりにすることに重きをおいてきた。このため、調査拠点都市のトゥールでは、ほぼ連日、隊員5名全員のミーティングを開催し、その情報を不断に発表・討議し、翌日以降の調査にそなえた。6.今後の研究の展開にかんする計画。本研究は本年度(単年度)で終了するため、来年度は現地でえられた調査資料の分析研究をおこない、秋には日本砂漠学会と共催で、中近東文化センターにて、シンポジゥムを開催し、あわせて調査報告書を刊行する予定である。またこのシンポジゥムでは学際的視点から、次年度以降の継続調査にむけての問題点を整理することにしている。
著者
松阪 仁伺
出版者
兵庫教育大学
雑誌
兵庫教育大学研究紀要 (ISSN:13493981)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.71-77, 2010-02