著者
天野 玉記 精山 明敏 十一 元三
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.29-33, 2010-01-25 (Released:2010-08-04)
参考文献数
11
被引用文献数
1

治療に難渋しやすい慢性痛の1つに幻肢痛があり,その機序には痛みに関する記憶が関与すると推測されている.心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder:PTSD)に対する治療法の1つとして精神医療で用いられるようになった眼球運動による脱感作および再処理法(eye movement desensitization and reprocessing:EMDR)は,トラウマ体験の記憶と感情の処理により症状を寛解させると考えられている.同様の技法が幻肢痛の治療(幻肢痛プロトコル)に試みられている.今回,腰椎椎間板ヘルニア手術時の事故で左下肢の麻痺が起こり,8年間激しい慢性痛があった70歳の女性にEMDRを実施し,痛みが著明に軽減した症例を報告する.本症例では,事故に関連した場面等を想起させた状態で,左右交互の眼球運動を繰り返しながら想起場面と関連した感情を鎮静化しつつ認知の修正を試みた.その結果,治療セッション中に痛みが軽減し,ほぼ消失した.治療から3カ月後にも痛みは再発していなかった.心因性の機序が関与した慢性痛に,EMDRの幻肢痛プロトコルが治療法の1つになりうることが示唆された.
著者
十一 元三
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.133-136, 2010 (Released:2017-02-16)
参考文献数
6

はじめに,従来の精神疾患とは異なる広汎性発達障害のユニークな臨床特性について,対人相互的反応の障害,強迫的傾向,およびパニックへの陥りやすさに焦点を当てて要約し,下位診断および併存障害の問題について整理した。続いて,現在の責任能力についての一般的考え方と,責任能力の判断に影響を及ぼすと考えられてきた精神医学的要因について振返り,それらの要因に広汎性発達障害の基本障害が含まれていないことを確認した。次に,広汎性発達障害の司法事例にみられた特異な特徴の幾つかが,自由意思を阻害すると判断される従来の精神医学的要因に当てはまらないものの,実際には自由意思の指標とされる他行為選択性を制約していると判断する方が妥当であると思われることを論じた。最後に,責任能力上の特徴と,広汎性発達障害について現在までに知られた神経基盤との関連について推測した。
著者
十一 元三
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.201-206, 2016-06-30 (Released:2017-07-03)
参考文献数
7

自閉スペクトラム症の言語性記憶に関する心理学的研究の展望を行った。まず, 言語性記憶の基本的概念 (記憶の三段階など) について確認をした後, エピソード記憶の古典的モデルである二重貯蔵モデルおよび短期記憶・長期記憶について概説し, さらに, エピソード記憶研究の推進に大きく寄与した検査課題である自由再生について, その特徴とともに解説した。次に, 自閉スペクトラム症を対象とする古典的な記憶研究をやや詳しく紹介し, そこで見出された所見 (健忘症候群に類似する所見と良好な長期記憶成績の混在) に含まれる一見, 矛盾する結果をどのように説明するかが, 後続の研究の課題となったことを述べた。その後, 対象が知的障害のない自閉症へと移るとともに, 記憶材料のもつ要因を操作した自由再生や, 記銘時の処理内容を操作した記憶検査 (処理水準課題) などを用いることにより, 自閉スぺクトラム症のユニークなエピソード記憶の特徴の背景に, 意味記憶の特異な構造あるいは機能が想定された。 最後に, 同じ自閉スペクトラム症のなかでもDSM-IV が規定していた病型 (自閉性障害, アスペルガー障害, 特定不能の広汎性発達障害) により所見が変化することを述べた。
著者
堀田 千絵 加藤 久恵 多鹿 秀継 十一 元三 八田 武志
出版者
奈良教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究の目的は、学習力を支える高次認知機能としてのメタ認知の早期育成が、定型発達児のみならず発達障害児の予後の適応に多大な影響を与えることに鑑み、発達障害児のメタ認知活性化を促すことのできる学習支援法を開発し、当該幼児の小学校入学後までを見据え、その適切性を吟味することであった。その中で、幼児期からのメタ認知育成を可能にする学習支援法の1つとして「検索学習」の有効性を明らかにし現場で活用できる学習支援システムの土台を構築した。特に、食物連鎖に基づく課題を考案する過程で幼児期からのメタ認知の活性化には検索学習の3規定因が重要であることを明らかにした。特に、3規定因としては、第1に初回学習の徹底、第2に検索スケジュールの時間的分散、第3にフィードバックが効果の要となる点を明確にし、これらを組み込んだ学習支援システムを構築した。その成果を堀田・多鹿・加藤・八田(2020)に要約した。加えて申請者らは、検索学習の導入の仕方によっては有効に機能しない一部の発達症児の存在することも特定し、自閉スペクトラム症等の発達症の障害の程度のみならず、それ以外の個人を特定する個人差が影響する可能性を突き止めた。
著者
堀田 千絵 十一 元三
出版者
人間環境学研究会
雑誌
人間環境学研究 (ISSN:13485253)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.17-23, 2014 (Released:2014-07-23)

It is well-known about the abnormalities of the abilities to remember and preserve information in the individuals with Autism Spectrum Disorder (ASD). Many previous studies have focused on the difference by a final memory performance between individuals with ASD and Typical Development (TD). Then, the aim of this study was to examine the learning process until learning in the individuals with ASD, compared to TD. The participants of ASD and TD groups studied all 24 words pairs. Each word pair was tested until they could reach a criterion, two consecutive testing sessions. Learning processes were examined with four measures of (1) the total number of trials and (2) the number of trials for each pair until two consecutive correct responses, (3) the performance of two consecutive correct responses during study trials and (4) the response time for each word during study trials. Finally, at 30 minute later. they were asked to recall each corresponding word for 8 cues randomly selected from 24 pairs. The results showed that the number of trials until learning (the measurement of (1) and (2)) in ASD group were much than that in TD, whereas, in ASD group, the performance of two consecutive correct responses during studying trials (the measurement of (3)) and final performance after 30 minutes on corresponding words to 8 cues was prominently less than that in TD group. These results are discussed in terms of the memory dysfunction related to adaptation in ASD.
著者
志澤 美保 義村 さや香 趙 朔 十一 元三 星野 明子 桂 敏樹
雑誌
京都府立医科大学看護学科紀要 = Bulletin of School of Nursing Kyoto Prefectural University of Medicine (ISSN:13485962)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.35-44, 2017-12-25

本研究は、4~6歳の幼児を持つ養育者を対象に、養育環境が子供の食行動に与える影響について検討することを目的とした。 対象は、A県2市において研究協力の同意が得られた保育所、幼稚園、療育機関に通う4~6歳の子供1,678人の養育者であった。協力機関を通じて養育者に無記名自記式質問紙を配布し、回答は協力機関に設置した回収箱および郵送で回収した。調査項目は、①子供の基本属性、②養育者による食行動評価、および③育児環境指標(Index of Child Care Environment;ICCE)であった。統計学的解析は、χ 2 検定、Fisher の正確率検定、因子分析、共分散分析を行った。 調査は845人から回答を得て(回収率50.4%)、有効回答数は766人(有効回答率45.6%)であった。養育者の捉える食行動の問題数は、1 人平均2.46±2.28 個、食行動の問題には性差が認められた。さらに、食行動の問題について、因子分析で抽出された3 因子「偏食と食事中の行動」、「食事環境への固執性」、「食べ方の特徴」を用いてICCE の各13項目について性別を共変量として共分散分析を行った。その結果、食行動の問題に影響するICCE 項目は因子によって異なっていた。その中で、3因子共通で関連していた項目は「家族で食事する機会」であった。また、第2因子「食事環境への固執性」と第3因子「食べ方の特徴」では交互作用が認められ、男児にのみ影響があり、食行動に問題が出やすいことが明らかとなった。その他に「一週間のうちに子供をたたく頻度」や「育児支援者の有無」などの養育環境についても食行動の問題への影響が認められた。したがって、幼児期の食行動について支援する時は、子供の食行動だけでなく家族での共食頻度、養育者の養育態度、支援状況や、精神的状態などにも配慮する必要性が示唆された。
著者
十一 元三
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.91-96, 2010 (Released:2017-02-16)
参考文献数
35

広汎性発達障害(PDD)に関する認知科学的・精神生理学的研究について展望した。精神生理学的研究に関しては,覚醒や注意について事象関連電位や自律神経活動の指標を用いて PDD 群に何らかの所見を見出した報告が多い。対人的注意については行動学的検査をもとに共同注意の低下を示す所見が得られている。脳機能画像を用いた研究からは,顔・表情や感情などの対人的処理と関連する領域を中心に所見が得られている。例えば,表情に対する扁桃体の低活動,顔に対する紡錘状回や上側頭回の賦活減少などが報告されている。さらに,対人的刺激に対し,ミラーニューロンにあたる下前頭回弁蓋部や眼窩部前頭前野の賦活減少もしばしば見出されている。聴覚刺激を用いた研究でも,主に対人的刺激に対する非定型的反応が報告されている。以上のように,PDD に関して非高次機能および対人的認知機能を中心に所見が集まりつつあると言える。
著者
志澤 美保 義村 さや香 趙 朔 十一 元三 星野 明子 桂 敏樹
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, pp.411-420, 2018-08-15 (Released:2018-09-14)
参考文献数
27

目的 本研究は,地域在住の幼児の養育者を対象に,子供の食行動の問題への子供側の要因および環境要因の食行動への影響を検討することを目的とした。方法 対象は,A県2市において研究協力の同意が得られた保育所,幼稚園,療育機関に通う4~6歳の子供1,678人の養育者であった。協力機関を通じて養育者に無記名自記式質問紙を配布し,回答は協力機関に設置した回収箱および郵送で回収した。調査項目は,①子供の基本属性,②養育者による食行動評価,③対人応答性尺度(Social Responsiveness Scale; SRS)日本語出版準備版,④日本感覚インベントリー(Japanese sensory inventory revised; JSI-R)および⑤育児環境指標(Index of Child Care Environment; ICCE)であった。統計学的解析は,χ2検定,Fisherの正確確率検定,相関分析,および重回帰分析を行った。結果 調査は843人から回答を得て(回収率50.4%),有効回答数は583人(有効回答率34.7%)であった。養育者の捉える食行動の問題数は,一人平均2.43±2.26個,男女ともに約4割に偏食が認められ,次に「じっと座っていられない」は約3割に認められた。食行動の問題数と関連要因についての重回帰分析では子供の食行動の問題数と有意な正の関連を示した変数は,個人要因のSRST得点total(β=0.188, P<0.001),JSI-Rの味覚(β=0.319, P<0.001),聴覚(β=0.168, P<0.001),環境要因のICCEの人的かかわり(β=0.096, P=0.010)と社会的サポート(β=0.085, P=0.022)であった。一方,負の関連を示したのは,個人要因のJSI-Rの嗅覚(β=−0.108, P=0.013)ときょうだい(β=−0.100, P=0.005),年齢(β=−0.077, P=0.029),および性別(β=−0.091, P=0.010)であった。結論 本研究において,「偏食がある」,「じっと座っていられない」はこの時期の典型的な食行動の問題と考えられた。食行動の問題の多さには,自閉症的傾向,感覚特性などの個人要因だけでなく,人的かかわり,社会的サポートなどの育児環境要因についても関連が認められた。食事指導には,これらの関連要因を合わせて検討することの重要性が示唆された。