著者
隅田 孝
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.64, pp.179-194, 2017

本稿では、少子高齢化の影響を受けた子供市場において、近年いわゆる豪華一点主義といわれる現象がみられ、そのような子供市場についてマーケティング論的分析を行った。豪華一点主義といった社会的背景を受け、近年関心の高まりをみせ注目を集めている子供や若者といった若年層をターゲットにしたマーケティングのあり方を、食品産業、とりわけ玩具菓子及び外食産業を例にあげて分析を行った。 玩具菓子市場では大人と子供のボーダーレス化現象がみられ、大ヒット商品を誕生させた要因の1 つであると考えられる。従来、大人が好んで購入する商品とみなされていたモノが子供の嗜好を刺激するモノであるといったように潜在的なニーズの発掘に成功した。その逆の成功事例も数多く存在する。たとえば、子供の玩具から大人のコレクションへというように、玩具菓子が市場で新たな価値を帯びていくプロセスをチョコエッグやプロ野球カードを事例に、そのメカニズムを明らかにした。また、今後の食品産業における子供市場のあり方として、子供というカテゴリーにとらわれることなく、子供と大人が共有できる価値をもつ製品の開発が求められることを述べた。
著者
西田 宏太郎
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学大学院研究論集
巻号頁・発行日
no.11, pp.163-193, 2017-03-20

発達障害児を育てる親にとって、「障害受容」とはなんなのか。親子を支援していく支援者ですら共通した回答をすることのできないものを支援の目標にすることはできないと考え、障害受容を定義づけるための研究を行った。 親の障害受容のモデルとなっている三つの先行研究から、それぞれの特徴や共通点を分析した文献研究と、障害者本人とその家族に対して障害受容のイメージを調査したアンケート調査の二つから「障害受容とはなんであるか」を明らかにした。
著者
南谷 美保
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.66, pp.47-73, 2018-09-25

三方楽所楽人は、禁裏と江戸幕府関係の儀式およびこれらに関連する社寺における神事、法会などの奏楽を担当し、さらには、三方楽所以外のたとえば日光楽人のような楽の演奏を職務とする人々の指導を行っただけではない。すでに、多くの考察が明らかにしているように、江戸時代後半になると楽の演奏を職務とする専門職以外の「素人」弟子への楽の指導が広く行われるようになっていた。つまり、三方楽所の楽人は、雅楽のお師匠さんとして、雅楽の演奏を職務としない「素人」集団への指導も行っていたのである。ところで、そうした「素人」集団を対象とする楽の指導の場においては、指導者である楽人から稽古者に対して、一方的に楽に関する知識や技術が伝達されるだけであったのだろうか。本稿においては、そうした楽の稽古の場に集う「素人」とされた楽の稽古者集団がどのような人々によって形成され、そこではどのような「文化」が共有され、それがどのように楽の専門家である楽人に関わっていたのかということについて考えてみたい。以下では、東儀文均の日記である『楽所日記』のうち、弘化・嘉永年間のものを対象として、文均と京都における弟子たちとの交流を考察するものとする。
著者
柏木 龍二
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学大学院研究論集
巻号頁・発行日
no.11, pp.149-162, 2017-03-20

介護保険法に位置づけられている通所介護事業所は、比較的良好な労働環境であることが推測できるにも関わらず、定着率が低い実態に疑問を抱いた。本研究では正規介護職員に焦点を当て、職場定着に関連する要因を明らかにすることを目的とした。 質的調査にもとづきその文脈の意味解釈や調査対象者の語りを通して分析した結果、全部で20 の概念を析出し、それらを4 つのカテゴリーに集約することができた。働き続けるということは、【揺らぎ・葛藤期】、【動機づけ期】、【定着期】を行ったり来たりすることだと推測された。【揺らぎ・葛藤期】から次のステップへ移るためのエネルギーとして【福祉職に対する肯定感】が存在すると考えられる。
著者
坂田 達紀
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学大学紀要
巻号頁・発行日
no.64, pp.7-30, 2017-09-25

" 村上春樹の「青が消える(Losing Blue)」は、1992 年に海外の雑誌に発表され、2007 年からは(日本の)高等学校の国語教科書にも採録されている、文字数にして4200 文字の短編小説である。他の多くの村上作品と同様、表面的ないし表層的に読むのは易しいが、その内側ないし深層を理解するのはそれほど簡単ではない、つまり、結局何を言おうとしているのかが単純には捉えられない小説である。 本稿では、文体論の観点から、この小説の表現・文体の分析・考察を試みた。析出された文体的特徴は、次のとおりである。 ⑴ 異様な冒頭表現に異化効果およびサスペンス効果が認められる ⑵ 悪夢が説明抜きで叙述(描写)されている ⑶ 非現実を現実化する仕掛け(「炭取が廻る」仕掛け)が仕組まれている ⑷ 様々な意味(寓意)が読み取れるアレゴーリッシュな文体である ⑸ ユーモアの要素が見られる 「自分のことを生まれつきの長編小説作家だと思っている」村上春樹にとって、短編小説は長編小説のいわばプロトタイプ(原型・試作品)と考えられるので、上の特徴のうちのいくつかは、当然、長編小説にも見出されることが推測される。したがって、これらの特徴が、いわゆる「村上春樹らしさ」ないしは「本来の「村上春樹的」小説世界」を形づくる要素と考えられる、と結論づけた。 加えて、村上春樹が文体によって「見分けのつかない、無明の世界」を明かそうとしていること、そして、その文体が批評性を持っていることも指摘した。 本稿の分析・考察の結果は、現行の高等学校学習指導要領の「指導事項」に、「表現の特色に注意して読むこと」という文言や「書き手の意図をとらえたりすること」という文言が見られることに鑑みて、この小説を国語教材として用いる際にも役立つものと考えられる。"
著者
田島 智子
出版者
四天王寺大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究では、文献と絵画の調査を行った。文献については、主として平安・鎌倉期の歴史資料と文学作品を対象に、絵画に関する記述を抜き出して整理した。絵画については、主として現存する絵巻・屏風絵・障子絵を対象に、屏風歌などの文献の説明と似通う絵を、抜き出して整理した。とくに、絵画を広く調査したことにより、平安期の屏風絵の構図とかなり近いものを見出すことができた。それを参考に絵と歌の関係を再考した結果、たとえば「網代」について、その典型的な光景が、絵と歌の相互作用により形成されていったことを明らかにした。
著者
麻生 迪子
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.70, pp.57-70, 2022-03-25

本研究は,上級中国人日本語学習者を対象に未知の和語多義語語義の意味推測について検討を行ったものである。23 語を対象語とし,42 の語義から実験文42 文を作成した。調査協力者に対象語義の意味を推測させる「意味推測課題」と意味推測のしやすさを問う「意味推測難易度課題」の2 つを実施した。その結果,中国人日本語学習者にとって意味推測が容易な語義として,12 語義が挙げられた。12 語義が推測容易語義となったのは,調査協力者にとって「既知語義」であったり,「文の手がかりのみで推測が可能」であったためである。一方,推測困難語義として24 語義が抽出された。24 語義が推測困難であったのは,「語義をあやまって理解していたこと」や「ひらがなの音から異なる漢字をあてはめ,誤った意味推測」をしてしまったことが原因であったと考えられる。なお,6 語義は推測の容易さについて明確な特徴がみられなかった。本調査の結果は日本語教育に対して,二つの示唆を与える。一つは,中国人日本語学習者は,ひらがなで表記された未知の語義に出会うと,既知の漢字知識を用いて意味推測を行う。そのため,同音異字語,同音異義語については,学習者が注意を払えるように十分に指導する必要があることである。今一つは,未知語及び未知の語義の意味推測ストラテジーの指導の重要性である。文レベルの手がかりを用いた意味推測は失敗に終わる可能性もあるので,推測した意味を固定せずに,未知語が使用された前後の意味を踏まえながら意味推測を行うという指導をする必要があることである。
著者
隅田 孝
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.67, pp.295-314, 2019-03-25

広告戦略におけるオノマトペ(主に食品などのサクサク、ふわふわ、などの擬声語、擬態語)は、商品の差別化や販売促進などで使用されている。その他にも消費者間コミュニケーション(クチコミ)などで使用され、様々な広告効果が発揮されている。消費者間コミュニケーション(クチコミ)の重要性の高まりを背景に、広告戦略においてこれらオノマトペが注目されている。 今日、サクサク、ふわふわ、など一般的にオノマトペは使用され、日常的に使用されているオノマトペがクチコミとしての広告効果に深く関わっていると考えられている。一方で、オノマトペを用いた広告の中で商品に使用するとイメージが損なわれるもの(食品にベチャベチャ、ぐちゃぐちゃなどを使用する場合など)がある中で、広告戦略に適しているケースについて検討する。 本稿では、あらかじめイメージが植えつけられている商品があり、イメージを表現するオノマトペを伏せた状態で使用、試食させた場合、消費者はどのようなオノマトペを連想するのか、その連想したオノマトペは商品イメージと一致するのかを検証する。また、この伏せた状態での消費者間コミュニケーション(クチコミ)はどのように広がり定着していくのかについても考察を進める。これらをまとめて、オノマトペは広告戦略として活用する際に有効であるかについて検討する。
著者
加藤 彰彦
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.67, pp.203-233, 2019-03-25

アンドレ・ブルトンの『ナジャ』において、ナジャの物語の最後でナジャの不在を意味するブルトンの発言がある。ナジャの不在とはいいながらも、ナジャが実在した人物であることは明らかになっているが、それでは何故ナジャの不在が語られるのか。それについて考察したのが本論考である。第一部において、ジェラール・ジュネットの物語論に依拠しながら、語り手と聴き手の位置関係に注目し、当初は語り手であったブルトンが、本来聴き手であったナジャに取って代わって最終的には聴き手も兼ねるという一人二役を演じている構造を明らかにし、ナジャの不在をテキスト上から論証した。次に、第二部において、ラカンの理論を援用しながら、ナジャはブルトンの自己同一性のための鏡像であること、更にヒッチコックの『サイコ』を例にとりながら、主体が対象と同一化し、対象が消滅しても、超自我的な声によって支配される点を明らかにし、ブルトンはナジャの消滅後もナジャの声によって支配され、それによって主体として維持されるという風に結論付けた。
著者
木村 俊彦
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要
巻号頁・発行日
no.63, pp.411-417, 2017-03-25

2007年と2008年の資料紹介では、金倉圓照・東北大学文学部教授の最終年度の印度哲学史特殊講義を聴講された直弟子の一人・神舘義朗先生のノートを頂戴して掲載した。先生は筆者のパーリ語講師であられたが、最後は滋賀医科大学の哲学教授として定年まで勤められた。今般は同じく金倉圓照博士の直弟子である村上真完・東北大学名誉教授から、金倉博士の未公刊の著書『印度中世精神史』下に相当する原稿のコピーと演習の為に用意された『ニヤーヤバーシュヤ』(『論理学疏』)と『サルヴァダルシャナサングラハ』(『一切哲学綱要』)の全訳ノートのコピーなどを寄託された。 ここでは後者の第二章(仏教章)の初めの部分を紹介したい。合わせて前後に金倉圓照博士の履歴と業績を紹介する。博士は鹿児島県のお寺の出で、1896年に生まれ、東京帝国大学印度哲学科を卒業してドイツなどに三年間留学し、新設の東北帝国大学印度学仏教史講座の助教授、次いで主任教授を勤められた。その後、『印度中世精神史』上巻によって日本学士院賞を受賞され、続いて同会員、昭和天皇の侍講も勤められた。新設の宮城教育大学長を三年間勤められたのは70歳からである。1987年に満90歳で東京で亡くなられ、出身のお寺に葬られた。本書の仏教章は仏教哲学四派の梗概であるが、最初にダルマキールティの仏教論理学の延引があり、14世紀後半という、仏教がインド本国で滅亡してからの南インドのマーダヴァの著書にしては、筆者の専門分野が最初に登場して実に興味深いものがある。
著者
吉田 康成 西 博史
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.64, pp.311-322, 2017

"本研究はワールドカップ2015 に出場した一流選手のジャンプサーブを3 次元動作分析することにより、強く打撃する一流選手のジャンプサーブの実態を明らかにすることで今後のコーチング資料を得ることを目的とした。被験者は、Anderson 選手(アメリカ)、Zaytsev 選手(イタリア)、Ishikawa 選手(日本)、Yanagida 選手(日本)であった。得られた知見は以下の通りである。1)本研究で得られた打球速度は、先行研究よりも速く、Anderson 選手が30.91m/s、Zaytsev 選手が35.38m/s、Ishikawa 選手が31.31m/s、Yanagida 選手が31.60m/s であった。2)ジャンプサーブの頭部中心を原点とした打撃の相対位置について、Ishikawa 選手とYanagida選手はスパイクに関する先行研究で報告された打撃位置と大差はなかったが、 Anderson 選手とZaytsev 選手は頭上付近で打撃していた。3 )Ishikawa 選手とYanagida 選手の打撃時における腰部速度は水平方向がそれぞれ0.70m/s と0.92m/s であった。跳躍の仕方は、跳躍前に沈み込み、踏み切り足で助走の水平方向の運動量を鉛直方向へ変換するという従来の指導書で述べられている前衛でスパイクするための助走方法であった。4)Anderson 選手とZaytsev 選手の打撃時の腰部速度は、水平方向がそれぞれ2.05m/s と1.87m/sであった。外国人選手のジャンプサーブは日本人選手と比較して跳躍前に大きく沈み込まず、腰部の水平速度を活かして打撃していた。
著者
藤谷 厚生
出版者
四天王寺大学
雑誌
四天王寺大学紀要 (ISSN:18833497)
巻号頁・発行日
no.66, pp.205-219, 2018-09-25

本稿は、華厳経の入法界品で、善財童子の悟りの完成のために普賢菩薩が説いたその行願(普賢行)の内容理解のための一研究ノートである。テキストとしては、不空三蔵訳(8c 中頃)の『普賢菩薩行願讃』(大正蔵経第10 巻880 上段以下)の62 頌を用い、足利惇氏先生の「普賢菩薩行願讃の梵本」(京都大学文学部研究紀要4 号[1956 年])や般若三蔵による同本異訳とされる華厳経(四十巻)の「入不思議解脱境界普賢行願品」(以下、四十華厳・普賢行願品と略)の普賢広大願王清浄偈などを参照しながら、できるだけ原本の意に即すように書き下し、邦訳としてここに翻刻した。特に四十華厳「普賢行願品」には、この普賢菩薩の十大行願については、 「 若欲成就此功徳門。應修十種廣大行願。何等爲十。一者禮敬諸佛。二者稱讃如來。三者廣修供養。四者懺悔業障。五者隨喜功徳。六者請轉法輪。七者請佛住世。八者常隨佛學。九者恒順衆生。十者普皆迴向」(大正蔵経第10 巻844 頁中段24 行目)とあり、本稿では便宜上これに随い、本文の内容を「礼敬諸仏」「称讃如来」「広修供養」「懺悔業障」「随喜功徳」「請転法輪」「請仏住世」「常随仏学」「恒順衆生」「普皆廻向」の十種とそれに付随する小見出しを附して区分し、それぞれの本文書き下し訳に、語註や解説ノートを加えて要旨を述べ、末尾には四十華厳「普賢行願品」の普賢広大願王清浄偈を書き下し邦訳して参考として付した。