著者
田崎 和江 竹原 照明 橋田 由美子 橋田 省三 中村 圭一 横山 明彦 青木 小波 田崎 史江
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.97-113, 2017-07-25 (Released:2018-01-14)
参考文献数
21
被引用文献数
1

黒柿はカキノキ科の一つであり,幹・枝・根の断面に黒色の部分があり,心材や辺材には縞が美しい孔雀の羽根のような模様(孔雀杢 くじゃくもく)がある.孔雀杢は何百年と樹齢を重ね,かつ,様々な条件を満たした柿の木だけが黒と白の美しい模様を持つようになった希少な銘木である.材質が竪硬で粘りもあり,細かい細工をする指物に適しており和家具,茶道具などが金沢伝統工芸品となっている.しかし,江戸時代に加賀藩が黒柿の栽培を行っていたとされるものの,その科学的な記録はない.なぜ柿の木の幹に黒い色の美しい模様ができるのかを究明するために,石川県金沢市内に生育している黒柿を採取して,IP,XRD,ICP-MS,XRF,SEM-EDS,放射能測定器を用いて物理化学的,鉱物学的,微生物学的特徴を調べた.本研究試料の「黒柿」のXRD 分析では,セルロースの他に低温型α- クリストバライト,生体アパタイト(燐灰石),ハロイサイトなどの粘土鉱物が含まれていた.黒柿の黒色化した幹に形成する孔雀杢は“珪化木”ということができる.本研究結果から,①黒柿が“珪化木”になるには,まず,根の中心の白色部に認められた微生物がCa >>> P,S >> Mg > Si,Fe,Cl,K,Mn を取り込み,生体アパタイトを形成する.②成長するにしたがって,放射能核種やB,Br を伴って, さらにCa,P,S >> K,Mg,Si,Sr > Cl,Mn,Fe などの元素を取り込みながら黒色化する.③そして,年月を経るにしたがって, 幹の辺材部に黒色の縞模様(孔雀杢)を作りながら低温型α- クリストバライト(珪化木)を形成することが明らかになった.
著者
藤田 裕也 鈴木 寿志 桑原 希世子
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.145-150, 2022-07-25 (Released:2022-09-02)
参考文献数
28

The Guadalupian Follicucullus assemblage, which is made mostly of the genus Follicucullus (Radiolaria), was found from Arida City, Wakayama Prefecture. The fossil locality in the southern area of Arida City is geologically attributed to the Northern Chichibu Belt, which is occupied by such lithologies as chert, sandstone, mudstone and green rocks. Radiolarian fossils were extracted with diluted hydrofluoric acid from a bedded chert layer exposed at the Mandarin Coastal Street. The occurrence of Follicucullus porrectus Rudenko and Follicucullus cf. scholasticus Ormiston et Babcock and the lack of Follicucullus charveti Caridroit et De Wever indicate a Capitanian horizon of the Guadalupian Series. This is the first report of the occurrence of Permian radiolarians from the Arida City area. The significance of the occurrence of Permian chert in the Northern Chichibu Belt is discussed as well as the formative factor of the Follicucullus assemblage (deep water current or oceanic environmental change).
著者
鹿野 勘次 國光 正宏 杉山 政広
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.329-338, 2001-11-25 (Released:2017-07-14)

岐阜県白川村の手取層群から産出した恐竜の足跡化石について足痕学的研究を行い,堆積学的検討を加えた.白川村大白川上流地域には,手取層群の石徹白亜層群と赤岩亜層群が2,200m以上の厚さで分布する.足跡化石は石徹白亜層群のカギ谷砂岩層最上部にあたる層準において,漣痕が発達した細粒砂岩層の上面に見出された.足跡の可能性のある36個の窪みのうち恐竜の足印と判定できたものは17個である.足印の一部は明瞭に3指性を示すことと,その形態的な特徴から,鳥脚類の恐竜により印跡されたものと推定される.足印の多くは判別できる範囲において類似した形態をもち,ほぼ西から東への移動を示す2組の行跡が識別され,また多くの足印が同じ方向を向いていることから,集団で流路を横断していたことが判明した.
著者
野尻湖哺乳類グループ
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.219-233, 2010-11-25 (Released:2017-05-16)
被引用文献数
1

ヘラジカ Alces alcesは,ユーラシア大陸や北アメリカ大陸の冷温帯や寒帯において,主に高緯度針葉樹林に生息する,現生シカ類中最大の種類である.日本から報告されているMIS3末期からMIS2にかけての化石は,現生と化石を通じてもこのシカの分布の南限である.2008年,長野県北東部の野尻湖西岸に分布する上部更新統の野尻湖層立が鼻砂部層T3ユニット(44,000y.B.P.;MIS3)から,野尻湖層からは初となるヘラジカ化石が産出した.この標本(17N III F18-2)は左下顎骨の一部で,ほぼ完全なM3を伴う.さらにその近傍で採集されていた16N III F18-36(ほぼ完全な左下顎のM2)と10N III E17-88(左下顎骨の一部)が,17N III F18-2に接合した.野尻湖層の脊椎動物化石群は,ナウマンゾウとヤベオオツノジカが圧倒的に優勢であるが,より冷涼な気候を好む"マンモス動物群"の一要素とされるヘラジカがそれに加わることは,野尻湖地域の環境変遷を考察する上で重要である.このヘラジカは日本最古の化石記録で,MIS3以前の本州にヘラジカが生息したことを示す.そして後期更新世の古気候や海洋地形等から推測すると,ヘラジカが日本列島へ侵入したのはMIS4の寒冷期であった可能性が高い.
著者
野尻湖哺乳類グループ 高桑 祐司 間島 信男 加藤 禎夫 近藤 洋一 杉田 正男 鈴木 俊之 関谷 友彦 名取 和香子
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.219-233, 2010-11-25
被引用文献数
1

ヘラジカ Alces alcesは,ユーラシア大陸や北アメリカ大陸の冷温帯や寒帯において,主に高緯度針葉樹林に生息する,現生シカ類中最大の種類である.日本から報告されているMIS3末期からMIS2にかけての化石は,現生と化石を通じてもこのシカの分布の南限である.2008年,長野県北東部の野尻湖西岸に分布する上部更新統の野尻湖層立が鼻砂部層T3ユニット(44,000y.B.P.;MIS3)から,野尻湖層からは初となるヘラジカ化石が産出した.この標本(17N III F18-2)は左下顎骨の一部で,ほぼ完全なM3を伴う.さらにその近傍で採集されていた16N III F18-36(ほぼ完全な左下顎のM2)と10N III E17-88(左下顎骨の一部)が,17N III F18-2に接合した.野尻湖層の脊椎動物化石群は,ナウマンゾウとヤベオオツノジカが圧倒的に優勢であるが,より冷涼な気候を好む"マンモス動物群"の一要素とされるヘラジカがそれに加わることは,野尻湖地域の環境変遷を考察する上で重要である.このヘラジカは日本最古の化石記録で,MIS3以前の本州にヘラジカが生息したことを示す.そして後期更新世の古気候や海洋地形等から推測すると,ヘラジカが日本列島へ侵入したのはMIS4の寒冷期であった可能性が高い.
著者
佐藤 隆春 大和大峯研究グループ
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.403-413, 2006-09-25 (Released:2017-07-14)
被引用文献数
13

紀伊山地中央部の秩父帯は大峯-大台スラストで四万十帯の構造的上位にある.大峯-大台スラストは弧状および半円形断層で変位している.秩父帯は東西幅30km以上の弧状断層および直径15km以上の半円形断層の内側にみられる.両断層は同心円状の形状を示す.安山岩と安山岩-石英斑岩複合岩脈からなる弧状岩脈群が弧状断層の内側に貫入している.半円形断層の外側に並行して火砕岩岩脈群が貫入する.中生界(秩父・四万十帯)は両断層と火砕岩岩脈群の内側が数百m陥没する.これを大峯・大台コールドロンと命名する.前者は弧状断層で囲まれる.後者は半円形断層と火砕岩岩脈群で囲まれている.これらの特徴はコールドロンが連続して形成された二重のコールドロンであることを示す.コールドロンにともなわれる岩脈群の放射年代はこれらが中期中新世に形成されたことを示す.大峯・大台コールドロンの形成機構は大量の火砕岩の噴出によるピストンシリンダータイプの陥没と考えられ,特に大台コールドロンはトラップドアタイプの陥没と考えられる.紀伊山地中央部の秩父帯はこれらのコールドロンの内側に残存する中生界である.紀伊山地の隆起と侵食により,これらのコールドロンから噴出したカルデラ充填火砕岩層はコールドロンの周囲には残っておらず,カルデラ床を構成していた中生界が露出するにいたった.
著者
秦 光男 長谷川 康雄
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.93-103, 1970-05-25 (Released:2017-07-26)
被引用文献数
3

Up to date the geology and palaeontology of the Okushiri Island off Hokkaido has been studied by some investigators. The writers carried out the geological review and the study of the Tertiary marine diatoms collected from the southern area of this island. The conclusions are as follows: (1) In the geological survey the upper part of the Senjo Formation consisting of siltstone and the Muejitna Formation called by (SUZUKI and SONOKI, 1936) seem to be synchronous and heterofacies to each other. Then these facies were newly unified by one of the writers, Hata, as the Yoneoka Formation. (2) The two samples from the Yoneoka Formation is clearly distinguished by dominant and characteristic diatom species, Coscinodiscus marginatus, Denticula kamtschatica and the genus Thalassiosira (T. antiqua, T. decipiens, T. nidulus, T. oestrupi and T. zabelinae). No combination of species composition of four categories (21 diatom taxa in a random count of 200 marine planktonic species) used by KOIZUMI (1968) for recognition of the diatom zones in Tertiary sediments on the Oga Peninsula, Akita Prefecture, Northeast, Japan, occurs in this formation. The Yoneoka samples may be correlated with the assemblage of the Maido Formation (upper Miocene) of the Ajigasawa district, Aomori Prefecture, Northeast Japan, studied by Koizumi, (1966) corresponding to the Kitaura Formation of the Oga Peninsula. (3) The Tsurikake Formation are characterized with the six extinct species, Denticula nicobarica, Cosmiodiscus intersectus, Synedra jouseana, Thalassiosira cfr. kisselevii, T. usatschevii and Stephanopyxis lineata. This formation is assumed to be represent the lower part of the middle Miocene of this area, according to the palaeontological evidences of the molluscan fauna and the planktonic foraminifers of the Nishikurosawa's type (Gobigerina praebulloides, G. scitula and Sphaeri dinellopsis subdehiscens). (4) The ranges of following species, Denticula kamtschatica, Cosmiodiscus intersectus, Synedra jouseana, Thalassiosira usatschevii and T. zaberinae, reported byJoust (1962) to be restricted to the Pliocene are found to extend into the Miocene in this area, though already their ranges was reported by KOIZUMI (1966) in the Northeast Japan and SHESHUKOVA-PORETZKAYA (1967) in Sakhalin and Kamtshatka of the Far East. The predominant species, Denticula nicobarica, of the Tsurikake Formation also was reported by SIMONSEN and KANAYA (1961) to occur in the uppermost Miocene in California, U.S.A.
著者
小林 昭二
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.179-190, 2002-05-25 (Released:2017-07-14)

群馬県安中市の板鼻層(中期中新世後期〜後期中新世前期)から発見された海牛化石は,右肩甲骨,胸骨,肋骨,胸椎を含み,産地名にちなみ下秋間標本という.これらの部位をジュゴン科(ジュゴン亜科,ヒドロダマリス亜科,ハリテリウム亜科3亜科),トリケクス科のアメリカマナティーと比較した結果,特に第1から第4肋骨では遠位ほど太く,全体的に肥厚していることと大きさの点でMetaxytheriumメタキシテリウム属に,さらに各部位の大きさや台形の肩甲骨,長方形の胸骨,縦長の胸郭などの形態においてMetaxytherium crataegense, M. serresiiなどとよく似ている.また,胸椎の形態,中位・後位肋骨の肋骨角後外側部の膨らみなどはHalitherium schinziに似ているが,下秋間標本は幅広い背縁と強い烏口突起をもつ大きな肩甲骨を有する点でより派生的である.以上のことから下秋間標本をハリテリウム亜科とした.下秋間標本はわが国最古のジュゴン科の一つと考えられ,わが国の中新世以後の海牛目の分布,さらに大西洋・ヨーロッパ起源の海牛の日本進入の経路を考える上でも重要な資料である.
著者
関東ローム研究会
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
no.54, pp.32-39, 1961-05-03

表題に示すとおり,これは関東ローム研究の1959年現在の知識を総括したものである.これを要約するとつぎのとおりである.1."関東ローム"の名称には批判があるが,このつかいなれたことばを,"関東地方の洪積世火山灰層"と定義する.2.関東ローム層は,4つの層序的単位,すなわち上から,立川・武蔵野・下末吉および多摩の各層にわけられ,その段丘面上の産状は第1図のようである・3.南関東では関東ローム層は上記のようにわけられるが,北関東の宇都宮付近では,上からA_1・A_2・A_3およびA_4の4層に,前橋付近では,上中および下層にわけられる.これらのローム層の起源は,関東平野の西ないし北西周辺部の火山,すなわち,箱根・富士・赤城・榛名および浅間火山にもとめることができる・4.南北関東のこれらの層序関係は,浮石層・暗色帯・クラック帯などを追跡することによって明らかにされた.これにより,岩宿文化,不二山文化など無土器文化層の層位がたしかめられた.5.ローム層に関連する地形面,堆積物および化石層などの対比により,海面変化の様子がわかった.屏風ガ浦・下末吉および有楽町海侵は,氷河性海面変化と考えられる.6.結論を総合したものが第4図の編年表であり,これは日本の第四紀編年の基準となるものであろう.'(関東ローム研究グループの仕事は永い間にわたり,その成果は,火山灰による第四紀層序学としては,かなり典型的なものである.そのような意味で,本論文は外国向けに,その成果を紹介しようとしてかかれたものである.原稿が完成したのは1960年5月であったが,事情があって印刷されず,今回,地球科学に掲載のはこびとなったものである).