- 著者
-
鈴木 伸一
- 出版者
- 岡山県立大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2001
1.研究の目的視覚障害者の道路横断に生じる心身のストレス状態を明らかにするとともに,各種ストレスが歩行にどのような影響を及ぼすかを検討することを目的とした.2.対象全盲の視覚障害者6名.被験者の単独歩行歴は20年〜35年であった.3.手続き市街地域の音響式誘導設備が設置された横断歩道(道幅11.6m)を利用し,単独歩行時の生理的反応(心拍率,皮膚電気反射:トーヨーフィジカル社製),心理的反応(POMS不安・緊張尺度),騒音音圧(Rion社製騒音計),横断軌跡,方向見失い(内観)を測定した.各被験者の試行回数は11〜16回であり,総データ数は85であった.4.結果と考察各指標の変化を検討した結果,心拍,皮膚電気反射ともに騒音音圧が上昇する時期と同期して上昇するが,覚醒のピークは皮膚電気反射の方が早い傾向にあった.この結果は昨年度の結果を支持するものであった.また,歩行軌跡のパターンをクラスター分析によって検討すると,歩行軌跡は「離脱無し」,「離脱後復帰」,「離脱」,「後半離脱」の4パターンに分類可能であった.各群における各指標の差異を検討した結果,横断初期(0秒〜5秒)の騒音音圧に顕著な違いが認められ,離脱群の初期騒音は離脱無し群に比べて顕著に高かった.そこで,横断初期の騒音音圧のデータを基準として騒音高群(70db以上)と騒音低群(65db以下)を構成し,ストレス反応の差異を検討した.その結果,騒音高群における横断開始後7〜8秒後の皮膚電気反射は騒音低群にくらべて顕著に高く,横断開始後14〜15秒後の心拍率は騒音低群に比べて顕著に低いことが明らかにされた.これらの結果は,昨年度の研究において示唆された知見を支持していた.以上本研究の結果をまとめると,(1)横断歩道離脱度の高い試行は,初期騒音が高い,横断前半の皮膚電気反射が高い,横断後半の心拍率が低いという特徴がある,(2)横断中の皮膚電気反射の変化は騒音音圧の変化と類似したパターンを示す,(3)横断後半の心拍率は,離脱度の高い試行ほど低い,(4)皮膚電気活動は情緒的反応成分を反映し,心拍率は方向定位に伴う認知的反応成分を反映している,と言うことができる.これらのことから視覚障害者の単独歩行による横断歩道離脱に及ぼすストレスの影響性を考察すると,視覚障害者が横断初期に高い騒音を経験することによって情緒的なストレス反応が高まり,それによって方向定位に関連する認知的活動が妨害され,離脱が生じると考えることができる.