著者
木下 清 島田 修 保野 孝弘 綱島 啓司
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.91-101, 1997

大学生の学校および家庭への適応状況を調べ, 精神的健康度をチェックする目的で, UPIを含む調査表を作成した.実施法としては授業時に配付し, つぎの同じ授業時に回収する方法によった.対象者はJil崎医療福祉大学の1,2年生で有効回収数は604名であった.UPIの訴え数平均値は9.7であったが, この値から訴え数の多い者89名, 少ない者56名を選びそれぞれをH群, L群として, 調査表の他の項目への応答を比較した.家庭生活でH群は両親のしつけや接し方に批判または不満を感じ, それゆえ反抗・批判・無視という態度をとる者が多かった.学校生活でも友が少なく, 友への感情も陰性または両価的であるとともに, 学校そのものにも不満を感じ将来を「暗い」とする者が多かった.つぎに調査表のなかの過去の問題状態にチェックのあった学生325名(P群)とチェックのない学生279名(N群)について, 他の項目への応答を比較したところ, H群とL群の比較に類似の結果が得られた.なおUPIの平均値もP群が高かった.特に家出, いじめられ経験, ノイローゼ, 自殺念慮の項では有意に高い.その他者項目について, 学科別, 学年別, 性別に比較を試みた.一貫して見られた傾向は2年生の方が, 1年生に比べて特に学校生活に不満や不安を多く感じているらしいことであった.学科別の特徴は人数の少ない項目がいくつかあったので省略する.
著者
緒方 正名 當瀬 美枝 山田 寛子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.19-32, 1997
被引用文献数
1

本調査においては, 在宅介護者の介護負担度を探るために, 高齢者の介護をしている介護者の負担感を半定量的に評価する指標として開発されたCostofCareIndex(CCI)を導入し, 老人福祉法に位置付けられている老人ホームヘルパー(194名)と実際に自宅で家族の一員を介護している在宅介護者(270名)を調査対象にして, その負担感に焦点を当て両者の差異を比較検討した.そのCCIの5項目の制約について, 単純集計の結果から両群の差異を得点のメディアンで比較すると, (1)社会的制約のある人は, 在宅介護者が約46%, ホームヘルパーが約48%, (2)健康については, いずれかの形でホームヘルパー, 在宅介護者の約40%がそれを損ねていること, (3)介護に対する意欲では, ホームヘルパーの約2倍以上の在宅介護者が失っていること, (4)被介護者の態度については, ホームヘルパーの約2倍以上の在宅介護者が不愉快さを感じめいること, (5)介護に必要な費用については, 在宅介護者の約1.4倍以上のホームヘルパーが高いと考えていること(ホームヘルパーの値は推定値である), が明らかにされた.また, 各項目において単純集計の結果における訴えの比率について両群の差異をκ2検定で調べた.そして, ホームヘルパーと在宅介護者の差異の多い質問について両群の統計的有意差の見られた項目を中心に各群別のクロス集計を行った.その結果, 両群の介護者共に(1)健康を損ねると被介護者に対する不愉快さが増すこと, (2)社会的制約が増すと被介護者に対する不愉快さが増すこと, (3)介護に対する意欲の有無は, すべての負担度に直接影響を及ぼさないこと, が認められ, また在宅介護者では, その38.3%が, 社会的制約に基づいて健康を損ねていること, などが明らかになった.終りにあたって, 本調査の結果が, ホームヘルパーと在宅介護者の負担感を軽減するための方法と現状の福祉政策の課題を提示するための基礎資料となり, 在宅介護者の負担の軽減を目的としたホームヘルパーの確固たる位置付けと在宅福祉の推進に活用されることを期待していることを述べた.
著者
"植松 章子 田中 昌昭"
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.497-510, 2006

"スケジュール作成は,労力を要し,時間のかかる作業である.これは,法的な制約,勤務規程上の制約,あるいは個人の都合による制約など,多数の競合する制約条件の下で最適な解を探索しなければならないからである.本論文では,遺伝的アルゴリズムを用いて,臨床検査技師の日当直勤務割当て問題に取り組んだ.遺伝的アルゴリズムは,多くの組み合わせ最適化問題に適用されている探索アルゴリズムである. 川崎医科大学附属病院中央検査部は,一般,血液など13の部署に分かれ,総勢約80名の職員が勤務している.職員には,日勤の他に平日当直,土曜・日曜・祝祭日の日当直が割当てられている.副技師長は毎月勤務割当表を作成して病院へ提出することになっているが,その際,全部で8つのルールを考慮しなければならない.本研究では,それらのルールをペナルティとして適応度関数に取り込んだ. 本研究で考案した手法を用いて入念な実験を行い,2年間にわたって蓄積された過去の実績データとの比較を行った.その結果,本研究のアプローチは十分実用に耐えられることが示され,スケジュール作成エンジンとして日当直勤務割当て支援システムに組み込んだ. このシステムを利用することにより,ターンアラウンドタイムを50%短縮することができた.しかしながら,日当直勤務割当ての完全自動化を実現するためには,さらなる改良の必要がある."
著者
平野 聖
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.157-168, 2009

本論の目的は,我が国家電製品のデザインの変遷を辿ることによって,我が国デザイン開発の特徴を見出すことにある.今回,松下精工(現パナソニックエコシステムズ)における昭和後期の扇風機のデザイン開発事例について調査した結果,下記のことが示された.それまでに各企業の扇風機の形状は,ほとんど同一となってしまったので,差異化のために同社は「風自体の品質向上」をめざした.「自然な風」を再現するために,「リズム風」,および「ランダム風」を経,「1/fゆらぎの風」へと発展させ,その革新性をアピールするために,扇風機自体の形状を従来とは大きく変更した.
著者
保野 孝弘
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.297-302, 1998

昼間睡眠から急激に覚醒させた直後と徐々に覚醒させた直後の心理・生理的変化を調べるために, 10名の大学生が, 昼間に実験室で眠った.脳波, 眼球運動, オトガイ下筋筋電図, 心電図, 呼吸を記録した.被験者は, イアフォンからの音バーストを使って, 入眼期の睡眠段階2で覚醒させられた.被験者は, 急激覚醒と緩徐覚醒を1つのセッションの中で行った.覚醒直後, 被験者は各質問紙に回答し, 覚醒直前の主観的体験について聞かれた.覚醒前後の心拍数と呼吸数, 覚醒直後の眠気, 気分, 主観的意識体験には, いずれも両条件間で有意な差は認められなかった.種々の覚醒法を用いて覚醒させた直後の心理・生理的指標の変動を明らかにするために, さらなる研究が望まれる.
著者
"妹尾 勝利 西本 哲也 石浦 佑一 東嶋 美佐子"
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.217-226, 2005

"本研究の目的は,10名の健常成人と1名の右上腕切断者を対象として,上腕能動義手の手先具操作時の筋活動量と酸素摂取量及び自覚的身体疲労度を,利き手と非利き手及び肘継手の屈曲角度の違いによって測定し,義手非装着側の腋窩部の痛みと身体疲労の要因を検討することであった. 義手操作時間は9分間とし,操作中の筋活動量と酸素摂取量を測定した.筋活動は義手装着側と義手非装着側の三角筋前部線維,大胸筋,前鋸筋に貼り付けた表面電極より導出し,積分して比較筋活動量(%MVC:Maximum Voluntary Contraction)とした.自覚的身体疲労度は,Visual Analog Scaleにて調査した.実験は,一人の被験者に4回(肘継手屈曲50度で1回目が非利き手 → 利き手,2回目が利き手 → 非利き手,肘継手屈曲110度で3回目が非利き手 → 利き手,4回目が利き手 → 非利き手)行った. 健常者の%MVCは,利き手と非利き手及び操作時期によって有意差はなかった.義手装着側と義手非装着側の前鋸筋の%MVCは,大胸筋と三角筋より大きかった(p<0.05).肘継手屈曲110度の%MVCは,屈曲50度より大きかった(p<0.05).酸素摂取量と自覚的身体疲労度は,利き手と非利き手及び肘継手の屈曲角度の違いによって有意差はなかった.右上腕切断者の%MVCは,義手装着側の前鋸筋,義手非装着側の大胸筋が大きかった.酸素摂取量は,肘継手屈曲110度では操作時間の経過とともに大きくなった.肘継手屈曲110度での自覚的身体疲労度は屈曲50度より大きかった. 切断者における身体疲労は,切断側肩関節周囲筋の筋力低下の影響が示唆された.義手非装着側腋窩部の痛みは,前鋸筋と大胸筋の作用によるハーネスの圧迫が要因になっていることが示唆された."
著者
小坂 美鶴
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-7, 2001-08-25

最初に, 言語障害への介入理論として(1)神経心理学的理論(2)行動理論(3)情報処理理論(4)言語学的理論(5)認知構造理論(6)語用論的理論の基本的観点と原則を紹介した.次に, 語用論的理論の学問的背景と動向を述べた.語用論は発話の形式を決定するための文脈において生じる発話行為であり, 話し手側の発話に託したメッセージの伝達と聞き手側の意図解釈の問題を取り扱う理論である.それ故, 社会学や心理学, 認知論的な分析にも応用され, 学問としての進化の中で各分野の定義や理論, 方法などが異なっている.さらに本論説では, 軽度失語症患者と右半球損傷群を対象に漫画説明のテクスト構造とテクスト内容について健常成人の産出したテクストと比較し, 言語障害への語用論的理論からの研究結果を示した.分析結果は, テクスト構造の結束性要素である指示語や接続語の使用には有意差はなかったが, 有声休止や言い直しなどの談話の結束性を阻害する要因が軽度失語症群で有意に多く, 右半球損傷群では漫画の内容と合わない項目が多く, テクストの整合性に障害が認められた.この研究結果から言語能力の評価では明確にならない言語障害を明らかにすることができた.すなわち, 軽度失語症患者の渋滞した内容に乏しい発話や右半球損傷患者の内容と合わない発話といった実際の言語使用の印象と一致する結果が得られた.これまでの言語障害児・者への介入では, 言語能力の改善を目的にしたアプローチが主流であったが, 言語能力と言語使用に乖離がある現実からコミュニケーション能力を目的の第一義とした語用論的理論による介入についての研究が増えてきている.これからの言語障害への介入においては実際の場面で状況に合った言語使用を目的とした介入プログラムが重要であり, 会話や談話分析の方法論の統一性についても研究が進み, 今後の語用論的理論による介入の実践の検討と学問的な発展が期待される.
著者
"水畑 美穂 菊井 和子"
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.149-159, 2005

"医療技術の目覚しい発達により解決可能な健康問題が増え,看護実習も健康問題解決志向である看護過程の習得を重視している.しかし近年,老いや死に対峙する高齢者や終末期患者に対する看護では,医療技術を駆使した問題解決よりも人間存在としての患者の苦しみに対処するヒューマンケアが重要であることが認識されるようになった.J.ワトソンらは,新しい看護のパラダイムとして「看護者」という人間が「患者」という人間の苦悩に「共に関与するもの」として関わるトランスパーソナルな関係形成を提唱している. 本研究は,看護学生が老人施設での実習において医療技術では解決不可能な問題を抱えた患者とどのように人間関係を形成していくか,それを通してどのようにヒューマンケアを学習していくかを明らかにすることを目的とする.実習場面に指導者として参加観察した後,学生に面接を行ない,その逐語記録を資料として,患者--看護者の人間関係形成のプロセスをワトソンの記述的現象学的方法を用いて分析し,その構造化を試みた.その結果,学生と患者は「出会い」「模索と葛藤」「可能性の発見(転換点)」「トランスパーソナルな関係」の4段階を経てヒューマニスチックな人間関係を形成していくことが明らかになった.学生は挫折や葛藤を繰り返しながら人間関係形成の接点をつかみ,患者の真のニーズに触れる瞬間を得,それを転換点としてフィーリングの交換が活発となり,ヒューマンケアに変容した.そして実習の終了頃には,双方の間にトランスパーソナルな関係を築くことが可能となる.高齢者,終末期の患者においては個々の問題解決よりも,看護者と患者がそれぞれ一人の人間として全人的存在に影響を与え合い,トランスパーソナルなヒューマンケアの中で共に成熟するものであった.それは看護教育の視点に大きな示唆を与えるものと言える."
著者
水子 学 寺嵜 正治 金光 義弘
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.65-72, 1998

大学新入生30名を対象に, 対人相互作用とポジティブおよびネガティブ感情との関連について縦断的に検討した.なお, 対人相互作用の量と性質は体験抽出法によって記録され, 感情は多面的感情状態尺度および多面的感情特性尺度を用いて測定された.その結果, 対人相互作用量や性質は, 時系列で変化しないが, 測定時期によって各対人相互作用量, 性質と感情との関連が異なることが明らかになった.4月から6月にかけての「家族」との接触は, 日常生活における新入生の適応状態に影響を及ぼす可能性が示唆された.また, 対人相互作用の性質は入学当初の4月よりも10月において感情との間に多くの関連が認められた.この結果は親密な友人との間の相互作用の質が, 開示的あるいは肯定的なものであるほど, ネガティブ感情が抑制される傾向を示している.