著者
武藤 崇 Takashi Muto
出版者
心理臨床科学編集委員会
雑誌
心理臨床科学 = Doshisha Clinical Psychology : therapy and research (ISSN:21864934)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.31-38, 2018-12-15

本稿の目的は,「チャレンジング行動」という用語が含意する,認知症のBPSDに対する介入におけるパラダイム・シフトの核心を明確にすることであった。そのため,本稿の構成は,1)Challengeという英語から「チャレンジング行動」を検討する,2)学術的な「チャレンジング行動」の含意を明確にする,3)認知症のBPSDと「チャレンジング行動」の使用に関する動向を検討する,4)James(2011)による「チャレンジング行動」の定義からの示唆を明確にする,となっている。結論として,チャレンジング行動そのものを「主体」として(擬人化して)焦点化し,その上で,認知症の人と,その周囲の人たちが,協働して取り組む課題として捉えることが,当該のパラダイム・シフ トの核心である,ということが明確となった。
著者
三田村 仰 武藤 崇 ミタムラ タカシ ムトウ タカシ Mitamura Takashi Muto Takashi
出版者
心理臨床科学編集委員会
雑誌
心理臨床科学 = Doshisha Clinical Psychology : therapy and research (ISSN:21864934)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.57-68, 2012-12-15

研究動向本稿の目的は,わが国での「エビデンスに基づく心理学的実践(evidence-based practice in psychology:EBPP)」の普及を目指し,英国や米国を中心に,どういった問題意識の基に,実証に基づく心理学的実践という考え方が生まれたのかについてその概要を示すことであった。また,その中で,わが国におけるEBPP の普及を目指しておこなわれたアクセプタンス&コミットメント・セラピーのセラピスト養成プログラムの実践を紹介し,わが国でのEBPP の普及の課題と展望を論じた。
著者
嶋 大樹 Taiki Shima
出版者
心理臨床科学編集委員会
雑誌
心理臨床科学 = Doshisha Clinical Psychology : therapy and research (ISSN:21864934)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.39-52, 2020-12-15

本稿の目的は,関係フレーム理論の観点からメタファーを分析し,臨床場面での使用法を整理することであった。まず,関係フレーム理論と,メタファーと関連の深いアナロジーについて解説した。続いて,メタファーとは既有の知識と未知の出来事を関係づけることであり,それによる後者の機能変容が核心であることを解説した。最後に,臨床場面においてメタファーを使いこなすための留意点について整理した。その他
著者
北川 嘉野 武藤 崇 キタガワ カノ ムトウ タカシ Kitagawa Kano Muto Takashi
出版者
心理臨床科学編集委員会
雑誌
心理臨床科学 = Doshisha Clinical Psychology : therapy and research (ISSN:21864934)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.41-51, 2013-12-15

研究動向近年,瞑想などを取り入れたマインドフルネスに基づく心理療法が注目されている。マインドフルネスとは「意図的に,いまこの瞬間に,判断することなく注意をむけること」と定義される。本稿ではマインドフルネスとはいったい何なのか概要を示し,実際のマインドフルネスを促進する技法,そしてその効果やメカニズム解明に関する研究を紹介した。最後に,臨床研究・基礎研究の現状を踏まえ,マインドフルネスの促進困難への対応の指針を提案した。
著者
西尾 悠佑 石川 信一 ニシオ ユウスケ イシカワ シンイチ Nishio Yusuke Ishikawa Shin-ichi
出版者
心理臨床科学編集委員会
雑誌
心理臨床科学 = Doshisha Clinical Psychology : therapy and research (ISSN:21864934)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.43-52, 2016-12-15

研究動向本稿の目的は,心理的ウェルビーイング(PsychologicalWell-Being:PWB)および,ウェルビーイング療法(Well-BeingTherapy:WBT)についてレビューすることであった。まず先行研究を概観したところ,PWBはさまざまな精神疾患との関係性が示されており,PWBの向上が精神疾患の改善に有効であることが示唆された。次に,WBTのこれまでのエビデンスを概観したところ,WBTは認知行動療法(CognitiveBehaviorTherapy:CBT)に追加されて実施されることが多いとわかった。しかし,CBT単独の実施より,CBTにWBTを追加した方が,効果が高いかについては,今後検討していく必要性があげられた。最後にWBTでは"肯定的な側面の否定や割り引き"という思考の誤りを扱っている可能性が推察された。そのためWBTの介入により,この思考の誤りが変化しているかについて検討する余地がある。
著者
伊藤 雅隆 武藤 崇 Masataka Ito Takashi Muto
出版者
心理臨床科学編集委員会
雑誌
心理臨床科学 = Doshisha Clinical Psychology : therapy and research (ISSN:21864934)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.83-94, 2015-12-15

本稿の目的は,過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)に対しての認知・行動療法(CBT:Cognitive Behavior Therapy)について展望を行うことであった。有病率が約11%とされるIBSは機能性の消化器障害で,患者の多くがうつ病や不安症などを併発している。薬物療法で軽快しない事例などに,心理療法が適用され,その中でもCBTがその有効性を示している。IBSに対するCBTプログラムについて4種類に分類した。(a)認知療法を用いたもの,(b)ストレスマネジメントを中心にしたもの,(c)腸症状への不安を中心にしたもの,(d)マインドフルネスを用いたものに分類され,それぞれの特徴が示された。今後の課題として,併発症状やQOL改善を見据えた治療プログラムが必要であること,IBS の心理面の基礎的な研究が少ないこと,本邦での治療研究が必要であることが指摘された。
著者
肥田 乃梨子 石川 信一 ヒダ ノリコ イシカワ シンイチ Hida Noriko Ishikawa Shin-ichi
出版者
心理臨床科学編集委員会
雑誌
心理臨床科学 = Doshisha Clinical Psychology : therapy and research (ISSN:21864934)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.3-17, 2018-12-15

研究論文精神疾患に対する否定的な態度は,援助を必要とする者の専門家への受診を妨げる重大な問題であると指摘されている。しかしながら,そのような態度を測定できる青年版の尺度は存在しないというのが本邦の現況である。そこで本研究は,パブリックスティグマの一側面に位置づけられる社会的距離の概念に基づいた,青年版社会的距離の近さ尺度(Social Distance of Adolescents Scale : SDAS)の作成および信頼性と妥当性の検討を目的として行われた。中根他(2010)の成人を対象とする社会的距離尺度を参考に,教育現場での活用を考慮した上で,青年期の生徒が理解できる表現に改めた6項目が作成された。研究1では中学生を対象に調査を行い,信頼性と妥当性を検討したところ,十分な信頼性と妥当性が確認された。続いて研究2において,高校生を対象にSDASを測定し尺度の因子構造を再度探索的に検討したところ,中学生と同様の結果が得られた。SDASは不安症の子どもに対する態度を示すパブリックスティグマを測る尺度として有用であることが示唆され,SDASの汎用可能性について議論された。
著者
早樫 一男 ハヤカシ カズオ Hayakashi Kazuo
出版者
心理臨床科学編集委員会
雑誌
心理臨床科学 = Doshisha Clinical Psychology : therapy and research (ISSN:21864934)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.103-106, 2012-12-15

土曜講座 新・こころの相談室『他者と生きる力を育む』
著者
大屋 藍子 Aiko Ohya
出版者
心理臨床科学編集委員会
雑誌
心理臨床科学 = Doshisha Clinical Psychology : therapy and research (ISSN:21864934)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.63-66, 2019-12-15

本稿は"ACT Questions & Answers: A Practitioner's Guide to 150 Common Sticking Points in Acceptance & Commitment Therapy"(Harris, 2018)を取り上げ,特に,Harrisの作成した新しいツールであるチョイスポイント(Choice Point2.0)を紹介した。チョイスポイントは,Hooked,Away,Unhooked,Towards といったキーワードを用いながら,アクセプタンス&コミットメント・セラピーの「心理的柔軟性」モデルにおける6つのコア・プロセスをシンプルに示したものである。本ツールは,関連するワークシートやアニメーション動画が無料で活用できるよう整備されており,ユーザビリティの高いツールであることが整理された。書評
著者
梅澤 友香里 武藤 崇 Yukari Umezawa Takashi Muto
出版者
心理臨床科学編集委員会
雑誌
心理臨床科学 = Doshisha Clinical Psychology : therapy and research (ISSN:21864934)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.25-37, 2014-12-15

本稿の目的は,月経随伴症状と現在行われている対応,その問題点について概観することと,新たなアプローチとしてアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)を提案することであった。論文の構成は,(1)月経随伴症状の概要,(2)症状による影響,(3)症状への対応とその問題点,(4) ACTの提案,となっている。現在までの対応を検討した結果,薬物療法が有効であるとされている反面,薬物療法には様々な副作用があり,不安や抵抗感を感じる女性の割合も多いことから,心理学的介入を視野に入れていく必要があることが示唆された。しかし,心理学的介入に関する研究数が少ないことや,その大半が,症状の消失・軽減を目的とした介入を検討したものであり,女性のQOL の向上に直接焦点を当てた介入はほとんどないことが示された。そこで,新たなアプローチとして,たとえ症状があったとしても,自分の価値に沿った活動的な生活を送れるようにすることを主要な目的としているACT を提案した。
著者
大屋 藍子 武藤 崇 Aiko Ohya Takashi Muto オオヤ アイコ ムトウ タカシ
出版者
心理臨床科学編集委員会
雑誌
心理臨床科学 = Doshisha Clinical Psychology : therapy and research (ISSN:21864934)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.53-64, 2011-12-15

肥満に対する治療は,従来,食事療法,運動療法,行動療法や薬物療法を組み合わせて患者の意欲を維持させながら行われ,肥満者が主体的に自分自身で生活をマネジメントすることが求められる。しかし,生活習慣のセルフマネジメントには,(1)個々人の動機のばらつきの大きさ,(2)習慣の中・長期的な維持の難しさという問題が挙げられる。本稿は,行動分析学の観点から肥満をもたらす生活習慣を分析し,肥満治療に対する提案を行った。その結果,セルフマネジメントの困難な要因は,(1)ストレス発散のための過食など,肥満者にとって連鎖的に形成された摂食行動が存在するため,生活習慣改善への動機が形成されないこと,(2)肥満者の希望する体重・体調変化が即時的に得られないため,中・長期的な食事改善や運動行動が難しいことの,2点に整理された。さらに,その困難さを改善するために,アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)の観点から,摂食欲求や肥満に対するストレスを受け容れながら,生きたい価値に沿った生活習慣の再構築が必要とされ,その結果,対象者は,生きたい価値を追求することで,単なる肥満の治療ではなく,より高いQOL(生活の質)の実現を追究していくことができるということが示唆された。
著者
伊藤 雅隆 武藤 崇 Masataka Ito Takashi Muto イトウ マサタカ ムトウ タカシ
出版者
心理臨床科学編集委員会
雑誌
心理臨床科学 = Doshisha Clinical Psychology : therapy and research (ISSN:21864934)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.83-94, 2015-12-15

本稿の目的は,過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)に対しての認知・行動療法(CBT:Cognitive Behavior Therapy)について展望を行うことであった。有病率が約11%とされるIBSは機能性の消化器障害で,患者の多くがうつ病や不安症などを併発している。薬物療法で軽快しない事例などに,心理療法が適用され,その中でもCBTがその有効性を示している。IBSに対するCBTプログラムについて4種類に分類した。(a)認知療法を用いたもの,(b)ストレスマネジメントを中心にしたもの,(c)腸症状への不安を中心にしたもの,(d)マインドフルネスを用いたものに分類され,それぞれの特徴が示された。今後の課題として,併発症状やQOL改善を見据えた治療プログラムが必要であること,IBS の心理面の基礎的な研究が少ないこと,本邦での治療研究が必要であることが指摘された。研究動向
著者
中谷 結花 武藤 崇 Yuuka Nakatani Takashi Muto ナカタニ ユウカ ムトウ タカシ
出版者
心理臨床科学編集委員会
雑誌
心理臨床科学 = Doshisha Clinical Psychology : therapy and research (ISSN:21864934)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.29-42, 2016-12-15

本稿の目的は,1)青年期の過敏性腸症候群の定義,診断基準,およびその特徴,そして現在までに行われてきたその援助方法を概観すること,2)現時点までの援助方法の問題点を述べ,3)新たな心理的介入としてアクセプタンス&コミットメント・セラピーを提案することであった。現在までに青年期の過敏性腸症候群に対して,薬物療法,食事療法,心理療法などのさまざまな治療法が取り組まれている。しかし,その効果が認められているのは心理療法のみである。さらに,具体的に効果が確立された介入方法はいまだ明確になっていない。また,これまでの心理的介入は症状の除去や緩和に焦点を当てたものが大半であり,これはさらなる苦痛を生じさせることも考えられた。そこで,新たな心理的介入として,症状の除去や緩和に焦点を当てず,症状があっても意義ある人生を送れるようにすることを目的としたアクセプタンス&コミットメント・セラピーの導入を提案した。そのうえで,青年期の過敏性腸症候群に特化したモデルも提案した。研究動向
著者
大屋 藍子 武藤 崇 オオヤ アイコ ムトウ タカシ Ohya Aiko Muto Takashi
出版者
心理臨床科学編集委員会
雑誌
心理臨床科学 = Doshisha Clinical Psychology : therapy and research (ISSN:21864934)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.53-64, 2011-12-15

研究動向肥満に対する治療は,従来,食事療法,運動療法,行動療法や薬物療法を組み合わせて患者の意欲を維持させながら行われ,肥満者が主体的に自分自身で生活をマネジメントすることが求められる。しかし,生活習慣のセルフマネジメントには,(1)個々人の動機のばらつきの大きさ,(2)習慣の中・長期的な維持の難しさという問題が挙げられる。本稿は,行動分析学の観点から肥満をもたらす生活習慣を分析し,肥満治療に対する提案を行った。その結果,セルフマネジメントの困難な要因は,(1)ストレス発散のための過食など,肥満者にとって連鎖的に形成された摂食行動が存在するため,生活習慣改善への動機が形成されないこと,(2)肥満者の希望する体重・体調変化が即時的に得られないため,中・長期的な食事改善や運動行動が難しいことの,2点に整理された。さらに,その困難さを改善するために,アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)の観点から,摂食欲求や肥満に対するストレスを受け容れながら,生きたい価値に沿った生活習慣の再構築が必要とされ,その結果,対象者は,生きたい価値を追求することで,単なる肥満の治療ではなく,より高いQOL(生活の質)の実現を追究していくことができるということが示唆された。
著者
岸田 広平 武部 匡也 石川 信一 キシダ コウヘイ タケベ マサヤ イシカワ シンイチ Kishida Kohei Takebe Masaya Ishikawa Shin-ichi
出版者
心理臨床科学編集委員会
雑誌
心理臨床科学 = Doshisha Clinical Psychology : therapy and research (ISSN:21864934)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.3-16, 2016-12-15

研究動向本論文の目的は,児童青年期の怒りに対する認知行動療法に関する展望を行うことであった。まず,児童青年期の怒りに関連する代表的な診断基準として,秩序破壊的・衝動制御・素行症群や抑うつ障害群について概観したうえで,怒りに関連した診断基準に最も近いものとして,重篤気分調節症が紹介された。次に,怒りに関連する代表的な理論として,学習理論,社会的情報処理モデル,ストレス相互作用説,認知モデルに関する説明を行った。さらに,それらの理論に基づく介入技法として,社会的スキル訓練,問題解決スキル訓練,自己教示訓練,リラクセーション,認知再構成法が紹介された。続いて,児童青年期の怒りに対するメタ分析の結果と代表的な治療プロトコルの概要が紹介された。その後,児童青年期の怒りに関する自己記入式のアセスメントの展望が行われた。最後に,児童青年期の怒りの問題点として,診断基準の洗練化,アセスメントにおける構成概念の混同,怒りに関連する認知的側面に関する基礎研究とそれに基づく介入の必要性が議論された。
著者
万福 尚紀 武藤 崇 マンプク ナオキ ムトウ タカシ Mampuku Naoki Muto Takashi
出版者
心理臨床科学編集委員会
雑誌
心理臨床科学 = Doshisha Clinical Psychology : therapy and research (ISSN:21864934)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.95-106, 2015-12-15

研究動向 本稿の目的は,糖尿病の一般的な治療と糖尿病に対する心理療法について概観すること,及び近年注目されているアプローチとして,マインドフルネスをベースにした心理的介入の有用性を示すことであった。本稿の構成としては,①糖尿病に対する一般的な治療,②糖尿病に対する代表的な心理療法,③糖尿病患者に対するマインドフルネスをベースにした介入,となっている。現段階でこれらの要素をレビューした結果,一般的な糖尿病治療では,患者の治療に対するアドヒアランスの維持が困難であり,適切な自己管理がもたらされないことが示唆された。そして,糖尿病に対する心理療法の代表としては,認知・行動療法(CBT)と動機づけ面接(MI)が挙げられ,前者は適応可能な患者層の狭さが,後者は糖尿病患者へのMIの実施経験の必要性が示された。一方,マインドフルネスを取り入れた介入は,糖尿病患者に広く適応可能であり,統合的かつテイラーメイドな糖尿病治療においても有用であることが示唆された。ただし,今後の課題点として長期的な効果検討と参加者の負担の軽減が挙げられた。
著者
中野 洋平 興津 真理子 ナカノ ヨウヘイ オキツ マリコ Nakano Yohei Okitsu Mariko
出版者
心理臨床科学編集委員会
雑誌
心理臨床科学 = Doshisha Clinical Psychology : therapy and research (ISSN:21864934)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.63-68, 2014-12-15

研究動向自己分化とは,関係性の中で個を維持し,個人の中で感情過程と知的過程の調和を保つ能力を指す。近年の研究では,自己分化と心理的適応,そして対人関係との関連が示唆されている。自己分化を促進させる方法として,多世代派家族療法とRelationship Enhancement が挙げられる。これらの介入で獲得が目指されている能力は,体験の観察と気づきという点において共通していると考えられる。さらに,これらの能力は,瞑想によって高められると考えられる。瞑想とは,心的過程を意図的に制御するために注意と気づきの訓練に焦点を当てた自己制御の訓練である。今後,自己分化が瞑想に及ぼす影響,自己分化と瞑想の関連性を検討していくことが望まれる。
著者
大屋 藍子 武藤 崇 オオヤ アイコ ムトウ タカシ Ohya Aiko Muto Takashi
出版者
心理臨床科学編集委員会
雑誌
心理臨床科学 (ISSN:21864934)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.53-64, 2011-12-15

研究動向肥満に対する治療は,従来,食事療法,運動療法,行動療法や薬物療法を組み合わせて患者の意欲を維持させながら行われ,肥満者が主体的に自分自身で生活をマネジメントすることが求められる。しかし,生活習慣のセルフマネジメントには,(1)個々人の動機のばらつきの大きさ,(2)習慣の中・長期的な維持の難しさという問題が挙げられる。本稿は,行動分析学の観点から肥満をもたらす生活習慣を分析し,肥満治療に対する提案を行った。その結果,セルフマネジメントの困難な要因は,(1)ストレス発散のための過食など,肥満者にとって連鎖的に形成された摂食行動が存在するため,生活習慣改善への動機が形成されないこと,(2)肥満者の希望する体重・体調変化が即時的に得られないため,中・長期的な食事改善や運動行動が難しいことの,2点に整理された。さらに,その困難さを改善するために,アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)の観点から,摂食欲求や肥満に対するストレスを受け容れながら,生きたい価値に沿った生活習慣の再構築が必要とされ,その結果,対象者は,生きたい価値を追求することで,単なる肥満の治療ではなく,より高いQOL(生活の質)の実現を追究していくことができるということが示唆された。