著者
今井 真士
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.57-82, 2021 (Released:2021-09-10)
参考文献数
37

執政制度の形式的側面(執政府・立法府関係)は民主主義体制だけでなく権威主義体制においても重要である。しかし、これまで権威主義体制を分類するときには実態的側面(支配エリートの組織的基盤)のみが重視される傾向にあった。本稿では、体制横断的に形式的側面を捉えるためのデータセットとして「憲法の明示的規定に基づく執政府・立法府関係」(CELR)を提示する。まず、各データの趣旨として、政治制度の設計と運用に基づく政治体制、実効性の有無と執政府の二元性に基づく執政府・立法府関係の分類枠組み、権限行使の経路の違いに基づく各アクターの憲法的権限を順次説明する。次に、CELRの応用方法を主に3つ提案する。すなわち、複数の類型の統合に伴う事例群の拡大、特定の権限の追加に伴う事例群の絞り込み、CELRの憲法的権限とV-Demの慣例的権力のデータの併用に伴う権限行使の形式と実態の乖離の識別、である。最後に、CELRの対象範囲の拡張可能性を指摘して議論を締め括る。
著者
奥 健太郎
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-22, 2020 (Released:2020-03-25)
参考文献数
48

近年の日本では、日本の自民党政権では政策決定が内閣と与党に「二元化」されているのに対し、イギリスでは内閣に「一元化」されているとの見方が広く受容されている。本稿はこのような典型的なイギリス理解に修正を加えることを目的としたものである。そのために本稿が光を当てるのがイギリスの二大政党に設置された党内委員会である。本稿は第一に党内委員会が設置された歴史的経緯を検証し、第二に保守党と労働党の党内委員会の影響力に差が生じた要因を考察した。第三に保守党の農業委員会を事例として、党内委員会の影響力とその機能を明らかにした。本稿は、以上のイギリス政治の検証を通じ、イギリスの政策決定が内閣に「一元化」されていると表現することは、ミスリーディングであることを指摘した。また保守党と労働党の党内委員会の比較からは、日本の自民党政権における事前審査制の形成に、首相(党首)の持つ資源の少なさが影響していることが示唆された。
著者
久保田 徳仁
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.19-40, 2017 (Released:2020-01-29)
参考文献数
55

国連などが実施する平和維持活動(PKO)は、PKOを受け入れる紛争当事国だけでなく、要員を提供する国(要員提供国)にも影響を及ぼすことが知られてきた。近年様々な議論が行われているが、計量分析を用いて理論の一般的妥当性を検証する研究は始まったばかりである。本稿の目的はクーデタに関する先行研究とPKO要員提供国に関する先行研究を組み合わせ、計量分析を通じてPKOの要員提供がクーデタに及ぼす影響を検証することにある。理論的な分析を通じ、PKOがもたらす4つの効果である、軍への資源配分の増大、国内任務能力向上、部隊の分散、シビリアンコントロール規範の受容、を取り上げ、クーデタの発生、成否との関係を整理する。そしてPKOの要員提供の4つの効果は政治体制ごとに異なることを示す。計量分析を通じて「国連PKOへの要員提供はクーデタの『成否』に影響を及ぼすが、政治体制ごとにその効果は異なり、特に民主主義国では要員提供に伴いクーデタの成功率が下がり、非民主主義国では要員提供に伴いクーデタの成功率が高まる」ことを示す。