著者
新川 匠郎
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-22, 2016 (Released:2020-01-29)
参考文献数
59

本論はドイツの州での大連立成立パターンを問うものである。従来の経験的分析では、異なる大連立の仕組みを捉える比較の視座が欠落しがちであった。また政党の動機と制度にフォーカスした理論的分析もドイツの州の多様性から限られた特徴を引き出すのが主であった。本論は、多元的で結合的な因果を想定した大連立分析から従来の研究にあった空白へ光を当てることを試みる。そこでは、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州の事例を通じて大連立に向けた制度的条件を浮き彫りにする。それが議会少数派と権力分掌する一院制という条件である。この知見を踏まえた条件組み合わせ分析を通じて本論は、「権力を分掌する一院制下では、分極化した政党間競合を伴い議会多数派の形成に行き詰った場合に大連立が選択肢になる」という仮説を提起する。この結果は政党の動機・制度のどちらかで大連立を説明しきるのは困難と想起させるが、議会権限(veto point)の議論を洗練させる機会になると提起する。