著者
苫米地 なつ帆
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.103-114, 2012

本稿では,教育達成を規定する要因としての家族およびきょうだい構成に着目し,教育達成に格差が生じるメカニズムの一端を明らかにするため,マルチレベルモデルを用いて分析を行った.分析の結果,家族属性変数を統制した状態でも女性は男性に比べて教育達成が低くなることが明らかとなり,きょうだい内におけるジェンダー格差の存在が確かめられた.出生順位に関しては負の効果がみとめられ,きょうだい内で遅く生まれると教育達成が下がることが明らかとなった.加えて出生間隔も負の効果を持っており,きょうだいと年齢が離れている場合には,高い教育達成を得やすくなる環境や,それを獲得するための情報資源が存在しないことが考えられる.また,長男・長女であること自体は教育達成に影響を与えないが,長男の場合はきょうだい内に男性が多いと教育達成が低くなる傾向があり,長女の場合には,次三女に比べて家庭の社会経済的地位の正の効果を受けやすいことがわかった.このように,きょうだい内における教育達成は,家族属性要因と個人属性要因の交互作用の影響も受けているのである.さらに,母親が主婦である場合に子どもの教育達成が高くなることが示されたが,これは母親が大卒以上の主婦である場合に顕著であり,高学歴の母親が子どもの教育達成を高めようとしている可能性が示唆される.
著者
牛渡 亮
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.73-83, 2013

本稿の課題は,スチュアート・ホールによって1970年代に展開されたモラル・パニック論の内容を詳らかにするとともに,このモラル・パニック論と1980年代以降に展開される彼の新自由主義論との結びつきを明らかにすることにある.ホールによれば,モラル・パニックとは,戦後合意に基づく福祉国家の危機が進展するなかで人々が感じていた社会不安や恐怖感の原因を,社会体制の危機そのものではなくある逸脱的集団に転嫁し,当該集団を取り締まることで一時的な安定を得ようとする現象である.本稿では,このモラル・パニックを通じて高まった警察力の強化に対する能動的同意を背景に,それまでの合意に基づく社会からより強制に基づく社会への転換が起こり,そのことがサッチャリズム台頭の基礎となったことを示した.したがって,本稿での作業は,ホールが「新自由主義革命」と呼ぶ長期的プロジェクトの端緒を理解するための試みであると同時に,オルタナティヴの不在により今日ますます勢いを増す新自由主義を理解するための試みでもある.
著者
木村 雅史
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.33-43, 2017

<p> 本稿の目的は,アーヴィング・ゴフマンの「状況の定義」論の観点から,「いじり」と呼ばれるコミュニケーションのあり方について扱ったメディア・テクストを分析することで,テクストが提供している「いじめ」と「いじり」の区別や関連性に関するカテゴリー適用の方法を記述・考察することである.<br> ゴフマンの「状況の定義」論は,①「状況の定義」と自己呈示の関連性に着目している点,②人々の「状況の定義」活動を記述する枠組(「状況の定義」の重層性や移行関係)を提供している点において,独自のパースペクティブをもっている.本稿では,ゴフマンの「状況の定義」論の観点から,「いじめ」と「いじり」をめぐる「状況の定義」活動の記述・考察を行った.メディア・テクスト分析の結果,状況やオーディエンスの変化が,「いじめ」/「いじり」定義の維持や変化,それぞれの定義における意味世界の形成,参加者の自己呈示やその読みとられ方に影響を与えていることが明らかになった.本稿で分析したメディア・テクストは,それぞれ方法は異なるものの,「いじめ」カテゴリーと「いじり」カテゴリーの区別や関連性について,オーディエンスにカテゴリー適用の方法を提供している.</p>
著者
大堀 研
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.23-33, 2011

東京大学社会科学研究所の希望学プロジェクト釜石調査グループは,地域活性化に必要な条件の一つとして,「ローカル・アイデンティティの再構築」を掲げた.しかし,調査グループが2009年に調査成果として発刊した書籍では,ローカル・アイデンティティという用語は,地域の個性・らしさという言い換えが示されている以外に,明確な概念規定はなされていなかった.またそれが地域活性化をもたらすという論理は,釜石の事例に関しては検討すべき点が残されている.後者の論点については,筆者の考えでは,岩手県葛巻町,福井県池田町の事例でみてとることができる.葛巻町ではクリーン・エネルギーのまちという新しい要素が導入されたことにより,交流人口が増大している.池田町では,従来の「能楽の里」という自己規定に加え,農村という特性に基づき環境のまちづくりを推進したことから,NPO など各種環境団体が形成されるようになっている.これらの事例を踏まえ,本稿では「地域(社会)」を自治体と規定し,ローカル・アイデンティティは,自治体のキャッチフレーズ等に表示されるものとして捉えた.これを敷衍すれば,ローカル・アイデンティティの再構築とはキャッチフレーズの更新に象徴されるようなものとなり,自治体戦略の一環となる.ただしこの再構築は,自治体行政だけでなく,企業や住民など多様な主体が関与しうるものであり,その意味で偶有的である.
著者
吉原 直樹
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.35-47, 2014

福島第一原発が立地する大熊町では,全住民の96パーセントが「帰還困難区域」に指定され,故郷を追われている.加えて,新自由主義的な復興政策の下ですさまじい勢いで「難民化」=「棄民化」がすすんでいる.にもかかわらず,東京に拠点を置く主流メディアは真実を報道することを避け,人びとの目をフクシマからそらすことに躍起になっている.避難民は,「忘却」という暴力にさらされたうえで,「絶望の共有」(shared despair)を余儀なくされている.しかしながら決してあきらめず,自らの生存と人権をかけた復興への道を模索している.<br> 本稿では,たえず組み合わせを変えながら横に広がっていく「関係としての相互作用」を通して,剥奪された場所を回復しようとする避難民の姿を,サロンを事例にして,「創発するコミュニティ」の展開をフォローアップしながら追う.そして旧来のガバメント(統治)によるトップダウンの「統制」(control)にも,市場を介して私化された関係による「調整」(coordination)にも回収されないコミニュニティの可能性について論じる.併せて,「コミュニティ・オン・ザ・ムーブ」を契機とするコミュニティ・パラダイム・シフトの方向性について検討する.

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出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.127-127, 2008-07-17 (Released:2013-12-27)

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出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.83-83, 2009-07-19 (Released:2013-12-27)