著者
影山 穂波
出版者
椙山女学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

都市の「居住空間」とジェンダーとの関係を明らかにするために、住宅開発と地域形成過程で組み込まれたジェンダー関係に関する研究を進めた。都市は人々が日常生活を営む単なる入れ物ではなく、行為主体として活動し、社会的・経済的・文化的変化が生み出される場所である。事例のひとつとして、前年までの那覇新都心の開発の調査に続き、那覇における女性たちの地位の問題について検討した。沖縄の女性たちの生活空間を示す特徴のひとつとして保護施設に注目し、それをめぐる動向を検討した。1972年にうるま婦人寮が要保護女性のために建設された。この年は沖縄の本土復帰の年であり、当初この寮が対象とした女性の中心は買売春を行っていた人々であった。沖縄の日本返還にあたり、問題となったのが買売春の対策であった。新聞記事によると、対策を要する問題点として、業者の転廃業、売春婦の保護・更正、前借金、今後の取締などが挙げられている。うるま寮はこの視点から設置されたものである。現在この施設は、配偶者暴力などによる要保護女性が12名入居している。1972年当時81名であった定員は現在では40名となっている。さらに横須賀の女性たちと生活空間に関する調査を進めている。海軍基地のあった横須賀が1945年にアメリカに接収されると、横須賀には特殊慰安施設協会が設立された。地域の居住者たちがこうした施設の設置に対して反対運動を展開するようになるのが1950年ごろからである。1951年には風紀取締条例が制定され、52年にはPTAが中心となり横須賀子どもを守る会が結成された。「居住空間」を築く際にキーワードとなるのが女性や子どもの保護である。異なる対象でありながら、弱者と位置づけることでまとめられている。一方で、女性を二分化し、排除される対象を生み出すことで、居住者の結束を固め「居住空間」を築くという構造がみられるのである。
著者
河合 潤子
出版者
椙山女学園大学
雑誌
椙山女学園大学研究論集 : 人文科学篇・社会科学篇・自然科学篇 = Journal of Sugiyama Jogakuen University. Humanities, Social sciences, Natural sciences (ISSN:24369632)
巻号頁・発行日
no.54, pp.63-74, 2023-03-01

1日3食を食べる習慣は,鎌倉時代から始まり,江戸時代後期には定着したと言われる。しかし,1回の食事が整っているわけではなく餅2個や饅頭,粥などの軽食ですませているため,現代の3食とはかなりかけ離れている。小腹がすいたら食べるという軽食感覚であったと考えられる1)。江戸では,参勤交代による単身赴任の武士が外で飲食をする機会も増え,味噌をはじめ様々な調味料や文化が開発,発展していったとされている。 そこで,本研究では,一般的に家庭で作られていた伝統的な調味料である味噌の中でも,塩分含量が少なく甘味の強い「江戸甘味噌」に注目した。江戸甘味噌の特徴,調製方法,さらに当時作られていた料理を当時の書物から時代背景を加味して取り入れた。しかし,いろいろな方法が記されていたため,現代の家庭でも可能な方法で調整した。調整した江戸甘味噌はくせの無い香りや旨味があり,特に独特の甘みには腸内環境にも好影響をもたらすイソマルトースが含まれていた。今後,健康への取り組み,食文化の継承保持からも江戸甘味噌普及に向けた取り組みは重要と考える。
著者
今村 洋一
出版者
椙山女学園大学
雑誌
椙山女学園大学研究論集 : 人文科学篇・社会科学篇・自然科学篇 = Journal of Sugiyama Jogakuen University. Humanities, Social sciences, Natural sciences (ISSN:24369632)
巻号頁・発行日
no.54, pp.95-103, 2023-03-31

本稿は愛知県,岐阜県を対象とした拙稿[1][2]に続き,三重県を対象として,明治~昭和初期の統計から近代花街の一端を明らかにしようというものである。なお花街とは,料理屋(料亭),待合茶屋,芸妓置屋が集積する遊興空間を指す。芸妓置屋に身を置く芸妓が,取次をおこなう検番の差配により,料亭や待合茶屋に出向き,芸を披露し宴を盛り上げたわけだが,こういった宴をお座敷と呼んだ。 かつては,全国津々浦々600か所程度はあったとされる花街だが,現在は30~40程度にまで減じている。本稿の対象である三重県内に限ってみれば,花街は現在,桑名しか残っておらず,三重県内にかつてあった花街について窺い知ることは容易でない。そこで本研究では,国会図書館に所蔵されている明治~昭和初期の『三重県統計書』(三重県発行)に掲載されている花街関連統計データを整理し,近代における三重県内の花街の盛衰を明らかにすることを目的としている。
著者
阿部 純一郎
出版者
椙山女学園大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究の成果は、以下の通りである。第1に、1930-40年代の日本の観光政策に関する行政文書、観光関連団体の機関誌を収集・分析し、ヒトラー政権下のドイツの観光事業(政策・法律・組織体制など)との比較検討を通して日本の観光事業体制の特質を明らかにした。第2に、占領期日本の国境管理政策、特にインバウンド観光に関する政策展開について、GHQ/SCAP文書、運輸省の行政文書、国会議事録、新聞・雑誌などを用いて整理した。第3に、日本人の海外渡航に関するGHQ/SCAPの政策と極東委員会(FarEasternCommission:FEC)の審議内容について資料収集を行ない、日本の国際社会復帰をめぐる米国、ソ連、アジア太平洋諸国間の対立点の詳細を明らかにした。これらの成果の一部は、日本社会学会や関東社会学会などで報告した後、学会誌で発表した。
著者
中嶋 文子 赤澤 千春 BECKER CARL.B
出版者
椙山女学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

SOC(首尾一貫感覚)はストレスを乗り越える力とされ、SOCが高い人ほどストレスを乗り越える力があり、ストレスを乗り越えた経験を積み重ねることはSOCを高めるとされている。就職後間もない新人看護師は、ストレスを乗り越えてゆくことでSOCを高める機会とすることもできる。我々の先行研究では、SOCを高める介入によって、就職時のSOCが低い場合、就職3ヶ月後には一旦上昇するが、その後は低下することが明らかとなった。また、教育担当者からは、看護実践の意味を言語化することが難しい者のSOCが低い傾向が指摘された。そこで、SOC得点の低い者に特化した支援を開発するため、新人看護師へのインタビューを実施した。分析対象となった6名の就職時のSOC合計得点は、50点未満の者4名、51点以上60点未満の者1名、60点以上の者はいなかった。研究協力機関では、継続的な研修とともに6ヶ月間のローテーションを行っているが、就職後6ヶ月は本配属の直前の時期であり「部署配属への期待と不安」を語っていた。そして、「看護実践の困難感」を抱きながらも「成長の実感」や「対人関係の困難感」を感じつつ「患者中心の看護の希求」を「自己実現への意欲」としていることを語っていた。また、就職後12ヶ月までに到達可能な目標をイメージできない者は、就職時SOC得点が低い傾向にあった。就職後12ヶ月のインタビューにおいて「成長の自覚」「職場チームへの帰属感」「看護の手応え」を語った者は、就職時のSOC得点が低くても、その後徐々に上昇していた。一方で、12ヶ月のインタビューにおいて「否定的な教育体制」「成長の遅れに対する焦り」を訴え、患者への看護に目を向ける余裕のなかった者は、1年間を通してSOC得点が低下していた。新卒看護師が定期的に到達可能な目標を描き、自らの成長を自覚する支援が求められていることが明らかとなった。