著者
大丸 裕武
出版者
水利科学研究所
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.60-67, 2013

2011年8月25日にマリアナ諸島の西で発生した台風12号は,9月2日から4日にかけて,ゆっくりと日本列島付近を進み,紀伊半島を中心とする広い範囲に豪雨をもたらした。とくに奈良県南部では記録的な豪雨を観測し,上北山のアメダスでは72時間雨量が1,652mmと国内観測記録を大きく塗り替えた(図1)。レーダー解析雨量では,山地奥部の雨量はさらに大きく,場所によっては2,000mmを越えたと推定されている(大阪管区気象台,2011)。このような記録的な豪雨のため,紀伊半島や中部地方の山岳域では多数の山地災害が発生した。とくに,紀伊半島内陸部の山地では,多数の崩壊が発生するとともに,大規模なもののいくつかは十津川支流の河道をせき止めて,土砂ダムを形成した。このような豪雨による深層崩壊や土砂ダムの発生については多くの専門家の注目を集めており,今後,その実態解明が進むと期待される。しかし,今回の災害に関しては深層崩壊や土砂ダム以外の現象については報告が少なく,災害の全体像についての十分な理解が進んでいないように思われる。本論では筆者がこれまでの現地調査を通して見ることが出来た現象のうち,今回の災害の特徴を理解する上で重要と思われるものを中心に紹介し,今後の研究のための基礎資料として提示したい。
著者
神田 錬蔵
出版者
水利科学研究所
巻号頁・発行日
no.32, pp.122-133, 1963 (Released:2016-05-23)
著者
特定非営利活動法人 日本水フォーラム
出版者
水利科学研究所
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.1-17, 2009

第5回世界水フォーラムは、2009年3月16日から22日の日程でトルコ・イスタンブールのボスポラス海峡の入り江である金角湾を挟む「ストゥルジェ」と「フェスハネ」両会場において開催された。世界水フォーラムは、フランス・マルセイユに本部がある世界水会議とホスト国が主催し、3年に1度、国連の定める「世界水の日」である3月22日を含む約1週間の日程で開催される世界最大の水に関する国際会議である。第1回世界水フォーラムは1997年にモロッコ・マラケシュ、第2回世界水フォーラムは2000年にオランダ・ハーグ、第3回世界水フォーラムは2003年に京都・滋賀・大阪の琵琶湖・淀川流域、そして第4回世界水フォーラムは2006年にメキシコシティで開催された。第5回世界水フォーラムの全体テーマは、アジアとヨーロッパの架け橋に位置するイスタンブールで開催されることに掛け、「水問題解決のための架け橋」とされ、様々な水問題の解決を阻む問題(ギャップ)と、その解決策(架け橋)は何かという観点からの議論が行われた。
著者
河崎 則秋
出版者
水利科学研究所
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.123-135, 2016

田上山は,滋賀県南部に位置する田上山系と金勝山系の山々の総称であり,一丈野国有林(大津市)と金勝山国有林(栗東市)は,この田上山に属し,水系は淀川流域の上流部になる。(図1,2)田上山は,「うっそうたる大森林」であったと奈良朝時代の古文書により推定されている。しかし,690年代に藤原宮の造営に要する木材の伐出や,740年代には石山院(現在の石山寺)造営に際し木材が伐出したとされ,そういった長期乱伐の結果,桃山時代(1600年頃)には既に荒廃の一歩手前にあり,江戸期(1640年頃)に入ると燃料としての盗掘や戦禍による焼失を重ねた結果,荒廃が進行したうえに,地質が風化の進んだ花崗岩であったことから,降雨のたびに土砂流出が発生して下流の人々を苦しめてきた。荒涼とした山は,その姿から「田上のはげ」として全国に知られることとなった。慶長13年(1608年),17年(1612年),19年(1614年)に淀川流域一帯に大水害が発生し,承応2年(1653年)には,野洲川が決壊し約50町歩の田畑が荒地となった。幕府は万治3年(1660年)に,大和,伊賀,山城の国に対し「木根掘取禁止,禿山に苗木植付,土砂留の施工」を命じている。寛文の時代に入り,2年(1662年)と5年(1665年)には栗太郡も災害を受け,翌6年(1666年)には幕府が「諸国山川の掟」を発令し,草木の根を掘り取ることを停止し,川上の樹木なき所に苗木を植付,焼畑および河辺の開こんを禁止している。9年(1669年)に幕府は主要な役人に畿内の被災状況を実地検分させ,淀川の浚渫費を各大名に課している。翌10年(1670年)には瀬田川の浚渫が施工されている。このように江戸時代は治山治水対策が組織的な事業として行われたが,安永・天明年間(1772年~1788年)の飢饉等で農村が不況に陥って以降,幕府の監督体制もゆるみ,設計・施工技術の低下をはじめ,山腹工事の施工自体が衰退した。当時の主な工種は,山腹工では,鎧留(別添図1),築留(図2),石垣留(図3),石篭留(蛇篭留)(図4),井堰留(図5),掻上堤工(図6),杭柵留(図7),逆松留(図8),蒔わら工(葺わら留)(図9),筋粗朶工(図10),雑木苗植込,筋芝植込(図11),飛芝植込(図12),飛松留(図13),実蒔留など,渓間工では,鎧留,築留,石垣留(図14),砂留(図15,16),流路工などである。江戸時代最後(慶応4年)の淀川大水害に見舞われた明治政府は,淀川の船運確保対策を考え,木津川の付替工事を始めるとともに,土砂留調査に着手し,治水(船運)のためには,山林の整理に併せて砂防(治山)事業の緊急性を痛感した。なお,森林の所有については,明治2年(1869年)に官林制度が定まり,翌3年(1870年)には社寺有林の上地命令がなされており,大津国有林の母体(所有形態)が形成されたと思われる。ただし,管理は県に委託されている。明治4年(1871年)になり,政府は5畿内(山城国・大和国・河内国・和泉国・摂津国の令制5か国)および伊賀国に対し「砂防5カ条」を布達し,木津川水源土砂留工事費を当分官費をもって支払う旨を通告している。翌5年(1872年)には,施行対象地として,大戸川,草津川及び野洲川の水源禿赭地(はげ山)と記録され,工事費は全額国費で賄われた。明治29年(1896年),河川法が制定され,翌30年(1897年)には,森林法及び砂防法が制定され,国有林野事業として治山事業が開始された。
著者
松浦 茂樹
出版者
水利科学研究所
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.37-69, 2015

埼玉県は,今さら言う必要もないが海無し県である。河川を通じて行なわれるその排水は,他都県を流下したのち海に放出される。河川は,利根川(流域面積16,840km2),その派川の江戸川,荒川(2,940km2),そして中川(811km2,うち埼玉県752km2),綾瀬川(176km2,うち埼玉県136km2)である。なかでも古利根川(182km2)・元荒川(209km2)などの埼玉平野東部低地部の洪水は,中川に落ちる。中川を通じて東京都内を流下したのち東京湾に流出(放出)される。中川が埼玉平野の洪水処理にとって実に重要な役割を持っており,ここの整備は埼玉県にとって死活問題といってよい。埼玉県にとってその整備は,長年の課題であった。本論では,中川およびその支川である古利根川・元荒川の整備を中心に,近代の埼玉平野の治水整備について述べていく。
著者
和達 清夫
出版者
水利科学研究所
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, 1963-10
著者
荒川 秀俊
出版者
水利科学研究所
巻号頁・発行日
no.23, pp.180-186, 1962 (Released:2016-05-23)
著者
多田 泰之
出版者
水利科学研究所
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.11-28, 2009
被引用文献数
1

2004年は、多くの台風が日本列島を襲い各地に甚大な災害をもたらした。これは2004年6月から10月にかけて、日本列島に台風が接近しやすい太平洋高気圧の配置が続いたことが原因である。図1は、1951〜2008年の台風の発生件数と上陸件数を示したものである。2004年の台風の発生件数は例年と同じ程度の件数であるが、太平洋高気圧の縁に沿って台風が次々と日本列島に上陸し、上陸件数は観測史上最多の10件を記録している。その結果、2004年は近年で最も多い64名の死亡者が生じている。2004年の主要な土砂災害による被害を表1にまとめたが、台風の進路に位置した太平洋岸の地域で多数の被害が生じている。特に台風21号では、三重県・愛媛県を中心に大きな被害が生じた。中でも三重県多気郡宮川村(現大台町)では1時間に100mmを超える豪雨によって多くの崩壊や土石流が発生し、死者・行方不明者7名、全壊家屋14棟と甚大な被害が生じた。砂防学会をはじめ、地すべり学会・土木学会などでは災害調査団を組織し、災害の発生原因について調査・報告がなされている。これらの調査報告では、(1)災害発生位置とその被害状況、(2)降水量などの気象条件、(3)崩壊斜面の地形・地質の特徴についての見解が示され、災害の発生原因を考察している。また、近藤らは住民の避難行動について分析し、山間地域では避難経路となる本川沿いの道路が、土砂・流木等によって通行不能になることを念頭に置いた防災対策の重要性を指摘している。このように宮川村で発生した土砂災害については、災害が発生した(1)誘因、(2)素因、(3)対策についての問題点・留意点が明らかにされている。ところで、このような災害調査の多くは災害発生後に実施されるため、災害発生前や災害発生直後の状況の情報が不足する傾向にある。崩壊発生前あるいは直後の状況には、災害発生場所の特定や警戒・避難に関する有益な情報があると考えられるが、災害の発生する場所を知る術がないため、その情報は極めて少ないのが現状であるといえる。筆者らは土砂災害の実態を知るために様々な調査を実施しているが、偶然にも、宮川村で災害が発生する前に湧水などの調査を実施しており、わずかではあるが災害発生前の宮川流域の状況を知る機会を得た。本稿では、従来不足している災害発生前あるいは直後の状況には資料的な価値があるとの考えから、三重県宮川村の周辺で見られた災害前後の状況について報告する。
著者
大野 泰宏
出版者
水利科学研究所
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.140-154, 2016

2013年(平成25年)10月3日に,林野庁は「後世に伝えるべき治山~よみがえる緑~」として,全国60箇所の治山事業地を選定し発表した。東北森林管理局管内では,海岸防災林の造成地として青森県つがる市の屏風山,秋田県能代市の風の松原,山形県酒田市ほかの庄内海岸の3箇所,煙害被害の復旧地として秋田県小坂市ほかの小坂地区,台風被害の復旧地として岩手県宮古市のアイオン沢,大規模地すべりの復旧地として岩手県一関市の磐井川民有林直轄治山事業施行地,木製堰堤による復旧地として青森県五所川原市の坪毛沢の7箇所が選定されている。今回は,上記7箇所のうち,秋田県能代市の「能代の街を飛砂から守る海岸防災林造成事業(風の松原)」について,特に国有林に的を絞って紹介する。
著者
古田 良一
出版者
水利科学研究所
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
no.44, pp.41-46, 1965-08
著者
神山 敬次
出版者
水利科学研究所
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.11-25, 1996
被引用文献数
2
著者
桑原 英夫
出版者
水利科学研究所
巻号頁・発行日
no.101, pp.61-78, 1975 (Released:2011-03-05)
著者
渡辺 浩
出版者
水利科学研究所
巻号頁・発行日
no.73, pp.103-120, 1970 (Released:2016-07-05)
著者
藤田 慎一
出版者
水利科学研究所
巻号頁・発行日
no.241, pp.1-24, 1998 (Released:2011-03-05)
著者
渡邉 悟 沖 大幹 太田 猛彦
出版者
水利科学研究所
雑誌
水利科学 (ISSN:00394858)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.119-132, 2009

地球表面にある水の97.5%は塩水で、2.5%が淡水である。しかしこの大半が地下水や北極や南極に氷河・氷床として存在し、私たちが身近に使える川や湖の水は全体のわずか0.01%である。UNESCOが発表した「World Water Resources at the Beginning of the 21st Century、2003」によると、1995年(平成7年)における世界の水使用量は約3,750km3/年となっている。また、水使用量の伸びをみると、1995年(平成7年)の水使用量は1950年(昭和25年)の約2.74倍となっており、同期間における人口の伸び約2.25倍より高くなっている。特に生活用水の使用量の伸びは約6.76倍と急増していると報告されている。このような中で、様々な水に関する問題を解決するため、2009年3月には、第5回世界水フォーラムがトルコにおいて開催されたところである。我が国は世界有数の木材輸入国であることから、このような水に関する問題の一環として、木材輸入との関連について理解を深めるため、先に報告されている農産物に関する仮想水(バーチャルウォーター)(以下「バーチャルウォーター」という。)の研究事例を参考として、木材輸入に伴うバーチャルウォーターを算定したので報告する。