著者
露崎 弘毅
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.18-25, 2021 (Released:2021-04-23)
参考文献数
34

生命科学分野で取得されるデータ集合は、雑多(ヘテロ)な構造になり、ヘテロなデータ構造を扱える理論的な枠組みがもとめられている。本連載では、汎用的なヘテロバイオデータの解析手法である行列・テンソル分解を紹介していく。第1回では、第2回以降のアルゴリズムの基礎となる、1行列での行列分解について説明する。
著者
鄒 兆南 沖 真弥
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-9, 2023 (Released:2023-06-03)
参考文献数
13

真核生物の遺伝子発現は、ゲノムに対する転写因子やヒストンの結合パターンによって時空間的に精密に制御されている。この発現制御機構を理解するため、筆者らはゲノム上のタンパク結合を調べるChIP-seqデータを網羅的に解析し、転写因子の結合とヒストン修飾をゲノムワイドに閲覧できるChIP-Atlas(https://chip-atlas.org)を開発している。最近では、ATAC-seqとBisulfite-seqデータを新たに統合し、転写調節領域のエピゲノム状態をより多面的に捉えられるようになった。本稿では、ChIP-Atlasを概観した後、創薬医学、再生医学、遺伝性疾患などの研究分野における実際の応用例を中心に紹介する。このように、ChIP-Atlasのナビゲーションに従い遺伝子転写制御ランドスケープを「旅する」というイメージを膨らませることで、より多くの読者の方がChIP-Atlasを活用した研究成果を生み出し、遺伝子の発現制御機構の解明や生命科学の発展に貢献できればと思う。
著者
鎌田 真由美 河合 洋介
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.81-90, 2023 (Released:2023-11-01)
参考文献数
39

ゲノムの違いを診断や治療方針決定に活用するゲノム医療が臨床に実装され、身近なものになっている。ゲノム医療では、ゲノム解析で検出されるゲノムの違いに対し、臨床的な解釈を行うことが重要となる。この解釈にはゲノムデータベースが活用されている。一方、これまでに蓄積されているゲノムデータには民族集団の偏りがあることが指摘されており、様々な地域でゲノムデータの多様性を高めるための取り組みが進められている。本稿では、ゲノム医療の背景と解析の流れ、検出されるバリアントをどのように解釈し医療に応用していくのについて概説するとともに、日本におけるゲノム医療促進のための取り組みについて紹介する。
著者
岩切 淳一
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-10, 2022 (Released:2022-06-02)
参考文献数
61

ノンコーディングRNA (non-coding RNA: ncRNA)は、名前の通りタンパク質を「コードしていない」という特徴のみで分類される多様な転写産物の総称であり、ncRNAが生体内で担う機能は非常に多岐に渡ることが知られるようになってきた。21世紀に入って以来、様々な生物のゲノム配列が解読され、さらに次世代シークエンサーの登場によって膨大な量のRNA配列データが取得できるようになったことで、細胞の中に存在する様々なncRNAの存在が明らかとなってきた。ゲノム配列を使った新規ncRNAの探索や、シークエンサーから生み出される大量のRNA塩基配列のデータ解析、RNA配列からの高次構造予測など、RNA研究を行う上で、配列データを用いたバイオインフォマティクスは、必要不可欠な存在になっているといっても過言ではないであろう。本稿では、様々な実験手法により生み出される大量のRNA配列データの現状と、発見が相次ぐncRNAとその新たな機能について解説する。
著者
小田 真由美
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.7-14, 2021 (Released:2021-10-05)
参考文献数
32

エピジェネティクスは「細胞間遺伝するゲノム外の情報」を対象とした研究分野を指す。修飾パターンの複製分子メカニズムを持つDNAメチル化を真のエピジェネティックマークと呼ぶこともある、研究の進展とひろがりにより現在の研究範囲は基本的なDNAメチル化・ヒストン修飾にとどまらない。多細胞生物の体はゲノム情報を利用して多くの機能的な組織・器官をつくっている。単一の細胞はどの時点で異なる細胞種を生じるのか、細胞のアイデンティティとなる機能はいかに確立され維持され、どのように破綻するのか?当然ながらゲノム機能発現には転写因子などのトランス因子が大きな役割を持つが、予測された結合配列の配置のみでは結合箇所の予測が不十分であることはよく知られている。配列以外のゲノムへのアクセス状況の違いを司るエピジェネティック分子機構の可変と不変の仕組を理解するために、これまでの知識と情報のリソースに併せ、さらなる解像度を持つ解析手法を用いることによって情報の連係を見出すことが今後の課題とみている。私たちのからだが30億塩基以上の高ノイズなゲノム配列情報をうまく使って多くの細胞を生み出し、生命の営みを続けているその中で、大きな間違いをせずに発生・発達を繰り返すダイナミックな仕組みに思いを馳せていただければと思う。
著者
中杤 昌弘
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.58-75, 2021 (Released:2021-10-05)
参考文献数
69

近年の測定技術の発展は、ゲノム情報だけでなく様々なエピゲノム情報の取得を可能にした。中でもDNAメチル化は、他のエピゲノム情報の担い手と比べて安定的に遺伝子発現制御を行う仕組みである。ヒトのDNAメチル化は、疾患の有無や、これまでの生活習慣によって変動する。このことから、DNAメチル化は種々の疾患の病態解明のカギになると考えられ、さらに診断・発症リスク評価等のバイオマーカーとしての活用も期待されている。DNAメチル化アレイによって、ヒトゲノムのDNAメチル化プロファイルを比較的安価に取得できるようになり、大規模なエピゲノムデータの解析が可能になった。本稿では、エピゲノムワイド関連研究(Epigenome-wide association study, EWAS)に焦点を当て、DNAメチル化のデータ形式や、頻用される解析方法及び解析上の注意事項について概説する。また、近年提案されたアプローチや残されている課題についても概説する。
著者
奥田 修二郎
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1-6, 2021 (Released:2021-10-05)
参考文献数
34

長年の間、環境微生物の研究は培養できた微生物について実験を実施することで知見を積み上げてきた。しかし、次世代DNAシーケンサーの登場でその解析の方法論が大きく変化した。環境中のすべての微生物のDNAを網羅的に解析することができるメタゲノム解析に加えて、16S rRNA遺伝子のみを対象としたメタ16S解析も次世代DNAシーケンサーで実施することでその解析の深度が増している。このような環境微生物の研究に大規模なDNA配列のシーケンス技術が応用されてからすでに10年以上が経過している。現在では、あらゆる環境においてメタゲノム・メタ16S解析が実施され、環境中の微生物の系統に加えて、遺伝子配列そのものやその機能に至るまで詳細に解析されるようになってきた。本稿ではこれらの環境微生物解析におけるバイオインフォマティクスの役割について述べたい。
著者
細田 正恵 木下 聖子
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.87-95, 2021 (Released:2021-10-05)
参考文献数
47

遺伝子やタンパク質から遅れて糖鎖の生物学的な役割が重要視され、様々な実験データが蓄積されてきた。糖鎖とそれに関わる細胞や分子が生体内の多岐に広がっており、糖鎖を網羅的に解析するグライコミクスは、ゲノミクス、トランスクリプトミクス、プロテオミクス、メタボロミクスなどオミクス研究に並び、生命の解明に必要とされる。グライコミクスにおける糖鎖インフォマティクス研究では、糖鎖を扱う情報や解析するツール、データベースなどのリソースがここ20年で発展してきている。最近利用されている糖鎖構造の表記法やこれらの糖鎖情報を解析するために開発されてきたリソースについて紹介する。また、国際的に連携が行われているポータルサイトにより様々な糖鎖関連データベースが統合されている。これらの主なものについて紹介する。
著者
繁田 浩功
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.60-66, 2021 (Released:2021-04-23)
参考文献数
26

顕微鏡等のイメージング技術の進展により、様々な生物現象を「見る」ことが可能となった。同時に人間の手では解析できないほど膨大なデータが産出されることになり、手作業によるデータ解析が困難になるという問題点も生じた。この問題を解決するため、生物画像解析技術が広く研究されるようになった。本稿ではこのような生物画像を扱うバイオイメージインフォマティクスと呼ばれる研究分野について概説すると共に、近年の研究動向や研究事例について紹介する。
著者
齋藤 裕
出版者
特定非営利活動法人 日本バイオインフォマティクス学会
雑誌
JSBi Bioinformatics Review (ISSN:24357022)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.12-17, 2020-09-30 (Released:2020-10-05)
参考文献数
14

タンパク質、RNA、DNAは、いずれも配列構造をもつ分子であり、配列を変異させることでその機能を改変できる。生体分子の機能改良は配列空間の探索問題であり、機械学習などの情報科学的手法が威力を発揮する。抗体の結合親和性、酵素の反応活性、mRNAの翻訳効率、プロモーターDNAの転写活性など、様々な生体分子の機能改良において、機械学習の有効性が示されてきた。本稿では、機械学習による生体分子の機能改良について、筆者の研究やその他の研究事例を紹介する。