- 著者
-
赤松 友成
- 出版者
- 独立行政法人水産総合研究センター
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2002
超音波聴覚を有する魚類が近年発見され,水産資源探査用の超音波が,魚群を威嚇し,資源量の過小推定を引き起こす可能性が指摘されていた。そこで,我が国沿岸に生息する水産有用魚種の超音波聴覚を音刺激に対する魚類頭頂部への誘発電位(聴性脳幹反応)を利用して計測し,音響資源計測における魚類行動への潜在的な影響を調べた。超音波領域における聴覚の確認実験を行うため,低周波音の再生に適した現有の聴性脳幹反応計測システムに,超音波対応の小型のトランスデューサーを加え,水中で超音波の再生ができるよう改造した。また,大型魚での実験を容易にするため,電極を魚類頭部に接着し絶縁して,水中においても聴性脳幹反応の記録ができる技術を開発した。さらに,超音波領域まで良好な増幅特性を有するパワーアンプと,超音波再生用のトランスデューサーを組み合わせて,超音波暴露実験が可能なシステムを構築した。このシステムを用いて,マイワシ,カタクチイワシ,イカナゴ,マコガレイで超音波聴覚を計測した。いずれの種類も,低周波音に感度があったが,超音波は感受しなかった。このため,超音波聴覚はニシン科魚類のなかでも限定的な種に存在する可能性が示唆された。なお,マコガレイを除く上記の魚種においては,これまで聴覚感度そのものが未計測であったため,新しい知見を得た。すなわち,マイワシは海産魚のなかでは比較的高い1kHzで感度が良く,音波を鰾で感受していた。イカナゴは,数百Hzの低周波領域を聴くことができるが,聴覚感度は低いことが明らかになった。この研究の副産物として,水中における聴性脳幹反応の計測手法が確立された。この手法を応用すれば,稚魚から大型魚までの様々な魚の聴覚感度を,船上の水槽や生け簀などの現場環境で計測できると期待される。