著者
長谷川 功
出版者
独立行政法人水産総合研究センター
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、生息環境や各魚種の成長段階に応じて、在来種ヤマメと外来種ブラウントラウトの種間関係(種間競争・捕食)の様相(捕食の頻度・競争における優劣関係等々)がどのように異なるかを明らかにすることである。種間関係の様相は、生息環境や成長段階の影響を大きく受けるにも関わらず、これまで、外来種の在来種に対する影響評価を行う際、これらのことは考慮されてこなかった。本研究のように「生息環境・成長段階の影響」に注目することで、在来種-外来種の種間関係をより正確に評価できる。一連の研究成果は、世界的に問題となっている外来サケ科魚類の影響から在来サケ科魚類の保全を達成するための、基礎的かつ重要な知見となる。21年度の調査から、両種の成魚の間には餌を巡る競争が起きていること、ただし、餌環境としてヨコエビが含まれる場合は、競争が生じにくいことが示された。22年度については、生態的特性が成魚とは大きく異なる稚魚期の関係について野外調査によって検証した。その結果、両種の稚魚はともに浮上直後は河川内の流速が遅く、浅い場所を利用し、成長に伴って流速が速く、深い場所(すなわち成魚のハビタット)を利用するというパターンがみられた。ただし、両種の稚魚は時期的にずれてこのパターンをみせるために、稚魚のハビタットは重複することはなく、種間関係もあまり生じていないと考えられた。このように、生息環境にくわえて、両種間の種間関係の様相は成長段階によっても大きく異なると考えられた。
著者
野村 和晴
出版者
独立行政法人水産総合研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、ニホンウナギにおいて2世代でクローン系統作出を可能にする雌性発生条件について検討した。ウナギ精子を遺伝的に不活性化する紫外線の照射条件は400 μW cm-2 s-1 の強度で35~75秒間(1,400~2,800 erg/mm2)だった。第二極体放出阻止は、受精後3分に、水温0℃の海水に、5~15分間浸漬という低温処理で可能だった。さらに、第一卵割阻止を可能にする高圧処理条件について検討したところ、受精後40~45分に、9,000~10,000 psiの圧力条件で、4分間という条件によりゲノムを倍加した4倍体の作出が可能であった。
著者
赤松 友成
出版者
独立行政法人水産総合研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

超音波聴覚を有する魚類が近年発見され,水産資源探査用の超音波が,魚群を威嚇し,資源量の過小推定を引き起こす可能性が指摘されていた。そこで,我が国沿岸に生息する水産有用魚種の超音波聴覚を音刺激に対する魚類頭頂部への誘発電位(聴性脳幹反応)を利用して計測し,音響資源計測における魚類行動への潜在的な影響を調べた。超音波領域における聴覚の確認実験を行うため,低周波音の再生に適した現有の聴性脳幹反応計測システムに,超音波対応の小型のトランスデューサーを加え,水中で超音波の再生ができるよう改造した。また,大型魚での実験を容易にするため,電極を魚類頭部に接着し絶縁して,水中においても聴性脳幹反応の記録ができる技術を開発した。さらに,超音波領域まで良好な増幅特性を有するパワーアンプと,超音波再生用のトランスデューサーを組み合わせて,超音波暴露実験が可能なシステムを構築した。このシステムを用いて,マイワシ,カタクチイワシ,イカナゴ,マコガレイで超音波聴覚を計測した。いずれの種類も,低周波音に感度があったが,超音波は感受しなかった。このため,超音波聴覚はニシン科魚類のなかでも限定的な種に存在する可能性が示唆された。なお,マコガレイを除く上記の魚種においては,これまで聴覚感度そのものが未計測であったため,新しい知見を得た。すなわち,マイワシは海産魚のなかでは比較的高い1kHzで感度が良く,音波を鰾で感受していた。イカナゴは,数百Hzの低周波領域を聴くことができるが,聴覚感度は低いことが明らかになった。この研究の副産物として,水中における聴性脳幹反応の計測手法が確立された。この手法を応用すれば,稚魚から大型魚までの様々な魚の聴覚感度を,船上の水槽や生け簀などの現場環境で計測できると期待される。
著者
田中 庸介
出版者
独立行政法人水産総合研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

クロマグロは生活史初期にプランクトン食から魚食へと食性が転換する。本研究では,本種仔魚の魚食性への転換が,その後の成長や生き残りにとって,どのような役割をはたすのかを明らかにすることを目的に,飼育技術を活用して実験に取り組んだ。その結果,魚食性への食性転換は,クロマグロ飼育仔魚の成長や生き残りに重要な役割を果たし,餌となる餌料仔魚の給餌条件によってクロマグロ仔魚の成長・生残は大きく変化することが分かった。これらの知見はクロマグロの加入量変動の仕組みの解明や,養殖種苗の大量生産のための重要な基礎知見になると考えられた。
著者
栗原 健夫
出版者
独立行政法人水産総合研究センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

[目的]近年,貿易活動などにともなう侵入種の分布域拡大や,地球温暖化による生物分布域の高緯度地方への移動が懸念されている.しかし,その根拠となる大きな時空間規模の定量的データば,海洋底生生物では皆無に近い.そこで,沖縄〜北海道の太平洋岸の磯の貝類相について,以下の仮説を検証した:(1)1930年頃に1ヨ本に侵入してきたとされるムラサキイガイは,近年,分布域を拡大しているか? (2)ピザラガイ,イボニシなど19の優占種の分布域重心は近年北上しているか?[方法]沖縄〜北海道の21ヶ所の磯を定点とした.ここで環境庁は計4回,コドラート調査し(1978年と1984-6年との春・夏),本報告者ば計3回,同様の方法で再調査した(2005年夏と2006年春・夏).[結果]合計で約30万個体,344種の貝類を記録し,以下の解析結果を得た:(1)ムラサキイガイは70年代には九州〜東北地方の8定点に出現したが(3.6〜1048.4m^<-2>),80年代にはこのうち3定点だけに出現し(0.4〜870.2m^<-2>),2000年代にはほとんど出現しなかった(2006年春・夏の福島県において,1.3m^<-2>;他は0m^<-2>).(2)分布域重心の年変動傾向は,優占種間で有意に異なった.調査期間中に重心の北上した優占種は14種,そうでないものは5種だった.[考察]根絶策によらない侵入種分布域の極端な縮小という,報告例の乏しい現象を,本研究は明らかにした.この結果は,あいまいなデータにもとつく「侵入種の分布域拡大」という喧伝に見直しをせまる.また,本研究は,近年,多くの貝類優占種が北進していることを明らかにした.これは地球温暖化の影響を受けたものかもしれない.ただし,種それぞれが違う傾向を示したことに注意する必要がある.
著者
紫加田 知幸
出版者
独立行政法人水産総合研究センター
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

有害赤潮鞭毛藻類シャットネラ・アンティカの日周鉛直移動リズムに及ぼす光環境の影響を調べた。その結果,暗期における微弱なUV-A~青色光(>0.01umol m^<-2>s^<-1>,360~480 nm)の照射により,その後の日周鉛直移動リズムが変化することが判明した。さらに,暗期に回収したシャットネラ細胞について,全mRNAシーケンスを実施したところ,クリプトクロームやオーレオクロームといった青色光受容体の類似配列が検出された。今後,これらの光受容体と日周鉛直移動リズムの光位相変化の関係を解析していく予定である。
著者
片野 修
出版者
独立行政法人水産総合研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

河川群集において,魚類は藻食性の水生無脊椎動物を捕食することによって,栄養カスケードを介して底生藻類を増加させる。この栄養カスケードの強さに影響する要因を実験的に解析した。栄養カスケードの強さは環境の異質性や撹乱によっては影響されなかった。しかし,水面に飛来する成虫と底部の餌の両方を摂食する昼行性の魚種は強い栄養カスケード効果をもたらした。これらの結果は河川で主に藻類を摂食するアユ資源の増大に資するほか,藻類の制御に役立つと期待される。
著者
安田 仁奈
出版者
独立行政法人水産総合研究センター
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

サンゴ礁劣化速度も世界で最も速いCoral triangleを中心とする複数海域において、海洋保護区設定の基盤となるreef-connectivityを明らかにするべく、サンゴ礁における代表的な無脊椎動物(ヒトデ・サンゴ・ナマコ)に関して集団遺伝構造及び系統地理を明らかにした。造礁サンゴの捕食者であるオニヒトデに関してマイクロサテライトを用いた解析を行ったところ、インドネシアのジャカルタ北ではインド洋・太平洋側の遺伝子が同所的に存在しているが、それより東側の海域ではインド洋側の遺伝子の流入は見られなかった。またスラウェシ島北部周辺海域は遺伝子流動が強く、2次的大量発生に留意する必要があることが分かった。アオサンゴに関しては、高水温低流速のサンゴ礁内に発達する葉状のものと比較的低水温高流速のサンゴ礁外部に発達する棒状のアオサンゴの間では遺伝子流動がほとんどなく、種分化過程にあり、それぞれのアオサンゴを別々に保全する必要があることが分かった。コブヒトデとマンジュウヒトデに関してミトコンドリアのCO1領域を用いて系統地理解析及び集団解析を行ったところ、両方の種ともにCoral triangleから日本の南西諸島、パラオにかけて非常に強い遺伝子流動が検出された。マンジュウヒトデは、オニヒトデと同様にジャカルタ北部においてインド洋側及び太平洋側の遺伝子の両方が検出されたが、それより東側では、インド洋側の遺伝子型はスラウェシ島の南で1個体みつかったのみであり、ジャワ海において西から東に向かう遺伝子流動が極めて限られていることが分かった。一方コブヒトデでは、広域的には非常に遺伝的に均一性が高いにもかかわらず、局所的に数10キロしか離れていない地点で遺伝的に極端に異なる海域(西パプアのセンダラワシ湾・フロレス海域など)が見られ、これらの海域は他の海域と遺伝子流動が限られているため、別途保全していく必要がある。ナマコ種のミトコンドリア解析の結果、ニセクロナマコなど広域分散種4種で黒潮海域における強い遺伝子流動が検出され、上流域の保全の重要性が明らかとなった。
著者
一井 太郎 張 成年 望岡 典隆 酒井 光夫 吉村 拓 山田 陽巳 本多 仁
出版者
独立行政法人水産総合研究センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

胃内容物の検討にはそのホスト生物の種判別も重要であることからDNAを用いた重要水産動物稚仔の種同定についても継続した。イカ類の種判別に基づいた研究成果を利用し、系群及びイカ類の資源変動やイカ類を利用する魚類資源の動態についての研究を行った。また、まぐろ類については新規核遺伝子マーカーを用いた系統類縁関係についても検討した.イカ類幼生、ウナギ類幼生及びイセエビ類幼生について胃内容物ゲノム解析を継続するとともに、結果の取り纏めを行った。イカ類(アカイカ)とウナギ類(ウナギ、ハモ、アナゴ)については真菌類と微細真核生物に一致するDNAが多く検出されるとともに、ホスト自体の変異型も多く検出されたが、餌生物由来と考えられるDNA分子は検出できなかった。イセエビ科(Palinuridae)、セミエビ科(Scyllaridae)幼生からも同様な生物群とホスト変異型が検出されたが、尾索動物や刺胞動物といったゼラチナスプランクトンのDNAが共通して検出され、これらが餌生物として利用されていることが示された。イセエビ(Panulius japonicus)の近縁種であるカノコイセエビ(Panulirus longipes bispinosus)と大西洋の種(Panulirus echinatus)は秋季に採集された標本であり、これらのゼラチナスプランクトンが検出されたが、春季に採集されたイセエビからはこれらの生物が検出されず、硬骨魚類のDNAが検出された。この違いが季節や海域、あるいは種によるものかどうかは今後の検討課題である。
著者
箱山 洋
出版者
独立行政法人水産総合研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

無性型・有性型からなるフナ類の集団は同所的に共存している。この共存のメカニズムを理解することを目的とした。(1)野外個体群動態から、共存を可能にする3つの仮説(病気、中立、メタ個体群)を棄却した。(2)実験個体群で、有性生殖のオスを作るコストの個体群への影響を初めて実証した。(3)発育段階ごとに、有性・無性型の成長率の違いを明らかにした。結論として、共存メカニズムは出生率の差に関する何らかの要因によることが示唆された。