著者
松脇 由典
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.282-286, 2014-07-25 (Released:2018-02-13)
参考文献数
23

アレルギー性鼻炎を有する患者の54~67%が嗅覚低下(嗅覚脱失,嗅覚低下)を自覚し,21~45%で嗅覚検査の有意な閾値上昇を認める.嗅覚障害の原因疾患別には鼻副鼻腔炎,感冒罹患後,頭部顔面外傷後の次に頻度が多い.アレルギー性鼻炎の嗅覚障害は,鼻粘膜の肥厚や鼻汁過多に伴う鼻閉によるいわゆる呼吸性嗅覚障害がメインで,既存のガイドラインでの治療法の選択は,少なくとも中等症以上の鼻閉型または鼻閉を主とする完全型が適応となる.比較的予後良好とされ,適切な治療により改善しうる病態と考えられている.
著者
中野 詩織 綾部 早穂
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.380-389, 2013-11-25 (Released:2017-10-11)
参考文献数
22

本論文では,においの質を言語化する際に生じる問題点について概観し,形容詞を用いてにおいの印象評価を試みた先行研究の知見を踏まえた上で,オノマトペの感覚形容語としての利用性を検討した研究内容について報告した.オノマトペを用いてにおいの質を評価したところ,先行研究と同様に「角がある-丸みがある」という図形的次元と,「ポジティブ-ネガティブ」という情動的次元が抽出された.においの知覚経験とオノマトペの連合学習は成立する可能性が見られたが,その学習内容は未学習のにおいに対しても般化される傾向は示されず,学習直後は逆に干渉を受ける可能性も示された.また,二者での会話によるにおいの情報伝達を行う場合には,送り手から発話された情報を基に,受け手が知覚経験を合わせていくような,役割分担型のコミュニケーション方略が有効であることも示された.
著者
岩下 剛
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.413-419, 2011-11-25 (Released:2016-04-01)
参考文献数
6
被引用文献数
1

自動車の走行状態および停車状態で車室内のオゾン,粉塵,超微粒子の濃度を,全外気導入モード,再循環換気モードの 2つの条件で測定した.登坂中のトラックの後方を走行中,車室内粉塵濃度は大きく上昇した.全外気運転中のオゾン濃度I/O比は再循環運転中のI/O比よりも高かった.乗員4名の状態で,車室内CO2濃度を計測したところ,全外気運転では CO2濃度は 600〜800ppmであった.その後,再循環運転を開始すると,CO2濃度は15分で3800ppmに達した.室内空気質の悪化が運転パフォーマンスへ及ぼす影響を検討する必要がある.
著者
坂井 信之
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.321-321, 2011

最近,香りの心理効果が注目されている.一つの側面は心理効果の学術的な観点である.香りの効能に関する逸話的な報告はかなり多く,その特異的な側面が強調されてきた.例えば,良い例が嗅覚の記憶にみられる「プルースト効果」と呼ばれるものである.マルセル・プルーストによる『失われた時を求めて』の中に,紅茶に浸したマドレーヌを食べていると,ふと幼い頃の記憶が鮮明によみがえってきたという内容の記述があることから名付けられた.この現象にみられるように,香りから想起されるエピソード記憶のビビット感や時間的距離感の近さなどの特徴は嗅覚に特異的であるとされている.しかしながら,この件に関する学術的な研究は,長い間少数のグループが比較的古い手法で確かめる程度に留まっていた.さらに,嗅覚に関する個人差やあいまいさ(記憶の不確かさ)は顕著であることも加わり,嗅覚の心理効果に関する学術研究は,視覚や聴覚に比べて長い間放置された感があった.<BR>しかし, 2004年にリンダ・バックとリチャード・アクセルが,嗅覚レセプターの遺伝子解析の研究でノーベル賞を授与される前後から,嗅覚に関する学術的知見が飛躍的に蓄積されるようになってきた.ほぼ同時に,ヒトの脳を非侵襲的に計測する技術が進歩し,ヒト独自の嗅覚の情報処理機構についても,学術研究が行われるようになってきた.ここで触れたいくつかのトピックスについては,すでに本学会誌でも特集号の論文として紹介されているので,今回の特集では,嗅覚と視覚とのイメージの統合に関する現象論についてまとめていただいた.<BR>綾部氏は香りと形のイメージの一致,三浦氏と齋藤氏は香りと色の調和について,それぞれご自身の研究を中心にまとめていただいた.いずれの論文も非常に読み応えのある最新知見を紹介されており,これらの論文を読むことにより,ヒトは香りからどのようなイメージを思い浮かべるのかということについて理解が深まり,これからの香りの応用のシーズ (種)となる知見である.<BR>もう一つの観点は,嗅覚の心理効果をビジネスとして展開するというものである.これまでもアロマテラピーや消臭というビジネスがあった.しかしながら,最近注目されている香りのビジネスとは,香りの心理効果を積極的に応用するというものである.阿部氏と高野氏による論文は,香りや化粧がヒトの感情に及ぼす効果について概説したものである.一ノ瀬氏の論文は,シャンプーや男性用デオドラント製品,衣料用柔軟剤などの香りの実例を豊富に挙げながら,香りがヒトの感覚や感性にどのように作用するのかということについてまとめたものである.國枝氏の論文は,香りを積極的に使うことによって,行動障害の子どもや,認知症の高齢者などの症状の改善ができることをご自身の研究に基づいて,まとめていただいたものである.これらの論文は,いずれもすでにビジネス展開されているか,これからビジネス展開されていくものであり,香りビジネスに直結する,いや,これからの日本の香り社会を予想すると言ってもよいほどの基盤技術といえる.<BR>読者の皆様におかれては,今回の特集の学術的なシーズから新しい技術のヒントを得ていただいたり,実際の香りビジネスの実例に触れることで,これからの日本の香り社会のニーズに思いを巡らせていただきたい.これは本特集に執筆していただいた方々の共通の思いである.
著者
中村 典子 城市 篤 寺嶋 有史 田中 良和
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 = Journal of Japan Association on Odor Environment (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.150-156, 2010-05-25
被引用文献数
1

バラにはdelphinidinという多くの青い花に含まれる色素を合成する能力がなかったため青い品種がなかった.パンジーから得たdelphinidinを合成するために必要な遺伝子をバラで発現させると,delphinidinの含有率が95〜100%になり,花色が青く変化したバラを得ることができた.その中から選抜した系統について生物多様性影響評価をおこない,カルタヘナ法に基づく生産・販売の認可を取得した.アプローズ(花言葉「夢かなう」)として販売中である.アプローズは,香りがよく,その主成分はgeraniolであり,従来のバラの中では交雑で作出された紫色のバラの香りに近い.
著者
今西 二郎
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.221-230, 2008-07-25 (Released:2010-10-13)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

香りの効果を積極的に利用して,病気の予防・治療や症状の軽減を図ろうとするのが,メディカル・アロマセラピーである.すなわち,メディカル・アロマセラピーは,エッセンシャルオイルを用いて,疾患の治療や症状の緩和を図る治療法の一つである.エッセンシャルオイルは蒸気蒸留法や圧搾法などで抽出し,多くの成分を含んでいる.エッセンシャルオイルには,抗菌作用,抗ウイルス作用,抗炎症作用,鎮痛作用,抗不安作用,抗うつ作用,リラクセーション誘導作用などさまざまな薬理作用があるので,メディカル・アロマセラピーは産婦人科疾患,皮膚疾患,上気道感染症,心身症,疼痛管理,ストレス管理などにおいて,有用である.アロマセラピーの方法としては,吸入,内服,アロマバス,マッサージ塗布などがある.このうち,アロママッサージは,もっとも効果が高い.アロママッサージにより,効率よくレラクセーションを誘導することができる.しかし,メディカル・アロマセラピーは,あくまでも補完的であり,他の療法と組み合わせることで,理想的な医療の実現に貢献できる.
著者
樺島 文恵
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.107-115, 2020-03-25 (Released:2021-11-14)

私達の身の回りには40万種の化学物質からなる「におい」が存在しており,人の敏感な嗅覚は極微量であってもにおいの元となる成分を感知することが可能である.またにおい物質は,単独で嗅いだ場合と複合で嗅いだ場合では相互作用や相殺作用により,その質や強度が大きく変化するため,においの質の評価は機器分析では容易ではなく官能評価による判定が主流となっている.筆者らは,におい分析における包括的かつ詳細な機器分析手法として高感度フルスペクトル取得が可能なGC-TOFMSを用いた生活に関わるさまざまなにおいの網羅的解析手法について検討を行った.
著者
森 一郎 矢吹 雅之 石田 浩彦 柏木 光義
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.222-229, 2016-05-25 (Released:2020-09-01)
参考文献数
16

ヒト尿の腐敗に伴い生成する臭気成分の一つとしてフェノール化合物があるが,これらは排尿直後の尿中においては大部分がグルクロン酸もしくは硫酸が結合した無臭の抱合体として存在することが知られている.今回,腐敗尿中の抱合体をLC-MS/MSにより分析したところ,グルクロン酸抱合体のみが分解していることが確認された.これよりグルクロン酸抱合体の分解抑制により尿臭気の生成を抑制できるものと考え,抱合体分解酵素(β-グルクロニダーゼ)の阻害剤を探索した.香料化合物約200種よりスクリーニングを実施した結果,8-シクロヘキサデセン-1-オンをはじめとする大環状化合物が優れた阻害効果を有し,フェノール化合物等の尿臭気の生成抑制に有効であることを見出した.
著者
角田 正健
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.250-260, 2005 (Released:2005-11-25)
参考文献数
7
被引用文献数
2 1

口臭とは原因が何であろうと,呼気の不快なにおいを意味する.特に,口腔内に起因する悪臭が口臭と言われる.口臭は長い間悩みの種であった.口臭の最も多くの原因が,プラークが関与する歯肉炎と歯周炎であるにもかかわらず,つい最近まで,口臭が歯周病学であまり問題視されなかったことは,驚くべきことである. 口臭の大部分の原因は口腔に関連するものであり,歯肉炎,歯周炎および舌苔が圧倒的な要因であることを,多くの研究結果が示している.口腔内の嫌気性細菌が,L-システインあるいはメチオニンなどの含硫アミノ酸などのタンパク質分解により,硫化水素とメチルメルカプタンを産生する.ガスクロマトグラフによる分析結果から,硫化水素,メチルメルカプタンおよびジメチルスルフィドの揮発性硫黄化合物が明らかになっている.
著者
渡辺 えり代
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.125-132, 2013-03-25 (Released:2017-10-11)
参考文献数
5

香研究会IRIは,香道の世界で伝えられる香十徳の中の香の効能,すなわち,感覚を研ぎ澄まし,心身を清浄にして,汚れや穢れを取り除き,孤独感を癒し,多忙時に心を和ますという働きを現代生活に活かすために,新しいスタイルの香道としての聞香体験,平安時代の貴族に愛された練香や古代エジプトの薫香キフィの創作を通して,心身のウエルネスに役立てる活動を行っている.
著者
松井 健二 杉本 貢一
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 = Journal of Japan Association on Odor Environment (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.166-176, 2009-05-25
参考文献数
30

みどりの香り(GLV)は炭素数6のアルデヒド,アルコール,アセテート類の総称である.GLVは陸上植物にほぼ普遍的に見いだされ,様々な食品の重要なフレーバー成分となっている.また,GLVがヒトに抗ストレス効果を誘導することが報告され,注目されている.最近の研究で,植物は自らの生息する生態系をモニターし,制御するためにGLVを利用していることが明らかになってきた.C6アルデヒドはその高い反応性により外敵に対する直接防衛に寄与している.また,三者系では害虫の天敵を呼びつけて害虫駆除に利用している.また,植物自身もGLVを感知する能力を得,周りの状況を把握することで生態系の変化に敏感に対応しているらしい.
著者
佐々木 静郎
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.177-178, 2014

<p>平成8年に「臭気判定士」が国家資格として新設されて今年で18年(前身の環境省認可資格「臭気判定技士」からは21年)が経過する.また,当該協会誌が臭気判定士の特集(Vol. 29 No. 2 1998.3)を組んでからも16年が経過する.この決して短くはない年月の推移とともに,環境保全に対する社会的要求は多種多様化が進み,その求められる質はますます高くなる傾向にある.はたして,それは「におい・かおり環境」に対しても当てはまるのであろうか.そこで,このような背景をふまえて,産・官・学の多岐に渡る分野において,臭気判定士として活躍されている方々から,臭気判定士の資格を取得した動機,これまでの業務,現在取り組んでいる業務,今後臭気判定士にどのようなことが求められているのかなどについてご執筆いただいた.以降,順次,取り組んでいる対象分野ごとに紹介させていただく.</p><p>まずは,松戸氏(環境省水・大気環境局大気生活環境室)から,臭気対策行政の立場から臭気判定士の位置付けについて概説し,濃度規制と臭気指数規制の両輪での活躍が期待されると述べられている.</p><p>次に,主に臭気環境全般を対象とされている分野からは,井上氏(一般社団法人埼玉県環境検査研究協会)はこれまでの現場調査の経験に基づいて,嗅覚測定法における精度管理と安全管理が重要であることを,大久保氏(新潟県農業総合研究所畜産研究センター)は臭気判定士の資格の取得が畜産経営における臭気問題への対応に大きく役立てることができたことを,槻氏(エヌエス環境株式会社)は臭気判定士の資質として,臭気調査の時期,場所,方法を的確に効率よく選定できることを挙げ,そのためには経験を積み,研鑽を重ねることが重要であることを,清水氏(株式会社環境管理センター)は臭気判定士の基本業務である嗅覚測定法による臭気評価に際して,その精度を担保するためには,パネルの管理が一番重要であるということを,祐川氏(祐川環境カンファレンス株式会社)はその豊富な現地測定の経験から,臭気判定士は臭気指数の値だけではなく,その現地の環境条件を詳細に把握した上で依頼者に説明することが望ましく,その後の管理にも有効であることを,則行氏(中外テクノス株式会社)は臭気判定士は嗅覚測定試験に用いる機材,およびパネルの管理が最も重要な仕事であり,さらに常ににおいへの関心を持ち続けることが重要であることを,諸井氏(公益財団法人におい・かおり環境協会)は臭気判定士は現場でどう感じたかを正確に認識し,情報収集することが大事であり,結果として一般の人に臭気を分かりやすく伝えるようにすることが必要であることを,それぞれ記述されている.</p><p>臭気を測定する分野からは,川村氏(光明理化学工業株式会社)はガス検知管メーカーという業種では臭気判定士の仕事は,悪臭防止法に基づく臭気判定よりもむしろ製品開発・品質管理の面からの必要性が増大していることを,木下氏(株式会社島津製作所)はにおい識別装置の開発にあたり,官能検査データの取得・評価を行う際に,臭気判定士の資格を得るために学習した内容が非常に役に立ったことを,小垂氏(近江オドエアーサービス株式会社)は川村氏らと同様に自社の製品開発の際に,臭気判定士の資格を取得することによって原料選定から販売までの一連の工程を自分で実施することができたことを,瀬戸口氏(フィガロ技研株式会社)はガスセンサの直接的な利用分野を越えて,広く異業種・他業種とのつながりを広げることに臭気判定士の資格が有効であることを,吉栄氏(新コスモス電機株式会社)は臭気判定士の資格がお客さまとの話題のきっかけや営業に有効な役割を果たしていて,いろいろな業種との交流拡大に活用できていることを,それぞれ述べられている.</p><p>プラント設備関連分野からは,石塚氏(東京都下水道サービス株式会社)は下水道の業務経験をふまえて,臭気測定では,目的の把握と目的に沿った調査・分析の重要性を,佐藤氏(水ing株式会社)は過去の脱臭設備設置での苦労体験が資格取得の動機となったことを,中野氏(新明和工業株式会社)はビルピット設備の開発に際して,必要となった臭気判定士の資格取得が幅広い世界の方々との繋がりができたことを,それぞれ語られている.</p><p>製品評価の分野からは,池田氏(株式会社コープトレード・ジャパン)は,組合員からの異臭の申し出に対して的確に対応できなかった経験が臭気判定士の資格取得の動機になったことを,小澤氏(エステー株式会社)は臭気判定士のスキルが消臭製品開発における性能評価(官能評価)に役に立っていることを,北爪氏(小林製薬株式会社)は,香り製品の香料開発の経験から,香気判定という香り評価概念の提案により臭気判定士の新たな方向性を,野口氏(株式会社ハウス食品分析テクノサービス)は,食品に関連するにおいに対しては,健康にも直結することから機器と嗅覚を併用することにより,より分かりやすい言葉でのお客様への説明が重要であることを,それぞれ述べられている.</p><p>建築物・建築空間に関する分野からは,勘坂氏(株式会社大林組)は,室内空間に発生したにおいの原因特定及び除去対策は難しく,また個人の感じ方の差が大きいことを,木村氏(株式会社長谷工コーポレーション)は,住宅内のにおいの測定や消脱臭に多く携わっていることから,協会などのリードによる情報の共有化の必要性を,洞田氏(大成建設株式会社)は,体験した事例をもとに機器測定と嗅覚測定の両方の機能を持つ手法の有用性と,建築計画の段階におけるにおいへの対策が効果的であることを,前田氏(新菱冷熱工業株式会社)は,タバコ臭対策業務に取り組むにあたり臭気判定士の資格取得により社内での評価を得ることができたことを,それぞれ披露されている.</p><p>人への健康や精神衛生といった分野からは,池内氏(池内龍太郎労働衛生コンサルタント事務所)は,感覚の領域である臭気は医学の関与する部分が多いことから,産業医には臭気に一定の知識と経験が求められることを,磯貝氏(有限会社プラジュナ)は,アロマテラピーのセラピストとしての活動に,臭気判定士資格取得時に学んだことや実務経験が大きく生かされていることを,それぞれ強調されている.</p><p>将来性(進路)といった切り口からは,小関氏,可児氏(大同大学)は,大学に学ぶ段階で臭気判定士資格取得をめざした動機や理由,またこれからの目標などについて熱く語られている.</p><p>今回の特集号のまとめという大役を仰せつかった筆者自身は,実は臭気判定士の資格を取得してからわずかまだ2年余りという,はなはだ力量不足・経験不足の新人である.私自身も臭気判定士の一人として,今後の業務に誇りを持って真摯に取り組んでゆくとともに,臭気判定士の存在が社会においてますます重要視されるようになるために精進・努力していきたいと考えている.</p><p>最後に,本特集の企画にあたりお忙しいところ快くご執筆をお引き受けいただいた著者(臭気判定士)の方々に,あらためて心から感謝申し上げます.</p>
著者
岩橋 尊嗣
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.101, 2011

花き類の魅力と言えば,やはり鮮やかさを眼で見,香りを鼻で嗅いで楽しみ,癒され,そして元気付けられることであろうか.私事で恐縮であるが,先日(2月27日)「世界らん展日本大賞2011」の最終日,東京ドームへ足を運んだ.最終日とあってかなりの混雑ぶりであった.ドーム内は人混みのせいもあり汗ばむ感じであったが,蘭は見た目の華やかさとは違い,花の香りはどちらかというと控え目である.展示の中で興味をそそられたのが"フレグランス審査部門"であった.洋蘭,東洋蘭,日本の蘭などさまざまな香りを放つ蘭が一堂に会し,見事に咲き誇っていた.しかし,香りとなると花に顔を近づけて初めてはっきりと認識できる程度であり,あくまでも控え目であった.<BR>香りの強い花の代表の一つとしてユリ(百合)が挙げられる.本特集の一番目は,ユリの中の代表ともいえる「カサブランカ」について,大久保氏((独)農業・食品産業技術総合機構 花き研究所)に"ユリ「カサブランカ」の強い香りの抑制"という題目で執筆していただいた.通常,花き類の場合,バラなどに代表されるようにいかにして香りを強くするかという研究は盛んに行われている.しかし,カサブランカの場合は全く逆で,香りが強すぎるため室内に飾るには抵抗を持つ人も多い.本内容は香りを抑制するための研究成果についての情報で,切り花のつぼみ状態のときにフェニルアラニンアンモニアリアーゼを含有する水に生けると,開花した時に大幅に香りが抑制される事を見出し,現在実用に向けたさらなる研究が進められている.<BR>次は,石坂氏(埼玉県農林総合研究センター園芸研究所)に"種間交雑による芳香シクラメンの開発"という題目で執筆していただいた.シクラメンは,歌謡曲の題目に取りあげられたり,12月にはクリスマスの時期に合わせて花屋の店頭に数多くの鉢植えが並び,日本人にとって非常に馴染みの深い花になっている.しかし,あれだけの数が店先に並べられていても,シクラメンの香りをイメージ出来る人はそう多くはないと思う.園芸品種のシクラメンは,華やかさに優れているが香りは弱く,ウッディー・パウダー調であり好ましいとは言い難い.これに対し,野生種には花としての価値は低いがフローラル系の強い香りを持つ種が存在するらしい.著者の所属する研究所ではこれらの品種の掛け合わせを長年にわたり研究し続け芳香シクラメンの育成に成功した.本文からは新品種を作り出す時の並々ならぬ努力の積み重ねの結果である事がうかがえる.<BR>次は,津田氏(中部電力株式会社),大西氏(日本メナード化粧品株式会社)らに"甘い香りのキク「アロマム」の開発について"という題目での執筆である.キクから抱くイメージはと問われると,殆どの人は仏事(お葬式)と答えるだろう.一方,秋には菊人形や社寺境内などで大輪を咲かせる菊展覧会などのイメージも付きまとう.しかし,キクの香りとなるとしばし考え込む.著者らは「誰も見たこともないキクを作る」という大目標をかかげ,栽培種と野生種を交配するという研究に着手し,平成22年にいままでには存在しないフローラルでフルーテイ感のあるフレッシュな香りを放つキクの新種の開発に成功している.<BR>最終の4編目は,野口氏に((独)農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所野菜育種研究チーム)"野生種から新しい香りを導入したイチゴ種間雑種品種「桃薫」"という題目で執筆していただいた.前3編は花き類に関する情報であったが,ここでは日本人に最も好まれている果物の代表であるいちごの香りについての記述である.「とよのか」,「とちおとめ」などの名前を聞いて多くの人はイチゴを思い浮かべる.ここでは,市場に無い新しい切り口となるいちごを作り出すという目標に向かい種々研究されたことが述べられている.本文中の表−7に記載されているいちごの品種間の香気成分の相違は非常に興味深い.<BR>以上,特集を掲載するにあたり,僅かばかりの紹介文を書かせていただいた.今後も花き類,果物類の分野では飽くなき香り・味への挑戦が繰り広げられるであろう.本誌でも新しい情報が得られれば遂次紹介していきたい.最後になったが,本特集を掲載するにあたって,執筆依頼をさせていただいた先生方に深く感謝申し上げる次第である.
著者
三井 正昭
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.116-124, 2013

<p>人は嗅覚により香りを識別し,生活を豊かにします.五官(目,耳,鼻,舌,身)でものを捉えます.目でものを見,耳で音を聞き,舌で味わい,手で触り・形・硬軟・熱を感じます.そして鼻でにおいを知ります.しかし,五官の中で最も進化していないのが嗅覚であるといわれています.</p><p>見ることが出来ない,触ることも出来ないにおい.人の感性によりのみ存在する香りの世界,これは無限のものです.</p><p>この香りを文化に,芸道として完成させたのが,世界に誇れる日本固有の文化「香道」です.</p><p>香りは,西洋には香水として伝えられ,東洋に伝わった香木はわが国に於いて,どのように使われ,珍重されてきたのかその歴史を,更に,四季を楽しみ,幻想の世界を文学にあらわした和歌にあわせ,考案創造された香道の概観について,紹介します.</p><p>先人が遺した香道には,精神的にも物質的にもにおいに関した意味深い教養がかくされています.香道を正しく理解し,伝統文化として伝え,普及させていく活動の原点は,香道を知り,体験し,関心をもつことにはじまります.</p>
著者
渡辺 えり代
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.125-132, 2013

<p>香研究会IRIは,香道の世界で伝えられる香十徳の中の香の効能,すなわち,感覚を研ぎ澄まし,心身を清浄にして,汚れや穢れを取り除き,孤独感を癒し,多忙時に心を和ますという働きを現代生活に活かすために,新しいスタイルの香道としての聞香体験,平安時代の貴族に愛された練香や古代エジプトの薫香キフィの創作を通して,心身のウエルネスに役立てる活動を行っている.</p>
著者
南戸 秀仁
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.154-163, 2006 (Released:2006-11-16)
参考文献数
32
被引用文献数
1

21世紀は,「かおり」の時代だという.「におい」や「かおり」の文化は,人類文明とともに築き上げられ,食物に香味と心に豊かさを与えてきたが,「におい」や「かおり」はいつも我々の身の回りに存在して,常に我々の生活と深くかかわっているにもかかわらず,空気と同様に,忘れられがちな存在で,しかもわからない面が多い.このような「におい」や「かおり」を,人間や犬に代わって検知をする「におい」センサーシステム,すなわちエレクトロニックノーズ(e-Nose)の研究開発が活発化してきている.本稿では,このエレクトロニックノーズシステムの開発現状について概観するとともに,そのコア技術であるケモセンサーの原理・特徴およびセンサーシステムの応用分野について言及する.