3 0 0 0 OA 龍涎香の香り

著者
駒木 亮一
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.141-148, 2013-03-25 (Released:2017-10-11)
参考文献数
6

アンバーグリス(龍涎香)は,フランス語の「灰色のアンバー」という言葉に由来する.昔から薬として香水の素材として利用されてきた.その由来は,近年になるまで不明であった.20世紀初頭に烏賊の嘴が含まれていたことが分かり,マッコウクジラPhyseter macrocephalusの体内に生じた病的なものであるらしいことが知られた.このアンバーグリスを分析すると,アンブレインとエピコプロステノールの成分が含有されていた.香水原料としは,エチルアルコールに溶解させ少なくとも6ヶ月以上熟成させ使用する.このアルコールチンキにはテトララブダンオキサイドやアンブレインという香気成分が生成している.
著者
山本 隆
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.200-205, 2007 (Released:2008-03-22)
参考文献数
17

おいしさが高じて特定の食べ物に対する嗜好性がとりわけ強くなった状態をやみつきという.代表的な脳内物質の面からみれば,おいしいと思うときβ-エンドルフィンが,もっと欲しいと思うときにはドーパミンが,そして実際に食べるときにはオレキシンが放出される.このとき,ドーパミンは脳内報酬系を賦活し,摂食欲を高める働きをする.より強力な摂取欲を示すコカインなどの薬物依存症の場合とそのしくみは共通である.やみつきとはある食べ物を想起したり,見たり,実際に口に入れたとき,これら脳内物質が容易にかつ過剰に分泌されるようになった状況とも考えられる.
著者
松元 美里 古賀 夕貴 樋口 汰樹 松本 英顕 西牟田 昂 龍田 典子 上野 大介
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.319-322, 2020
被引用文献数
3

<p>近年,残香性を高めることを目的としたマイクロカプセル化香料の使用が一般化している.本研究ではハウスダストから甘いにおいを感じることに着目し,におい嗅ぎガスクロマトグラフィー(GC-O)を利用した"におい物質"の検索を試みた.分析の結果,ハウスダストと柔軟剤から共通したにおい物質が検出され,香料がマイクロカプセル化されたことでハウスダストに比較的長期間残留する可能性が示された.</p>
著者
田中 結子
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.374-381, 2015-11-25 (Released:2019-02-20)
参考文献数
8

近年の柔軟剤や衣料用洗剤などのファブリックケア製品には,香りの品揃えが多く見られ,これらが生活者の購買意欲を高める一因になっている.ファブリックケア製品において香りは重要な役割を占めるようになり,製品のイメージやコンセプトを伝えること,様々な使用場面での使い心地のよさを与えることやターゲット層の高い嗜好性に応えること等,付加価値を向上させる手段として進化してきた.本稿では,日本の柔軟剤と衣料用洗剤にフォーカスし,その香りの変遷と香りに対する生活者意識の変化について紹介する.
著者
直田 信一
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.39, no.6, pp.392-398, 2008-11-25 (Released:2010-10-13)
参考文献数
4
被引用文献数
2

活性炭吸着装置は,有機溶剤の臭気対策や回収装置として,多くの分野での実績がある.しかし,活性炭の吸着できる量は有限であるため,頻繁に交換しなければならないという問題がある.これらの問題を解決するため,活性炭の交換が容易にできる方法や活性炭を再生—再利用(リサイクル)するシステムを構築することで,極めて簡便でCO2を殆ど発生しないVOCの処理装置を実現することができる.
著者
溝口 忠 高橋 誠 小野 大介 堀 雅宏 谷口 眞
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 = Journal of Japan Association on Odor Environment (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.11-17, 2009-01-25
参考文献数
14

賃貸集合住宅で居住者退去後に問題となる前居住者の生活残留臭の除去方法を実験により検討した.処理法としては3種の植物性オイルミスト,グラフト重合高分子塗膜剤処理,オゾン処理を取り上げた.ペット臭・煙草臭・芳香臭を着臭させたペーパータオルについてスクリーニング試験を行い,比較的効果の高い方法を実住宅に適用して評価した.塗膜処理はスクリーニング試験では有効であったが,実住宅では大きな効果は見られなかった.オゾン処理は10ppm 14時間処理で臭気強度4から2に低下することができた.これらの検討を通して残留臭気の除去ついての知見が得られた.
著者
石田 洋史
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.411-420, 2016-11-25 (Released:2020-09-01)
参考文献数
18

料理の基礎となる鶏出汁(チキンスープ)は清湯と白湯の二種類ある.これらは混ぜる事で,それぞれ単独では得る事の出来なかった美味しさを得られる事が知られている.その相乗効果について検証する為,それぞれのスープをGC/MS,GC/O,AEDAの手法を用いて香気成分解析を行い,そこで得られた化合物からエンハンス効果に寄与する香気成分を探索,解明した.さらに,食品のおいしさに関わる表現「コク」について理解するため,消費者調査と官能評価を実施した取り組みについて紹介する.
著者
根来 宏明
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.350-356, 2015-09-25 (Released:2019-02-20)
参考文献数
7

アルコール飲料の摂取により呼気が“酒臭く”なるのは,飲酒を経験した多くの人が体験することであろう.中には,清酒,焼酎,ビールなど酒類によってにおいの質が異なると感じる人もいる.我々は,飲酒後の呼気を分析することで,“酒臭さ”に寄与する成分の同定を行い,さらにアルコール飲料の種類による呼気成分の差異を明らかにすることを試みた.得られたいくつかの知見について紹介する.
著者
水上 裕造
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.110-120, 2015-03-25 (Released:2019-02-20)
参考文献数
37
被引用文献数
2 2

緑茶の嗜好性は香りにあると言っていいほど,香りは緑茶の嗜好を左右する重要な要素である.緑茶の香りは実に多様性に富み,品種,地域,栽培,加工で全く異なる.ここでは,近年発展した茶の香りの分析から,中国緑茶,煎茶,釜炒り茶の香りの特徴,さらに,香りに特徴ある品種,地域で異なる香り,チャの生葉の香り,そして最後に焙煎で変化する煎茶の香りについて紹介する.2015年現在,分析技術を駆使して研究者が明らかにしたことは,緑茶の多様性から見るとほんの一握りである.今後も分析を通じて,五千年の歴史を持つ茶の本来の魅力が解明されれば,より身近に茶を感じるようになるだろう.
著者
小河 孝夫
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.287-297, 2014-07-25 (Released:2018-02-13)
参考文献数
56
被引用文献数
1 2

老年性嗅覚障害は60歳代以降でみられ,加齢とともに徐々に悪化し,嗅覚障害により日常生活の質は大きく低下してしまう.身体能力が低下し,栄養摂取が不良となりやすい高齢者にとって,こうした問題は特に重要になってくる.先天性嗅覚障害は生来嗅覚がないというまれな疾患である.嗅覚障害のみを臨床症候として呈する非症候性とKallmann症候群などの症候性がある.MRI検査により嗅球などの嗅覚系構造が検出できるようになり診断精度が向上している.嗅覚障害に伴うハンディキャップについての理解と性腺機能不全など嗅覚障害以外の他の全身合併症についても精査する必要がある.
著者
角田 正健 喜多 成价 久保 伸夫 角田 博之 福田 光男 本田 俊一
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.230-237, 2013-11-25 (Released:2017-10-11)
参考文献数
26
被引用文献数
2 4

口臭は古くから人々の悩みの種となっている.誰であっても“におい”のない口(呼気)はあり得ないにもかかわらず,他人の反応が気になる.生理的なにおいであっても,時には体調の変化・ストレス・緊張などで強くなることもある.あるいは,自覚症状のないまま進行した疾病が原因で,強い口臭が認められることもある.しかし嗅覚の特殊性から,自分自身でその臭気レベルを知ることは困難である.したがって思い悩むことになる.このような臭気である口臭への対応と,心の病である口臭症に関する日本口臭学会の治療指針を紹介する.
著者
小林 弘憲 勝野 泰朗
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.181-187, 2010-05-25 (Released:2016-04-01)
参考文献数
27

「ブルガリアン(オールド)ローズ,リンゴのコンポート」などのニュアンスを持ち,植物,果物などに幅広く存在するβ-ダマセノンは,いくつかの脂肪酸エステルとともにワインのフルーティーさに寄与する物質である.酸素の介在,低pH, 高温処理は,甲州果汁におけるβ-ダマセノン量の増強に有効な因子であった.また,プレス区分の果汁は,フリーラン区分の果汁に比べ,より多くのβ-ダマセノンを含んでいた.甲州ブドウの各器官におけるβ-ダマセノン量は,重量比として果汁 : 果皮=1 : 3であった(種子は検出されず).これらの知見を基に,プレス果汁を用いたスキンコンタクト法を採用した実用化規模のワイン醸造を試みた結果,通常の甲州ワインと比較して最大7倍程度のβ-ダマセノン濃度を含有する甲州ワインが得られた.
著者
岩橋 尊嗣
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, 2008

2006年の日本人の平均寿命は女性85.81歳(22年連続世界一),男性79.00歳(世界第2位,第1位はアイスランド : 79.4歳)であった.厚生労働省では,今後三大疾病の治療効果の向上を見込むと,さらに寿命は延びると予想している.<BR>私達の身体機能は,加齢とともに確実に老化し衰えていく.その一つの現象として,外見上の体力衰退ではなく飲食時の気管への食物の入り込みである.この現象は&ldquo;誤嚥&rdquo;と呼ばれ大きな問題となっている.飲食中に突如,猛烈に咳き込む.このような状況に陥ったり,見たりされた方もおられるでしょう.普通,健常であれば気管に入った異物は咳き込むことで吐き出すことができる.しかし,高齢者・疾病者の場合,咳き込むことが出来ずに,異物が気管に入ったまま放置され続けると,この異物に起因しての発熱,さらには肺炎にまで進行してしまうことがある.<BR>第1編は,海老原氏らに「嗅覚刺激と高齢者摂食嚥下障害」という題目で,上述したような問題点の解決にブラックペッパーによる嗅覚刺激が脳への刺激となり,最終的に誤嚥予防の有益な手段になり得るという研究成果について執筆して頂いた.<BR>第2編は,今西氏に「香りと医療─メディカル・アロマセラピー─」というテーマで執筆して頂いた.本学会誌でも以前に呼気や体表より発散されるガス成分による疾病の診断,予防等への研究が実用化へと向かいつつあることを紹介している(Vol. 36 No. 5, Vol. 37 No. 2).エッセンシャルオイル(精油)を用いてのアロマセラピー(芳香療法)として,私達に最も身近のものはエステティック・アロマセラピーと呼ばれるもので,街なかの美容室やエステサロンなどで行われている行為である.これに対して,標題にあるメディカル・アロマセラピーは医療行為の中で補完的な目的として行われるもので,その効能は科学的エビデンスに裏付けされ,徐々に認められつつある.今後さらなる実施例が増え,病気の予防や症状の軽減への寄与という実用性が期待される分野である.<BR>第3編は,岩崎氏に「都市緑化植物が保有するストレス緩和効果─揮発成分からみた癒しの効果─」というテーマで執筆して頂いた.2006年林野庁より森林セラピー基地の認定箇所が発表され,樹木から発散される揮発性物質の身体におよぼす有効性が確認されている.厚生労働省は&ldquo;治療する医学&rdquo;から&ldquo;予防する医学&rdquo;が重要であると位置付け,主に食生活の改善指導等を積極的に進めるとしている.しかし,&ldquo;食&rdquo;だけではなく嗅覚を活用しての予防医学にも注目すべき点が多い.岩崎氏は都市部の緑化樹木でもセラピー効果が得られることを確認した.たとえば,比較的植樹が多い&ldquo;クスノキ&rdquo;からの抽出精油(主成分はカンファー)について,ヒトへのストレス緩和作用を調べ有効性を確認し,さらに,植物園内にあるラベンダー畑と芝生地においてもストレス緩和性があることを確認している.<BR>第4編は,野田氏らに「五感を刺激する園芸療法」というテーマで執筆して頂いた.&ldquo;園芸療法&rdquo;という言葉自体,読者の方々にとって馴染みの薄い言葉かもしれない.著者らの所属されている千葉大学では,芳香療法,森林療法など植物を媒介としての療法が注目を集めている中,園芸療法科学の確立に向けたプロジェクトをスタートさせている.園芸療法の特徴は,個人が実際に植物の世話をすることで,見たり,触れたり,嗅いだり,食したりすることで五感が活性化されることである.すなわち,自然のリズムの中に身を置くことで,日常の健康増進や生活の質の向上を図ることを目的としている.<BR>以上紹介した4編の研究内容に共通している特徴は,いずれの場合もヒトに対して&ldquo;非浸襲性である&ldquo;ということであろう.高齢,年少,重篤である人達にとって採血・採尿行為などは身体に負荷をかけてしまう.これからはヒトに対して負荷をかけない診断・治療法の確立が極めて重要なことになってくる.執筆して頂いたいずれの研究も,しっかりとしたエビデンスに裏付けされており,今後に大きな期待を抱かせてくれる分野である.これからのますますの発展を願いたい.<BR>最後にご多忙中にも関わらず,本誌への執筆をご快諾いただいた先生方に,本紙面を借り厚く御礼申し上げます.
著者
綾部 早穂
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.345, 2013

<p>色や形,大きさを表現する言葉,音色や声色や動物の鳴き声を表現する言葉,触り心地や固さを表現する言葉,味を表現する言葉といったように,視覚・聴覚・触覚・味覚にはそれぞれの感覚モダリティを人間が感じた時の刺激対象の表現方法が存在し,それゆえに,その刺激対象の特徴を他者に伝達することができる.しかし,嗅覚に関しては,嗅覚モダリティ特有の表現方法が存在しないことがその特徴とすらなっている.</p><p>しかし,香りは私たちの日常生活で食べるものや使用するものには欠かせない存在であり,食品や香粧品業界では商品の香りを社内で検討する必要があり,またそれを消費者に伝える必要もある.悪臭が発生している場合にも,どのような悪臭が発生しているのか報告する必要性も生じる.調香師には調香師仲間で用いる共通言語があり,ワインのソムリエにもそのような言語体系があるが,調香師やソムリエは自分のオリジナルの言語をこの共通言語に通訳して用いているとも言われている.</p><p>また,あるにおいを「何のにおい」と一旦表現してしまうことで,その「何」に対する一般的な知識や価値からそのにおいに対する好き嫌いや快不快までもが左右されてしまうことがある.反対に,「バラの香り」と言われ,期待して嗅いでみたら,自分のイメージとはまったく異なっていてがっかりするようなこともある.においを言葉で表現することは上述のように必要である一方,様々な問題を生じさせることにもなる.</p><p>少し話題がそれるが,最近,訳書として出版された「アノスミア」(勁草書房)には,感受性豊かで聡明な著者がシェフを目指すべく,有名レストランで修業を積み,様々なにおいを覚えていくが,ある日交通事故に遭い,頭部を強打することで,嗅覚を失ってしまう「物語」が描かれている.完全なノンフィクションであるが,劇的にストーリー(状況)が展開し,興味深い記述が次々と出現する.彼女は頭部外傷により嗅覚神経系がばっさりと切断されてしまったと思われる.通常,このような状態に陥った後に嗅覚を回復することは滅多にないのだが、様々な奇跡が重なり,彼女は次第ににおいの感覚を取り戻していく.しかし,嗅覚を失う前までは,様々なにおいを自分の体験に結び付けて生き生きと記述しながら覚えることができたのに,嗅覚が回復し,「においがする(においが知覚できる)」ようになっても,なかなかそのにおいが何のにおいであるのか表現することができないという状況に陥る.思い余って,フランスのグラースに出かけ2週間の調香教室に通うのだが,ひたすら努力をすることで少しずつにおいを言葉で表現できるようになっていく.においを言葉で表現するということはここまで難しいことなのかと,人間の嗅覚システムの神秘について改めて考えさせられる著者の経験談である.</p><p>今回の特集では,広く様々な観点から「においを表現する言葉」について執筆をお願いした.</p><p>鈴木氏(高砂香料(株))には,経験を積まれた調香師の目線からにおいの言葉に関する様々な問題点を幅広い観点でとらえていただいた.これこそがこの特集の巻頭言と言っても過言ではない.調香師ゆえの,においを表現する言葉へのこだわりが強く伝わり,言葉の重要性を再認識させられる.喜多氏((株)島津製作所)には,におい分析のお立場から,何百種類も存在するにおいを網羅的に表現するのではなく,「相対的」に表現するユニークな発想をご提案いただいた.斉藤氏(斉藤幸子味嗅覚研究所)には,悪臭を表現する言葉について,ご自身の2つの研究をご紹介いただいた.古い研究であるとお断りされているが,このような詳細を積み重ねた研究は時代を経ても色褪せることなく,私たちに貴重な示唆を与えてくれる.「悪臭」であっても,一言では片付けられないほど多様であることは日常的にも経験することではあるが,データとして見せていただけることは興味深い.中野・綾部(筑波大)は,ここ数年取り組んできた,一般の人向けににおいの質を伝える際に,より感覚的な表現であるオノマトペの適用可能性について,その限界とともに紹介した.そして,後藤氏(酒類総合研究所)には,「生き物」であり,さまざまな要因をうけるワインの香りを評価する言葉についてご紹介いただいた.ワインを楽しみながら自分自身で香りを表現するのはかなり難しいことではあるが,ご紹介いただいた「香り」を,次回ワインの香りから探し出してみたいと思う.</p><p>最後に,本特集を企画するにあたり,ご多用の中にもかかわらず執筆をご快諾いただいた著者の方々に,本紙面をお借りして,深く感謝申し上げます.</p>
著者
大久保 直美
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.102-106, 2011-03-25 (Released:2016-04-01)
参考文献数
6

強い芳香を持つユリは,狭い空間に置くとにおいが充満するため,不快に感じられることがある.強い香りを持つ花の利用を広げるため,ユリ「カサブランカ」を用いて花の香りの抑制方法を検討した.「カサブランカ」の香気成分を分析した結果,不快臭を有する成分は芳香族化合物と考えられたことから,香気成分生成抑制剤としてフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL : phenylalanine ammonia-lyase)阻害剤を選択した. PAL阻害剤処理区において,香気成分量はコントロールの10〜20%程度となった.官能的にも,PAL阻害剤処理を行ったユリの香りは,無処理区に比べ弱まった.以上のことからPAL阻害剤は,「カサブランカ」の香りの抑制に利用できると考えられる.
著者
赤壁 善彦
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.323-328, 2013-09-25 (Released:2017-10-11)
参考文献数
16

鮎は,“香魚,キュウリ魚”ともいわれ,体表面から発せられる独特のにおい成分により,「キュウリ様」,「スイカ様」と評価される一方で,海魚と比べ川魚特有の生臭さがあると言われている.そこで,この生臭さのイメージを解消し,より嗜好性の高い鮎の開発を目指し,柑橘果皮残渣を利用して養殖を行ったところ,誰もが柑橘の風味を知覚することのできる鮎の開発に成功し,「柑味鮎(かんみあゆ)」と命名した.また,「柑味鮎」と天然や通常の養殖鮎の試食のアンケート結果とにおい識別装置により,においに関する正の相関が確認でき,各鮎のにおいの質を明確に区別できることが分かった.この開発した「柑味鮎」はブランド化され,地元で食材として提供されているのみならず,全国展開され,贈答用商品も流通している.
著者
小林 正佳
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.246-251, 2014-07-25 (Released:2018-02-13)
参考文献数
26
被引用文献数
4 3

嗅覚はにおいを感じる化学感覚で,これに異常が生じた状態を嗅覚障害という.嗅覚障害は量的障害と質的障害に分類され,量的障害には低下と脱失があり,質的障害には異嗅症,嗅盲,嗅覚過敏,その他(悪臭症,自己臭症,幻臭,鉤回発作)がある.嗅覚障害は障害発生部位に基づいて呼吸性,嗅粘膜性,混合性,末梢神経性,中枢性の5つに分類される.嗅覚障害の原因疾患は慢性副鼻腔炎,感冒,頭部外傷の順に多く,これらを嗅覚障害の三大原因という.嗅覚障害の有病率は米国で人口の1〜3%であるが,日本ではまだ調査報告がなく,不明なので今後の疫学調査が望まれる.