著者
小海 宏之 加藤 佑佳 岸川 雄介 園田 薫 成本 迅
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.85-95, 2013-03

本研究は、アルツハイマー病者の神経心理学的検査値と海馬傍回の萎縮度との関連を検討することにより、アルツハイマー病者の認知機能に関する今後の研究の基礎資料を得ることを目的とする。対象はアルツハイマー病者33 名である。方法は対象者にMMSE、ADAS、CDT、TMT、WMS-R の神経心理学的検査を個別実施し、脳のMRI データおよびVSRAD を用いて海馬傍回の萎縮度などを解析した。その結果、アルツハイマー病者の海馬傍回の萎縮度とADAS の単語再生との間に有意な相関関係が認められ、脳全体の萎縮度とADAS の総得点、単語再生、言語の聴覚的理解、単語再認との間に有意な相関関係が認められた。これらの結果から、ADAS の単語再生は言語性即時記憶容量の定量化および海馬傍回の萎縮度を推定するのに適した課題であり、また、神経心理学的アセスメントは脳機能の障害を推定するためにも重要であることを示唆すると考えられる。
著者
大津 雅之 Masayuki OTSU 花園大学社会福祉学部 THE FACULTY OF SOCIAL WELFARE HANAZONO UNIVERSITY
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
no.16, pp.97-109, 2008-03
被引用文献数
1

本稿では、拡大する自己覚知の定義の整理を試みた。また、合わせて今日の教育機関が教授する自己覚知の内容の整理も試みた。研究方法は、拡大する自己覚知の定義の整理にあたり、26冊の辞典・辞書・用語集から、一つの「基準となる自己覚知の定義」を設定し、そのうえで整理を試みた。整理方法として、(1)「自己覚知」以外での表記方法、(2)福祉援助者以外が行う自己覚知への言及、(3)自己覚知の必要性(意義)、(4)自己覚知の方法論、(5)その他の重要な言及という五つのカテゴリーを作成し分類している。また、今日の教育機関が教授する自己覚知の整理にあたり、社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士の養成機関が使用する3冊の最新版養成テキストから、それぞれが述べる自己覚知を比較し、そのうえで整理を試みた。整理の方法として、拡大する自己覚知の定義の整理と同じ五つのカテゴリーを作成し分類している。考察では、専門性を越えて普遍的に心理学や精神医学へと傾倒してしまう自己覚知に対する今日的解釈へ問題提起している。さらに、社会科学的分野からどのように自己覚知を考える必要があるかを言及している。
著者
大津 雅之 Masayuki OTSU 花園大学社会福祉学部 THE FACULTY OF SOCIAL WELFARE HANAZONO UNIVERSITY
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
no.19, pp.107-126, 2011-03

今日、福祉分野においては、「自己覚知」対するさまざまな解釈が拡散的に用いられているように見受けられる。その背景として、日本国内におけるケースワーク理論の歴史的変遷と「自己覚知」に対する解釈の歴史的変遷とを無視することはできないであろう。北本は、日本におけるケースワーク理論の歴史的変遷と「自己覚知」に対する解釈の歴史的変遷とを関連付けながら、「自己覚知」を分類している。ただし、北本の「自己覚知」に関する歴史分類は、「自己覚知」を理論的側面で整理するのみにとどまっていた。そこで、本稿では、まず、拡散する「自己覚知」に対する解釈を概観しながら、「自己覚知」の概念的性質について考察する。そのうえで、北本の「自己覚知」に対する歴史的分類に事例を交えながら、今日の「自己覚知」について考察してみたい。
著者
片山 由美 川井 蔦栄 高橋 美知子 古橋 エツ子
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.13-21, 2009-03

わが国の幼稚園教育では、生涯を通して生きる力の基礎を作るために重要な項目として文部科学省によって規定された5つの重点領域がある。これらは環境(自然とのふれあい)・健康(自分自身の健康に関する理解、自覚)・人間関係(幼稚園での生活上の人間関係)・表現(読み書きによる感情表現能力)・言葉(コミュニケーション、意思伝達能力)を意味し、これら5領域を総合的に指導する方法が議論されている。当幼稚園では、この5領域を総合的に指導するために、園児による動物の世話を実施している。本研究では、園児を参与観察(注:研究者が、一緒に行動しながら、保育者と園児の言動を観察すること)することで、5領域の総合的な指導への効果を考察した。その結果、園児の自主性、生に対する倫理観、コミュニケーション能力、衛生健康への理解能力などに、進展が見られた。また、環境と健康はとりわけ基礎的な内容を含んでおりこの2つの領域に、今後さらに重点的に取り組む必要があると考えられる。
著者
植田 恵理子
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.37-47, 2012-03

従来から、幼稚園における音楽活動は、協同的な学びが重視されてきた。筆者は、「協同的な学び」を引き出す実践や、子どもたちが、その環境作りに対して積極的に取り組むための条件などに対し、これまでも事例研究を行い、考察と提案を行ってきた。本研究では、大阪府S 市S 幼稚園をフィールドに、音楽活動の事例の中で見られた園児の様子を「協同的な学び」と子どもの「音への気づき」の関連性において考察した。共に音を聞きあう活動や、音を工夫することによって得られる「気づき」を確認する活動などを繰り返すことにより、子どもたちは、音楽を共有するコミュニティを大切にし、音楽活動を楽しく行える環境を作り、整える力を発揮していった。筆者は、子どもの「音への気づき」を大切にした音楽活動が、「協同的な学び」を引き出し、共感しながら学んでいくために必要な環境を、子どもたちが意欲的に作りだすきっかけになることを明らかにした。
著者
小松 一子
出版者
花園大学
雑誌
花園大学社会福祉学部研究紀要 (ISSN:09192042)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.59-74, 2009-03

認知症高齢者のケアは、回想法など、過去のことを思い出し精神の安定を図ることは進行を和らげる効果があることが分かってきた。しかし、さらに進めて過去に関連したニーズの一端でも実現できれば生活に潤いもたらすと考えている。実際は、表現のみならず自覚すら困難と思われる。そこで、ニーズは表現されるのか、また過去との関連はどうなのかを捉える試みを、通所介護を利用する認知症高齢者で家族の了解が得られた5名に、半構造化面接を行い、逐語録をとり施設の方に内容の確認も得て、分析を試みた。結果は、具体的に「ある」、嬉しいことや楽しいと「感じるものがある」、「何も無い」の3つに分類された。「何も無い」場合は、単に認知症ゆえではなく辛い経験からニーズの諦めを繰り返した結果であったり、自分の役目を終えた満足感からくる場合もあり、とりわけ、「家を守るための結婚であったり、婚家先で気兼をする生活、夫中心の生活が大きく左右していると思われた。
著者
脇中 洋
出版者
花園大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2005

平成18年度末にかけて実施したピアサポータートレニングプログラムを受けたメンバーを中心とする20〜30代の当事者7名を対象に、ピアサポータートレーニングプログラム作成委員会を結成して月に1回のペース計11回集まり、研究協力者と(中塚圭子)ともにフィシリテーターを努めて将来のピアサポートに向けての都トレーニングプログラム練成を図った。また当事者家族の要請を受けて、家族向けピアサポータートレニングプログラムを平成19年9月から20年3月まで計8回実施した。これらの活動を経て当事者らがどのように障害を持つ自分自身の意識を変容させたかを検討できるようにビデオに録画した。こうした活動の合間に、これまで調査したカナダや、京都、福知山、大阪、奈良、神戸の当事者団体と可能な限り連絡を取り合い、当事者のあり方めぐって意見を交わしながら連携を図り、平成20年2月から3月にかけてカナダの当事者団体スタッフを招いて福知山、神戸、奈良で相談を開くとともに、当事者団体やピアサポーターらの協力を得て、花園大学においてフォーラムを開催した。以上の活動経過は当事者団体会報や「福祉と人間科学」に記し、発達心理学会で発表した。研究3年目の終わりに到達した課題は、以下の3点である。まず高次脳機能障害がリハビリ求められる会社適応に専心するのみならず、自己適応をも要すること。また「会社に向けて発信するピア」というモデルを得ることが、自己変容を推進すること。家族もまた適応およびピアというモデルを要していること。これら3つの観点は、当事者とその家族が会社との接点を得ていく上で、不可欠のものと思われる。
著者
中島 志郎 衣川 賢次 西口 芳男
出版者
花園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

中国の歴史的な研究には、六祖慧能の弟子である荷沢神会(684-758)は、伝説的な六祖慧能よりも歴史的な実像が確実である点では、はるかに重要であると云えるかも知れない。本研究は、神會の残された語録からその思想を中心に考察して、新たな解釈で禅宗教団という既成の枠組みから解き放ち、禅宗という中国仏教の画期的な転換点における、その思想史上の意味について幾つかの新視点を提案した。その研究成果を概観すると、一つには敦煌文献を中心とする『神會語録』の注釈的研究であり、二つには本人の五編の論文である。前者は初期禅宗思想の語録を採りあげた具体的な注釈研究であり、別記の研究協力者の参加を得てなったものである。語句の精密な解釈を通して、その他の禅宗文献との思想的な関連を追及した。後者の論文では、中国仏教史の上で、禅宗の登場を中国中世の終焉期と規定し、禅宗は中国中世仏教の積極的な革新、克服運動として理解することで、その後の禅宗の特徴は説明できるという新たな提案を行った。禅宗は初期から一貫してこの性格を懐胎していたと理解できるが、誰よりやはり荷沢神会の運動と思想がその後の禅宗の形成に決定的に重要であったことを分析した。また「神会の菩薩戒思想」という論点で、初期禅宗の成立過程で、六祖慧能の顕彰活動という決定的な役割をはたした荷沢神会が、思想的にも「大乗菩薩戒」を宣揚することで、初期禅宗の仏教運動としての思想的特徴を決定づけたと論じた。つまり大乗菩薩戒こそは、中国仏教に決定的な質的転換をもたらす原理であり、禅宗の運動は結局、この菩薩戒思想を根拠とし宣揚する運動だったのではないか、という仮説を得た。これは次の研究課題となるものである。かくして禅宗と称される新たな仏教運動が中国の仏教思想の上でもつ、独自の思想的な役割の分析ができたと思う。