著者
田畑 伸一郎 梶谷 懐 福味 敦
出版者
比較経済体制学会
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1_1-1_16, 2019 (Released:2019-03-08)
参考文献数
38

中央と地方の間の財政関係について,ロシア,中国,インドというユーラシアの3大国の比較を行った.その結果として,ロシアでは最も中央集権的な財政構造となっているが,財政再分配機能は最も低いこと,中国では最も地方分権的な財政構造となっており,中央から地方への移転が最も大きな役割を果たしているが,地方財政の自立性が最も高いこと,インドでは地方の自主財源が少なく,地方の自立性が低いことなどを明らかにした.
著者
梶谷 懐
出版者
比較経済体制学会
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.1_1-1_12, 2022 (Released:2022-02-15)
参考文献数
41

本論文では,COVID-19の流行と米中対立の顕在化を題材に,現在の米国を中心としたリベラルな国際経済秩序が今後直面するであろう「危機」について,その具体的な性質について考察する.考察にあたっては,「産業政策」「監視技術」「文化対立」というお互いに密接な関連性を持っている三つのキーワードを軸に議論を進め,「危機」がもたらす価値観の対立をどう乗り越えるのかを検討する.
著者
志田 仁完
出版者
比較経済体制学会
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.2_51-2_70, 2018 (Released:2018-09-28)
参考文献数
35

本稿は,2015年第4四半期に実施された企業調査の結果に基づき,対ロシア経済制裁が企業経営に与える影響を検証した.分析は主に次の点を明らかにしている.第1に,企業経営幹部は,経済制裁が自社の経営に与える負の影響を,世界金融危機や欧州ソブリン危機と同程度において深刻な問題として評価している.第2に,金融危機の影響とは異なり,経済制裁の影響の評価には地域差が認められない.
著者
藤森 信吉
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.51-60,92, 2006-08-01 (Released:2009-07-31)
参考文献数
30

ウクライナの「オデッサ・ブロディ」原油パイプラインは,原油供給源および輸入ルート面でのロシア依存解消を目的として建設された。しかし,供給源のロシア依存解消は主要な国内製油所がロシア資本傘下に入ることにより意味を失い,さらにロシア以外の原油供給源が確保できなかったため完工後も稼働に至らなかった。同パイプラインは,2004年,原油輸出の追加ルートを求めていたロシアが原油を供給することにより輸送を開始したが,結果的に当初の目的を果たしたとはいえず,ウクライナはロシア依存を一層深めることになった。
著者
中村 靖
出版者
比較経済体制学会
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1_29-1_41, 2014 (Released:2014-03-29)
参考文献数
50

市場を排除したソ連経済は不換通貨管理メカニズムを欠いていた.国債発行を軸とする1930年代型資金循環は,その資金利用効率の低さから家計預金-銀行貸付へ重心を移した.しかし,通貨管理には企業に債務履行を求める以上の変化はなく,資金利用効率は改善されなかった.そこで生じていたと考えられる生産性課題未達成と預金通貨・貸付増大の併存状態をモデルで再現した.
著者
石郷岡 建
出版者
比較経済体制学会
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.2_33-2_50, 2015 (Released:2015-07-07)
参考文献数
8

2003年に始まったウクライナ危機の背景には何があるのか? 大統領選挙を中心とした投票行動(政治的意思表示)から分析すると,独立以降の選挙では,常に,東西対立の問題が底流に流れており,住民の間のアイデンティティの違い,特に,使用言語の違いが大きな意味を持っている.国家統一のためには,住民のアイデンティティの統一が急務だが,現状では,その道筋は示されていない.ウクライナの将来は厳しい情勢にある.
著者
服部 倫卓
出版者
比較経済体制学会
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.2_21-2_32, 2015 (Released:2015-07-07)
参考文献数
28

ウクライナ・ロシア危機を解明するための新たな分析視角として,両国の基幹産業である鉄鋼業を取り上げ,図表を駆使し比較検討する.世界の鉄鋼業界では,中国発の生産過剰・価格軟化が生じている.近代化が遅れ,コスト面での優位も失いつつあるロシア・ウクライナ鉄鋼業の立ち位置は,困難となっている.とりわけ,技術力が世界最低水準の上に,集積地ドンバスで内戦が起きたウクライナ鉄鋼業の行く末は,悲観せざるをえない.
著者
梶谷 懐
出版者
比較経済体制学会
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.1_1-1_13, 2012 (Released:2012-03-06)
参考文献数
26

本稿の目的は,「非先進国(発展途上国)」の政治経済モデルとして最も代表的なものである,「開発体制国家」モデルをベンチマークとして,中国経済を「非先進国経済」の一つとして類型化を行うことである.市場経済の下で高成長を遂げる中国は,従来の「開発体制国家」モデルといくつかの前提を共有しながらも,その産業構造や技術進歩のパターン,さらには国家と経済活動との関係など,重要な点で大きな違いを見せている.本稿では,そのような中国経済の「型」を,「分散型の開発体制」と名付け,国家と社会との関係,市場競争の歴史的な特性,グローバル経済における位置づけなど,いくつかの観点から検討を行う.
著者
盛田 常夫
出版者
比較経済体制学会
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.2_1-2_10, 2009 (Released:2011-01-21)
参考文献数
12

体制転換(移行)によって経済学の存在意義が問われている。社会主義崩壊が計画経済崩壊であるとしたら,経済学は国民経済の計画化を支える科学たり得なかったことを意味する。「不足の経済学」を打ち立てたコルナイ経済学は,いったい何を分析し,どのような理論成果を生み出したのだろうか。経済学ははたして科学か,レトリックか,あるいは論理学か,応用数学の一分野か。また,体制転換過程におけるコルナイの政策提案を批判的に検討する。
著者
鈴木 拓 溝端 佐登史
出版者
比較経済体制学会
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1_23-1_43, 2018 (Released:2018-02-22)
参考文献数
96

市場経済移行研究では汚職問題は早期から注目されていたが,その分析視点は発散傾向にある.そこで本稿では331件の文献に基づき,政治・経済的要因及び文化・価値観といった観点から14の仮説検証を通じて体系的レビューを行う.その結果,自由化・私有化は汚職に拡大と縮小の両義的な影響を与えており,かつ文化・価値観の影響も無視できないこと,そしていわゆる“潤滑油仮説”はほぼ否定されていることが明らかになった.
著者
渡邉 真理子
出版者
比較経済体制学会
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.2_31-2_43, 2021 (Released:2021-07-21)
参考文献数
24

本稿は,米中摩擦がどのような争点をめぐって進展したのかを,WTO体制の枠組みを軸に考察する.オバマ政権は,WTO提訴などの「場内規律づけ」を試みたが,提訴理由の稚拙さがあり機能しなかった.しかし,中国の逸脱行為の規律づけは可能であった.トランプ政権の「場外乱闘」で,崩壊しかかった多国間自由貿易体制の再構築に取り組む際に,中国の逸脱部分に対しては,体制への正しい理解をもとに適切な対応が必要である.
著者
中兼 和津次
出版者
比較経済体制学会
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.2_85-2_98, 2018 (Released:2018-09-28)
参考文献数
25

現代中国政治・社会の統治構造の柱が,1)権力主義(権力の維持,拡大を最高目的とする思想と政策),2)エリート主義(意思決定は少数の選ばれた人間・集団によってなされるべきだとする思想と政策),そして3)実用主義(目的のためには手段を択ばないという思想と政策)という3つの大きな原理だと私は考えるが,それは空想から現実へと社会主義像が変転する中で生まれ,確立してきた原理であった.そのことを立証するために,1)ロシア革命とマルクス・エンゲルス,レーニンの空想的社会主義構想,2)スターリンによって実施されたソ連型社会主義経済の実態,3)中国に輸入されたソ連型モデルと毛沢東による修正,4)毛沢東の空想的社会主義理念とそれがもたらした結末,5)鄧小平による現実的経済体制の選択といった,社会主義像が空想から現実へと転換していく一連の過程とその結果について考察する.
著者
三宅 芳夫
出版者
比較経済体制学会
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1_9-1_17, 2017 (Released:2017-05-17)
参考文献数
25

本稿は,I.ウォーラーステインやG.アリギなどの「世界システム」論のアプローチを批判的に援用しながら,「長期」の時間的スケールにおいて「自由主義」と「民主主義」の提携レジームを考察する.その際,20世紀の「30年戦争 1914-1945」における「自由主義」と「民主主義」の「歴史的妥協」,そして1970年代以降の「新自由主義グローバリズム」的再編の下での「妥協」の解体,という論点を強調する.
著者
田中 素香
出版者
比較経済体制学会
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.2_1-2_14, 2020 (Released:2020-09-04)
参考文献数
23

EUの右派ポピュリズム政治を,①経済格差拡大トレンド,②事件(危機),③事件(危機)に対する「エリート」の処理能力,そして④権力を取ったポピュリズム政治の動向,の4次元を意識して考察した.ユーロ危機,リーマン危機とそれに対する「エリート」の対応不全が右派ポピュリズムを高揚させたが,地域・国により独自性がある.2019年から運動は干潮期に入ったが,パンデミック危機により見通しが困難化している.
著者
栖原 学
出版者
比較経済体制学会
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1_17-1_28, 2014 (Released:2014-03-29)
参考文献数
26

19世紀後半から経済成長を加速させたロシアは,二度にわたる急速な工業化の期間を経て,1960年には西欧先進国の発展レベルに接近した.長期にわたるロシア・ソ連経済のキャッチアップの過程は,サイモン・クズネッツのいう「近代経済成長」の一例といえよう.しかし,1960年頃から経済成長と技術革新の主要推進力としての「上からの圧力」を失ったソ連は,目標とした先進国の水準に到達することなく解体に至り,その「近代経済成長」は挫折に終わることとなった.
著者
熊 達雲
出版者
比較経済体制学会
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.2_15-2_32, 2023 (Released:2023-09-14)
参考文献数
10

中国共産党の中国に対する統治メカニズムは,まず憲法・法律に基づいて国を統治し,同時に共産党の党内法規に基づいて共産党員を管理する.次に,全国人民代表大会を経由して間接統治を実行する.第三に,政治協商会議を生かし,共産党支配の広範な代表性と正当性を強化する.第四に,地方に対する統治は共産党の系列党委員会と各地方の国家機関を通じて実施する.現実には,共産党は戦略の設計と重大な方針・政策の制定に力を入れているが,国家統治の具体的な事務は各種の国家機構に責任を持って実施させており,共産党は実事求是の思想・理論を堅持し,「大衆路線」,漸進主義と実験主義,学習型政党の整備などの方法を運用して統治を実施している.一方,中国では「立憲党主論」や「党主導立憲制」などの理論を提唱し,共産党の統治体制をさらに規範化し,現代の憲政システムの中に組み入れようとする学者もいる.
著者
日臺 健雄
出版者
比較経済体制学会
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1_19-1_31, 2015 (Released:2015-01-27)
参考文献数
36

近年,ロシアや中国など新興国の経済発展を「国家資本主義」概念を用いて分析する研究が増加しているが,そこでは理論的な検討が不十分なままに当該概念が用いられる傾向にある.本稿では「国家資本主義」概念について,経済理論として初めて用いたヒルファディングから,革命後のロシアに適用したレーニンを経て,発展途上国に適用した日本の「国家資本主義論」学派に至る理論的な系譜を,学説史的な観点から概観していく.
著者
山田 鋭夫
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済研究 (ISSN:18805647)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.15-28,101, 2007-01-31 (Released:2009-07-31)
参考文献数
23
被引用文献数
2 3

本稿は資本主義経済をその制度的多様性の観点から類型化し,その意味を問う。これに関する研究として,1990年代以降,2類型論と5類型論という2大所説が展開されている。その議論を整理しつつ,そこで原理的に問われているものとして,「資本原理と社会原理の対抗と補完」および「社会的調整の多様性」という論点を取り出し,もって資本主義多様性論に関する有効な分析視角を提起する。