著者
家田 修
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.1-13,99, 2004-06-30 (Released:2009-07-31)

本稿はハンガリーの地位法を事例として,第一に,移行経済を語る出発点は社会主義体制ではなく,そこからさらに時代を遡る必要がある(連続的な未完の体制移行),第二に,自由競争など経済的合理主義を社会的に受容する過程は進んでおらず,市場経済体制に対する内発的な信頼感は醸成されていない。むしろ政治が経済的合理主義の行き過ぎを制御すべきだという価値基準が強化されている(経済に対する政治の優位),この二点を論述した。
著者
岩崎 一郎 佐藤 嘉寿子
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.14-30,99, 2004-06-30 (Released:2009-07-31)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

1998年に始動したハンガリーの新年金制度は,強制的私的積立年金の導入という点で画期的である。しかし,年金改革をめぐる政治的意思決定プロセスとその後の制度運用は,省庁間の利害対立,与野党間の政治力学,労働組合や金融機関を含む利益集団の存在に大きく左右された。それは,強制的私的積立年金の制度的枠組や私的年金基金の経営実績にも一定の悪影響を及ぼした可能性が高い。強制的私的積立年金が将来においてサステナブルであるためにも,保険加入者の利益が最も優先されるようなガバナンス改革やモニタリング機構の強化が求められる。
著者
田畑 朋子
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.31-48,99, 2004-06-30 (Released:2009-07-31)
参考文献数
10

ロシアの90年代の人口減少に対して各地域がどのように寄与したかについて検討した。92年からの人口減少が欧露部の中央などでの自然減少と,極東や北方地域での社会減少によるものであり,99年以降の人口減少加速化は欧露部の中央,北西部,沿ヴォルガ地域などでの自然減少の加速化によるものであること,人口減少の主要因である男性の早死は欧露部の中央,北西部や大都市圏,出生率の低下はロシア全域で生じたことを明らかにした。
著者
小出 秀雄
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.49-60,100, 2004-06-30 (Released:2009-07-31)
参考文献数
23

本論は,日本の家電リサイクル法とEUの廃電気電子機器リサイクル制度のしくみと現状を概観し,使用済み家電製品を消費者が排出する際に適用される料金支払制度,および不法投棄の可能性を考慮した場合,どのような政策を実施すべきかをモデル分析により明らかにする。料金の支払い方式の違いによって,理論的に妥当な政策は異なる。そして,前払い方式が必ずしも後払い方式よりも優れているわけではない,という興味深い結論を得る。
著者
阿部 新
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.61-71,100, 2004-06-30 (Released:2009-07-31)
参考文献数
26

日本では産業廃棄物は基本的に民間部門によって処理されるのに対し,ドイツでは公的部門によって処理される。しかし,最近,両国においてこの2つの方式の考え方を混合させるという動きがある。本稿では,まず,この2つの処理方式を分析・比較したうえで,どのようにして双方を組み合わせるべきかについて検討する。そして廃棄物を外部不経済の大きさで区分し,それに従って双方を組み合わせるべきであるという含意を得る。
著者
奥田 央
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.1-14,78, 2004-01-31 (Released:2009-12-03)
参考文献数
25

ロシアでは1990年代以降コルホーズ,ソフホーズの土地の民有化や,フェルメルの形成をめざす土地改革が実施されたが,フェルメルは,予想と異なって大きな発展を遂げず,また編成替えされた農業企業も,かってのコルホーズ,ソフホーズと組織上の変化はほとんどない。本報告は,ロシア農村の歴史的背景(とくに共同体的な伝統)から,「私的土地所有」の問題を考察したい。また本報告は,ロシア人学者イリーナ・コズノワのこの問題に関する観点の紹介にもあてられる。
著者
蓮見 雄
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.15-26,78, 2004-01-31 (Released:2009-12-03)
参考文献数
36

EUの「包領」となるカリーニングラードの問題は,EU拡大後のヨーロッパを占う試金石である。経済特区の失敗は経済悪化と闇経済の蔓延をもたらし,EUとの社会経済的格差が拡大した。問題解決には,これを克服する展望を作り出すことが重要である。ロシアは,ヨーロツバ共通経済空間を通じたEUとの制度的収斂とともに,この地を「分断の象徴から協力の拠点へ」と変革する国家戦略に基づいた開発プランを推進すべきである。
著者
日置 史郎
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.27-38,78, 2004-01-31 (Released:2009-07-31)
参考文献数
33
被引用文献数
1

本稿は,中国の沿海部から内陸部への浸透効果を地域間産業連関の観点から分析し,地域格差問題への示唆を導くものである。浸透効果は地域間産業連関による波及効果のみに限定して,最終需要誘発生産額と産出乗数を計測した。沿海部の成長極は中部沿海地区や南部沿海地区であり,それぞれ中部地区や西南地区への浸透効果がやや大きいが,沿海部から内陸部とりわけ西部への浸透効果は総じて小さく,西部大開発の妥当性が示唆される。
著者
Zoltan Denes
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.39-48,78, 2004-01-31 (Released:2009-07-31)
参考文献数
24

Two main integrated environmental and economic accounting systems, the SEEA and the NAMEA frameworks, are reviewed in this paper with an emphasis on derived indicators. NAMEA indicators in physical terms better serve the multi-dimensional needs of sustainable development than the adjusted monetary macro-indicators in the SEEA, which rely on the maintenance cost valuation. While maintenance costs are crucial for policy making, approximating the depreciation of natural assets with maintenance costs is controversial and misleading. Physical accounts should be the core of integrated accounts, and they should always be made public.
著者
雲 和広
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.49-56,78, 2004-01-31 (Released:2009-07-31)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

本稿の分析は,距離変数という地理的要因が有意かつ直感的に理解可能な形でロシアにおける地域間人口移動に影響を与えていることを示した。距離変数の導入方法など重要な問題は残されている。しかしながら距離減衰効果の存在は明らかであり,重力モデルの適用可能性を示すことが出来た。ロシアの人口移動を分析する上で地理的要因を考慮に入れることの必要性が示唆され,今後分析を進める際の方向性を示すものであろう。
著者
平手 賢治
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.57-68,79, 2004-01-31 (Released:2009-07-31)
参考文献数
11

本稿は,規範的正義論の観点から,体制移行を支える背景的正義を述べる。すなわち,L.バルツェロビィチの見解を,J.ロールズの社会的正義論に適った動態的平等主義の観点から,進化させ,体制移行の目指すべき範例を述べるのである。その結果,自由化政策は公正としての正義の構想によって,制度化政策は財産所有の民主政という政治構想によって,安定化政策は重なり合う合意の観念によって,背景的に支えられていることを明らかにする。
著者
池本 修一
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.16-29, 2003-06-30 (Released:2009-07-31)
参考文献数
5

チェコでは,1998年の社会民主党政権樹立を契機として,これまでの改革路線が転換した。そのなかで産業政策での主な政策転換は,外資への直接投資による私有化と外国直接投資促進などの産業政策の導入である。この2つの政策によって電気機械,輸送機械部門の外資企業を中心に企業改革が進展すると同時に輸出が増加し,チェコの経済発展に一定の貢献をしている。
著者
トラン ヴァン・トウ
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.30-36,75, 2003-06-30 (Released:2009-07-31)
参考文献数
12

本稿は,計画経済・社会主義経済システムから市場経済への移行問題を経済学的に分析するための理論的枠組みの構築を試みたものである。この分析は,経済移行と経済開発という2つの視点を同時に把握し,開発メカニズムと移行戦略を総合して1つの理論的枠組みで展開したことが特徴的である。また,このペーパーは,中国やベトナムのような社会主義国であると同時に途上国でもある国にとって、ショックセラピー(急進主義)ではなく,グラデュアリズム(漸進主義)という移行戦略が有効であることも改めて示している。
著者
田畑 朋子
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.46-55,76, 2003-06-30 (Released:2009-07-31)
参考文献数
18

2002年10月にソ連崩壊・ロシア独立後初めての国勢調査がロシアで行われた。本稿では,この国勢調査の調査票について,前回1989年国勢調査調査票との比較により,次のようなその特徴を明らかにした。(1)市場経済化を反映して,失業や求職活動を含む就業に関する多くの質問が加えられた。(2)生活資金源に関する設問が大きく様変わりした。(3)ソ連崩壊を反映して,国籍・民族・言語に関する設問が大きく変化した。
著者
石川 健
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.1-15,75, 2003-06-30 (Released:2009-07-31)
参考文献数
14

本稿では,体制転換後ロシアの電力・石油・ガス部門において進行している生産減と雇用増の同時進行がなぜ可能なのかについて,公式統計と簡単な推計結果を利用しつつ検討し,これらの部門が雇用増を可能とする特殊な条件(費用構造と収益性)を備えていることと,体制転換後に固有の賃金未払いが同部門で大規模に見られるということもこれと関係する要因であることを示す。
著者
長岡 貞男 岩崎 一郎
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-17,120, 2003-01-01 (Released:2009-07-31)
参考文献数
21
被引用文献数
1

市場経済移行と経済開放は,旧社会主義諸国の研究開発体制に変革を迫ってきた。本稿は,中欧諸国に焦点を当てて,その技術パフォーマンスを分析する。主要な結論は以下の通りである。これらの国はバルト諸国とともに,ハイテク輸出の拡大,情報技術の普及で証拠付けられるように外国技術の吸収という面で大きな成果がもたらされている。研究開発は縮小したが経済の基礎条件から見て過小な水準ではなく,他のOECD諸国の経験から外国直接投資は長期的には研究開発の水準を減少させる可能性も否定できないが,少なくとも国内企業がその効率的な企業体制を整備するまではそれを下支えする効果がある。しかし,これらの国々の特許生産性で評価した研究開発効率は依然著しく低く,グローバルに競争的な研究開発体制の構築は今もなお時間を要する課題であることも同時に明らかとなった。
著者
小森 吾一
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.30-38,120, 2003-01-01 (Released:2009-07-31)

最近,業績が良好なロシアの石油およびガス産業がさらなる発展を遂げるには,いくつかの課題がある。石油産業については経営体質の強化に向けた上・下流両部門への投資,新規輸出市場(対アジア)の開拓,ガス産業については国内市場での収益強化と新規輸出市場(対アジア)の開拓が課題である。これらの課題解決にはロシア石油・ガス企業の競争力強化とともにロシア政府による外資導入のための投資環境の整備が必要となる。
著者
和田 正武
出版者
Japan Association for Comparative Economic Studies
雑誌
比較経済体制学会年報 (ISSN:13484060)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.39-52,121, 2003-01-01 (Released:2009-07-31)

移行経済下,産業構造は大きく変化する。それは社会主義時代に人為的に作られた産業構造が新しい市場ニーズにみあったものへ変化する過程である。ここではポーランドにおける経済改革の10年の中で,産業構造の変化の実態を見,また事例として繊維産業,鉄鋼産業の内部でその生産構造がどのように変化したかを検討する。次ぎに,その変化をもたらした要因を貿易面,企業の発生面,さらにFDIの実績から分析し,最後に新たに形成された産業構造がポーランドにとって望ましいものであったかどうかの評価を産業構造の高度化の観点から論じる。