著者
樫田 美雄
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.60-60, 2001

「共依存」は, 標準的には, 嗜癖者を可能にする, 正のフィードバック・システム (あるいはそのうちの1人の当事者) につけられた名前である。それは, 人間関係的には, 「嗜癖者-イネーブラー (嗜癖を可能にする者) 」両者間の「刺激-反応」連鎖の増幅システムであり, 子どもを「アダルト・チルドレン」にすることで, 世代間連鎖をなす永続的体系である。文化的には, 男性的な「自立・自律強制社会」において, 女性的な「依存・ケア的サブカルチャー」が, 非難される様式であり, 臨床的には, 「嗜癖者の配偶者 (しばしば女性) 」が, 「医療」的に「啓蒙・改善」の対象とされる際に, その「操作」の根拠となる「病名」である。わが国ではアメリカほど「大衆心理学化」された形では広がっていないが, すべての依存症 (薬物依存, 仕事依存, 愛情依存……) の基礎にこの「共依存」があると考えるなら, 裾野の広がりは巨大であるといえよう。<BR>本書はこのような多面性をもった「共依存」概念に関して, 臨床心理学・公衆衛生学・構築主義社会学・家族システム論等の各視点からの論考を集め, まとめたものである。実例と学史がバランスよく配置されているので, 「共依存」に関して, 現象としてのそれに関心をもつ社会学者にも, 諸議論の配置に関心のある家族心理学者にも有益な本になっている。また, アメリカの状況を集中的に紹介した章 (5章以下, とくに7章) と, 日本での実践を紹介した章 (3・4章) の両方があるため, 家族の日米比較に関心がある研究者にも読まれるべき本にもなっている。<BR>以下, 各論者の主張の簡単な紹介と評者からのコメントを行おう。<BR>まず, 序章から2章にかけては編者の清水新二が, 総括的な議論の整理をしている。「共依存」に関する近年の議論史は, 個人からシステムに関心の焦点が移動していったという点からは, 「精神分裂病」や「アルコール依存症者」に関する議論を基本的には後追いしていること, ギデンズが行ったような社会評論的な共依存論と個人を焦点とした臨床的共依存論は区別すべきこと, 治療が必要な共依存とそうでない共依存を仕分けるために, 共依存の文化社会的適合度などに基づいた「共依存スペクトラムモデル」に基づいた思考をすべきこと, などを主張している。判断の論拠はもっと知りたいが, 結論には実感的妥当さがあり, 理論と実践の架橋はこのような臨床的知によってなされるのだろうと思われた。3章と4章は, 臨床家の遠藤優子と猪野亜朗が, (「共依存物語」内的視点から) 共依存の実像と臨床的対処の実際を述べている。事例が興味深くかつ身にしみる。5章と6章は, 構築主義社会学の立場から, 上野加代子が「共依存」概念の語られ方を解析している。3・4章の議論がなぜ説得力をもつのか, の謎解きになっている。7章と8章は, V.クラークと本田恵子が, アメリカにおける文化的少数者に定位した対策の紹介と, 文献レビューを行っている。これからは, 日本の社会学者もこういうシステマティックな仕事の仕方に慣れていくべきだろう。「共依存」議論の多様さに接近するために有益な書として, 本書を広く推薦したい。
著者
岩井 紀子
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.30-42, 2011
被引用文献数
5

本稿は,Japanese General Social Surveyのデータを基に日本の家族の変化をとらえ,現状を把握し,今後の方向について考える資料を提供する.2000年から2010年までに継続的に尋ねた85項目を14分野に分けて変化のトレンドを記述する:婚姻状態,同居世帯員,世帯構成,就労・所得,夫婦の働き方,階層意識,結婚観,性別役割意識・夫婦別姓,子ども観,セクシュアリティ,育児・介護の社会化,家族生活,墓についての意識,満足度・幸福感.個人も家族も,雇用情勢の変化に振り回されながらも,強い不満を抱くことなく,現実に向き合っている.若年層の無職・非正規雇用が拡大し,未婚率を押し上げ,未婚成人子の親との同居が増加した.女性の就業率は全体として高まり,M字の谷が浅くなった.高齢者の生活保障と介護の社会化に続いて,育児・教育の社会化が望まれている.若年層と女性の就労の変化が,家族の今後に与える影響は大きく,税制と雇用政策と福祉の全体像の改革に左右される.
著者
田中 重人
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.30-30, 2001

研究者を志す初学者にとって, 先行研究の分厚さは大きな壁である。研究のためには, 基本的な道具として使う概念や, それらの組み合わせでできる命題を用意しておかないといけない。こうした分析道具は先行研究を読んでそこから掘り起こしてくるのだが, 関係しそうな論文を手あたりしだいにあさっていくのでは効率が悪い。論文はむずかしい専門用語で書いてあって, 理解するのに骨が折れる。しかも読むべき先行研究は山のようにあるから, どこから手をつけてどこでやめるかが大問題だ。研究を効率よく進めるには, 先行研究がどのように体系化できるのか, 系統的に整理された情報を前もって集めておかないといけない。<BR>日本家族社会学会の企画による「家族社会学研究シリーズ」の第5弾は, 家族社会学がつくりあげてきた分析道具を19種の「アプローチ」に整理して示した本である。編者の野々山によれば, アプローチとは「固有の基本的概念と基本的仮定から成り立っている」 (p.3) ものである。各章がアプローチ1つずつを担当しており, すべて「○○的アプローチ」という表題になっている。「○○」には次のようなことばが入る : (1) 比較制度論 (2) 形態論, (3) 歴史社会学, (4) 人口学, (5) ジェンダー研究, (6) エスノメソドロジー, (7) 構造機能論, (8) システム論 (9) 家族周期論, (10) 家族病理学, (11) 家族ストレス論, (12) 相互作用論, (13) 交換論, (14) ネットワーク論 (15) 家族ライフスタイル論, (16) ライフコース論, (17) 構築主義, (18) 計量社会学, (19) 事例研究。各章ではそれぞれのアプローチがもつ基本的な概念や仮定が説明されるとともに, これまでの研究, とくに日本での具体的な研究の成果が示される。家族社会学の世界にこれから足を踏み入れる初学者や, 隣接領域から興味をもってながめている研究者にとって, 家族社会学の蓄積をこのように系統的に整理した案内書があるのは心強いことと思う。<BR>この本の整理の仕方に対しては異論もあるだろう。アプローチとは, 研究者が試行錯誤を繰り返して洗練させてきた分析道具をあとから系統的に整理したものなので, 違う視点から整理すれば違うまとめ方になるはずである。だが, ともかく1つの視点から見通しよく整理された入門書として, この本は十分成功している。<BR>逆にいえば, 「○○的アプローチ」などというのは, 入門段階の読者のための便宜的な名称だともいえる。研究者として本格的にやっていくためには, 1つのアプローチにこだわることなく, 必要な分析道具を種々のアプローチから借り出してこないといけない。幸い, この本の各章ではこれまでの代表的な研究が豊富に引用されている。さらに各章末には (引用文献とは別に) 2~6本の「参考文献」があがっていて, 著者による簡単なコメントがある。自分の研究に少しでも関係がありそうな研究を探して分析道具を貧欲にかき集めるというアクティブな研究姿勢を取るために, これらの情報が役立っだろう。
著者
牟田 和恵
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.17-20, 2013

「家族戦略」をテーマとした3年連続の大会シンポジウムシリーズの2年目として,昨年の「経済不況と少子高齢社会の中の家族戦略」に続き,育児(子育て)と介護に関して家族はどのような戦略を立てて行動に移しているのかについて,理論的・実証的な見地から論じてもらうというねらいのもと,「育児と介護の家族戦略」と題してシンポジウムをもった.天童睦子氏「育児戦略と見えない統制——育児メディアの変遷から」,上野千鶴子氏「介護の家族戦略——規範・選好・資源」,武川正吾氏「家族戦略?——個人戦略と公共政策の狭間で」の3報告が行われ,それらを受けて,立山徳子氏が都市のパーソナル・ネットワークに着目するところから問題提起を行い,久保田裕之氏からは家族という集合的主体を構想する可能性と,家族戦略の段階性・重層性を見いだすべきことが指摘された.コーディネータおよび司会は,研究活動委員の加藤邦子と牟田和恵が務めた.
著者
山西 裕美
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.41-41, 2000

日本は、1990年以降、離婚率が増加しつづけ、1998年には普通離婚率が1.94と今世紀最高水準となり、注目を集めている。しかし、日本におけるワンペアレント・ファミリーの研究は、いくつかの研究を除き、それほど体系的には行われておらず、そのほとんどが児童扶養手当等の現金給付を扱った社会保障制度との関わりである。<BR>本報告書は、ワンペアレント・ファミリーのなかでも、離別母子世帯に焦点を当て、先にあげたような従来型研究にとどまらず、詳細なインタビュー調査により、母子ワンペアレント・ファミリーの「生活世界の内側」をトータルに把握することが目的である。また、日本の離別母子ワンペアレント・ファミリーと、他国との共通性や異質性を探るうえで、アメリカ・イギリス・オーストラリア・スウェーデン・香港との比較調査研究となっている。<BR>本書は2部構成となっており、第I部では日本の離別母子ワンペアレント・ファミリーについて、第II部では諸外国の離別母子ワンペアレント・ファミリーについての調査結果が記されている。各国調査を通じ、離婚後のシングルマザーの自立度や幸福感について、大きく分けて次のような論点が設定されている。1) 離婚前の性別役割分業意識との関連、2)両親育児規範との関連、3) 離婚に先立つ準備と支援ネットワークとの関連、4) 離婚前の貨幣配分システムと妻子の生活水準との関連、5) 養育費を中心とした生活保障との関連、6)離別ワンペアレント・ファミリーをめぐるスティグマとの関連について。<BR>調査結果を、日本と諸外国との比較で述べると以下の特徴がある。日本は諸外国と比べ、二つの点で異なっている。一つ目は、性別役割分業への適応や両親育児規範、祖父母との離婚後の同居といった規範意識レベルでの差異。二つ目は、教育費や住宅費の補償給付や養育費徴収システムなど社会保障システムによる生活保障の遅れである。これらは日本のシングルマザーの自立に対し独自の影響を与える一方、離別母子ワンペアレント・ファミリーをめぐるスティグマは、いずれの国においてもうかがえる。<BR>事例研究のため、日本を含め諸外国ともサンプル数が少なく、サンプリング方法においても代表性に問題があることは免れない。しかし、得られた調査結果および知見の意義は、各国の離別母子ワンペアレント・ファミリーの現状を示唆していることだけにあるのではない。このような近代家族観の自縛を逃れた新たな「家族」の意味構成を考えていくことは、高齢者や障害者の自立など、これまで家族に内包されてきたものの表出という今日的課題に対する解釈枠組みの提示と、そのうえで必要なソーシャル・サポートのあり方を模索するうえでも有効であるといえるだろう。
著者
西野 理子
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.12-12, 2000

『入門』とあるが、「家族社会学ってなにやってるの?」という疑問に、半分答えて半分答えない本である。「答えない」というと否定的に聞こえるが、本書の意義は前半の「答える」部分にある。というのも、本書は「若い研究者、院生、学生のためのテキスト」として編集された『社会学研究シリーズ-理論と技法』の第1巻であり、「理論と実証の統合、統一」をめざして、「先行研究の整理、そこからの問題の発見などについて」「実際に研究を進めていく手だて、技法を教えるもの」になるように編集されている。その点、ほかの教科書とは異なり、家族ではなく家族研究を理解するための書である。日本家族社会学会の機関誌でも、創刊号と第2号では「いま家族に何が起こっているのか」をとらえようという特集が、10周年記念特集号では「家族社会学の回顧と展望-1970年代以降」と題する特集が組まれた。10年の間をおいて、現象としての家族理解から、家族研究自体を認識し直そうという動きがあり、本書の登場もそうした時代的要請にみあったものといえよう。そもそも、実証研究が多い割に理論的蓄積が十分に進んでいないという家族研究の課題克服への試みでもある。<BR>全体は4部構成となっており、第1部が「家族研究の系譜と概観」、第2部で「家族発達的研究」「歴史人口学」「社会的ネットワーク論」それぞれの分野における家族研究の展開が、基本的な用語の解説とともに紹介されている。第3部で夫婦関係と親子関係から家族の内部過程への接近を概括し、第4部で実証研究の方法と理論研究の動向を概説している。単なる研究動向の概述というより、すでにさまざまなかたちで公表されている各分野のレビューをふまえたうえでの整理と展望である。とりわけ第3部は、論者自身の問題関心も織り込んで、研究者相互のコミュニケーションを啓発している。<BR>事象への関心をどのように展開させていくか。研究の最初の一歩に大変有益な教科書である。学部生には、本書が編集された背景など、社会学全般と関連させた解説があったほうがよさそうだが、家族研究を志す大学院生には、ぜひ精読しておいてもらいたい必読書である。本書の随所に「袋小路に陥らせず」「停滞状況に突破口を見出すには」とあるように、研究者がもう一度、全体を見渡して理論的地盤を固めるのにも役立つ書である。また欧米諸国の家族研究書の章構成と比較してみるのも一興である。
著者
西村 昌記
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.165-176, 2012
被引用文献数
2

ストレスプロセスモデルを用い,高齢者を介護する配偶者のストレスとその性差について検討した.対象は配偶者を介護する60歳以上の主介護者314名(女性206名,男性108名)であった.分析モデルは介護者の年齢と活動能力,1次ストレッサー(被介護者のADL障害,認知症に関連する行動),2次ストレッサー(介護負担感),心理社会的資源(情緒的サポート,介護統制感),精神的健康から構成されている.構造方程式モデリングによる同時分析の結果,1次ストレッサー,2次ストレッサー,精神的健康の相互の関連には男女に共通性が高く,これらと心理社会的資源との関連にはやや性差があることが示唆された.すなわち,男女とも情緒的サポートと介護統制感が介護負担感を低下させ,精神的健康に寄与するという媒介効果が示された一方,女性にのみ介護統制感が精神的健康に寄与するという直接効果が認められた.
著者
Yu-Hua Chen Chin-fen Chang
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.189-199, 2017-10-31 (Released:2018-11-08)
参考文献数
20
被引用文献数
2

The study of intergenerational transmission of gender role attitudes (GRA) connects those about parenting mechanism of children's value, socialization, challenges of feminism and gender studies to patriarchy. Previous studies of the transmission of GRA between generations focused on the effects of socialization and symbolic interaction on the formation of GRA of children. Attitudes may change with children's own life-course events, such as entering labor market or starting family formation. The current paper studies if socialization at home remains significant predictor of children's GRA and if their life experiences play an important role in their early adulthood. Findings of analyzing panel data from the Taiwan Youth Project show that children are more egalitarian than their parents, female are more so than male, and children in adulthood are more so than in their youth. Parents have strong effects on shaping children's GRA, especially between mother and daughter. The results seem to support the exposure perspective. However, marriage makes adult children more conservative, especially for married men. The results seem to indicate more the acceptance of the reality by married couple than the backlash of egalitarian attitudes. The self-interested perspective is better to explain the changes of GRA in early adulthood of respondents.
著者
余田 翔平
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.60-71, 2012
被引用文献数
7

本稿の目的は,ひとり親世帯で育つことによってどれほどの教育達成上の不利を被るのか,そうした不利は時代とともにどのように変化しているのかを明らかにすることである.『日本版総合社会調査(JGSS)』を用いた分析の結果,以下の点が明らかになった.(1)高校進学や短大・大学進学といった指標について,ひとり親世帯出身者は二人親世帯出身者よりも一貫して不利な立場に置かれていた.(2)特に,短大・大学への進学格差は顕著に拡大していた.(3)父子世帯は母子世帯よりも経済的には恵まれているにもかかわらず,父子世帯出身者と母子世帯出身者との間に教育達成水準の違いはほぼ見られなかった.(4)さらに,ひとり親世帯と教育達成との関連は「15歳時の世帯収入レベル」では十分に説明されず,経済的要因以外の媒介要因を解明する必要性が示された.
著者
佐藤 宏子
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.67-67, 2000

本書は、「21世紀の日本の最も大きな社会問題は、若年・中年・老年という三世代の金銭的・物質的・サービス的・情報的・愛情的な交流がうまくいくか、それとも逆に世代間の対立が激化するかの点にあると信じて疑わない」と考える著者が、16名の共同研究者と共に3力年にわたって行なった「世代間交流」の研究成果をもとに、1989年から1998年の間に執筆した「世代間交流」の理論化に寄与する6編の論文を集めたものである。<BR>本書の構成は、第1章 : 高齢化社会における世代の問題、第2章 : ボランティア活動の意味、第3章 : 長寿社会の生涯学習、第4章 : 意味の深みへ-方法論によせて、第5章 : 白秋・玄冬の社会学、第6章 : 家族の来し方行く末を考えるとなっており、薪しい研究分野である「世代間交流」が非常に幅広い視点から論じられている。内容を簡単に紹介すると、長寿化しつつある先進諸国では世代相互間の断絶・抗争が発生しやすくなっており、顕在化した「世代の断絶」や「世代間抗争」に対処するためには、家族を超えた社会的レベルで三世代間の交流システムを再構築する必要があり、全体社会的レベルの世代間交流としてボランティア活動の重要性、生涯学習の意味や必要性などが述べられている。また、エリクソンが老年 (成熟) 期への移行過程の発達課題としたインテグリティ (「充全性」) に到達するためには、高齢者が自分と同じ老年の世代と接触するだけでなく中年や若年の世代と接触し、それらの人びとのために働くという手立てが有効であり、さらに「長寿社会」から「成熟社会」に達するためには、すべての世代がすべての世代と接触し、損得を離れて相互に奉仕し合う「世代間交流」が「必要条件」の一つであると指摘している。また、本書の後半では著者自身の老後感、ライフパニック、臨死体験、参禅における悟りの境地、遺伝子操作が論じられたり、現時ヒト科の古生物学・考古学的研究・霊長類の動物生態学的研究・狩猟採集民の人類学的研究の成果から、ヒトにとって言語の獲得と家族の形成が不可欠なものであったことが導かれており、経験と学識の豊かな著者ならではの示唆に富んだ良書である。ただ、私は著者らのライフパニック調査における有配偶男性の身の回りのことや家事に関する生活自立能力の低さは、著者の言葉を借りるならば「健常者の平和時の日常生活世界」の問題であって、危機管理としての問題ではないと感じること、「夫婦が負担を平等に分け合いながら共生しようとしたときの二つの生き方」には共感しかねることを正直に付け加えさせていただきたい。
著者
中田 奈月
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.41-51, 2004
被引用文献数
1 1

近年, 女性しか従事しないと考えられてきた保育職に参入する男性が増加している。男性保育者の存在は我々がイメージしてきた「保育者」像を大きくゆるがす。そのため女性保育者や保育所所長は彼らを不必要だと考えたり矛盾した期待をしたりする。そんななかで男性保育者は周囲の人々の期待にどうこたえ男性保育者であり続けるのか。男性保育者の経験に伴って変化する男性保育者自身の「保育者」定義に着目して分析する。分析の結果, 男性保育者の「保育者」定義にはシークエンスがあり, そこには3段階あると分かった。それらの定義は, 優しく世話好きでケア労働を好むといった従来の「保育者」定義とは大きく異なる。第1段階, 彼らは自らを保育所の父と定義する。第2段階, ある程度経験をつんだ男性は, ジェンダーの偏りを是正する者として男性の視点を取り入れようとする。そして第3段階, かなり経験をつんだ男性は, 子どもの発達を促す者として保育をしていた。
著者
後藤 憲子
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.21-29, 2009

1995年から2005年の10年間で,就学前の幼児を育てている家庭の世帯年収は全体的に減少傾向が見られたが,1ヵ月あたりの平均教育費は増加していた。全体的に年収が減少しているのに対し,教育費は増加しているので,この10年間で世帯年収に占める教育費の比率は上がっていることになる。学力低下を危惧する世論が就学前の子どもを持つ保護者にも影響を与え,習い事などに使う金額が増えていることがわかった。母親の学歴別に子ども一人あたりの平均教育費をみると,高等教育(短大も含む,以下同)を受けた母親と高卒の母親の間で,95年から05年の10年間で,教育にかける金額の差が大きくなっていることがわかった。また,習い事などの実施状況をみると,高等教育を受けた母親で英語の実施率が高くなっていることがわかった。将来のために幼児期から行う習い事として,高収入・高学歴層で英語の実施率が高くなっていた。
著者
篠崎 正美
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.24-38, 2004
被引用文献数
1

農村において, とりわけ男性農業後継者の結婚難が地域社会の問題となっている。結婚や家族観における最近のジェンダー・ギャップ, 農村や農家の経済社会的後進性農業男性の「消極性」などが結婚難の主因として論じられている。が, 重要な要素として日本における配偶者選択の主な領域である学校や職場という第2次的生活領域で, 農村には若い未婚女性と出会えるチャンスが非常に少ないという構造的欠損を考える必要がある。<BR>本論文では, 自治体の結婚介入事業の種類や目的, 経費, 成果, 成否の理由の調査から, 農村の結婚問題の現況を把握するとともに, 行政の担当者自身個人的な結婚観と事業の公的な目的との間のずれにも注目した。次に, 結婚相談員への面接の分析から農村に生じている結婚への意味づけの大きな揺らぎ, 4Hクラブ男性メンバーへの集団面接の分析から, 一方で「消極的」で伝統的な配偶者選択と, 他方で合コンなど「遊び」の第3次生活領域への積極的な参加によるポストモダンで, 脱制度化された結婚と家族への多様化が認められた。
著者
中西 泰子
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.45-57, 2007
被引用文献数
1

近年, 日本では, 嫁による介護に代わって, 娘による介護に期待が寄せられている。娘による老親扶養は, 情緒的な結びつきに支えられた, 選好的な世代間関係と評される。しかし, その規定要因については, 十分な検証はなされていない。本稿では, 娘の老親扶養志向を規定する要因を, 社会的要因も含めて検証する。また, その独自性を明確化するために, 息子の扶養介護志向の規定要因も併せて分析し, 両者の比較考察を行う。対象は, 府中市在住の20代男女である。従属変数は, 老親に対する経済的扶養志向および介護扶養志向である。独立変数には, 父母との情緒的親密さに加えて, 社会的要因として, きょうだい構成や本人および親の学歴, 親の経済状態ライフコース志向を用いる。分析の結果, 娘の老親扶養は, 単に情緒的親密さによって支えられているのではなく, 性別分業という社会構造的要因によっても規定されていることが示された。
著者
野田 潤
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.17-26, 2006
被引用文献数
1

本稿は, 近代以降の夫婦関係と親子関係の接続についての人々の了解の形式の変容を明らかにし, 近代家族の情緒的関係の分節化を試みる。読売新聞の悩み相談欄「人生案内」 (1914~2003) の語りを分析した結果, 以下の知見が導かれた。 (1) 夫婦関係と子どもの幸福は1930年代までは無関係とされており, すべての語り手が子どものために頻繁に両親の夫婦仲を重視し始めるのは1970年代以降のことである。 (2) 夫婦関係と親子関係も1960年代までは別個に成立するものとされていたが, 1970年代後半以降, 人々は二つの間に因果関係を想定するようになっている。これらの知見からは, 近代家族の情緒的関係と現在ひとくくりに言われているものが, 近代以降でも変化していたことが明らかになった。なかでもとりわけ現在は, 家族内部の複数の異なる関係を, 容易に影響し合い連動し合うものだとみなし始めている点で, 特殊な時代だと言える。
著者
善積 京子
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.5, pp.59-65,140, 1993

In recent years, an increasing number of people in Europe and the United States are choosing to live together, i.e. to cohabit, rather than legally get married, and are discoveing the advantages of this arrangement. Traditionally, cohabitaion was not a choice but a forced lifestyle for those who were not allowed a legal union.<BR>This paper first cited some statistics, such as the increase in the number of divorces, the decrease in the number of marriages, the increase in the number of cohabitations, and the increase in the number of births out of wedlock, as a way to depict the current so-called "crisis in the marital system" in Western Societies.<BR>Secondly, after analyzing the social background which has led to this increase in cohabitation, people living together are categorized into three groups : young people, women seeking independece, and people seeking an alternative to remarriage. Their process of choosing cohabitation as their lifestyle, from the point of view of strategy, is also explained.<BR>Thirdly, the paper examines Swedish society where cohabitation is not only accepted as a socical institution but also legal. Through examining the Swedish example, social conditions which enable "neutrality" of lifestyle and a new paradigm for the family is investigated.<BR>Finally, the possibilty of cohabitation being chosen as a lifestyle in Japan in examined.