著者
中嶋 蘭 三森 経世
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.71-76, 2013 (Released:2013-04-28)
参考文献数
17
被引用文献数
36 34

抗MDA5抗体は皮膚筋炎特異的抗体であり,同抗体陽性例は筋症状が少なく,高率に急速進行性間質性肺炎を併発し予後不良であること,高フェリチン血症・肝胆道系酵素上昇を伴うなど特徴的な臨床像を呈する.抗MDA5抗体陽性患者と陰性皮膚筋炎患者の治療前血清サイトカインを比較したところ前者では有意にIL-6, IL-18, M-CSF, IL-10が高値を示し,IL-12, IL-22は低値を示した.これらのことから,抗MDA5抗体陽性例においては単球・マクロファージの異常活性化が病態の背景に存在すると考えている.抗MDA5抗体陽性例は一旦酸素投与が必要な呼吸不全状態になると極めて救命率が低いため,診断後可及的速やかに治療介入が必要であると考えられる.ステロイド大量療法・シクロスポリン内服・シクロホスファミド間歇静注療法(IVCY)の3剤を併用した強力免疫抑制レジメンを用いることで,同抗体陽性例の予後が改善した.特に疾患活動性を反映することが報告されている血清フェリチン値は,IVCY投与約2週後に低下する傾向を認め,IVCYが同抗体陽性例の治療においてキードラッグとなることが示唆された.
著者
橋本 求 三森 経世
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.463-469, 2012 (Released:2012-12-31)
参考文献数
39
被引用文献数
2 2

IL-17を産生するヘルパーCD4 T細胞(Th17細胞)は関節リウマチ(RA)などの様々な自己免疫性疾患の病態に重要な役割を果たす.IL-17は,好中球やマクロファージ,線維芽細胞,破骨細胞などに作用し,慢性炎症を惹起し,骨破壊を促進することで関節炎に寄与する.近年の自然発症のRAモデルマウスを用いた研究により,TLRやC-type lectin receptor,補体,ATPなど様々な自然免疫の活性化が,マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞に作用しIL-6やIL-23などのサイトカイン産生を介して,Th17細胞分化誘導を促し,自己免疫性関節炎を惹起するメカニズムが明らかとなってきた.ヒトRAにおけるTh17細胞の役割については未だ定まっていないが,自然免疫の活性化とTh17細胞の分化誘導は,少なくとも一部のRA患者において関節炎の発症にかかわっていると考えられる.これらの研究は,RAの発症メカニズムの解明やRA発症の予防,早期治療につながると考えられる.
著者
村上 孝作 吉藤 元 小林 志緒 川端 大介 田中 真生 臼井 崇 藤井 隆夫 三森 経世
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第33回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.36, 2005 (Released:2005-10-18)

【目的】 抗Ku抗体は日本人の強皮症(SSc)+多発性筋炎(PM)の重複症候群に見出される自己抗体として報告された.しかし,米国ではSLEに最も多く検出されると報告され,人種ごとの遺伝的背景の違いによると考察されてきた.そこで我々は抗Ku抗体陽性の自験例について臨床的特徴を検討した.【方法】 2001年から2004年までに当院で診療した膠原病とその疑い例1185例の保存血清についてRNA免疫沈降法を施行し,高分子核酸スメアを沈降した血清をさらに35S‐メチオニン標識HeLa細胞を用いた蛋白免疫沈降法を行って抗Ku抗体を同定した.【結果】 70kDa / 80kDa蛋白へテロ2量体を免疫沈降する抗Ku抗体は6例(0.51%)に陽性であり,SLEとPMの重複例2例,SLE 2例(1例はCK値上昇あり),PM 1例,未分類膠原病(レイノー現象・手指硬化症・クリオグロブリン血症・CK値上昇)1例であった.抗Ku抗体陽性6例中,PMないし筋病変は5例に,SLEないしSLE様症状は4例に,両者の重複は3例に認められた.また,多発関節炎が5例に,レイノー現象が4例に,手指硬化などの強皮症様症状が2例に認められた.【結語】 少数例の解析ではあるが,抗Ku抗体は筋炎重複症候群と関連し,特徴的な臨床像を示す可能性が示唆された.
著者
田村 誠朗 北野 将康 東 幸太 壷井 和幸 安部 武生 荻田 千愛 横山 雄一 古川 哲也 吉川 卓宏 斎藤 篤史 西岡 亜紀 関口 昌弘 東 直人 角田 慎一郎 細野 祐司 中嶋 蘭 大村 浩一郎 松井 聖 三森 経世 佐野 統
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.450-455, 2017 (Released:2018-01-25)
参考文献数
19
被引用文献数
2 2

症例は65歳女性.X-17年に間質性肺炎合併多発性筋炎と診断されステロイド薬が開始.X-8年に関節リウマチを合併しタクロリムス(Tac)が併用となっていた.X年2月上旬から全身倦怠感と高血圧が出現,さらに血液検査で,血小板減少,溶血性貧血,破砕赤血球,LDH高値,高クレアチニン血症を認めたことから,血栓性微小血管障害症(TMA)と診断.TMAの原因としてcalcineurin inhibitor(CNI)腎症を疑い,Tacを中止し血漿交換を開始した.以降,破砕赤血球は消失し,血小板減少,溶血性貧血は改善したが,高血圧,腎機能低下が遷延したため腎生検を施行.その結果はTMAの病理組織像であった.ただしCNI腎症としてはTacの血中濃度は既存の報告と比較し低く,また薬剤中止後も腎機能低下が遷延していた点が非定型的であった.後に抗PL-7抗体が陽性であることが判明.本症例は強皮症の診断基準は満たさなかったが,同抗体陽性例では強皮症を合併したとする報告がある.すなわち潜在的な強皮症素因を背景にCNI腎症が重篤化した可能性が示唆された.抗PL-7抗体陽性の患者にTacを投与する際はTMAの発症に十分留意する必要がある.
著者
三森 経世 細野 祐司 中嶋 蘭
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.101, no.2, pp.488-494, 2012 (Released:2013-04-11)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

多発性筋炎および皮膚筋炎(PM/DM)患者には種々の細胞内・核内抗原を対応抗原とする多彩な筋炎特異的自己抗体が検出される.PM/DMにおける自己抗体の検査は,筋炎の診断のみならず臨床特徴・経過・予後を予測し,治療方針の決定において極めて有力な情報となる.特に抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体および抗CADM-140抗体は間質性肺炎の合併が極めて高率である.PM/DMに合併する間質性肺炎は頻度も高く,筋炎とともに治療介入の対象となることが多いが,その予後はこれらの特異自己抗体の種類によって大きく異なるため,治療介入前にできる限り自己抗体を測定することが望ましい.抗Jo-1抗体以外の筋炎特異的自己抗体は,現在のところ一部の研究室レベルでしか測定することができないが,ルーチンの測定法の開発がわが国で進行中である.
著者
三森 経世
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.83, no.11, pp.1943-1947, 1994-11-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
3

肥大性骨関節症は,手指および足趾のばち指,長管骨の骨膜炎,関節炎を主症状とする症候群である.本症は胸部の悪性腫瘍や感染症,心疾患,消化器疾患など様々な基礎疾患に合併して起こり,ぼち指の存在が隠れた重篤な疾患を発見するきっかけになることも少なくない.肥大性骨関節症は,隠された治療可能な疾患の診断に特徴的な症状が役に立つ最も良い例といえる.
著者
中嶋 蘭 三森 経世
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 = Japanese journal of clinical immunology (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.71-76, 2013-04-28
参考文献数
17
被引用文献数
34

抗MDA5抗体は皮膚筋炎特異的抗体であり,同抗体陽性例は筋症状が少なく,高率に急速進行性間質性肺炎を併発し予後不良であること,高フェリチン血症・肝胆道系酵素上昇を伴うなど特徴的な臨床像を呈する.抗MDA5抗体陽性患者と陰性皮膚筋炎患者の治療前血清サイトカインを比較したところ前者では有意にIL-6, IL-18, M-CSF, IL-10が高値を示し,IL-12, IL-22は低値を示した.これらのことから,抗MDA5抗体陽性例においては単球・マクロファージの異常活性化が病態の背景に存在すると考えている.抗MDA5抗体陽性例は一旦酸素投与が必要な呼吸不全状態になると極めて救命率が低いため,診断後可及的速やかに治療介入が必要であると考えられる.ステロイド大量療法・シクロスポリン内服・シクロホスファミド間歇静注療法(IVCY)の3剤を併用した強力免疫抑制レジメンを用いることで,同抗体陽性例の予後が改善した.特に疾患活動性を反映することが報告されている血清フェリチン値は,IVCY投与約2週後に低下する傾向を認め,IVCYが同抗体陽性例の治療においてキードラッグとなることが示唆された.<br>
著者
大村 浩一郎 山本 奈つき 寺尾 知可史 中嶋 蘭 井村 嘉孝 吉藤 元 湯川 尚一郎 橋本 求 藤井 隆夫 松田 文彦 三森 経世
出版者
The Japan Society for Clinical Immunology
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.310a-310a, 2012

Myelin basic protein(MBP)は神経ミエリン鞘を形成する主要なタンパクであるが,関節リウマチ(RA)において,myelin basic proteinに対する自己抗体が高率に認められることを我々は以前報告した(PLoS One 2011; 6: e20457).ヒト脳由来抽出タンパクを抗原として用いた場合,抗MBP抗体はRAの約65%に認められ,特異度は膠原病患者を対照として83%であり,またその対応抗原は主にMBPタンパク自身ではなく,シトルリン化MBPに対する抗体であることも明らかにした.一方,MBPは神経系に発現するclassic MBPと神経系のみならず血球系にも発現するGolli-MBPのアイソフォームがあり,それぞれにまたいくつかのアイソフォームが存在する.RAで認められる抗MBP抗体の対応抗原がclassic MBPなのかGolli-MBPなのかは不明であったことから,classic MBPおよびGolli-MBPのrecombinantタンパクを作成しin vitroでシトルリン化し,ELISAで抗MBP抗体を検出したところ,その感度,特異度に差は認められなかった.現在Golli-MBPのアミノ酸配列(304アミノ酸)を15種類の25アミノ酸ペプチドでカバーし,それぞれのペプチドをシトルリン化して抗原とし,12人の抗MBP抗体陽性RA患者血清を用いてELISAにてエピトープマッピングを行っている.<br>