- 著者
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上田 礼子
- 出版者
- 一般社団法人 日本発達心理学会
- 雑誌
- 発達心理学研究 (ISSN:09159029)
- 巻号頁・発行日
- vol.23, no.4, pp.428-438, 2012
人間の子どもは生活能力の面で未熟な状態で産まれ,家族・地域社会のなかで育てられなければ生存することさえできない存在である。しかし,自発的学習能力は優れているので,育ててくれる人の行動を模倣し・同一視することによって家族・地域社会の一員として成長・発達する。貧困な地域環境は子どもの発達に負の影響を及ぼすことが知られている。しかし,子どもの貧困を大人と同じ次元で取り扱うことはできない。子どもは現在と未来に生きる存在であり,子ども時代の家族・地域での経験が青年期以後の生き方にも関係すること,また子どもには発達に適合するタイミングのよい,適切な量・質の環境刺激が必要であることを重視しなければならない。たとえ幼少時に経済的に貧困であっても家族や地域社会に受け入れられ,必要な支援が得られれば強靭性を活かし逞しく発達する。つまり,経済的貧困と剥奪された物的・人的環境で孤独に生きることとは同じではない。本稿では子どもの健全な発達を目指して, (1)真に豊かな地域環境の構成に有用な理論,(2)地域環境のとらえ方,(3)地域に住む子どもの発達の実証的研究,(4)子どもの健康・行動上の問題と地域の特徴などの順に考察した。そして,結論として,地球環境すなわち地域共同体に根ざした子どもの健全な発達(略称CCD)を促す新たな環境刺激の構築を提案した。